カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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295 蒸気の夜に夜兎は舞う

 さて、あの後ミチルは「私は先にキリちゃんのところに行ってるから」と言って和国世界と絢爛世界に繋がる次元の穴がある場所に向かっていった。

 多分、その穴を俺が前にやったみたいにちょっと弄ってキアの店まで転移するつもりなんだろう。

 俺にできるんだ、娘にできない道理はない。

 敢えて俺達から離れた理由は、キリアさんに会いに行くというのもあるだろうが自分がいると俺とエレアの方に話題が偏ってしまうからだろう。

 今はまだ蒸気世界での事件が完全に片付いていないタイミング。

 話をややこしくしたくなかったようだ。

 

 んで、問題のクルタナである。

 どうも、クルタナがラジオ体操をしていたのはエレアが色々とガチャガチャ動かしたかららしい。

 操縦者の意志をある程度汲んで動くオカルト的なロボであるクルタナが、その時のエレアの思考をトレースしてしまっていたのだとか。

 最終的に、エレアがラジオ体操をするクルタナに乗り込んで、なんとか停止させた。

 レンさんが滅茶苦茶怒ってたぞ、あんなに怒ってるレンさん初めて見た。

 

「まったく、瞳の民がおもしろ生物になっているのは天の民の影響だけではないのだぞ!」

「はい……大変反省しております……」

 

 未来で三頭身になってしまうと娘から伝えられたばかりなのもあって、エレアは非常に強く反省していた。

 そんなエレアをレンさんが見下ろし、俺とハクさんが遠巻きにしていた。

 

「それにしても、この場所にいるのはレンさんとハクさんだけなんだな。ヤトちゃんは?」

「私達と入れ替わりで、お店の方に向かいましたよ? やることがあるらしいです」

 

 ふむ、一体なんだろう。

 今すぐやる必要があることなら、俺達も向かったほうがいいかもしれないな。

 

「それで、天の民。終焉とは話がついたのか?」

「なんか、終焉の意志が俺に対して投げかけた問いに、いい感じに答えを返せば浄化されるらしい」

「わかりやすいな!」

 

 エレアへの説教が終わったのか、こちらへ問いかけてくるレンさん。

 質問の内容――「この世界にはどうしてカードが存在するのか」についても伝える。

 

「ふむ、何だ? また随分と哲学的な問いだな。まぁ天の民ならいい感じに答えを出すだろう。任せたぞ」

「任された。俺がやるべきことだからね」

 

 それにしても、と今度は俺がレンさんに質問する。

 ハクさんにも、だ。

 

「二人はこれから、どうするつもりかな? 家族と再会して……色々と積もる話もあるだろう」

「まぁそうだな……とはいえ、何も気負うことはないだろう」

「そうですよ、だって私達は――」

 

 俺の問いに、ハクさんとレンさんは笑顔で答えた。

 嬉しさを感じさせつつも、達成感をのぞかせる笑み。

 

 

「――勝ったんですから」

 

 

 取り戻し、手に入れて、そして勝利した。

 その自負がありありと感じられる笑みだった。

 

 

 □□□□□

 

 

 その後、二人は絢爛世界にいる家族のところへ向かうということで、一旦別れた。

 俺達はデュエリスト蒸気支店へと向かう。

 ヤトちゃんがそっちにいるだろうからな。

 気まずいのか、ヤトちゃんから逃げ出そうとするエレアを捕獲して、小脇に抱えつつ歩いていると――

 

「おや、店長殿にその奥方ではないか」

「んにゃー! 今その言い方をされると恥ずかしいです! 離してくださいー!」

 

 ――ショルメさんとすれ違った。

 ショルメさんは、店で俺達のファイトの行く末を見守っていたはず。

 タイミングからして、ヤトちゃんと話をしてから店を離れた感じか。

 ミチルと出会ったことで、奥方という単語に過剰反応するエレアを抑えつつ、話を聞いてみる。

 

「ご明察。ヤトが店に戻ってきたからね、ねぎらいの言葉をかけてからそこを離れた。ヤトが帰ってきたということは、全てに決着がついたということだ」

「……ショルメさんとしては、むしろここからが忙しいってところか?」

「そんな感じだね」

 

 蒸気騎士団の実質的なリーダーであるショルメさんは、再生した蒸気世界のために色々と奔走することになるだろう。

 ライオ王子やジョンさんも助けてくれるだろうが、ショルメさんの顔はやる気に満ち溢れている。

 忙しいことが、むしろ嬉しいって感じだな。

 

「これから、蒸気世界はどうなっていくんですかねぇ」

「モリアーティが排されたことで、ボク達騎士団の仕事は少しずつ減っていくだろう。けれども、絢爛世界や和国世界との交流も本格的になる。ライオ王子は忙しいだろうね」

「ショルメさんだって、色々やりたいことは多そうだけどね」

 

 やりたいことも、やるべきことも多いだろう。

 まず単純な話だが、蒸気世界は和国世界と絢爛世界の他に、あと四つ異世界と繋がることができるはずだ。

 終焉は七星なのだから、蒸気世界のような世界が7つ近くに存在していると考えるべきだ。

 近代の地球の歴史と近しい文明を築く四つの異世界、どんな異世界なんだろうな。

 そして、その世界には等しく終焉がやってきている。

 根源は俺が浄化するにしても、すでに根源から排出された終焉はどうにもならない。

 残る四つの世界の終焉が、果たして蒸気世界にどのような影響を及ぼすか。

 そういうところも、ショルメさんは気にしているだろう。

 

