カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
絢爛世界の再生が完了したことで、色々と分かったことがある。
まず、終焉と再生をガッチャンコさせたカードに、大量のファイトエナジーを吹き込むことで滅びた世界の再生は可能であるということ。
これに関しては、蒸気世界でも同じことが可能なはずだ。
この場合の問題は二つ。
一つは大量のファイトエナジーをどこから運んでくるか。
ヤトちゃんが火札世界で大きなファイトをこなして、ファイトエナジーを集めるという選択肢もある。
だが、ファイトエナジーが殆ど消えかけていた絢爛世界と違ってこの世界には一つ、大きなファイトエナジーの塊がある。
そしてそれを利用することは、もう一つの問題の解決にも繋がるのだ。
もう一つの問題は、クルタナ。
爆発寸前で怪盗ヤトが停止させているわけだが、蒸気世界を再生するとなるとこれを修復して再起動する必要がある。
修復する方法に関しては、一応考えがあって。
だけど、今のところ構想段階なので置いておく。
大事なのはこのクルタナが、そもそも元は蒸気世界の核でありファイトエナジーの塊であるということだ。
つまり修復さえしてしまえば、クルタナにガッチャンコカードをぶつけて蒸気世界を再生できる。
再生の方法に関しては、これで問題ない。
クルタナ修復に関しても準備中。
というわけで、今ある問題は若干の落ち着きを見せたわけだ。
とすると解決すべき問題は――何やら最近、不穏な空気を漂わせているあの“探偵”だろうと俺は考えていた。
ただまぁ、それに関してはヤトちゃんがなんとかするから――と思っていたら。
「やぁ、店長さん。今日は少し、私と話をするつもりはないかな?」
その探偵さんこと、ショルメさんが閉店間際。
店にやってきてそう持ちかけてきたのだ。
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「まずは、絢爛世界の再生、おめでとう」
「ああ、ありがとう」
ファイト用のテーブルを勧めると、そこに座ったショルメさんは開口一番そういった。
俺も合わせて座り、二人で向かい合う。
他の客はもういない、静かな時間の流れる中で俺達は言葉を交わす。
「そうだな……ファイトでもしながら話すか?」
「はは、そうさせてもらおうかな。その方が、話しやすいかもしれない」
俺の提案に、ショルメさんは自分のデッキを持ち出して答える。
ふたりともデッキをテーブルに乗せると、簡易的な投影がテーブルに表示された。
この世界のファイト用テーブルは、王国編の頃のソリッドビジョンみたいにモンスターが投影できるのだ。
俺の先攻でファイトは始まる。
「……これだけは最初に言っておくんだけど」
「なんだろうか」
「俺にアドバイスを求めても、ヤトちゃんと直接ファイトした方が良いって結論にしかならないぞ」
「……解っているさ」
初手はいつものように、<ロード・ミカエル>とバックに<ゴッド・デクラレイション>のセット。
俺の<ゴッド・デクラレイション>は踏み越えられるものだが、それでも明確な妨害ひとつ分としては機能することが多い。
だから大事なのは、それ以外のカウンターエフェクト。
今回はそれがないので、かなり布陣としては薄い。
「ヤトにも同じことを言われたよ。言いたいことがあるなら、カードで聞く……とね」
「じゃあ、ファイトすればいいんじゃないか?」
「そうとも言えない。これは完全に、私個人のわがままなのだから」
だが、ショルメさんは最初のサモンを<ゴッド・デクラレイション>で止められた時点で、それ以降の動きも止まってしまった。
返しのターンの俺の動きも全通し、ギリギリライフだけは残ったが果たして反撃は叶うのか。
「どうしてだ? ショルメさんが昔のヤトちゃんのことを引きずっているとはいえ、今のヤトちゃんに無茶をしてほしくないのは普通のことだろ?」
「そう言われると……少し恥ずかしいね」
「悪い。でも、わかりきっていることだからな」
