カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
娘のミチルが未来からやってきて数日が経過した。
蒸気世界への扉を守る役に任命され、それを頑張りつつ日常を送っているのが今のミチルだ。
そんなミチルがどんな日常を送っているかというと、なんというか一言で言えば……
「パパー、ちょっと力を貸して欲しいんだけど」
「またか。ミチルはいつも事件を運んでくるな」
巻き込まれ体質という奴だった。
なんでも、ミチルは未来にいた頃から事件に巻き込まれがちな体質だったらしい。
なんてことだ、トラブルに巻き込まれない体質の俺とは正反対だ。
そういうわけもあって、ミチルは毎日何かしらの事件を店に持ち込んでいた。
ちょっと夕飯の買い出しを頼んだだけでダークファイターに襲われたりするから、お父さん心配だよ。
「それで、今回はどんな事件なんだ」
「カードの精霊が道に迷っちゃって帰れなくなったみたいなの」
なるほど、と頷く。
カードの精霊が道に迷う。
なんとも不思議な話だが、この世界ならないわけじゃない。
モンスター系の精霊は、基本自分達の住処を離れない。
しかし時折、住処を離れて現世に迷いでることがある。
理由は様々で、自分を使うファイターを求めてか、もしくは使い手のファイターのところまで遊びに行くって理由が多いかな。
「今回はどっちなんだ?」
「ファイター探しみたい。なかなか見つからなくて困ってるんだって」
ふむふむ、そういうことであればミチルが俺を頼るのは納得だ。
何せミチルには現代の土地勘もなければ人の心当たりもない。
対して俺はこの天火市で顔がきく。
カードに関する探し物は俺に聞くのが一番早いだろう。
「どんなモンスターなんだ?」
「この子、えーっとモンスター名は……」
「<黒羽天狗のカザグルマ>だな、『黒羽天狗』モンスターの中核を担うモンスターだ」
「さっすがー」
ミチルの肩に、一匹のカラスが止まる。
名前の通り天狗みたいな装いのカラスだ。
『黒羽天狗』というカテゴリのモンスターで、デッキの中核……というかエンジンと言えるカード。
「ミチルはあまりカードに詳しくないのか?」
「詳しくないわけじゃないけど、未来で見たことないカードだしね」
「それもそうか」
「後まぁ、私の夢ってショップ店長じゃないから」
なんでも、未来で俺の後を継ぎたいって考えてるのは弟の方らしい。
まぁ別に継いでもらう必要はないし、進みたい道に進んでもらえればいいんだけど、弟はかなりショップ店長向きだそうで。
それはそれで、結構楽しみである。
「前に聞かなかったけど、ミチルの夢ってなんなんだ?」
「ふふふ、それはまだ秘密ー。いずれわかるよ、いずれね」
なんて返されてしまった。
多分偶然なんだけど、俺の言い回しに影響されたとかじゃないよな……?
