カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「ボクは<蒸気騎士団の探索者 エルロック>をサモン!」
ファイトは静かに進行する。
ショルメさんが自分自身をサモンして、フィールドは概ね完成と言っていいだろう。
俺のフィールドには<アークロード・ミカエル>がショルメさんへ立ちはだかる。
先ほどと違って、ファイトは間違いなく噛み合っていた。
なんとなくだが少しだけ、ショルメさんの肩の力が抜けている。
「……ボクのことを、年齢相応なんて言われたのは初めてだったよ」
「年齢不相応に大人……って思われてたのか?」
「そもそも、年齢を意識されたことがなかったな。敵にだって、ボクは他の人と同じように警戒されていた」
子供扱いすることはなかった、と。
理由はいくつかあるだろう。
ショルメさん以外にも、ヤトちゃんも子供でありながら大人相手に立ち回っていたこと。
敵の首魁モリアーティも、見た目は少年だったこと。
子供だからって敵をばかにするのは、自分のボスを馬鹿にするのと同じだからな。
「それが結果として、自分の感情を抑圧することに繋がっていたわけだ」
「抑圧……そうか、抑圧か。確かに言われてみると、そうかも知れない」
どうやらショルメさんは、自分が抑圧されていることに気付いていなかったようだ。
――多分だけど、そこがショルメさんの一番厄介なところなんだろう。
「自分でも気づけていない抑圧を、他人に気付けってのは無茶な話だ。それこそ、俺みたいな専門家か、ヤトちゃんみたいなよっぽど近くて鋭い人間じゃないと」
「……そうだね。そしてボクはそういう近い人間相手に弱みを見せようとしないから、余計に親しい人は気づかなくなる」
難しい話だ、と思う。
周りの人間に全知であれ、と願うのは傲慢がすぎる。
こんなこと、よっぽど鋭い人間じゃないと気付けないんだから。
俺? 俺はほら、経験則だから。
さて、ショルメさん個人への理解を深めたところで、そろそろ本題に入ろう。
「ショルメさんはどうしたい? こうして自分の感情と向き合って、言いたいことは色々とあるだろう? 全部吐き出してしまうといい」
「そ、そうやって! ヤトやエレアさんをたぶらかして来たんだな!? そんな気障なことをよくもまぁすらすらと言ってのけれるものだね!?」
「……探偵の解答編だって、そんなもんじゃない?」
「失礼な!?」
おっと、ショルメさんが感情的になった。
どうにも感情を吐露するのが恥ずかしいらしいショルメさんにとっては、このくらい感情的な方が話しやすいか。
多少俺が理不尽な存在みたいに語られる問題はあれど、それでショルメさんが本音を吐き出してくれるなら問題ないだろう。
「だいたい、君は一体なんなんだ!? ヤトやハクさんの人生を滅茶苦茶にして、それでいてどう考えても最良以上に導いてしまう!」
「何って……カードショップの店長だけど」
「カードショップの店長はこんなヤツしかいないのか!?」
まぁ、俺は最強のカードショップ店長ではあるけれど、推薦状を出せる店長なら全員これくらいのことはできるだろうな。
「ああもう! ボクはヤトと改めて関係が築きたいんだ! かつての怪盗ヤトに引きずられた関係じゃない、今のヤトとのちゃんとした関係を!」
「いいことじゃないか」
「ヤトが言ったんだ、ヤトは怪盗ヤトでもありヤトでもある、と。だったらそれにボクも応えたいと思う! 単純なことだろ!? でも、恥ずかしいんだよ! バカみたいにさ!」
「バカでもいいじゃないか、ショルメさんはまだまだそれが許される子供なんだから」
そして、いよいよもって。
「それと! ボクを子供扱いするな! ボクは名探偵ショルメ! 蒸気騎士団の一員なんだ!」
「ああ、解ってるさ」
「だったら……これで! カウンターエフェクト! <
ショルメさんが、カードを掲げる。
それは、今目の前にいる<蒸気騎士団の探索者 エルロック>を進化させるカードだ。
「さぁ、謎を解き明かそう! <蒸気騎士団の探索者 エルロック-Q.E.D.->!」
これは……むむむ。
「店長の一番確実な攻略法は、<エクス・メタトロン>が顕現する前に決着をつけることだ」
「身も蓋もない事を!」
「だが、防げまい! 行け! <エルロック-Q.E.D.->!」
まぁ実際<アークロード・ミカエル>では防ぐ手段はないのだが……!
