カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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280 カードは答えない

 ふと、意識が闇へと引っ張られていく。

 それは決して重苦しい感覚によるものではない。

 人がカードにされると、相応に苦しみを感じるというのが一般的だが。

 なんというか、そんな感じではない。

 というか、引っ張る感覚に強制力がなさそうなのだ。

 

 ――こっちへ来てくれないか。

 

 そう誘われているようだった。

 俺は一瞬だけ意識を切り替える。

 誘いを受けると、声に伝えるように。

 すると俺は――

 

「……宇宙、か?」

 

 不可思議な空間にいた。

 敢えて表現するなら、宇宙という言葉が一番近い。

 だが、星と呼べる光はない。

 代わりにあるのは――

 

「……カードか」

 

 何も描かれていないカードだ。

 すなわち、根源。

 まさにカードが生まれ出る場所と言うべきか。

 

「誰かいるか?」

 

 ――答えはない。

 ここにいるカードは、まだカードではない存在達だ。

 モンスターがいない、エフェクトがない。

 それらが存在しないカードは、まだカードとしては卵の状態だろう。

 

 ふと、一枚を手にとって見る。

 するとそのカードが変化を起こし――

 

「無色のカードは染まりやすい、ってことかな」

 

 <古式聖天使 プロメテウス>に変化した。

 俺のデッキにおいては、一番有力な初動札である。

 <ロード・ミカエル>、<エクス・メタトロン>に次いで手に馴染むカード。

 

「人が、このカードの中を無闇矢鱈に歩くわけには行かないな」

 

 カードが染まってしまう。

 染まったカードは、なんやかんやあって悪魔のカードになりそうだ。

 俺はカードに宿ったプロメテウスに「ありがとう」と言って離れてもらう。

 そうしてカードを手放すと、再びカードは無色に戻った。

 

「終焉の気配はしない。やっぱり、終焉の力が少なすぎたかな」

 

 俺は、おそらく終焉のカードに誘われてここまで来たはずだ。

 だというのに、近くに気配がない。

 ということは”力が足りなかった”と考えるのが普通。

 だが、この場所にやって来る事自体は成功した。

 

「俺の狙いも、終焉カードの狙いも一致している。俺をこの場所に呼びたいんだ」

 

 終焉カードは、果たして俺になんて言葉をかけたいのか。

 正直、色々と想像はできる。

 だけど、具体的にこれって言う内容は思いつかない。

 逆に俺が終焉カードに言いたいことははっきりしている。

 それに対するアンサーは、想像もつかないが。

 

「……あっちかな、行ってみよう」

 

 終焉カードの気配はしない。

 それでも、直感的に行き先は解る。

 俺は一瞬だけ意識を集中させて、それから目的の方向に向かって進み始めた。

 歩くのではなく、無重力を直進する感じですいーっと進んでいく。

 不思議な感覚だが謎空間に放り込まれると、時折こういうことが起こる。

 一回慣れてしまえば、躓くことはない。

 

「全然近づけないな」

 

 とはいえ、近づけている感覚がしない。

 この先になにかがあるのは間違いないのに、あまりにも遠いのだ。

 そうなると、思うことは二つ。

 蒸気世界の終焉をなんとかして、その余波で近づかないといけないということと。

 

「……その終焉、どんだけパワーありあまってるんだろうな?」

 

 仮にも世界一つを再生させたエネルギーですらこれって。

 停滞した終焉に溜まったエネルギーの量を考えると少し恐ろしくなる。

 とはいえ次回は総力戦だ。

 俺達四人以外にも、エレアや蒸気騎士団。

 デュエリストの常連たちだって力を貸してくれるはず。

 大事なのは、終焉の核とでも呼ぶべき部分をどうにかすること。

 要するに大ボスを討伐することだ。

 

「――ん?」

 

 と、そんな時である。

 不意に周囲の空間がぼやけ始めた。

 意識が現実へ戻り始めているのだろう。

 それと同時に、俺はあるものを感じ取る。

 

 ――――声だ。

 

 なにか、声がする。

 幼い子供のような、歳を重ねた老人のような。

 年齢を感じさせない声。

 もしくは、どちらも内包した声。

 超然としている。

 だけど確かに、俺の耳にそれは届いた。

 