「んで、<カザグルマ>のファイター探しか」
「パパは何か心当たりある?」
「『黒羽天狗』はすでに一般で知られてるカテゴリだ。ってことは、初めてカードにふれる誰かの元へ行くってカードじゃないな」
そもそも、こういう精霊タイプのモンスターがファイターとして選ぶ人間の種類は、その精霊のカードが一般に知られているかで決まる。
全く知られていないのであれば、全くカードに触れたことのないファイター。
知られているのであれば、すでにそのカードを使用しているファイターだ。
<カザグルマ>は迷子になったとはいえ、使い手とはそう遠く離れていないだろう。
「つまり、天火市で『黒羽天狗』を使用してるファイターを探せばいい」
「おおー、それっぽい。他にはどういう方向から絞り込めるかな」
「そうだな……」
こういう精霊タイプのモンスターが舞い込むとなると、何かしらの事件に巻き込まれる可能性が高い。
事件に巻き込まれるのは、若い学生のファイターかカードに関わる職業の人間が殆どだ。
中には普通のサラリーマンとかが巻き込まれることもあるが、そういうサラリーマンって過去にプロとかを目指してて挫折してる場合が多いんだよな。
ようするに、何かしらの物語が始まるってことだ。
「そうなると、『黒羽天狗』を使用してるファイターがいないか確認を取るのは、エージェント組織に聞くのがいいな」
「この街の今の時代のエージェント組織は……闇札機関とネオカードポリスかな」
「未来だと違うのか?」
「もう一つ増えるよ。名前は……言えないみたい」
未来が変わってしまうかもしれない内容は、口に出せない。
という縛りはミチルもキリアさんと同じようだ。
ただミチルの方が話せる範囲は広いらしい。
「その二つの組織に聞くのは、該当しそうな人間――学生かカードに関わる職業の人間。もしくは挫折した社会人と面識のある人が多そうだから?」
「そう。特にネオカードポリスの人間は、そういう挫折した社会人といっしょに切磋琢磨してたこともあるだろうしな」
闇札機関に関しては、この街の実力のある学生ファイターが集まる場所なので言うに及ばず。
加入条件が中高生限定だったりする関係で小学生は加入してないけれど、そっちに関してはネッカ少年に聞けばいい。
彼はこの街の、ほぼあらゆる強豪小学生ファイターと面識があるからな。
「ただまぁ、『黒羽天狗』は闇札機関のファイターが使ってるだろうな」
「どうして?」
「かっこいい系だから」
見た目がね、中高生の好きそうなカッコいい系なんだ。
「なるほど……気持ちはわかる」
「わかるか」
「私も未来じゃ花の中学生だからね」
別にこの時代でも学校に通っていいと思うんだけどなぁ。
ヤトちゃんと同じ中学とか、どうよ。
まぁ、気が向いたら通うだろう、短い付き合いだがミチルはそういうヤツだ。
「んじゃあ、私ちょっと闇札機関にお届けに行ってくるね」
「おー、扉の管理は俺がやっておくよ」
「ありがとパパー! 闇札機関の場所って未来と変わってないよね?」
「多分変わってないんじゃないかなぁ」
そもそも未来の場所が分からん。
なので確認したら、変わっていなかった。
未来でもレンさんが盟主なのかねぇ。
というわけで、俺は店を飛び出していくミチルを見送るのだった。
――なお、無事に使い手は見つかり、その使い手は巻き込まれたダークファイターとのファイトに無事勝利できたそうだ。
よかったよかった。
□□□□□
一方その頃、頭を抱えるモノがいた。
ミチルから<黒羽天狗のカザグルマ>を渡されたレンである。
レンは渡されたその<カザグルマ>を見ながら、頭を抱えていた。
そして、一言。
「誰か、あの父娘を止めてくれぇ……!」
というのも、話はこうだ。
この<カザグルマ>がたどり着くはずだった使い手、ファイトの実力が伸び悩んでいた。
そのことが原因で闇落ちしかけ、その時に出会うのがこの<カザグルマ>だったのだ。
だが、ミチルの事件誘発体質と店長の無自覚事件解決体質がガッチャンコし、事件が発生する前にいい感じに解決してしまったのである。
無論、それ自体はいいことだ。
レンとしても、思い悩んでいる部下に光明が差したことは素直に喜ばしい。
だが、それ故に二人を止めることができない。
ミチルがこの時代にやってきてから数日、これまで彼女が解決した事件は彼女がこの時代にやってきてからの日数の
一日に二件は事件に出くわしているということだ。
いっくらなんでも、事件に巻き込まれすぎである。
さすがは店長の娘、といったところか。
しかしそれが、店長の体質とシナジーを起こしてしまうと、あら大変。
後に判明したことだが、ミチルがこの時代にやってきてから帰るまでの間。
天火市で起きた事件はその全てが未然に芽を摘まれていたことが判明した。
店長一人なら、未然に防がれる事件はダークファイター事件の域を超えるイレギュラーだけ。
だが、二人揃うとこの有り様。
未来はとんでもないことになっていそうだなぁ、とレンは今から憂鬱になるのだった。