カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
<アルセーヌ -Q.E.D.->、ショルメさんのエースにして<アルセーヌ>の真の姿。
<Q.E.D.>はおそらく、<エルロック>以外の一部のモンスターにも存在する強化形態なのだろう。
最終的にショルメさんのデッキは、<探索解放>で<Q.E.D.>を出していくデッキに落ち着いたわけだな。
さて、ファイトはまだ続く。
<アルセーヌ>を<Q.E.D.>させた場合の一番の問題は、<アルセーヌ>の無効エフェクトが二回飛んでくるということだろう。
ただでさえ厄介なエフェクトを、どう攻略するか――
「私は<ハート・ファントムシーフ>を発動!」
「一番身も蓋もない攻略法だなぁ!」
――コントロール奪取で奪い取ってしまう、でした。
うーん、ショルメさんの言う通り身も蓋もない。
とはいえ戦略としては非常に有効だ。
<アルセーヌ>は<Q.E.D.>になっても無効にできるエフェクトはモンスターのエフェクトだけらしい。
「二体で攻撃よ、これが通れば私の勝ち。さぁどうする?」
「流石に通すわけ無いじゃないか! カウンターエフェクト<アタック・ストッピング>!」
流石にこんな簡単な決着はショルメさんも許してはくれない。
攻撃をしのぎきって、ターンを渡すことになる、がしかし。
「私は<蒸気騎士団任務完了>を発動。手札、フィールドの『蒸気騎士団』をセメタリーに送り、二枚ドロー!」
「酷いことをするね!」
「ターンが終わるとそっちに戻っちゃうじゃない。カウンターエフェクトをセッティングして、ターンエンド」
さて、ショルメさんのターンだ。
このターンの問題は<アリアン>をどう乗り越えるか。
アリアンにはサモンを一回無効にするエフェクトがある、これを乗り越えないとショルメさんはモンスターを展開できない。
そこでショルメさんは――
「<ハート・ファントムシーフ>を発動!」
「そっちも同じことしてるじゃない!」
汎用カード<ハート・ファントムシーフ>で<アリアン>を奪う選択に出た。
こういったトップファイターの使う汎用カードはかぶることが結構ある。
ふたりとも、近しい存在だからなおのこと被りやすいな。
対してヤトちゃんはこのタイミングでカウンターエフェクトを発動、セメタリーから<蒸気騎士団 異邦人ナギサ>をサモン。
ここでサモンしておかないと、<アリアン>に無効にされてしまうからだ。
「このターンで決着はつけられそうにないね。ボクは<アリアン>で<ナギサ>を攻撃!」
「<ナギサ>のエフェクトで自身をディフェンス状態に。加えて戦闘での破壊を免れる!」
ジリジリとした展開が続く。
お互いに大型モンスターが登場したものの、それを上手く躱して処理しているからだ。
とはいえ<ハート・ファントムシーフ>はおそらくふたりともまだ一枚しか扱えていない。
ここからが正念場だろう。
「ボクは、<アリアン>を素材に<蒸気騎士団の探索者 エルロック>をサモン! 更に<探索解放>のエフェクトでセメタリーの『探索者』モンスターをデッキに戻し、<探索解放>を手札に!」
「もう一回使うつもりね!」
「そしてこれが、私の扱う最高の<Q.E.D.>さ! 来い! <蒸気騎士団の探索者 エルロック-Q.E.D.->!」
かくして、ショルメさんは自身の場に最後のエースを出陣させた。
とすれば、ヤトちゃんはどうする?
