カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「パパ、最近ママが夜に一人で出かけるの」
「ううん?」
ミチルからそんなタレコミを受けたのは、エレアが休みで遊びに出かけている日の午後だった。
現在ミチルは、”デュエリスト”二階の居住区でエレアと暮らしている。
俺の実家という選択肢もあったんだが、どう考えても俺の両親の孫が早く見たいオーラが鬱陶しくなるので店舗の方になった。
なお、両親とは顔合わせを済ませている。
ミチルが社交的なのもあって、両親はそれはもうミチルをかわいがっていた。
さて、それはそれとしてエレアが夜に一人で出かけているという点だ。
「ま、まさか浮気とか……」
「無いの解ってて言ってるだろ」
ウチのエレアに限って……という話ではなく。
俺もミチルも、洞察力は高いほうだ。
というか、俺の前作主人公的メタ読み能力をミチルも受け継いでいるといったほうがいいか。
なので何か変なことが起きている気配があれば、すぐに察知できる。
「俺もエレアが何かやってるのは気付いてるよ、あの感じからして多分バカやってるんだと思う」
「いつものママだね。で、パパは実際気にならないの?」
「ならないといえば嘘になるが、確認するほどでもないだろ」
単純に、目に見えて影響のないことにそこまで気を使う必要もないだろうという話。
エレアのプライバシーにも関わるしな。
「でも、私は気になります。パパ、手伝って」
「まぁミチルが気になるなら手伝うけどさ」
それはそれとして、娘の頼みを断るほどのことでもないので。
俺はミチルを助けることとした。
□□□□□
というわけで、夜。
俺は一旦蒸気支店の方に移動して時間がすぎるのを待ち、ミチルの連絡を受けてから俺達の世界へと戻る。
暗くなった室内で、何やら背中に水晶の羽を生やした――<極大古式聖天使 クリスタル・ミチル>の姿になったミチルが出迎えてくれた。
「なんでまた」
「この姿が私のフルパワーなの、全盛期のママに気づかれないよう動くには、こっちも全力で行かないと」
「全盛期ねぇ」
まぁ、なんとなく言わんとしていることはわかる。
エレアは元偵察兵だ。
気配には非常に敏感で、我が店のセキュリティ担当でもある。
未来では三頭身になったのもあって、その腕は結構鈍っているそうなのだが。
まぁ、今はまだ衰えてはいないよな。
「未来ですら、全力を出しても隠れられるかは結構運なんだよ。パパだってよく解ってるでしょ?」
「まぁ、そりゃ」
とはいえ、ぶっちゃけ俺は別にバレても問題ないと思っている。
ミチルが行きたいというから付き合っているだけの立場なわけでな。
少なくとも、俺はエレアが変なことに巻き込まれているとはこれっぽっちも思ってないわけで。
「よーし、それじゃあ早速行ってみようパパ! っひょー!」
「ミチルもただ遊びたいだけだしなぁ」
「なにか言ったぁ?」
エレアそっくりな態度で飛び出していく娘に、血筋を感じつつ。
俺はミチルの後を追う。
――で、もって。
「ママ、結構遠くまで行くね」
「わざわざ完全武装のステルスモードを使う辺り、よっぽどバレたくないと見える」
俺達は現在、空を飛ぶエレアの後を追っていた。
エレア完全武装の装備は、空を飛ぶことが可能だ。
しかもステルス機能を使えば誰にもバレることはない。
俺とミチルはエレアのファイトエナジーを察知できるので追えているが、肉眼では何も見えない状態だ。
「……ところでパパ、生身で車と同じくらいの速度出してる私と並走するのやばくない?」
「これくらいならまだやばくない」
鍛えてるファイターなら誰でもできるしな。
鍛えることの方に比重を置いてる格闘家タイプなら、最終的に極まると次元を拳で引き裂くぞ?
