カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
エレアと二人で、なにもない空間を進んでいく。
声のした方向へ進むと、なんとなくそちらになにかがあると感じ取ることができた。
しかし、微弱だ。
声がなくとも感じ取ることはできたかもしれないが、時間はかかっていただろう。
「……本当に何かあるんですか? こっちに」
「あるさ、エレアも感じるだろ?」
「何も感じませんよぉ!」
どうやら、エレアはまだこの域に到達していないようだな。
みたいな態度をしたら、「ぷんすこー!」と叫びながらエレアが俺を叩いてきた。
そんなやり取りをしながら進むこと、しばらく。
「……店長は、世界の存亡を巡る大きな事件に直接関わったのって、今回が初めてだったんですよね」
「まぁ、そうなるな。一応、ちょっと掠めるくらいならショップ対抗戦の時をはじめとしてそこそこあるけどさ」
「アレは……まぁ、ソウデスネ。しかしそうなると……やっぱり新鮮な感じだったんですか?」
新鮮……新鮮かぁ。
確かに、そう言われるとそうかもしれない。
充実していたのは間違いない。
少なくともそれは、誰の目から見ても明らかだろう。
「私は……なんか、不自然なくらい全然関われませんでしたけど」
「そういうもんだよ、運命が結びついてないっていうのは」
「店長が言うと実感しかありませんね。それはそれとして最後の最後で台無しにした店長には言われたくないです!」
「それは本当にごめん」
でもさぁ、しょうがないだろ。
安全に事が済むなら安全に済ませたいじゃん。
恋人が危険な目に遭うんだぞ?
「ただまぁ……それを含めても個人的にはトントンですね」
「トントン?」
「そりゃあだって――」
ふと、エレアが俺の腕に抱きついてきた。
「カッコいいミツルさんが、これでもかってほど見れましたから!」
言いながら、上目遣いで微笑んでくる。
それは……なんというか、反則じゃないかなぁ。
ともあれ、そうやってエレアと結論を出したことで、俺の中で今回の件に一つの区切りがついたのだった。
そして、ふとエレアが反応を示す。
「むむむ! なにかピーンと来ました」
「ピンと?」
「はい、店長に抱きついたからかもしれませんけど、私にも向こうになにかあるってピピンと来たんです」
そりゃあよかった。
ともあれ、そういうことなら俺から離れないほうがいいだろう。
何かあっても守れるし、一石二鳥だ。
かくして、二人で気配のする方向へと進んでいく。
そして――
俺達は、その場所にたどり着いた。
「……ここっぽいな?」
「ここっぽいですね」
なにか、力の奔流が”そこ”から流れ出ている。
それが何であるのか、どういう形をしているのかは俺達にはわからない。
なにもない空間に、”なにか”としか言いようのないなにかが鎮座している。
これを一言で表現するなら――概念という言葉がふさわしいだろう。
「しかしまぁ……でっかいなにかですねぇ。私でもビンビンに気配を感じますよ」
「流石に、ここまで近づいたらな」
これが――終焉。
世界に破滅という試練をもたらし、人類を試す存在。
しかしまぁ、なんというか。
「……近くで感じるだけじゃ、これが終焉って感じはしないな」
「もっと大きいなにかって感じですねぇ。そりゃまぁ、概念なんだから当然でしょうけど」
さて、俺達がここでするべきことは二つ。
まずは終焉に、人類の言葉を届けること。
もう十分だ、と。
「……こんな感じかな」
そうして、俺は終焉へと手をかざす。
腕に引っ付いていたエレアが少しだけ距離を取った。
俺と終焉の間に、どことなく神聖な気配を感じ取ったからだろう。
俺自身、終焉という膨大な力の流れを感じて少しだけ圧倒されていた。
「まずは、そうだな――」
何から声をかけるべきか、少しだけ考える。
……うん、やはりこれしかないな。
「……とりあえず、ファイトしないか?」
エレアがジトーっとした目でこっちを睨んでくる。
いやだって、しょうがないじゃん。
終焉という力の根源だぞ!?
概念的な力の集合体だぞ!?
やってみたいじゃん!
