カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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303 カードが何もしてないのに家出した。

「……店長、少しいいかな」

 

 真剣な顔で店にやってきた、クール少年のクローは開口一番そう言った。

 なんか、随分前にもあったなこの感じ。

 前回はえーと、「カードとの相性が何もしてないのに壊れた(要約)」だったかな。

 懐かしい。

 

「どうしたんだ、クロー」

「実は……」

 

 なんて、ほぼほぼ前回と同じやり取りでクローが切り出した悩みとは――

 

「カードが、どっかに行っちゃったんだ」

 

 それはもはや、死活問題どころじゃない人生やってけないレベルの悩みだった。

 カードとの相性が何もしてないのに壊れたなら、まぁやりようはある。

 でもカードが何もしてないのになくなるのは、まずい。

 

「ええと、それはどっかで落としたとか……」

「そうじゃなくて……これ、見てもらっていいか?」

 

 そう言ってクローが取り出したのは数枚のカード。

 モンスターの名前とかエフェクトが何も描かれていない無地のカードだ。

 ただし、イラストの部分に一文字だけ文字が描かれている。

 それを並び替えるとこうだ。

 

『旅にでます、探さないでください』

 

 ええと。

 

「朝起きたら、デッキケースが置いてあるはずの場所にこれがあって……」

「デッキケースがなくなっていた、と。……要するに、アレか?」

 

 俺は、沈んだ顔のクロー少年を気遣いつつ、すっぱりと言う。

 

「……家出か」

 

 たしか前回はカードの精霊がバカンスに行ってしまった結果、カード相性が極端に悪くなってしまったのが原因だったな。

 今回はその反省を活かして、一応こうやって書き置きを残しているわけだが。

 それにしたって、探さないでくださいはないだろ。

 今回もこってりお説教が確定である。

 

「とりあえず、俺から言えることは一つ。『蒼穹』の連中は何かしら理由があってクローのところを離れたんだ」

「……そうだな」

「書き置きを残しているし、嫌われたわけじゃない。それは間違いないから、安心してくれ」

 

 カードからは、クローのことを思って彼らが行動しているというのが伝わってくる。

 加えて言えばこんな手間のかかる方法で、書き置きを残す時間があったのだ。

 なにかよくない要因で、クローと離れ離れになってしまったわけでもない。

 ようするに――

 

「そのうち帰ってくる。それは保証する」

「だよ、な」

「……俺が言っても、まだ心配か?」

 

 その言葉に、クロー少年は黙りこくる。

 何かを言おうとして、ためらって。

 そんな彼の言葉を、俺はただ黙って待った。

 

「…………俺って、さ」

 

 ふと、そんな風にクローは切り出す。

 

「ネッカと出会って、それまで俺を縛ってきたものを……捨ててきてるんだよ」

「それは、悪いことじゃないだろう?」

「そうだけど……でも、縛ってきたものを捨てたときに残ってたものって……本当に少ないんだ」

 

 父親に半ば操られる形だったクローは、その呪縛を捨て去ってこの街にやってきた。

 そんな彼に残されたものは、ネッカとの友情と――それから『蒼穹』のモンスターくらいだったんだろう。

 周囲の環境は劇的に改善されて、クローはのびのびと生活しているけれど。

 寂しくなる時も、あるということだ。

 

「だからこそ、残ったつながりである『蒼穹』は大事にしたいわけだ」

「……うん」

「――それは、もしかしたらクローだけじゃないんじゃないか?」

 

 俺の言葉に、え? とクローが顔を上げる。

 そんなクローを安心させるように笑みを浮かべて、俺は指摘した。

 

「きっと『蒼穹』にとっても、クローは同じくらい大切な存在だと思うんだよ」

「……そうかな」

「そうさ。でなきゃ、クローが父親の元を離れても一緒にいたりはしないだろ」

 

 『蒼穹』は、聞いたところによればクローの父親がクローに与えたデッキだという。

 だから本来の『蒼穹』は、クローの父親が目的を果たすための手段でしかなかった。

 それなのに今もクローが『蒼穹』を使っているのは色々な理由があるだろうが、『蒼穹』もまたクローを大事に思っているから、というのも一因だ。

 

