カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「おたのもーですわー!」
「おたのもーです」
「お、おたのもー……」
その日、我がカードショップ”デュエリスト”に三人のファイターが入店してきた。
誰あろう、アロマさん、アウローラさん、そしてキリアさんである。
隣街のキアの店を拠点としている彼女たちだが、アロマさんに関しては時折俺の店にも訪れるのは周知の通り。
そこに最近は、店にミチルがいるということでキリアさんもアロマさんに同行することがあるのだ。
二人がこちらにくるなら、自然とアウローラさんもこっちにくる。
ということでここ最近は三人の来店頻度が上がっているのだ。
まぁ残念ながら――
「いらっしゃい。悪いけどミチルは出かけてるところだ」
「あ、もしかしてまたなにかに巻き込まれてますか……?」
「そんなところ。今日はおじいさんがデッキをなくして、それを探してるんだったかな」
キリアさんが、ミチル不在の理由を一瞬で理解してくれた。
流石にそこは親友ってところか。
ミチルは毎日一回は何かしら事件に巻き込まれるので、キリアさんも慣れているんだろう。
「ミっちゃんらしいなぁ」
「むむむ、なんだかジェラシーですわ!」
「安心して、アロマには私がいますから」
普段三人で一緒に行動しているため、アロマさんはキリアさんの一番の親友であるミチルに若干のジェラシーを感じている。
そしてそんな横で何か視線の怪しいアウローラさん。
うーん、なんて健全な関係なんだ(ぐるぐる目)。
「あ、でも……ミっちゃんがいてもいなくても、今日はこっちで遊んでく予定だったので……」
「それはありがたいな。キアからまた文句が飛んできそうだけど」
「ああう……」
俺の冗談に、少し萎縮するキリアさん。
そんなキリアさんをかばうように、アロマさんとアウローラさんが俺の前に立つ。
「あんまりキリアさんを苛めないでくださいまし!」
「その気なら……私達が相手になります」
「ふ、ふたりともぉ」
困った様子でオロオロとしているキリアさん。
そんなキリアさんに、アロマさんとアウローラさんはどこかいたずらっぽく微笑んだ。
「うふふ、ごめんなさいキリアさん。一度やってみたかったんですの」
「あ、ううん……冗談なのは、解ってるから……」
「ありがとうございます、キリアさん。じゃあ、テーブルに行きますか?」
「あ、えっと……ちょっと、店長さんとお話があるので」
どうやらキリアさんは俺と話がしたいみたいだ。
多分、ミチルのことだろう。
アロマさんたちが了承してテーブルの方へ向かうと、俺とキリアさんは二人きりになった。
「あの……えっと、い、いつもお世話になってます」
「ああ、キリアさんもミチルもな」
「はいい……その、ご迷惑をおかけしてませんか?」
おそるおそる、といった様子だ。
まぁ、ミチルは普段から好き勝手している、そんなミチルのことをよく知っていれば確認したくなるのも無理はないだろう。
「全然、むしろ楽しく過ごさせてもらってるよ。ミチルがいると、店が一段と賑やかになるからな」
「あ、それは……なんとなくわかります」
キリアさんと、ミチルの普段の様子について語り合う。
ミチルはとにかく社交的だ。
人と話すのに何一つ遠慮がなく、ぐいぐいと切り込んでいく。
それでいて相手の嫌なことはうまく躱してみせる。
陽の中の陽というか、カードゲームの熱血主人公みたいというか。
まぁ、そのものだよな。
「私……いっつもミっちゃんの後ろをついて行ってばっかりで、一人で頑張らなきゃって思ってるんですけど」
「ミチルがいると、全部ミチルに任せればいい……って感じか?」
「さすが店長さん……そんな感じです」
対するキリアさんは、見ての通りの引っ込み思案な性格だ。
決して、臆病というわけではない。
勇気を持って、前に一歩踏み出せるだけの胆力はある。
でも、普段はそれが十全に発揮できるわけではない。
