カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
いよいよカードショップ”デュエリスト”蒸気世界支店も軌道に乗ってきた。
世界初のカードショップ、概念さえ受け入れられればその知名度は凄まじく。
多くの客が店に訪れてくれている。
少なくとも、火札世界の日常的な繁盛とそこまで変わらないくらいの客入りだ。
俺も二つの店を行き来しつつ、楽しくカードショップ経営をしていたわけだが――
「そういえば、聞いたことはあるかな?」
「ええと……なにか?」
ここ最近、毎日のようにうちへ入り浸っているライオ王子が、そんなことを言ってきた。
ライオ王子、この蒸気世界の王子様で劇団の花形役者なのだが。
随分とカードショップのことを気に入ってくれたらしい。
時間が空いている時はずっとうちに入り浸っている。
なんというか、暇なときのダイアみたいだ。
なお、タイミングが悪くダイアとライオ王子は未だ邂逅したことがない。
お互い残念そうにしていた。
「ここ最近、市井を騒がせている事件さ」
「……王子様が毎日のように、市街の店に顔を出していることとか?」
「ははははは! それは素晴らしい事件だね! 私と顔を合わせられる市民は幸運だろう! だがそちらではない!」
なんてすごい自信だ!
そんなライオ王子は、最初のうちはめちゃくちゃ周囲を威圧しまくっていた。
そりゃそうだ、とにかく顔の良いバラとか飛ばしそうな王子が素顔さらして店で遊んでいるのである。
だが、数日もすれば慣れていた。
原因は単純、王子の人柄。
とにかくカリスマのあり、なんだかんだ劇団でも普通に庶民と同じ目線で活動しているから見た目以外はそこまで萎縮する要素がないのである。
つくづくダイアみたいだな。
「なんでも、町中で人を襲う辻ファイターが頻発しているのだとか!」
「……辻ファイター」
「うむ、負けるとその場で服をバラバラにされることから――」
「え、ちょっと待った。もしかして痴女だったりする!?」
「……火札世界の人間にこの話をすると、なぜか全員同じ反応をするな」
いやだって、服バラバラにしてくる辻ファイターとか、あの人の顔が即浮かぶじゃん!
今は海外に行っていて、こっちに来ているはずのないあのちょっと服の露出度が高い人が!
「だが安心したまえ、出現するのは真夜中だ。君たちは夜になると店が元の世界に戻るのだろう?」
「まぁ……そうだな。でも理論上、店がもとに戻るタイミングで外にいると戻れなくなるんだよな」
「ナギサのように、戻る気のない奴もいるしな!」
他にも、こっちの世界の住人が店内に残ってると、向こうに戻れなかったりする。
こっちの世界の住人が退出すれば、そのタイミングで向こうに戻れるのだが。
後はこっちの世界の住人が裏口を通ろうとすると、見えない壁に阻まれて進めなかったりもするし。
色々と、制約がないわけではない異世界転移だ。
「というわけで、少なくとも君たちの知り合いではないはずだ。背丈は子供くらいだというしな」
「な、なんだ……よかった」
「ちなみに、黒装束で顔はわからず、声も加工されていて性別がわからないそうだ。町外れの廃材置き場近辺でよく目撃されるらしい」
どうも本格的に、こっちの世界由来の辻ファイターみたいだな。
まぁ、それですべてが安心というわけでもないのだが。
服とは言え、被害は出ているわけだし。
「とにかく、ファイトを挑まれそれを受けて敗北すると、服をバラバラに切り裂かれるという」
「変なファイターだな」
「そうしてついた名前が――」
そこで、ライオ王子が一瞬溜める。
役者としての彼の演技力が、思わず話を聞き入らせる力を発揮させて。
俺は思わず唾を飲んだ。
「ジャック・ザ・リッパーと呼ばれている」
あ、あー……
「そっちかぁ」
「そして、君たちにこの名前を告げると、全く同じ反応をするね」