「じゃあ……どうしてあいつらは家出なんてしたんだ?」

「それは……最近のクローに、何か悩みがあるからじゃないかな」

 

 それも、クローにとって最も大事な存在である自分たちが、動かなければならないと思う悩み。

 ヒントは、さっきのクローの発言にある。

 クローにとって、父親の元を離れた後に残った過去のつながりは『蒼穹』と――

 

「――ネッカが、<ハード・タイフーン>を手に入れてクローは悩んでただろ」

「……!!」

 

 ――ネッカとの友情だ。

 だからその言葉に、クローが目を見開く。

 うん、クローはうまく隠しているつもりだろうが、俺からしてみればバレバレだ。

 無論、ネッカもな。

 ただ、このことにネッカは口を出すべきではないと考えている。

 当然だ、自分が先に前へ進んだのが原因なのだから。

 そしておそらく、ネッカが俺にあの光景を見せたのは――俺にクローのことを頼みたかったからではないだろうか。

 

「だから多分、『蒼穹』モンスターが何をしたかったのかは――」

 

 そこで、俺が答えを口にしようとした時――

 

 

「たっだいまー、パパー、お届け物だよー」

 

 

 ミチルが、帰ってきた。

 何故かサンタのコスプレをしている。

 まぁ、白い袋の中身はなんとなく想像がつくが。

 

「お帰りミチル、お届け物って?」

「わかってるくせにー……はい、クロー兄ぃ!」

 

 そう言って、ミチルは袋の中からデッキケースを取り出した。

 間違いない、クローのものだ。

 

「俺のデッキケース……ミチルが探してきてくれたのか?」

「探してきたというか、サンタのコスプレをして遊んでたら勝手に入ってたっていうか」

「……そういうところは母親そっくりだな」

「パパ、人をギャグキャラみたいにいってる!?」

 

 まぁはい。

 ともあれ、これで無事にクローの元へ『蒼穹』が帰ってきたわけだ。

 説教は……また今度だな。

 

「そうだクロー兄ぃ、中開けてみてよ」

「お、おう……えっと――これって」

 

 デッキケースを開けたクローが、デッキの一番上のカードをみて目を見開く。

 言うまでもなく、『蒼穹』はそれを見つけてきたのだ。

 

「……<黒点>、フィールドのモンスターを全て破壊するカードだ」

 

 ネッカの汎用カードと、対を成す汎用カードだ。

 まさに、クローに相応しいカードと言えるだろう。

 

「――クロー、せっかくデッキが強化されたんだ。ファイト、してみないか?」

「…………うん。なぁミチル、ネッカに会ってないか?」

「ふふーん、会ったよ。学校で待ってるって言ってた」

 

 自慢げなミチルの返事に、クローは礼を言って入口の方へ向かう。

 

「――店長! ありがとな!」

「ああ、ネッカとのファイト……頑張れよ!」

「おう! ……ま、勝つのは俺だけどな」

 

 ちょっとニヒルに笑みを浮かべて、クローは店を出ていった。

 どうやら、いつものクローに戻ったみたいだな。

 

「――パパは、どっちが勝つと思う?」

「お互いに強力なカードを手に入れた最初のファイトだからな、運命力は互角ってところか」

 

 正直、どっちが勝ってもおかしくはない。

 前にクローとネッカが全力でファイトした時は、ネッカが勝った。

 加えてネッカが先に俺と一回ファイトして勝利している時点で、若干クローが有利かもしれない。

 でも、あえて言うなら――

 

「……引き分け、かな」

「パパもそう思う?」

 

 まぁ、今回ばかりは、二人とも一つの壁を越えたのだ。

 全く同じ位置にいる、と考えてもいいだろう。

 ただ――

 

「きっとそうやって、二人は未来でも強くなっていくんだろ?」

「もっちろん。ふたりともまだまだ強くなってくよ」

「そりゃ……楽しみだな」

 

 きっと、未来でも多くの事件が彼らの前に立ちはだかるのだろう。

 その度に喧嘩して、仲直りして。

 時には共闘して、時には対決して。

 ネッカとクローは進んでいくのだ。

 俺はそれが、今から楽しみで楽しみで仕方がないのである。

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