カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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291 霧の都の大決闘! 店長対ヤト ④

 <怪盗ヤト>と<コンダクター・ヤト>。

 二人のヤトちゃんが、強化形態で向かい合う。

 一つは<マエストロ>、指揮者(コンダクター)と相似する意味を持つ言葉。

 おそらく、その言葉こそがヤトちゃんの本質なのだろう。

 

 真面目で、まっすぐで、努力家。

 前に進むことを恐れず、成長していく彼女の後ろ姿は多くの人々の憧憬を呼ぶ。

 そんな姿を見て、彼女のもとに集まった人々が彼女と共に世界を救うのだ。

 

「もしくは……貴方に憧れたから、こうなったのかもね」

「……俺に?」

「そうよ、店長。私にとって、貴方は最も身近で最も凄い大人だもの」

「大人……かぁ」

 

 正直、自分ではまだまだ俺は大人になりきれていない部分もあると想っている。

 だけどそれは、あくまで俺自身の考えだ。

 人によって、人の見え方というのは違うもの。

 ヤトちゃんにとって、俺が一番凄い大人だっていうなら。

 

「……そうだな。それに応えていかないとな」

「――これが最後の攻防になるわ」

「ああ、解っているさ! ヤトちゃんの再生と、俺の終焉をぶつけ合おう!」

 

 ヤトちゃんの<怪盗ヤト-マエストロ->は再生カードに属するカードだ。

 俺が生成して以降、複数のファイターが再生カードを手にしている。

 <マエストロ>もその一枚。

 なんだか実績を解除したような感じだな。

 そして、言うまでもなく<D・E・M>は終焉カードだ。

 この二つのぶつかり合いで、終焉の根源への道を開く。

 

「なんだか、不思議な気分ね。ここにたどり着くまでもなく店長に勝つつもりだったのに」

「運命ってのはそういうものさ。全力を尽くせば尽くすほど、俺達は自分が望む未来へたどり着く」

 

 正直、示し合わせたわけではない。

 だが、俺もヤトちゃんもこうなることを望んでいた。

 これまでに何度も話をしてきたが、運命とはいくらでも変えることができるが、存在をなかったことにはできない。

 こういった大きなファイトでは、意志と意志のぶつかり合いが運命の集束を発生させる。

 簡単に言えば、こういうファイトで最後に最終エースがぶつかり合う展開になりがちなのは、二人のファイターがお互いにそれを望んで運命を捻じ曲げているからだ。

 

「……上等! さぁ行くわよ、まずは<怪盗ヤト-マエストロ->のエフェクトを発動!」

「自身をセメタリーに送ることで、相手モンスターのエフェクトを無効にするエフェクトか。……だが! <D・E・M>は相手モンスターのエフェクトを受けない!」

「だったら私が無効にするのは……<探偵ショルメ>よ!」

 

 自分のモンスターを?

 そう、疑問に思う間もなく。

 ヤトちゃんは次なる一手を打ってくる。

 

「自分フィールドのモンスターを指定した場合、セメタリーからの帰還にコントロール奪取の条件は含まれないわ。戻ってきて、<怪盗ヤト-マエストロ->!」

 

 姿を消したと思ったヤトちゃんが、ショルメさんをお姫様抱っこで抱えて戻ってきた。

 もしかしてヤトちゃん、このシチュエーション好きなんだろうか。

 ショルメさんはまた顔が真っ赤だ。

 

「このとき、<怪盗ヤト-マエストロ->は選択したモンスターの攻撃力を二倍にして自分の攻撃力に加えるわ」

「二倍……豪快だな!」

「これでまず、攻撃力は店長の<D・E・M>を上回ったわ!」

 

 この一連の流れ、<怪盗ヤト>が攻撃を行ってから続けざまに行われている。

 つまり、相手ターンでもこの流れは成立するというわけだ。

 おそらくだが、相手ターンに発動した場合は「このターン、<マエストロ>以外を攻撃できない」みたいなエフェクトがついてそうだな。

 

「なら俺は、<D・E・M>のもう一つのエフェクトを発動。セメタリーのモンスターをランダムに一体選択する。そして、そのモンスターの攻撃力を自身に加える!」

「……最後は、店長の運で全てが決まるってことか」

「この状況で、俺のセメタリーのモンスターで<マエストロ>の攻撃力を越えられるのは<アークロード・ミカエル>と<エクス・メタトロン>だけだ」

 

 セメタリーには、かなりの数のモンスターがいる。

 その中から二体のモンスターのどちらかを引き当てることは相当に困難だろう。

 ただ、大事なのはここで俺の運命を天に託すということだ。

 運命とは揺れ動くことで力を増す。

 その力が、終焉への活路となる。

 

「いいでしょう、バトルよ! <怪盗ヤト-マエストロ->! もう一人の私を攻撃!」

「さぁさお立ち会い! 最後のピースを、今ここで引き当てよう!」

 

 この場にサモンされた<ショルメ>さん達が、セメタリーからひょこっと顔をだしたエレアが、そして蒸気世界の人々が。

 それだけじゃない。

 火札世界の人々も、中には中継を通してこのファイトを見ている人もいるだろう。

 

 多くの人達が見守る中。

 選択されたカードは――

 

 

「……っく! <ロード・ミカエル>だ!」

 

 

 だめだ、届かない!