かくして、ファイトは俺の敗北で決着した。
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「……ありがとう、それと色々迷惑をかけて申し訳ない」
そう言って、ショルメさんは店を後にした。
色々と積もる話はあるのだけど、そろそろ閉店時間だ。
あまり長居していると俺が火札世界に帰れなくなるから気を使ってくれたのだろう。
「……んで」
そして俺は、案の定床に落ちていた一枚のカードに視線を向ける。
それはショルメさんが落としていったカードだ。
正確に言うと、ショルメさんから抜け落ちたカード、か。
拾い上げて確認する、カード名は<探索解放>。
先ほど、ショルメさんがエースをサモンするのに使ったカードだ。
俺はそれを、軽く揺する。
すると――
カード名が、<
「まだいたのか、モリアーティ」
そして、カードに対して呼びかける。
少しの沈黙。
それから、諦めたようにそいつの声は聞こえてきた。
『やれやれ、君には脱帽だよ。本当に僕の策を台無しにするのが好きだね』
「こんなの策とも言わないだろ、完全な嫌がらせじゃないか」
――そう、ここ最近ショルメさんは精神的に不安定だった。
その原因が、このカードだ。
おそらく、いつの間にかデッキに入り込んでいたんだろう。
ショルメさんも疑問に思わないくらい、自然と。
『探偵というのは、疑問から推理を始める存在だ。無意識の中に入り込めば向こうは推理ができなくなるって趣向なんだけどね』
「代わりに、周りからはその変化を見破られやすくなる。ヤトちゃんが最初に気付いたみたいだけど……正直、お前の嫌がらせが成立するより先に他の騎士団メンバーも気づきそうなものだぞ」
『君の言う通り、完全な嫌がらせさ。最後の決戦を前にして、探偵と怪盗に少しばかりの仲違いを演出したかったんだけどね』
モリアーティは、ショルメさんへ闇落ちカードを潜り込ませた。
それによって精神的に不安定になったショルメさんと、それに気付いたヤトちゃん。
最終決戦を前に、二人の関係が悪化することになる――わけなんだけど。
どう考えても雨降って地が固まる結果にしかならないぞ。
『本来なら、僕はこんなところで負けるつもりはなかったからね。僕が直接介入できれば、もうちょっとはいい感じにかき回せたんだけど』
「俺がいた、と」
『本当にふざけた男だよ、君は。――それで?』
それで、とは?
俺が敢えて促すように疑問の視線をカードに向ける。
『君は、
「……それは、まだ秘密だよ」
『僕にくらい、教えてくれてもいいと思うけどね』
おそらく知っているのは、ヤトとハクと、レンと君の奥さんくらいなんだろう。
と、モリアーティは笑う。
「ま、ままま、まだ奥さんじゃねーし! ちげーし!」
『……そんなところで、君の動揺する姿は見たくなかった』
「こほん。それで、お前これからどうするんだ?」
『どうするもこうするもないよ、僕は残滓、本体はすでに消滅している。君がサモンしてくれるなら現世に舞い戻るのもやぶさかではないけどね?』
ふむ、と考える。
「それなら火札世界の方で、カードだけで建てられた世界最大の建築物、イグナイトファミリアっていう建物の建設に関わる求人があるんだが」
『やっぱりいい、というか二度とサモンしないでくれ! 後なんだいその、死ぬほど危なそうなトランプタワーは!』
やいのやいの。
最終的にモリアーティの反応がなくなるまで、俺達の話は続くのだった。