カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「改めて、ヤトに提言する。君の計画は危険だ。ボクは住人を退去させた後、世界の再構築を行う案を提言する」
「私達の案は、この世界を再生すると同時に、今の状態でしかなし得ないことを成すための計画よ。だからその提言は受け入れられない」
――その日、デュエリスト蒸気支店にて。
示し合わせたとおりに、ヤトちゃんとショルメさんがお互いに言葉を交わしていた。
店内には観戦にやってきたデュエリストの常連と蒸気騎士団メンバーの姿が見える。
ログ少年やジャックちゃんの姿もあった。ふたりとも悪人格による後遺症はなさそうだ。
「ならば問いたい、その計画とはなにか!」
「いいでしょう、ただし――ファイトの中で答えを導かせてもらいましょう」
「望むところだ。このファイトで勝利した者の案が、今後の蒸気世界を救うための策として採用される!」
その言葉に、外からは歓声が聞こえてくる。
――このファイトは、事前に申し合わせたとおりに行われている。
言ってしまえばプロレスだ。
ただし、ファイトの結果だけは最後まで未知数な。
「それでは、滅びゆく蒸気世界の未来を賭けたファイトを始めるとしよう!」
今回のファイトに合わせて蒸気世界の住人にも、現状が知らされることとなった。
蒸気世界が一度滅びかけていたという事実。
今も、その危機は去っていないという現状。
そしてその解決策も。
絢爛世界を事前に再生していたのが良かったのだろう。
仮に一度世界が滅んでも、すぐ元通りになるとわかっていればそこまで不安に思うことはない。
どころかモリアーティの討伐も知らされたことで、ここ最近蒸気世界が少し平和になっていたという実感が事実に変わった。
蒸気世界の住人は、騎士団なら未来に憂いなど必要ないと信じている。
ゆえにこそ、このファイトは一種のエンタメとして成立していた。
「――行くわよ、ショルメ。アンタの全部を私にぶつけなさい」
「ああ、そうさせてもらおう。この数年間、ずっと君にいいたかったことは、全部ぶつける」
なにせ、探偵ショルメも怪盗ヤトも、この世界を代表する英雄だ。
そんな英雄同士の本気のファイト。
楽しくないはずがない。
というわけで、俺達はその光景を蒸気世界中に中継していた。
モニターを設置して、そこに映像を映してるだけだけどな。
設置にはメカシィとエレアの力をお借りしました。
ふたりとも感謝……
さて、いよいよファイトが始まる。
「――イグニッションよ!」
「イグニッションだ――!」
世界の行く末を巡る戦いの結末や如何に。
□□□□□
「まずはボク自身からだ、<蒸気騎士団の探索者 エルロック>! カウンターエフェクトをセッティングしてターンエンド!」
先行、ショルメさんは気負いなくプレイを進めていく。
実に晴れやかな顔で、憂いなど一切感じられない。
「……」
「……」
「……何故エレアとレンさんは俺を見ているんだ?」
なのに、どういうわけか俺を二人が鋭い目で見ていた。
「べっつにぃ、なんでもないですよぉ」
「ふん、またやりおったかこの天の民は!」
「天の民を罵倒みたいに言うの止めてくれる!?」
まぁ、今回に関しては結構自覚的にやってしまったとは自分でも思っている。
本来なら、このファイトでショルメさんは迷いを吹っ切るつもりだったんだろう。
ただ、ショルメさん自身は気付いていなかったが、そこにモリアーティの目論見……まぁ、嫌がらせがあった。
しかしその嫌がらせは現在、俺がなんとかしてしまっている。
何も起こらず、ファイトは進んでいくだろう。
「とはいえ、ヤトちゃんだってその辺は察しがついてただろ? 問題はないと思うけどなぁ」
「……まぁ、そうなのだが。そうなのが納得いかん!」
そう言って、痛くならない程度に俺を叩いてくるレンさん。
絶妙な気遣いを感じる攻撃だった。
「次はこっちのターンね。まずは貴方に力を借りるわよ。<蒸気騎士団 探偵ショルメ>!」
