カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「……店長、少しいいかな」
真剣な顔で店にやってきた、クール少年のクローは開口一番そう言った。
なんか、随分前にもあったなこの感じ。
前回はえーと、「カードとの相性が何もしてないのに壊れた(要約)」だったかな。
懐かしい。
「どうしたんだ、クロー」
「実は……」
なんて、ほぼほぼ前回と同じやり取りでクローが切り出した悩みとは――
「カードが、どっかに行っちゃったんだ」
それはもはや、死活問題どころじゃない人生やってけないレベルの悩みだった。
カードとの相性が何もしてないのに壊れたなら、まぁやりようはある。
でもカードが何もしてないのになくなるのは、まずい。
「ええと、それはどっかで落としたとか……」
「そうじゃなくて……これ、見てもらっていいか?」
そう言ってクローが取り出したのは数枚のカード。
モンスターの名前とかエフェクトが何も描かれていない無地のカードだ。
ただし、イラストの部分に一文字だけ文字が描かれている。
それを並び替えるとこうだ。
『旅にでます、探さないでください』
ええと。
「朝起きたら、デッキケースが置いてあるはずの場所にこれがあって……」
「デッキケースがなくなっていた、と。……要するに、アレか?」
俺は、沈んだ顔のクロー少年を気遣いつつ、すっぱりと言う。
「……家出か」
たしか前回はカードの精霊がバカンスに行ってしまった結果、カード相性が極端に悪くなってしまったのが原因だったな。
今回はその反省を活かして、一応こうやって書き置きを残しているわけだが。
それにしたって、探さないでくださいはないだろ。
今回もこってりお説教が確定である。
「とりあえず、俺から言えることは一つ。『蒼穹』の連中は何かしら理由があってクローのところを離れたんだ」
「……そうだな」
「書き置きを残しているし、嫌われたわけじゃない。それは間違いないから、安心してくれ」
カードからは、クローのことを思って彼らが行動しているというのが伝わってくる。
加えて言えばこんな手間のかかる方法で、書き置きを残す時間があったのだ。
なにかよくない要因で、クローと離れ離れになってしまったわけでもない。
ようするに――
「そのうち帰ってくる。それは保証する」
「だよ、な」
「……俺が言っても、まだ心配か?」
その言葉に、クロー少年は黙りこくる。
何かを言おうとして、ためらって。
そんな彼の言葉を、俺はただ黙って待った。
「…………俺って、さ」
ふと、そんな風にクローは切り出す。
「ネッカと出会って、それまで俺を縛ってきたものを……捨ててきてるんだよ」
「それは、悪いことじゃないだろう?」
「そうだけど……でも、縛ってきたものを捨てたときに残ってたものって……本当に少ないんだ」
父親に半ば操られる形だったクローは、その呪縛を捨て去ってこの街にやってきた。
そんな彼に残されたものは、ネッカとの友情と――それから『蒼穹』のモンスターくらいだったんだろう。
周囲の環境は劇的に改善されて、クローはのびのびと生活しているけれど。
寂しくなる時も、あるということだ。
「だからこそ、残ったつながりである『蒼穹』は大事にしたいわけだ」
「……うん」
「――それは、もしかしたらクローだけじゃないんじゃないか?」
俺の言葉に、え? とクローが顔を上げる。
そんなクローを安心させるように笑みを浮かべて、俺は指摘した。
「きっと『蒼穹』にとっても、クローは同じくらい大切な存在だと思うんだよ」
「……そうかな」
「そうさ。でなきゃ、クローが父親の元を離れても一緒にいたりはしないだろ」
『蒼穹』は、聞いたところによればクローの父親がクローに与えたデッキだという。
だから本来の『蒼穹』は、クローの父親が目的を果たすための手段でしかなかった。