「まぁ未来でも似たようなものか……って、ん? ママの向かってる先って……」
「あー、修行場?」
なんでわざわざそんなところに。
修行場は滝行とかクマを一頭伏せてターンエンドしたりできる場所だ。
以前、ヤトちゃんやクローと修行に来たことがあるな。
「よーし行ってみよう!」
「っと、ミチル危ない!」
俺は修行場へ突入しようとしたミチルの手を引っ張る。
ファイターとしての直感が警告してきたのだ。
直後、ミチルの立っていた場所にカードが突き刺さる。
「――何者ですか」
現れたのは――
「……って、店長とミチル? どうしてここに!?」
それはもう久しく見ていなかった、尖兵モードで俺達の前に現れた後。
いつもの状態に戻るエレアだった。
「尾けてきました!」
「ミチルがどうしても行きたいって言うから」
「ぐ、ぐむむー! 私としたことが、修行場に入るまで気付けないとは……不覚!」
そりゃまぁ、絶対気付けない位置から追いかけてたからな。
俺もミチルもエレアの探知範囲は熟知している。
とはいえ、探知範囲になった途端これだ、腕は鈍っていないどころか……むしろ研ぎ澄まされている?
「それで、エレアはどうしてこんな夜更けに修行場に?」
「いいじゃないですか、二十四時間営業なんですから」
修行場には利用料金がかかるが、お金さえ払えばいつでも使える。
スポーツジムみたいなもんだな。
「吐かないというなら、ファイトで吐かせるまで!」
「絶対にいいませんよ! たとえ相手が店長だろうとミチルだろうと!」
「というわけでパパ、お願いします!」
「俺ぇ?」
いやそこはミチルがやるところだろ。
え? 俺とエレアのファイトが見たい?
仕方ないなぁ。
□□□□□
ファイトは俺の勝利で終わった。
「っく……好きにしてください!」
「ふっふっふ……パパ、好きにしていいってよ」
「え!? いや本当に好きにしてもらうには、心の準備が……」
しないしない。
娘は何を言ってるんだ、気まずいだろ普通。
「で、どうしてこんなところで修行してたんだ?」
「う、うー…………です」
すごくいいたくなさそうに、エレアが言った。
なので、聞き取れない。
ミチルがんー? と耳をエレアの口元に近づける。
すると――
「ダイエットです!!」
それに気づかず、大声で叫んだエレアにミチルの耳が襲われた。
思わず耳を抑えてうずくまるミチルはさておいて、ダイエット?
全然必要ないように見えるが。
「だ、だって……未来の私は三頭身なんですよね!? つまり幸せ太りな感じなんですよね!? そんなのいやですー! 若くて美人な店長のお嫁さんでいたいですー!」
「お、おう……」
少し恥ずかしい。
どうやら、未来で三頭身になるのを太ったからだと解釈した結果、こうして運動をするために修行場を使っていたらしい。
「あ、安心してママ……三頭身になってるのはあくまでデフォルメされてるだけだから……シリアスな時は今とぜんぜん変わらない可愛いママだから」
「…………それはそれで、困ります」
「いやなんでだよ」
だってぇ、と唇を尖らせながら。
「普通ママキャラって、娘を大きくしてボンキュッボーンにした感じじゃないですか」
「その普通はそこまで常識みたいな普通じゃないと思うが……」
最近のトレンドじゃん。
未来でどうなるかわからないじゃん。
「私だって……ちょっとは……成長したいです!」
「……それはダメだよ、ママ」
と、そこでミチルがエレアの肩に手を置く。
何やら真面目な表情で、首を横に振った。
「確かにえっちでボンキュッボーンなママも素敵だと思うよ?」
「で、ですよね!」
「でもね? 考えてみて?」
そこで、すう、と一つ呼吸を整えて。
ミチルは、エレアに告げた。
「パパは、ママくらいの背丈の成人女性が……一番の癖でしょ?」
いやでしょ? じゃないよ。
何いってんだよ娘だろ?
こっち見てウインクしてるんじゃないよ。
エレアもハッとなってるんじゃないよ!
――なお、これは余談だがエレアは効率的な修行と栄養補給を繰り返していた。
むしろ筋肉とかがついた分以前より――太っていた。
いや、正確には体重が増えてただけで太ってるとは違うんだけども。
そのことを知ったエレアが、崩れ落ちる事となるのはまた別のお話。