カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
俺が手札に加えた、カードは。
ヤトちゃんが、ショルメさんやジョンさんが、このファイトを見ている皆が。
セメタリーから顔を出しているエレアが。
多くの人々が見守る中、俺はそのカードを掲げる。
「――<終焉覚醒>だ」
そして、この時。
俺が手札に加えたカードが、宣言したものだったならば。
そのカードを俺は使用することができる。
「……行くぞ、ヤトちゃん!」
「<終焉覚醒>……一体何を覚醒させるつもり?」
「俺が覚醒させるのは――<エクス・メタトロン>だ!」
その言葉に、その場にいたエレア以外の全員が驚いていた。
どういうわけかエレアだけ、やっぱりかぁみたいな顔をしているが――もしかして、エレアもさっきのメタトロンを見たのか?
……使い手の俺だけならともかく、どうしてエレアが?
いや、いいか。
今は気にしている場合じゃない。
「……行くぞ! 俺はセメタリーの<エクス・メタトロン>を<終焉覚醒>!」
「<メタトロン>を……? ある意味対極のカードじゃない、そんなことして……
ヤトちゃんが疑問を呈する。
確かに、終焉と俺のメタトロンはまったくの正反対の特性を持つカードだ。
終焉――破壊には再生が伴う。
だから終焉と再生は相反していてもガッチャンコが可能。
だけど、メタトロンはそうじゃない。
相反しているどころか、反発し合っていると言ってもいい。
世界の破壊者である終焉と、世界の守護者であるメタトロン。
その二つが交わった時、果たして何が起こるのか。
「これはメタトロンが言い出したことだ。そうすることが、今後の俺にとって必要だから……と」
「今後の? 今更店長に、そういう試練みたいなこと必要になるとは思わなかったわ」
「さぁな。でも、やる意義はあると俺は思ってる」
理由はいくつか在る。
一つは、あの声が投げかけた問いの答えを探すため。
どうしてこの世界にカードは存在するのか。
ある意味で、「最高のカードショップとはなにか」くらい普遍的で答えのない問いだ。
正直、未だに答えは出ていない。
だが、答えを探すことはできる。
そのために、俺は終焉の元へ向かいたい。
そうすることがメタトロンの言う俺にとっての意義だというなら、納得もできる。
「それに、だよ。カードってのはこの世界に当たり前に存在するものだ。たとえ失われたって、取り戻せばいい」
「……メタトロンなんて特別なカード、取り戻すのにすっごい苦労しそうだけど」
「それなら、問題ないさ」
俺の言葉に呼応するように、メタトロンがセメタリーから呼び出される。
慌ててエレアが飛び出して避けた。
いやエレアはセメタリーにいなきゃダメだろ!?
ともあれ。
取り戻すのに苦労するなら、それでもいい。
なにせ――
「――その方が、楽しいからな!」
そして、メタトロンの姿が変化していく。
透き通るような水晶が闇へと染まり――その直後、闇の中に光が灯る。
それは銀河だ。
世界の始まりと終わりが行き着く場所。
星々の揺り籠たる、原初の姿――
「さぁ、この世に終焉と開闢をもたらせ! <
――成功だ。
確信を持って、俺は進化したメタトロンを見る。
その姿に宿るのは、まさしく原初。
終焉に至るための最後の鍵だ。
「やりましたねてんちょー!」
「エレアはそもそもどうやってセメタリーから抜け出してきたんだよ! 翼在るし、モンスター状態だよな今?」
「気合です!」
「ともかく、だ! <メタトロン -デウス・エクス・マキナ->のエフェクト、1ターンに1度相手モンスターを指定し、そのモンスターは強制的に<メタトロン>とバトルする!」
俺が指定するのは、当然ヤトちゃんだ。
「そしてこのバトル時、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を自身に加える!」
「……っく! けど、こっちにだってやりようはあるわ! 私は<マエストロ>の最後のエフェクトを発動!」
ヤトちゃんの反撃、これが本当の本当に最後の攻防になる。
ショルメさんとジョンさんに視線を向けたヤトちゃん。
それに二人が頷いて返した。
笑みを浮かべて、ヤトちゃんが宣言。
「フィールドの『蒸気騎士団』二体をセメタリーに送ることで、相手モンスターのコントロールを得る!」
「<メタトロン>のエフェクト! フィールドで発動したモンスターのエフェクトは無効化される! このエフェクトは常時発動エフェクトだ!」
「……もう一度発動しようとしても、無駄ってことか」
「ああ、だから――バトル!」
恐ろしいことに、ヤトちゃんは一度無効化されてももう一度発動すればいいと考えていたようだ。
でも、それはさせない。
ここで決着を付ける、俺の勝利で――!
