カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「ちょっと修行しようぜ、店長」
そんなことをネッカ少年がいい出したのは、俺とネッカ少年が二人で店にいるときのことだった。
もうすっかり夜は更けていて、店には俺達二人だけ。
今からそのネッカ少年も帰るところだから、今日はこれで店じまいだろう、と。
そんなことを思っていた時だった。
「修行? 例の山にある修行場か?」
「そうそう、前にクローと修行したんだろ? 確か、ヤトの姉ちゃんも一緒に」
「そんな事もあったなぁ」
最近は、エレアが勘を取り戻しつつ痩せるために修行をしていたあの場所だ。
あれからエレアは、なんか身体を鍛えるのにハマったのか、今はファイト仙人のところへ修行に行っている。
家にいるとミチルと俺の両親が早く結婚しろと突っついてくるからかもしれない。
いやいずれするんだけどさぁ、心の準備がさぁ!
「俺さ、ちょっと修行したい気分なんだよ。明日、時間あるかな」
「んー、店はメカシィに任せれば問題ないけど、あんまり長くは空けられないぞ」
今はエレアが店にいなくて、俺とメカシィで回しているからな。
蒸気世界支店は、ナギサと
ナギサがそろそろ別の世界に旅立ちたいと言っているから、別の店員を雇わないとなぁ。
もう一人の店員の伝を頼るか。
まぁ、そこら辺はさておいて。
「十分十分、ちょっと付き合ってもらうだけでいいんだよ!」
「そういうことなら解った」
「明日、学校が終わったら現地集合な!」
そう言って、ネッカ少年は去っていった。
放課後に現地……となると夕方ごろに向かえばいいか。
と、その時である。
「ふふーん、ネッカ兄ぃ悩んでますなぁ」
「うわぁミチル! 聞いてたのか?」
「そりゃバックにいますから。私耳いいんだよ? 母譲りなの」
なるほどな。
とはいえあまり盗み聞きは感心しないぞ。
なんて話をしつつ。
「ミチルは、ネッカの未来の姿も知ってるんだよな」
「まぁねえ、私にとっては身近で一番頼りになるお兄ちゃんで……憧れの一人だよ」
「将来のネッカは、それくらい立派になるか」
「もちろん!」
ネッカは凄いヤツだ、幼いながらもとてもしっかりしている。
当然、未来では立派な大人になっているはずだ。
未来が変わってしまうことを口に出せないミチルが、太鼓判を押せるくらいには。
「でも、今のネッカ兄ぃはまだまだ子どもの部分もあるよね」
「そりゃあな。……ネッカの悩みが想像できるのか?」
「うん、考えてみて? 最近、ネッカ兄ぃとは直接関係ないところで、ネッカ兄ぃの周りの人が大きく成長しなかった?」
「……まぁ」
「そんな人を見たら、普通の人はどう思うかな?」
そんなミチルの言葉に、俺は――蒸気世界でのヤトちゃんとハクさんの成長を思い出すのだった。
□□□□□
次の日、修行場でネッカと合流する。
ネッカは修行場で貸し出している道着に着替えていた。
腕にはイグニスボードがつけられている。
「――店長なら、もう俺の悩みなんて想像がついてると思うけどさ」
「……まぁな」
そんなネッカ少年の言葉に頷く。
正直、ミチルが俺に話しかけていなければ、俺はネッカ少年の悩みに見当がつかなかっただろう。
正確に言えば、見当をつけていなかっただろう。
普段の俺は受け身なのだ、問題が起きてから行動を起こせばいいと思っている。
今回、ミチルがそれを解っているだろうに俺へ声をかけたのは――
「ヤトの姉ちゃんとハクの姉ちゃん、すっげぇ成長したよな」
「あの二人にとって、人生に関わる大事件を乗り越えたからな」
「今のあの二人は、ダイアや店長とだって渡り合えるくらい強いと思うんだ」
――それは、いわゆる一つの壁というやつを二人が越えたことを意味する。
前にも話したが、俺の<ゴッド・デクラレイション>のような強力汎用カードは、使いこなすのにある程度以上の実力がいる。
それを使いこなすことが、トップファイターの最低条件なのだ。
ヤトちゃんとハクさんは、その壁を越えた。
そのことを、ネッカ少年は言っている。