次のターン、ショルメさんはモンスターを展開して俺の盤面を壊滅させる。
動きとしては普段通りといった感じで、ミスはない。
だが、なんとなく噛み合っていないようにも思えた。
「ヤトちゃんはこの世界を崩壊させることなく、クルタナを修復して再生させるつもりだ。でも、それには危険が伴う」
「以前のヤトと、同じ結果になってしまうかもしれないからね」
「その対案としてショルメさんは、蒸気世界の住人を全員避難させるつもりだ」
今のショルメさんの状態は、以前のレンさんに近い。
つまりぐえー、ってやつだ。
流石にここまでわかりやすくテンポが遅れることはそうそうないが。
レンさんは、今のショルメさんみたいにファイトが噛み合わない事が多かった。
「加えて、絢爛世界の再生に成功したことで、”一旦住人を避難させてから、世界を滅ぼして再生させる”っていう方法も取れるようになった」
「ヤトは、そうするつもりはないみたいだけどね」
「俺達には、俺達の考えがあるんだ」
――結局、ファイトは俺の勝利で終わった。
広げたカードをお互いに片付ける。
まとめたデッキを立てて軽く整えると、俺は改めてショルメさんに聞く。
「どうして、その方法を提案しないんだ? 正直、ヤトちゃんの方法はリスクが大きい。リカバリーはきくとは言えヤトちゃん自身は取り返しのつかない状況に陥る可能性もある」
「……本当なら、そうなんだろうね」
「本当なら?」
「――君がいる限り、その心配はないだろう?」
随分と、俺は評価されているみたいだ。
「ヤトをここまで平穏に導き、波風を立てるよりもずっと立派に成長させた。モリアーティだって討ち取った。そんな君がいて、ヤトが失敗するはずがない」
「まぁ、そう言われるとそうなんだろうけどさ」
実際、危険だとは言うけど俺は失敗するなんて考えていない。
別に俺がいるからじゃないぞ?
今のヤトちゃんが、失敗するとはとても思えないだけだ。
「成長した今のヤトを見てると、置いていかれてしまったと思うんだ」
「……置いていかれた」
「そう、私が立ち止まっている間に、ヤトは随分遠くまで行ってしまった。そんな私の願いなんて、余計なことじゃないかと思ってしまう」
そう言って、乾いた笑みを浮かべるショルメさん。
なるほど、なんとなくショルメさんが見えてきた。
「――ショルメさんは、年齢相応の子なんだな」
「……年齢相応、私が?」
「そう、ヤトちゃんもそうだけど、まだ十四なんだろ? いくら頭脳明晰な探偵だからって、精神まで成熟してるわけじゃないってこと」
「そう言われると……なんだか少し癪に思えてくるな」
そういうところが、まだまだ子供ってことだ。
まぁ、そうでなくとも一足先に大人になってしまったヤトちゃんに置いていかれたと思うくらいショルメさんは立ち止まったままなわけで。
大人になるってことは、前に進むってことだ。
そういうことなら、まだまだショルメさんは年齢相応なんだろう。
「……それならなおのこと、ヤトちゃんに感情をぶつけるべきだ。遠慮なんて必要ない、むしろ言ってくれたほうがヤトちゃんも喜ぶだろう」
「そんなものかな?」
本当に意外そうに、ショルメさんは首を傾げる。
今まで、年齢相応なんて思われたこともなかったんだろう。
その明晰な頭脳が、ショルメさんの子供っぽさを覆い隠せてしまっていたから。
「そう、全力で正面からぶつかることは、決して悪いことなんかじゃない。むしろいいことだ。そこで自分の思いの丈をぶちまけてしまおう」
「そ、それは……うう」
俺が背中を押すとショルメさんは視線を逸らす。
恥ずかしそうに――子供らしく赤面してみせた。
そして、
「そ、それなら」
「それなら?」
「……練習、させてくれないか?」
そう言って、ショルメさんはイグニッションフィールドを指さした。
「今度、そこでヤトと本気でファイトをする。……その練習をさせてほしいんだ」
「練習……と言っても、俺は手加減なんてできないぞ?」
「かまわない、から。……お願いしてもいいかな?」
それは、まぁ……いや、構わないんだけど。
本当に俺は手加減できないぞ?
具体的に言うと――