 その内容は――

 

 

 □□□□□

 

 

「――ちょう、店長! 店長! 大丈夫ですか!?」

 

 不意に、声がする。

 エレアの声だ。

 あの後、わざわざこっちまでやってきたのか。

 目を覚ますと、<デュエリスト・エレア>ではないいつものエレアがそこにいる。

 <デュエリスト・エレア>との違いは背中の羽だ。

 今のエレアには、水晶の羽がない。

 

「……おはよう、エレア」

「おはよう……じゃないですよ! 聞きましたよ、ハクさんとのファイトが終わってからずっと眠ってたそうじゃないですか」

「ずっと……って、どれくらいだ?」

「一時間くらいですけど……」

 

 全然ずっとじゃなかった。

 まぁ、あの後エレアがこっちにやってきて俺の元までたどり着く時間――となると丁度それくらいか。

 俺が寝ているのは、ハクさんとファイトしたフィールド……の端に設置されていたベンチだ。

 観戦用のものだろう、俺達のファイト中はレンさんが座っていたな。

 それはそれとして、

 

「……随分と、きれいになったな」

「あ、そうですよ。世界が再生されたんです! キレイですよね、まさしく絢爛!」

 

 そう言って、俺を膝枕していたエレアが俺を起こすと、周囲の景色を指さした。

 指の先にはフィールドを取り囲む花畑が色とりどりに咲き誇っている。

 実に美しい光景だ。

 何よりも、そこが絢爛世界であるということを如実に物語っている。

 

「花畑が光ってます」

「ファイトエナジーだな、なんとなくここに来る前に話をしてたけど……この世界のファイトエナジーは絢爛に光るみたいだ」

「キレイですねぇ」

 

 さて、とベンチから立ち上がる。

 エレアもそれにつられて立ち上がった。

 

「他の三人は?」

「レンさんはお母さんと一緒に、今の状況を絢爛世界の人に報告しに行きました」

 

 ルインさんは、ここに来る少し前のでかい空間で消滅した。

 おそらくその場で復活したのだろう、レンさんとの合流は早かったはずだ。

 そしてそのまま、状況報告。

 なんというか、手際の良さは親子って感じだな。

 

「ヤトちゃんとハクさんは?」

「ご両親を探してます。街の人が一斉にカードから戻ったことで、街は大混乱なので」

「中々見つからなそうだな」

「私達はどうしますか?」

 

 と、言われても。

 正直、今外に出ていっても外は大分混乱しているだろう。

 

「このまま混乱が収まるのを待つか、さっさと歪みから戻るか、もしくは……」

「もしくは?」

「ヤトちゃんたちの様子を見に行くかだな」

「それです! 私、ヤトちゃんのご両親に挨拶したいです!」

 

 なるほど、それは確かに。

 そういうことならば、一旦外に出てヤトちゃんたちを探すとしようか。

 いやまぁ、相当な混乱の中に出ることになるが。

 俺もエレアも身体能力は高いし大丈夫だろ。

 

「――ところで、エレア」

「どうしたんですか?」

 

 そこでふと、俺は移動しながらエレアに問いかけてみる。

 それは、あの謎空間で声に投げかけられた質問だ。

 つまり――

 

 

「どうしてこの世界に、カードは存在するんだと思う?」

 

 

 端的な問いだった。

 別に、なんてことはない。

 仮にこの世界がカードで世界が滅ばない世界だったとしても。

 俺の前世だったとしても、カードゲームというものは存在する。

 毎日どこかで、誰かがそれをプレイしている。

 だから――

 

「……? どういうことですか? カードがない世界なんて、想像もできませんよ?」

「だよな」

 

 少なくとも、この世界の人にとってはそれが当然で。

 俺の前世ですら、カードゲームプレイヤーなら疑問に思うことはないはずだ。

 だとしたら、そんな問い。

 一体どういう意図で問いかけたんだ?

 当然過ぎて、俺ですら答えに困る問い。

 それを、カードで世界が滅ぶ世界で、世界を滅ぼすカードの根源が投げかけてきた。

 

 その意味を、俺は図ることができないでいた。

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