「それと……火札世界もね」

「火札世界は例外みたいなものだろ? 接続方法も俺の店以外に存在しない。そんなに影響はないと思うが――」

「なに、君の店に行ってみればわかるさ」

 

 そう言って笑みを浮かべたショルメさん。

 何やら意味深で、俺とエレアは顔を見合わせるが。

 まぁ、店に向かうのが早いか。

 そしてショルメさんは、俺達に握手を求めてくる。

 

「だから――これからもよろしく、火札世界の隣人たち」

「ああ、よろしく。蒸気世界の名探偵」

「そういう君は、火札世界の最強店長かな?」

 

 なんて、冗談を言い合って。

 俺達はそれぞれの目的地に向かうのだった。

 

 

 □□□□□

 

 

 そして、店に戻ると――

 

「なんか、店にでっかいドアができてます!」

「随分豪華などこでもドアだな……」

「どこでもドアってなんですか?」

「ああ気にしないで」

 

 豪華なデザインの扉が、店の隅に鎮座していた。

 ヤトちゃんが、それを満足気に眺めて頷いている。

 

「ふたりとも、帰ってきたのね」

「ああ、ただいまヤトちゃん」

「ただいまでっす!」

 

 そして俺達に気付くと、笑みを浮かべて近寄ってきた。

 

「この扉はヤトちゃんが?」

「ええそうよ。火札世界の店と繋がってるの」

「ああ、クルタナ……この世界の核の所有権がヤトちゃんにあるから、そういうことならできるんだな」

 

 俺の言葉にエレアがくわ、と目を見開いてヤトちゃんを見る。

 

「ヤトちゃんは……この世界の神様……?」

「違うから。できることといっても、これくらいよ。それにいつかは所有権を王家に返さないといけないし」

 

 まぁ、ファイトで負けるまでは持っておくつもりだけどね、とヤトちゃん。

 いやはやなんとも、蒸気世界と火札世界を自由に行き来できるようになったわけか。

 ショルメさんがああ言ってるなら、蒸気世界側も了承しているのだろう。

 火札世界の了承? 誰に取ればいいか分からんし、まぁ俺が監督するから大丈夫だろ……

 

「それにしても、本当に全部終わったんですねぇ」

「私も、自分の人生に関わる大事件が、こんなあっさり終わっていいのかなって気持ちも少しあるわね」

「そんなもんですよ、人生なんて何のきっかけで百八十度変わるか解ったものじゃありません」

 

 ヤトちゃんの言葉に、エレアが頷く。

 何故かエレアが言うと、説得力が違うな。

 

「とはいえ、だ。ヤトちゃん。君は君の意志で、多くの人とともに歩いてきた。時には望まない干渉を受けながらも、それをはねのけて」

「……そうね」

「そしてそれは、きっとこれからも続いていくと思うんだ」

 

 ――人生は長い、旅なんてそうそう終わるものじゃない。

 出会いも、別れも、それから障害も。

 終点にたどり着いたなんて感じることは、人生でそう何度あるものでもない。

 俺の場合は、第三回ファイトキングカップと、店を持ったことかな?

 もしかしたら、近くに三回目の終点があるかもしれないが。

 それは、また別の話。

 今はヤトちゃんに、人生で初めての終点にたどり着いた彼女に、聞かなくちゃいけない。

 

「だからこそ、問いたい。ヤトちゃん」

 

 俺は、エレアを地面におろしてから問いかける。

 

 

「――ここまでの旅路は、楽しかったかい?」

 

 

 立ち上がったエレアと、二人でヤトちゃんを見る。

 

「……蒸気世界って、本当に入り組んでるわよね」

 

 ぽつり、とヤトちゃんがこぼす。

 その言葉に、俺は蒸気世界中に張り巡らされているパイプを思い出した。

 

「すっごく複雑で、目的も持たずに歩いてたら簡単に迷子になっちゃいそう」

「そうだな」

「でも、スチームボードを使って飛び回るのって……すっごく興奮するのよね」

 

 なんとなく、解る気もする。

 俺はスチームボードを使ったことはないけれど、身体能力に任せてパイプからパイプへ飛び移ることは楽しいと想っているからな。

 

「特に夜の街を、明かりの少ない街の中を飛び回ると、最高に心地良い感じがするの。風が、空気が、静けさが、私を包んでくれる」

 

 ――さながらその光景は、蒸気世界に夜兎が舞っているかのようなのだろう。

 美しい光景だ。

 

「人生も、きっと同じね。きっとこれからも、私は世界を舞うように生きていく」

 

 迷いながら、戸惑いながら、それでも自分の意志で生きていく。

 それを――

 

 

「それを楽しいって言わなきゃ、私が私じゃなくなっちゃうわ」

 

 

 俺とエレアは、互いに笑みを浮かべて。

 

「ヤトちゃんらしいな」

 

 そう、返すのだった。




というわけで、蒸気世界編完!
次は未来からやってきたミチルと店長とエレアのお話。
次回、カードで世界が(略)第一部最終章
「祝福の中へ完結する物語」。
よろしくお願いします!
評価とか感想とかいただけると嬉しいです!
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