「他の人から聞いてるかも知れないけれど、蒸気世界の歴史は俺達の世界と少しにているところがあるんだよ」
完全に同じ、というわけではないが。
様相はにている……といったところだろうか。
なので、こっちの世界でジャック・ザ・リッパーが出たとなれば、それは納得しかないのである。
「ふうむ……不思議な話だ。私は関係ないが、獅子心王は関係があるのだろう? 何が関係していて、何が関係していないのかさっぱりわからんな!」
「獅子心王も、ちょっと違う感じだけどなぁ」
「まぁ、それはいいのだが。この店も知名度が随分高くなった。まぁ、あの怪盗ヤトが所属しているというのだから当然ではあるのだが」
「気をつけろってことか。感謝するよ」
怪盗ヤト。
この世界における伝説的な英雄であり、一度は姿を消した彼女が帰ってきた。
最近は、特にその話題でもちきりだ。
ただ、メカシィの時とは違って人が押し寄せたりはしない。
理由は単純。
「とくに、スコットランドヤードには気をつけ給えよ。あそこはまともな奴もいるが、基本は腐敗しているからな」
「……王子にそう言われるのは、本当にどうしようもないなぁ」
「まったくだ!」
「笑い事ではない!」
ハッハッハ、と笑ってみせる王子。
いや本当に笑い事じゃないな。
とにかく、この世界には怪盗ヤト――及び、蒸気騎士団と公的権力が対立している。
まともなのはライオ王子をはじめとした王家くらいなもので。
貴族も大半が腐っているとか。
一般市民にはまともな人が多いんだがなあ。
いや、だからこそ腐敗した権力との対立が成立しているのだろうが。
というわけで、ヤトちゃん目当てで店にやってくる人間は少ないのだ。
店にやってくるファイターも、多少なりとも身を守れるものばかりだ。
ログ少年達みたいに、最初から店に来ている常連は普通に来ているけどね。
「まぁ、スコットランドヤードは以前とある事件で大打撃を受けていてね。それで色々とごたついているから、直接この店をガサ入れしたりはしないさ。もしやってきてもそいつをファイトで撃退できれば君たちは罪に問われたりはしない」
「弱さは罪ってことか……ちなみに事件って?」
「ファイト探偵……といえば伝わる、とショルメくんがいっていたね」
「ごめんなさい」
原因俺じゃん。
その節は色々とご迷惑おかけいたしました。
「なに、結果としてスコットランドヤードを改革する目もでてきた。いやまさか、あんな連鎖的に全部崩壊するとは思わなかったがな……」
「そんなに……」
ちょっと気になるけど、聞くと後悔しそうなのでやめておいた。
どうでもいいけど、この話エレアにも伝わってそうだから後でハリセンされそうだな……
「ともあれ、だからこそ気をつけるべきは野良のクライムファイターだ。くれぐれも、注意してくれよ?」
「ああ、わかった」
みたいな話をしている横で。
「店長、こんにちは!」
ログ少年が入ってきた。
彼の友人たちも復数。
その中に――見知らぬ少女がいる。
古ぼけたツギハギだらけのワンピース。
ログ少年達も若干ボロいところはあるが、それより更にボロい服の少女だ。
「いらっしゃい、ログ。そっちの子は?」
「えっと、この子は最近廃材置き場で仲良くなったんです。記憶がないみたいで……」
「ふむ、記憶喪失」
どうやら訳ありのようだ。
線の細い体と、赤い瞳。
それから、なんというか感情の薄い儚げな表情。
いかにも、といった感じのその少女は――
「えっと……名前だけは、おぼえ、てます。ジャック……って、いいます」
――ジャックと名乗った。
うん、この子じゃない?
どう見てもこの子がジャック・ザ・リッパーじゃない!?
俺のメタい直感がそう告げている。
しかし、おそらく他の人にいったら、それはないだろうと言われるはずだ。
なぜなら――
「いやいや、歴史上の偉人が
後日、エレアにこの事を話した時の反応が、これだからだ。
実は、という部分がポイントである。
イグニッション世界の歴史に振れる次回――