<怪盗ヤト>を再び繰り出すか、はたまた<獅子心王リチャード>か。
それとも――
「……ヤト。君の強さはよく解った。かつての怪盗ヤトにも負けず劣らず……それでいて、少し違うファイトをするんだね」
「そうかしら?」
「昔の君は、もっと自分の力だけを頼りにしていたよ」
――いまのヤトちゃんは、周囲の力をもっと頼っているという。
かつてのヤトちゃんは、もっと一人で戦う感じだったらしい。
仲間も頼りにはしている、だからこそのコピー効果だ。
でも、最終的に頼るのは自分自身。
「君一人で、全てを決めてしまう人だった」
「……この世界を停止させた時、みたいに?」
「そうだね」
だけど、今は違うとショルメさんは笑う。
対するヤトちゃんは、ちらりとこちらを見てから言った。
「今の私になって、色々と頼りになりすぎる大人が増えたから。火札世界は広いのよ。それに……」
「それに?」
「……多分、昔の私はファイトを楽しんでなかったんだと思う」
真面目すぎるのだ、とヤトちゃんは自嘲する。
困難な状況に陥った時、なにかを失ってしまいそうな時。
ヤトちゃんは追い詰められるタイプだ。
それを乗り越えられるくらい、まっすぐ一つの目標に向かえるならいいが。
一度でも迷ってしまうと、その迷いに足をとらわれる。
「でも、どんな時でもファイトは楽しいものだって教えてくれた人がいた」
「ファイトは、楽しいもの」
「そう、だから私は楽しみたいの。世界を守ることも、人々を救うことも! 前向きに楽しんで!」
「……失敗したら、どうするつもりだい?」
その言葉に、ヤトちゃんは自信を持って答えた。
「失敗なんて、しない」
最初から、そんなものは考えない。
絶対の自信と前に進むという意志。
それだけじゃない。
「失敗しそうなら、やり方を変える。負けてしまったら、別の方法でまた挑む」
「負けちゃいけないファイトで負けたら?」
「その時は……しょうがない。
ヤトちゃんらしい言葉だと、思う。
闇札機関での経験、ショップ対抗戦でチームとして戦う経験。
その中で全力を尽くし、やがては蒸気世界の戦いに身を投じた。
ヤトちゃんの結論だ。
「もしも私が失敗したら、次はショルメが私を助けてくれる? 安心して、今度は全てをなげうったりしない。必要がないもの」
「――――」
「いいかしら、大丈夫?」
「…………はぁ。そんな事言われたら、断れないじゃないか」
やれやれと肩を竦めるショルメさん。
「――それで、君はこれからどうするつもりなんだい?」
「……終焉のカードって、人が破滅を乗り越えられるかどうかを測る存在だと思うの」
世界には、世界を滅ぼすようなカードがいくつも存在する。
終焉カードもその一つな訳だが、やってくる場所と状況は相応に限られるのだ。
火種の世界が、燃え盛る前の時代にしか現れない。
それはさながら、これから炎を燃え上がらせて前に進む人々に、「本当に大丈夫か」と問いかけているかのようだ。
中には滅んでしまう世界もあるが、そういった世界だって他者の助けや自分の力で再生し、新しい道を歩み始める。
「昔は、その破滅を乗り越えるのは非常に困難だったかもしれない。今だって、絢爛世界と蒸気世界は滅びかけている。でも、絢爛世界は立ち直ったわ。蒸気世界だって救う方法はある」
「……まさか」
「そう、
そうだ。
終焉のカードは、とてもとても――気の遠くなるような昔からその役割を全うしてきた。
もし仮に、終焉に意思があるのなら。
もう十分じゃないかと、肩を叩くにはそれこそ十分すぎる時間だ。
だから、俺達は終焉にこう告げるのだ。
「蒸気世界の状況は、終焉の力を一箇所に集めて”道”を作るのに唯一最適な場所よ。だからその道を通して――私達はいいたいの」
ありがとう、もう十分貴方は頑張った。
――と。
「それにね? 私は今の状況に、意味を持たせたいのよ。怪盗ヤトが蒸気世界の滅びを停滞させて、先延ばしにした。当時の蒸気騎士団にとってそれは最善の方法だったけど」
「……」
「ショルメの方法だと、完全に無駄骨になっちゃうでしょ? 結果的に、再生するのは一緒なんだから」
「……そう、かもしれないね」
だからこそ、俺達はその状況を”活かしたい”。
意味のあるものにしたい。
これは決して、間違いじゃないと俺は思う。
「だからこそ――私は勝つわ、ここで貴方に」
力強く宣言して、そしてヤトちゃんは――
「私のターン! ドロー!」
カードを、ドローする。