「俺、そんな二人を見て思ったんだ」
「……」
ネッカ少年の言いたいことは、その表情を見ればすぐに分かる。
言葉以上に雄弁に、彼は語っていた。
「やっぱ、ふたりともすっげぇよな! 俺も、あんなふうに強くなりたいぜ!」
笑みを浮かべて、あこがれを抱いて。
ミチルは言う、「普通の人ならどう思うか」。
凄いとは思うだろう。
だが同時に、それをただ凄いだけで済ませる人間は、どれだけいるか。
クロー少年なら、きっとそこに複雑な感情を抱くはずだ。
その複雑な感情こそ、彼の強さなんだから。
でも、ネッカ少年は違う。
ただ純粋に憧れる。
その純粋さこそが、彼の本当の強さなんだから。
「俺さ、今のままでも誰にも負けるつもりないぜ。店長にだって、ダイアにだって、ヤトとハクの姉ちゃんにだって負けるつもりはねぇ」
「ネッカなら、そうだろうな」
「でも、それと同じくらい、俺はもっと強くなれると思うんだ!」
そこには希望があった。
ネッカ少年は、そうして滝へと向かっていく。
「正直、もっと強くなれるとは思う。でも、どう強くなればいいかは、よくわかんなかったんだよ」
「それは……悩むまでもなく、ネッカは常に強くなり続けてるからじゃないか?」
「そうかもな。クローとのファイトでも思ったけど、俺は一つ一つをコツコツと積み上げていくのが得意みたいだし」
以前、クローとのファイトでネッカとクローの違いは浮き彫りになった。
悩みに悩んで、それを解決することで一足とびに強くなるクロー。
一歩一歩、着実に積み上げることで強くなるネッカ。
だからこそ、ネッカは爆発的に強くなるクローを凄いと思ってるのだ。
「でも、強くなったヤトとハクの姉ちゃんを見て思った。俺も、あんなふうに一つの壁を越えたい」
「……ネッカは、ネッカのカードを手にするんだな」
「ああ。……今なら、行ける気がするんだよ」
そう言って、滝に向き合いながらネッカ少年はデッキに手をかける。
それはつまり――彼の、彼だけの汎用カードを手に入れるということだ。
わかる、俺にはわかる。
今のネッカなら、ネッカのカードをドローして見せるだろう。
けど、それは言葉に出さない。
出す必要がないからだ。
「……行くぜ」
そして、ネッカは――
「ドロー!」
手札一閃! 引き抜いたカードが、滝を真っ二つにした。
滝が、横一閃に裂けたのだ。
飛沫が辺りに散って、やがてもとに戻る。
そして、ネッカ少年の手には――
「……へへ」
カードを目にしたネッカ少年が、照れくさそうに笑みを浮かべる。
そして、俺にそのカードを見せた。
「これが、俺のカードみたいだ」
「……<ハード・タイフーン>」
そのエフェクトは、フィールドのカウンターエフェクトを全て破壊する効果。
いわゆる、大きい嵐を生み出すカード。
なんというかそれは――
「ネッカ少年は、色んな人を巻き込んで成長していくんだな」
「……かもな」
なんとも、ネッカらしいというか、なんというか。
「店長、もう少しだけ時間あるか?」
「はは、――ファイトだろ? 一戦くらいなら当然問題ないさ」
努めて冷静に、どこか興奮を隠しきれずにネッカ少年は問いかけてきた。
まぁ、当然だよな。
新しいカードを手に入れたら、誰だってそれを使ってファイトしたくなるもんだ。
「今日こそは、店長の<エクス・メタトロン>を倒して勝ってみせるぜ」
「ああそれは……悪い、今<メタトロン>は俺のデッキにないんだ」
「まじかよ! ……まぁいいや、でもそれを負けた理由にはしないでくれよな」
「勿論、なにせ俺が勝つからな」
――これからも、ネッカ少年は強くなっていく。
ミチルの知っている未来のネッカ少年は、果たしてどれくらい強いのだろう。
正直、今からもうすでに俺はワクワクしているんだ。
きっと、すごく強いファイターになっているだろうからな。
ああ、そう考えると。
俺も、ネッカと同じ穴のムジナってことだ。
なにせ俺も――他人の成長に、ワクワクしてしまうタイプなんだから。
さぁ、ネッカ、お前の今の強さを俺に見せてくれ!
「――イグニッション!」
それぞれの最終回編……