そして勝ちたい、勝ちてえええええ!
こほん。
気を取り直して、俺がイグニスボードを展開しようとすると――
――すまない、それは少しむずかしい。
なんとなく、そう
意志だ、言葉ではない。
エレアも感じ取ったのだろう、少し驚いた様子で俺を見ている。
視線が合った、かわいい。
「……それはどうしてだ?」
――デッキを持っていないからだ。
「……残念だな。ぜひとも、戦ってみたかったんだが」
デッキを持っていないなら、作ればいいじゃないかと思うが。
相手は概念的存在だ。
できるなら最初からやっているだろう。
だから持っていないというよりは、”持てない”というのが正しいはずだ。
「じゃあ……気を取り直して。いいかな、終焉」
――なんだろうか。
「――
――――
返事はなかった。
少しだけ驚いたようにしている。
まさか、感謝されるとは思わなかったのだろう。
でも、俺にしてみればそれは当然のことだ。
「終焉は、確かに世界を滅ぼしもする。だけど、完全に滅ぼすことはない。復活させることができるからな」
「だから……終焉のもたらす破滅は”通過点でしかない”ってことですか?」
「そういうことだ。通過儀礼……とも言えるかもな。火種の世界が燃え盛るために、終焉の試練は必要なことだったと俺は思う」
これが、他の滅亡ならばそうはいかなかっただろう。
それこそ「帝国世界に支配される」みたいな結末は、誰にとっても不幸なことだ。
でも、終焉はただ人をカードにして世界を終わらせるだけ。
そこからまた再起することもできる。
世界を滅ぼすカードの中では、あまりにも有情な存在だ。
「そしてだからこそ、俺はもう十分なんだって伝えに来たんだ」
――そうか。
「ああ、終焉。お前自身ももう解っていたんだろ? これ以上、誰かを傷つける必要はないって。それを、誰かに確かめたかったんだろ?」
――そうだ。
「なら、俺は誰よりもそれに向いていると思う。なにせ、火札世界の最強店長だからな。店長とは誰かを導くものであり――終焉、お前もそれは変わらない」
答えはない。
言葉を……意志を選んでいるのだろう。
だが、答えを待つまでもない。
俺は答えを知っている。
「だから……今はゆっくり休んでほしい。終焉、いつかお前とファイトすることを楽しみにしているよ」
――ああ。
そして、何かに気付いたように終焉はぽつりとこぼす。
――私も、君とファイトがしたいな。
そう、端的に。
俺の言葉に返してくれたんだ。
「……ありがとう、嬉しいよ」
「むむむ、エレアセンサーがピコーンです」
「エレアお前……」
「っと、そんなことより。終焉さん!」
そして俺と終焉のやり取りに少しばかりの嫉妬心をのぞかせるエレアである。
エレアはそれでいいのか……?
ともあれ。
「店長に、”どうしてカードは存在するのか”って質問したのは、終焉さんですか?」
――そうだ。
「……どうしてそんな質問を?」
――
「わからない?」
俺とエレアは顔を見合わせる。
質問をしたのは、終焉だという。
だというのに、その終焉すら質問をした理由がわからない?
いやまぁ、終焉は概念だ。
人格みたいなものはないだろう。
無意識のうちにした質問の意図がわからないのも、あり得ない話じゃない。
それはそれとして、不可思議な話ではあるが――
「――それには、私が答えるよ!」
と、不意に声がした。
俺とエレアのすぐ後ろ。
まるで、この瞬間を待っていたかのように。
元気よく、彼女は手を上げて叫んだ。
――銀髪に、特徴的なメッシュの入ったツインテールの少女だ。
俺とエレアは、その少女の顔をよく知っている。
だが、それはあくまでカードの中だけのこと。
ファイトでサモンしたこともあるが――実際に顔を合わせたことはない。
だが、こうして顔を合わせた時。
解った。
解ってしまった。
その少女は――
「やっと会えたね、
<極大天使 ミチル>、もしくは<極大古式聖天使 クリスタル・ミチル>。
そんなカード名で俺達の前に現れていた少女。
そして――俺達の娘が、そこにいた。