「行け! <メタトロン>!」
「……最後まで、私は戦うわ! 迎え撃って! <マエストロ>!」
激しい激突、コストで<ショルメ>さんと<ジョン>さんはフィールドから消えた。
残るは俺とヤトちゃんと何故かいるエレアのみ。
激突によって生じた余波が、エレアをころころと俺の側まで吹き飛ばし、慌てて俺がその手を掴む。
「ふたりとも!」
ヤトちゃんが叫ぶ。
そのスチームボードが、ライフがゼロになったことを音で告げる。
俺の勝利が決まった。
その、直後だった。
――蒸気世界から、音と光が消え去った。
違う、それは正確ではない。
俺が、音と光のない世界へと放り出されたのだ。
いや俺だけではない。
「……エレア、大丈夫か?」
「び、びっくりしましたぁ」
エレアもいる。
俺がエレアの手を掴んでいたからだろうか。
もしくは、エレアもメタトロンと俺のやり取りを見ていたならば、運命がそうしたのか。
どちらにせよ、ころころと転がったせいで体勢を崩しているエレアを持ち上げて立たせる。
それから二人で、周囲を見渡した。
「なにもないな」
「なにもないですね」
先日、絢爛世界から終焉を目指した時は、もっと星のような光が周囲できらめいていたのだが。
――目を凝らすと、遠くに光のようなものが見える。
あの場所から、更に奥へ進んだってことか?
「……どこを目指すべきかな」
「店長に分からないのに、私に解るわけ無いじゃないですかぁ」
それはたしかにそうかも知れないが、最近俺に似てきているというエレアだ、なにか解るかもしれない。
もっというと、さっきのファイトでのエレアの挙動を俺は初めて見た。
何かあったとしても不思議ではない。
「というか、何だったんだあれ」
「さぁ……」
エレアにもわからないらしい。
わからないなら、しょうがないか。
しかし、この場所で二人でイチャコラしているわけにも行かない。
まさか俺達にアダムとイヴになれってわけでもないだろう。
なにか手がかりはないか、と周囲を見渡していると――
「ふたりとも、こっちだよ」
そんな、声がした。
どことなく、聞き覚えのある声だ。
さっきも、メタトロンと出会った時に聞こえた。
多分、メタトロンではない。
幼い子供の声に聞こえるからだ。
「何ていうか今の声――」
「あー、エレアも思ったか?」
そして、この聞き覚え。
俺はなんとなくだが、心当たりがある。
「――エレアに雰囲気が似てないか?」
「――店長に雰囲気が似てませんか?」
心当たりはある……のだが。
何故かその心当たりがエレアとズレている。
「えー? 今のは店長だと思いますけど」
「俺はエレアだと思ったけどな」
つまり、俺にもエレアにも似てるってことか?
えーっと……それってつまり……つまり?
「……とりあえず、声のした方向に行ってみましょうか」
「そうだな……」
よく、わからないが。
とにかく、ヤトちゃんとのファイトは終わりを迎えた。
で、あれば。
後は終焉と邂逅し、俺達の役割を果たすだけだ。