カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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301 闇

 ――それは”闇”だった。

 ただそこに在る一点の黒。

 すべてを飲み込む、漆黒の”闇”。

 

 一つの世界があった。

 そこは火札世界とそう変わらない技術力の世界で、辿っている歴史も概ね近しい。

 そんな世界に、その”闇”が現れたのは、なんでもない日のなんでもない場所だった。

 

 ”闇”、それは人々の心の闇によって増大し、世界を飲み込んでいく敵だ。

 ある時、その”闇”が現れた場所には一人の悪堕ちしかけの青年がいた。

 その青年の前に、”闇”は青年と全く同じ姿で現れた。

 当然のようにファイトは行われ、青年は”闇”が生み出したもう一人の青年に心の闇を指摘され敗北。

 ”闇”に飲み込まれた。

 

 そんなことが、世界のあちこちで起こり始めたのだ。

 心に闇を抱えたファイターは多い、嫉妬、侮蔑、憎悪。

 様々な感情が”闇”に飲み込まれ、少しずつその力は増大していく。

 やがては、闇を抱えていない人間も、周囲の闇を抱えている人間の姿を模倣した”闇”と対決し――敗北。

 呑み込まれていく。

 

 人々が気付いた時には、もう”闇”は手遅れなほどに膨れ上がっており。

 残ったファイターの決死の抵抗も虚しく、”闇”は世界そのものを飲み込んでしまった。

 

 まさに、それは”闇”。

 世界を飲み込む最悪の敵。

 心の闇が存在しない人間はいない。

 仮にどれだけ小さかろうと、”闇”はそれを闇として浮かび上がらせ相手を飲み込む。

 

 もしも、世界最強の絶対に闇堕ちしないファイターがいたとしよう。

 そんなファイターの心の闇を、”闇”は引きずり出すことができるのか?

 答えは簡単、()()だ。

 ”闇”とは決して先ほど挙げた嫉妬のような他者への排他的な感情だけではない。

 攻撃的な感情――すなわち、怒りなどの感情すら”闇”は心の闇としてしまうのだ。

 故に、そんなファイターがいるのなら、言ってやればいい。

 お前が自分の次に強いと思っているファイターは、弱かったぞ――と。

 強者とは、相手を認めるからこその強者。

 それを侮蔑されたら、当然そのファイターは怒りを感じる。

 そこを”闇”は飲み込んでしまうのだ。

 

 故に、抵抗は不可能。

 絶対に、”闇”を心から取り除くことはできない。

 

 そんな”闇”は一つの世界を飲み込んだ後、次なる世界へと目をつける。

 言うまでもなくそれは火札世界だ。

 そうして火札世界に出現した”闇”の前に現れたのは――

 

 

「んー、なんだこれ」

 

 

 一人の少女だった。

 名を、棚札ミチルという。

 

 夜、コンビニにスイーツを買いに出かけた不健康な少女は、偶然”闇”と出会ったのだ。

 早速”闇”は、この少女を最初に飲み込むと決めた。

 そうと決まれば、早速この少女の心の闇を引きずり出そう。

 

 そう思い――失敗した。

 何故? と思う。

 理由は単純、眼の前の少女――ミチルが心の闇を持っていないからだ。

 しかしそれはおかしい。

 ”闇”は性質上、最初に出現するのは心の闇が存在する人間の前だ。

 そこから少しずつ勢力を広げ、最終的にミチルのような闇を持たない存在を飲み込むのである。

 だというのに、どうしてだ?

 

「ふうん? どっかのダークファイターかな」

 

 どうやらミチルは、”闇”が世界の敵であることに気付いたようだ。

 ”闇”は考える、一度撤退すべきか。

 結論は――否だった。

 そもそも、”闇”はすでにこの世界と同規模の世界を一つ飲み込んでいる。

 故に、取れる手段は撤退だけではないのだ。

 

 ”闇”は、別世界の最強を呼び出した。

 

 すなわち、飲み込んだ世界で最も強いファイターを呼び出したのである。

 それを見たミチルは、そのファイターの強さを感じ取ったのだろう、笑みを浮かべた。

 

「いいね、そういうことなら……やろっか」

 

 そうして、構えるミチル。

 ”闇”もまたイグニスボードを出現させた。

 

 

「イグニッション!」

 

 