カードゲームの主人公を慕う友人みたいというか。
まぁ、これもそのものだよな。
「でも……一人で過去に放り出されて、マジカルファイターとしてアロちゃんたちと一緒に頑張って。……アロちゃんとアウちゃんと仲良くなって」
「まぁ、その原因はミチルなわけだが」
「そこは……そういうところが、私は好きなので」
少し恥ずかしそうに、照れくさそうに。
けれどもはっきりとキリアさんは言ってみせたのだ。
「それに……ミっちゃんとこっちで再会した時、ミっちゃんがすっごく私のこと、褒めてくれて。成長したねって喜んでくれて。……私も、嬉しかったです」
「よかったな」
やはり、ミチルとキリアさんは無二の親友のようだ。
俺とダイアの関係とはまた違うけれど、絆の強さは俺達にも負けていないかもしれない。
「私、もうすぐ未来に帰ります。また、こっちに来ることはあっても、アロちゃんたちと同じ時間は歩めません」
「……」
「だからその前に、ミっちゃんにも、アロちゃんにも、アウちゃんにも……成長した私を、見てもらいたいんです」
「できるさ、絶対に」
俺の言葉にキリアさんが微笑んで、それから一礼するとアロマさんたちの元へと戻っていった。
別れの時は近い、キリアさんはアロマさんとアウローラさんに、どんな言葉を残すんだろうな?
「――――てえんちょー」
と、そんな時である。
何故かカウンターの下からひょこっとエレアが顔を出した。
さっきの話をこそこそと聞いていたんだろう。
「マナーが悪いぞ、エレア」
「聞こえちゃったものは仕方ないじゃないですかぁ」
まぁそれはね。
俺もキリアさんも、別に聞こえない声で話をしていたわけじゃないから。
「それで、一体どうしたエレア」
「なんというか、不思議ですよねぇ。ミチルって私と店長の子どもにしてはすごく社交的だと思いません?」
「エレアは、随分社交的になったと思うけどな?」
「昔は全然だったじゃないですか」
確かに、俺もエレアもそこまで社交的というわけではない。
いや、今のエレアはミチルに負けていないくらい社交的だが。
流石にミチルほど交友関係が広いわけではないのだ。
ネット上での配信者としては顔が広いけど、リアルだと店のお客さん以外とはあまり話さない。
対するミチルは、本当に誰とでも話すタイプだからな。
「そして店長は、正直結構内向的ですよね?」
「まぁ、受け身ではある」
んで、俺は正直社交的かと言われれば否である。
とにかくコミュニケーションにおいて受け身なのだ。
これに関しては理由があって、俺の前作主人公力とファイターとしての強さ故、こっちから話しかけるまでもなく向こうから相談を持ちかけてくることが殆どだからだ。
受け身ではあるけれど、コミュニケーションそのものを苦にしてるわけではないからな。
「とすると、やっぱりミチルが社交的なのは――」
「家がカードショップだからだよ!」
「うわぁ!」
と、そこに声がする。
ミチルが、バックヤードから現れて俺達に飛びついてきたのだ。
どうやら話を聞いていたらしい。
多分、俺とエレアが話し始めたあたりからだな。
「もー、帰ってきたなら素直に言ってくださいよ! 裏口から入ってきましたね?」
「へへー、ただいまー」
抱きつかれたエレアが、バランスを崩しつつもなんとか耐えてミチルを受け止める。
身長で言うとミチルの方が大きいので、こうして見ると親子っていうより姉妹だな。
年齢的にもそんなもんだけどさ。
「カードショップの娘として育つとねー、小さい頃からずーっと人が周りにいるから。どうしてもこうなっちゃうわけですよ!」
「楽しそうに言ってくれるな」
「楽しいよ? これまでも、今も、未来も楽しいことばっかり! 私ね、楽しいことが好きなんだ」
なんとも、まぁ。
ミチルには俺のような事件に関われない体質は存在しない。
結果として、ミチルはかなり正統派な主人公系の女の子に成長した。
嬉しくもあり、未来が楽しみでもあり。
俺もミチルのように、未来が楽しいことに溢れていればいいなと切に願うのだった。