カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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234 夜にあの人の花は咲いちゃった ①

 その日は、閉店直前にお客さんがガラっといなくなった日だった。

 もともと蒸気世界は人の活動時間が火札世界より短い。

 ただでさえ火札世界だって閉店直前までいる客は一部の常連だけなのだから。

 常連と言える常連の少ない蒸気世界ならなおさらである。

 

 店にいるのは俺と、色々あって足を運ぶのがこの時間になったヤトちゃんだけだった。

 メカシィとナギサは休みで、エレアは火札世界のデュエリストにいる。

 そんな時だ。

 

 

「外で辻ファイターに襲われたんだ、助けてくれ!」

 

 

 蒸気世界の住人が、助けを求めてきたのは。

 その住人は、時折俺の店に足を運んでくれる職人の男性だ。

 辻ファイターに勝負を挑まれたが、拒否して逃走。

 近くにいる強いファイターということで、俺に助けを求めたらしい。

 これがタダの辻ファイターなら、そもそも拒否した時点でそれで終わりだ。

 だが、外はすでに暗く、相手の判別がつかない。

 そんな状態で、ジャック・ザ・リッパーの噂があるのにファイトを挑まれたら。

 当然、逃げ出すしかないだろう。

 

「解った、俺達で様子を見てくるから。このまま店で待っていてくれ」

 

 時間が時間だ、下手するとこのまま外にでれなくなるので男性に店番を任せる。

 カードを盗まれないか、という心配もあるかもしれないが盗まれたら物理的に取り返すだけなので問題ない。

 逃がすことはないからな。

 

「私は向こうに残ってても良かったと思うけど」

「その場合、店のほうが襲撃されそうでな」

「あー……」

 

 ヤトちゃんと一緒に外へ出たのは、蒸気世界の事件にヤトちゃんは強い因縁があるから。

 一人でいかせるのは危険だし、店に残すのはもっと危ない。

 基本的なことはヤトちゃんに任せるつもりだが、それはそれとして保護者である以上監督はするべきだ。

 

「ジャック・ザ・リッパーが出たら、私が戦うわ」

「それは問題ない。俺の見ていないところでファイトして負けてカードにされたりとかして、俺が後悔したくないだけだからな」

「なんというか、これまでの諸々の事件もそういう理屈で色々と台無しにしてきたんじゃないかって思うわ」

「それはいいっこなしだって」

 

 色々とヤトちゃんの成長ルートをめちゃくちゃにはしていますが。

 成長自体はしていると思うから。

 

「とにかく、彼が言うにはこのあたりで辻ファイターに襲われたそうだ。警戒していこう」

「ええ……なんというか、いかにもって場所ね」

 

 そこは、人のいない通りだ。

 かといって、パイプだけしか存在しない地帯ではなく、あくまで住宅街。

 霧に包まれ、怪しい雰囲気を醸し出している。

 しばらく俺達が周囲を警戒してると――

 

「――誰だ!」

 

 気配がした。

 叫び、そちらに視線を向けると暗がりに、影が一つ。

 蒸気に包まれ、その姿を捉えることはできないが。

 たしかに、いる。

 

「……あなた、まさか」

 

 そしてヤトちゃんがなにかに気付いたようだ。

 視線を鋭くして、影に向かって叫ぶ。

 

 

「――姉さん!? どうしてここにいるのよ!」

 

 

 自力で異世界に!?

 え!? ハクさん!?

 

「……なぜ、解ったんですか?」

「それは……シルエットよ。何年風呂上がりに全裸で部屋をうろつく姉を見せられて来たと思ってるの?」

「…………今度からは全裸でうろつかないようにしますから、店長さん以外への暴露はやめてね、ヤト」

 

 ろくでもない会話の末、霧の向こう側からハクさんが姿を現す。

 ハクさんというか、月兎仮面だ。

 まぁそりゃ、辻ファイターするならこっちがハクさんにとっては正装だろうけども。

 とりあえず風呂の後云々は聞かなかったことにしておいた。

 

「それで姉さん、本当にどうしてここにいるのよ。世界大会は……今日終わったみたいだけど」

「ええ、残念ながら第三位でした。あと少し露出できていれば……」

「なんというか、お疲れ様だな」

 

 露出だけで世界大会を戦い抜いたということは、月兎仮面としてならハクさんが世界一になっていたということか?

 十八歳以下で世界で一番強い人が痴女なの? やばくない?