 ――とはいえ、結局。

 ”闇”は強い、一つの世界を飲み込める程に。

 その強さの秘訣は、初見殺し。

 先行はミチルだ。

 <古式大天使 シスター・ミカエル>と呼ばれるモンスターをサモンし、カウンターエフェクトを二枚セッティングしてターンを終えた。

 

 ――惜しい、と”闇”は思う。

 眼の前の少女は、間違いなくこの世界でも最上位に位置するファイターだろう。 

 しかし悲しいかな、その戦法はスロースターターなようだ。

 まず、最初に様子見のモンスターをサモンして相手にターンを渡す類の。

 それでは”闇”の術中は防げない。

 何故ならば――闇は最初の一手こそが最も致命的だからだ。

 

 <スーパー・コネクト>。

 それは、手札を一枚捨てることで発動できるカード。

 フィールドに存在する相手のモンスターと自分のモンスターを素材に新たなモンスターをサモンできるのだ。

 これの最も厄介なところは、このカウンターエフェクトの発動に対しカウンターエフェクトを発動できないということ。

 すなわち、絶対無敵。

 どのようなカードだろうと、<スーパー・コネクト>を防ぐことはできないのである――!

 

 故に、”闇”はそれを発動するために――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「おっと、<ゴッド・デクラレイション>でそのサモンは無効だよ」

 

 

 大前提に失敗した。

 一瞬停止する”闇”。

 しかし、この程度で”闇”が取り込んだ最強ファイターは止まらない。

 続けて残りの手札で新たにモンスターをサモンしようとして――

 

「二枚目の<ゴッド・デクラレイション>でそのサモンも無効だよ」

 

 ――――はい。

 

 かくして”闇”は人知れず討伐され、”闇”に呑み込まれた世界は元に戻った。

 

 

 □□□□□

 

 

「おつかれミチル、ダークファイターと戦ってたのか?」

「……多分? <ゴッド・デクラレイション>で封殺できたから、大した相手じゃなかったね」

「お前も封殺戦術を使うのか……」

「パパ仕込みだよ」

 

 そんなミチルのファイトを見ているものがいた。

 その父親――になる予定の棚札ミツルだ。

 ミチルと同じく、ダークファイターに封殺戦術を取るえげつないやつである。

 

「しかしなー、不思議だよな」

「何が?」

「封殺戦術の方は受け継がれたのに、事件に巻き込まれない体質が受け継がれなかったことだよ」

 

 さて、ここで一つ言っておくことが在る。

 ミチルはミツルの有する”事件に巻き込まれない体質”が受け継がれていない。

 普通に巻き込まれて、それを解決することだって多々ある。

 

「前者はあくまで戦術だからねー、真似しようと思えば真似できちゃうんだと思う」

「なるほどなぁ。えげつないからちょっとは遠慮しなさいね」

「それをパパが言う?」

「いいんだよ俺は、どうせ戦うのは()()()()だし」

 

 言うまでもないが、その認識は誤りだ。

 ミツルが戦う悪のファイターは木っ端の雑魚かもしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()のどちらかである。

 ここでのポイントは、木っ端の雑魚と戦うのは事件に巻き込まれない体質が関わっていること。

 

 すなわち何がいいたいかと言うと。

 ミチルが雑魚ダークファイターと戦った場合、普通にファイトが発生することになるのだ。

 結果、ミチルが封殺戦術を取るのは、ダークファイターに属さない悪の親玉だけになる。

 

 果たして、雑魚と同じ扱いをされたまま討伐されるのと。

 雑魚と思われたまま討伐されるの。

 一体どちらが悪の親玉にとって不名誉か。

 どちらも同じ? まぁそれはそう。

 

「それにしても、不完全燃焼だなぁ。なんか強そうな雰囲気だったのに二回<ゴッド・デクラレイション>使っただけで何もできなくなっちゃうんだもん」

「強いヤツなら二回くらいは<ゴッド・デクラレイション>されても、乗り越えてほしいよな」

 

 まぁ、それができるファイターはこの世界にも数人しかいない。

 <スーパー・コネクト>使用のためにデッキが歪んでいた異世界の最強に、それが叶うはずもないのだ。

 もし仮に、”闇”が<スーパー・コネクト>に頼らず異世界最強ファイターの実力を十全に発揮していたら。

 

 ――まぁ、多分それでも封殺されて負けるんじゃないかなぁ。

 と、後にこの話を聞いておおよその状況を察したレンとエレアは頭を抱えながら思うのだった。




はい。
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