それなのに今もクローが『蒼穹』を使っているのは色々な理由があるだろうが、『蒼穹』もまたクローを大事に思っているから、というのも一因だ。
「じゃあ……どうしてあいつらは家出なんてしたんだ?」
「それは……最近のクローに、何か悩みがあるからじゃないかな」
それも、クローにとって最も大事な存在である自分たちが、動かなければならないと思う悩み。
ヒントは、さっきのクローの発言にある。
クローにとって、父親の元を離れた後に残った過去のつながりは『蒼穹』と――
「――ネッカが、<ハード・タイフーン>を手に入れてクローは悩んでただろ」
「……!!」
――ネッカとの友情だ。
だからその言葉に、クローが目を見開く。
うん、クローはうまく隠しているつもりだろうが、俺からしてみればバレバレだ。
無論、ネッカもな。
ただ、このことにネッカは口を出すべきではないと考えている。
当然だ、自分が先に前へ進んだのが原因なのだから。
そしておそらく、ネッカが俺にあの光景を見せたのは――俺にクローのことを頼みたかったからではないだろうか。
「だから多分、『蒼穹』モンスターが何をしたかったのかは――」
そこで、俺が答えを口にしようとした時――
「たっだいまー、パパー、お届け物だよー」
ミチルが、帰ってきた。
何故かサンタのコスプレをしている。
まぁ、白い袋の中身はなんとなく想像がつくが。
「お帰りミチル、お届け物って?」
「わかってるくせにー……はい、クロー兄ぃ!」
そう言って、ミチルは袋の中からデッキケースを取り出した。
間違いない、クローのものだ。
「俺のデッキケース……ミチルが探してきてくれたのか?」
「探してきたというか、サンタのコスプレをして遊んでたら勝手に入ってたっていうか」
「……そういうところは母親そっくりだな」
「パパ、人をギャグキャラみたいにいってる!?」
まぁはい。
ともあれ、これで無事にクローの元へ『蒼穹』が帰ってきたわけだ。
説教は……また今度だな。
「そうだクロー兄ぃ、中開けてみてよ」
「お、おう……えっと――これって」
デッキケースを開けたクローが、デッキの一番上のカードをみて目を見開く。
言うまでもなく、『蒼穹』はそれを見つけてきたのだ。
「……<黒点>、フィールドのモンスターを全て破壊するカードだ」
ネッカの汎用カードと、対を成す汎用カードだ。
まさに、クローに相応しいカードと言えるだろう。
「――クロー、せっかくデッキが強化されたんだ。ファイト、してみないか?」
「…………うん。なぁミチル、ネッカに会ってないか?」
「ふふーん、会ったよ。学校で待ってるって言ってた」
自慢げなミチルの返事に、クローは礼を言って入口の方へ向かう。
「――店長! ありがとな!」
「ああ、ネッカとのファイト……頑張れよ!」
「おう! ……ま、勝つのは俺だけどな」
ちょっとニヒルに笑みを浮かべて、クローは店を出ていった。
どうやら、いつものクローに戻ったみたいだな。
「――パパは、どっちが勝つと思う?」
「お互いに強力なカードを手に入れた最初のファイトだからな、運命力は互角ってところか」
正直、どっちが勝ってもおかしくはない。
前にクローとネッカが全力でファイトした時は、ネッカが勝った。
加えてネッカが先に俺と一回ファイトして勝利している時点で、若干クローが有利かもしれない。
でも、あえて言うなら――
「……引き分け、かな」
「パパもそう思う?」
まぁ、今回ばかりは、二人とも一つの壁を越えたのだ。
全く同じ位置にいる、と考えてもいいだろう。
ただ――
「きっとそうやって、二人は未来でも強くなっていくんだろ?」
「もっちろん。ふたりともまだまだ強くなってくよ」
「そりゃ……楽しみだな」
きっと、未来でも多くの事件が彼らの前に立ちはだかるのだろう。
その度に喧嘩して、仲直りして。
時には共闘して、時には対決して。
ネッカとクローは進んでいくのだ。
俺はそれが、今から楽しみで楽しみで仕方がないのである。