 

「それで何故ここにいるのか、でしたね。理由は……」

「理由は?」

「自分でもわかりません。荷物をまとめてホテルの部屋を出ようとしたら、この世界につながってしまって」

「ナギサと同じルートかな」

 

 考えてみれば、ナギサがなんやかんやあって別口で迷い込んでいるんだ。

 ハクさんも別口で迷い込む可能性は考えるべきだった。

 ヤトちゃんの姉という、特別強い因縁がハクさんにもあるんだから。

 

「それで、この世界がヤトの故郷だってことは、すぐに分かりました。蒸気世界、でしたね?」

「まぁ、見るからにそうだものね」

「それで、ヤトや店長さんも来ているだろうと思いましたので、こっちの世界の住人に辻ファイトを挑んでいけば自然と二人が見つけてくれるかと」

 

 完全にハクさんの狙い通りだったな。

 不幸だったのは、ちょうどハクさんとは無関係に厄介な辻ファイターの噂が広がっていたこと。

 いやだってほら、ハクさんって痴女だから。

 服を切り裂くって情報から、どう考えても知らない人間が見ればハクさんがジャック・ザ・リッパーである。

 

「……というわけで、今はそのジャック・ザ・リッパーってのが暴れてるの。それで逃げられちゃったのね」

「後で、あの男性に謝っておかないとな」

「そうですね……ところで、ジャック・ザ・リッパーですか」

 

 というわけで、ジャック・ザ・リッパーの話をハクさんに伝える。

 どうも、ちょっと辻ファイトを挑んだだけなのに想像以上に怯えられてしまったから、疑問に思っていたようだ。

 そんなハクさんだが、ジャック・ザ・リッパーの事を聞いたら目の色が少し変わった。

 

「――――服を、切り裂くのですね」

「……姉さん」

「是非とも、戦って、みたいですね!」

「姉さん!」

 

 そして興奮し始めた!

 まずい、ハクさんは本気だ。

 なんかこう、痴女としか言えない荒い呼吸で興奮し始めた!

 こうなったハクさんは、そう簡単には止められない!

 その時だった。

 

 

 ――シャキン。

 

 

 ハサミが、空を切り裂く音がする。

 

 ――シャキン。

 

 誰かが、こちらへ近づいてくる。

 

「ま、まさか――」

 

 俺達が、音の方へと視線を向ける。

 

 ――シャキン。

 

 そこには、そいつがいた。

 

 

「それなら、ボクとファイトしてくださいよぉ」

 

 

 俺にとっては、見知った人物。

 

「そんな、君は――」

 

 

 ――ログ少年が、そこにいた。

 

 

 そんな、まさか。

 ジャック・ザ・リッパーが……ログ少年?

 いや、でもしかし。

 条件には、合致している。

 廃材置き場周辺で目撃されるということは、廃材置き場を拠点にしているということ。

 思いつくべきだったのだ、廃材置き場に最も出入りしている人間がログ少年である、と。

 そして何より――

 

 

 後から追加されたメインキャラが、カードゲームアニメでは一番怪しいということに!

 

 

 最初からメインキャラとして主人公の周辺にいる人物でない場合。

 そのキャラが後々主人公を裏切ることがやたら多いのがカードゲームだ!

 どうして、どうして俺はそのことに気付かなかったのか……!

 

「ログ少年、どうして君がそんなことをしているんだ!」

「あはは、どうしてでしょうねぇ。店長、でもボクすっごくいい気分なんですよぉ」

 

 いやちがう、これは明らかに操られている雰囲気だ。

 目に光がないし、何より変なオーラをまとってる!

 ダークファイターに操られてるタイプの悪落ちだ。

 

「……見たところ、この子は洗脳されているようですね」

「そうみたいね。ええと……ログ、だっけ?」

「そう、蒸気世界での常連の一人で……本来なら、心優しい少年だよ」

 

 俺の言葉を聞いて、ヤトちゃんとハクさんは視線を交わし頷きあった。

 

「であれば――私が相手になりましょう。いいですね、ヤト」

「本来なら、究極痴女ファイトみたいになりそうだから止めるべきなんだろうけど、こっちに迷い込んできたばっかりで、姉さんも慣らしたいでしょうしね。いいわよ」

 

 究極痴女ファイトってなんだよ。

 というのはともかく。

 

 かくしてここに、ハクさんとジャック・ザ・リッパー――に操られたログ少年のファイトが始まった。




ハクさん、ついに異世界へ――――
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