「むう、自分を相手するのは少し気恥ずかしいね」
「そういうところ、見せるようになったのはいいことだと思うわ」
「……そう言われるのがもっと恥ずかしいな!」
なんてやり取りをしつつ。
その後もヤトちゃんは展開を進めていく。
途中、ショルメさんの妨害……というか牽制が入ったものの。
状況は概ね、順当に落ち着く。
「そして行くわよ、ショルメと対決しなさい! <蒸気騎士団 怪盗ヤト>!」
ヤトちゃん本人が盤面に出た。
<探偵ショルメ>と並び立つ形にもなる。
「更に<怪盗ヤト>のエフェクトで、<ショルメ>をデッキに戻しそのエフェクトを使用する。デッキに戻すエフェクトはコストだから、デッキに戻した<ショルメ>をそのまま手札に加えるわ」
「これで、次のターンの動きを保証するわけだ」
「本命はこっちだけどね。<ショルメ>の攻撃力を<怪盗ヤト>に加算! バトルよ!」
単独でフィールドに立つ<エルロック>に対し、ヤトは自身と<ショルメ>の連携攻撃で追い詰める。
カウンターエフェクトの応酬はあったものの、勝つのはヤトちゃんだ。
ここで、ターンはショルメさんにわたる。
「……お互いの動きを熟知しているな、あやつらは」
「なんというか、相手の動きを全て読みきった上でそれを前提としてお互いに手を動かしてる感じだよな」
言うなれば、それは演舞。
相手の動きに自分の動きを合わせる前提で、ピッタリと呼吸を合わせているのだ。
この場合はそれをすることで、お互いの感覚を確かめ合っているのか。
「……いい感じね、これなら最高のファイトができそうだわ」
「それはこちらのセリフだよ。……店長には感謝しないと行けないな」
「私としては、少し妬けるけどね」
「ボクを彼のもとに送り出したのは、誰だったかな」
なんて、相変わらずエレアとレンさんの視線がこっちに向けられる会話をしつつ。
ターンは回る。
おそらく、ここからはお互いに相手の想定を外す――演じるのではなく、ぶつけ合うファイトに移行するだろう。
「――世界に探偵多しと言えど、時には探偵でないものが謎を詳らかにする時もある」
「……それは例えば――
「その通り! 今ここにご覧あれ! <蒸気騎士団の探索者 アルセーヌ>!」
――確かに、アルセーヌ・ルパンも探偵役をする話って結構あるよね。
中には、今でもミステリとして高く評価されるトリックもあるくらいだ。
「ではまいろう、<アルセーヌ>で<怪盗ヤト>を攻撃!」
「私は<怪盗ヤト>のエフェクトで――」
「させないさ、<アルセーヌ>はエフェクトを”盗む”。相手モンスターがエフェクトを発動した時、それを無効にして一枚ドロー!」
「……でしょうね!」
かくして<怪盗ヤト>が破壊され、ターンが終わる。
一気に窮地に陥ったヤトちゃん。
しかし、諦めの表情は一切ない。
確かにピンチだが、まだまだやれることはあるからだ。
「私のターン! ドロー! <探偵ショルメ>をサモン! エフェクトを――」
「当然、それも無効さ!」
「――無効にするしか無い、でしょう?」
「……!」
続けての攻防。
<探偵ショルメ>はデッキの潤滑油、初動札だ。
当然、<アルセーヌ>はそれを無効にするしかない。
そこをついて、ヤトちゃんはさらなるモンスターを展開する。
「こっちも行くわよ! <無双の蒸気騎士団 エンシェント・アリアン>!」
ヤトちゃんが次なるエースを投入した。
それを見て、ショルメさんも笑みを浮かべる。
「いいね、そうこなくっちゃ! ボクはここで、さらなる一手をお見せするとしよう」
「へぇ?」
「――<探索解放>!」
<探索解放>、以前俺とのファイトの際に落としてしまったカードだが、今はショルメさんの元へ返還されている。
当然、<終焉解放>にカードが書き換わったりはしない。
「さぁ、君自身をヤトはどう越える? <蒸気騎士団の探索者 アルセーヌ-Q.E.D.->!」
かくして、ヤトちゃんのエースとショルメさんのエースが並び立った。