 このタイミングで選ばれたのは俺の代名詞とも言える<ロード・ミカエル>。

 だがこれでは、俺はヤトちゃんの攻撃力を越えることができない。

 どころか――

 

「……<ロード・ミカエル>の攻撃力上昇量によって強化された<D・E・M>を<マエストロ>が破壊した場合――店長のライフが100残ります!」

 

 セメタリーから顔だけを出しているエレアの言う通りだ。

 この、ライフが残るっていうのが厄介だ。

 この一撃で決着がつかないということは、運命力が足りなかったということ。

 当然、このままファイトを続けても終焉への活路は開けない。

 ここまでの戦いで、俺とヤトちゃんは運命力をぶつけ合い、高めてきた。

 だというのに、これでもまだ終焉には届かないっていうのか!?

 

「……っ! 続けるわよ! いけ! <マエストロ>!」

「て、店長!」

 

 ――まずい。

 ここで<D・E・M>がやられてもライフは残る。

 加えて、残る<ショルメ>さんと<ジョン>さんの攻撃を俺はしのぎ切ることも可能だ。

 だが、それを凌いで逆転しても、終焉に手が届くヴィジョンが俺には見えない。

 ここで決着をつけるしかない。

 幸い、<D・E・M>にはもう一つエフェクトがある。

 それを使用すれば、ここで俺が逆転することだって不可能じゃない。

 だが、だとしても。

 

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 ――ここまでか?

 そう、考えた時だった。

 

 

『――大丈夫、届くよ』

 

 

 どこか聞き覚えのある声がした。

 そう、思った途端。

 俺の眼の前に――

 

 

 <エクス・メタトロン>が立っている。

 

 

 その瞬間、俺の意識は蒸気世界になかった。

 空中に身を投げ出し、浮いている。

 そんな状態で、眼の前にメタトロンがいるのだ。

 言葉はない、だが確かに意志は感じられる。

 

「……まさか」

 

 メタトロンはこう告げている。

 

「使えっていうのか?」

 

 自分自身を、(きざはし)にしろと言っている。

 まさか、そんな。

 いや、確かに不可能ではない。

 不可能ではないが、しかし――

 

「本当にいいのか? これからやることは、どう考えてもメタトロンの存在を変革させる」

 

 俺は、メタトロンに問いかける。

 

 

「下手したら、メタトロンが消失するかもしれないんだぞ」

 

 

 それでも、いいのかと。

 ――問題ない。

 確かに、メタトロンの意志はそう言っていた。

 ――いまさらだ。

 とも。

 ……今更?

 まぁ、そういうことならば、理解した。

 

「わかった、やろう」

 

 ――もう少し躊躇してほしい?

 いや、やろうっていい出したのはそっちじゃん……

 

 

 ――意識が戻る。

 

 

「……俺は、<D・E・M>の最後のエフェクトを発動! 自身が破壊される時、セメタリーに存在するカード一枚の名前を指定できる!」

「何をするつもり?」

「俺が指定するのは――<終焉覚醒>だ! そして、ランダムにセメタリーから一枚のカードを手札に加える。このとき、手札に加えたカードが指定したカードだった場合即座に使用できる」

 

 だが――

 

「指定したカードでなければ、俺は<D・E・M>の攻撃力分のダメージを受ける!」

「失敗したら、そのまま負けるってこと!? しかも、さっきより確率減ってるじゃない!」

 

 さっきはモンスターだけをランダムに選択した。

 だが、今回はカウンターエフェクトを含めた全てのカードの中からの指定だ。

 加えて、先程は当たりが二枚だったが、今回は一枚。

 明らかに、分の悪い賭けだ。

 しかし――

 

「上等! 賭けに勝ってこそ、本当の意味で強いファイターって言えるんだ!」

 

 かくして、俺はセメタリーからカードを取り出す。

 間違いなくこれが勝敗を決める一枚になる。

 あまりにもか細い賭け、賭けにすらなっていないような確率の勝機。

 それでも、俺はこの選択をする。

 

「俺が手札に加えたのは――」

 

 長かった蒸気世界での大事件に、終止符を打つために――!

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