カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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304 レンさんは甘えない

 その日、珍しいお客さんが店にやってきた。

 

「お久しぶりね、店長!」

「――ルインさん、お久しぶり。今日はどうしてここに?」

 

 ルインさん。

 レンさんの母親で、自由人。

 心に中二を飼っている以外は至って真面目なレンさんとは、結構正反対な性格だ。

 そこら辺は、父親であるキヨシさんの影響が強いのだろうが。

 

「レンは、今日ここに来てない? 会いに来たんだけど、見つからないのよ」

「さっき来たな」

「ってことは、入れ替わりになっちゃったかぁ」

 

 店内を見渡して、レンさんが見つからないのを確認してから一つため息を吐くルインさん。

 俺は嘘は言っていない。

 

「レンさんに、何か用なんですか?」

「ああうん、その前にちょっといいかしら」

「何でしょう」

 

 ルインさんの態度は、一言でいうと「真面目な本題に入る前に、別の軽い用事を済ませておきたい」って感じだ。

 とすれば、自ずと言いたいことは想像はつく。

 だけどまぁ、話の流れなので聞いておく。

 

「――サ、サササ、サインをいただいても?」

「はい」

 

 絢爛世界で出会って以来、俺とルインさんは顔を合わせていない。

 ルインさんは絢爛世界での後始末とか、こっちの世界でのあいさつ回りとかでいそがしかったからな。

 来る機会がなかったのだ。

 ようやく、諸々が落ち着いたということだろう。

 

「三つ分お願い。私とキヨシと、後レンの分ね」

「レンさんのはいらないんじゃないかなぁ……」

 

 キヨシさんはまぁ、ルインさんが渡してくれたものなら受け取るだろうけど。

 普段会わないキヨシさんはともかく、レンさんが俺のサインを喜ぶとは思えないぞ。

 

「誰か一人だけ貰ったら、ずるいじゃない」

「まぁ、そういうことなら」

 

 まぁこれが、ルインさんとファイトする権利とかで、俺とダイアとミチルの誰か一人だけがそれをもらえるとなったら、ずるいと思うだろう。

 エレアはあんまりそういうの興味ないから、さておくとして。

 

「じゃあ、これで」

「ありがとねぇ、いやぁ光栄だわ」

 

 そう言って、ルインさんが用意した色紙に俺がサインすると、受け取ったルインさんは大事そうにケースへしまった。

 こう、デッキとかイグニスボードが一式入ってそうなケースだ。

 海馬くんが持ってるやつ。

 

「さて、と。それじゃあ本題なんだけど。……店長はなんとなく察してるかもしれないけど」

「レンさんのことですよね? まぁ、なんとなくわかりますけど」

 

 レンさんのことで、母親であるルインさんが言いたいことなんて、一つしかないだろう。

 

「あの娘ね、もーすこし気楽に生きてもいいんじゃないか、って思うの私」

 

 でしょうねぇ。

 レンさんはとにかく真面目だ、ファイト喫茶を経営したり闇札機関の盟主だったり。

 働き過ぎじゃないかってくらい、働いている。

 本人からしてみれば、できるからやっているという話なのだろうけれど。

 周りからしてみれば無茶をしているのではないかと、見えてしまうのも当然だ。

 

「でも、レンさんはスケジュール管理も完璧ですよ。休むべき時は休んでますし、睡眠だってきっちり八時間取ってます」

「だからこそよ。そんなスケジュールが一分単位で決まってる生活、子どものすること?」

 

 言っていることは、尤もだ。

 とはいえなんというか、あまりにも尤も過ぎてルインさん――破天荒と言われる自由人の言うことではないだろうって気はするが。

 まぁ、話が終わっていないのだから突っ込む必要もないだろう。

 

「子どものすることではないが、レンさんは大人になりたい性分だからな」

「そしてそれをやり遂げられるだけのスキルも、すでに持っているのよね」

「子どもっぽい部分も、まだ多分にあるけどな……あいだっ」

 

 こら、スネを蹴るんじゃありません!

 ちらりとカウンターの下に視線を向けつつ、俺は続ける。

 

「でも、そういう部分を加味してもレンは大人よ。多分、同年代でレンより大人な子っていないんじゃないかしら」

「ですね……いや、あー……」

「どうしたの?」

「いえ、なんでもないです。話がややこしくなるだけなので流してください」

 

 レンさんは、大人顔負けの子どもだ。

 ほとんど大人と言っても過言ではない。

 でも、精神面ではまだまだ未熟な部分も多い。

 大人ならちょっと子どもっぽいと言われただけで、スネに八つ当たりしたりしないぞ。

 

 なのでさっきのごまかしは、レンさんとは別方面でネッカ少年って大人だよなー、と思ってしまっただけだ。

 彼は様々な経験によって、精神的に成熟しすぎてしまった。

 とはいえそれは、そうそう変なことでは動じないという耐久面での話。

 変なことで動揺しやすいレンさんとは、対極的な成熟と言えるだろう。

 何か、「誰のせいだ誰の」という視線が下から飛んでくるが、そこら辺は気にしない。

 

「そうするとねー、考えちゃうわけなのよ。親として子どもにできることってなんだろう……って」

「ルインさんは、ここ数年親としてレンさんのことを見てあげられてませんでしたからね」

「うっ、仕方ないでしょう。あのタイミングで金銀夫妻を助けに行けるのは私だけだったんだから」

 

 それに、私がいなくてもキヨシはレンの親として必要なことをしてくれるわよ、と唇を尖らせるルインさん。

 やれやれという雰囲気漂うカウンター下の某レンさんと比べると、どっちが大人かわからないな。

 

「……親としてするべきことがないのなら、親として以外の視点でレンさんを見ればいいんじゃないですか?」

「ふむ、っていうと?」

「確かに、レンさんに親として()()()()()()はないかもしれません。でも、()()()()()()()()なら、いっぱいあるんじゃないですか?」

「――そうね」

 

 単純な話、ルインさんは親としてはまぁ……そこそこ問題がある方だとは思う。

 子どもを放って異世界へ行ってしまうのだから。

 それがルインさんにしかできないことだったとしても、だ。

 だからこそ、レンさんは親がいなくても一人で頑張れるくらい大人になったわけだし。

 そんな大人になったレンさんへ、ルインさんがするべきことはなかったとしても。

 ルインさんがレンさんへしてあげたいことなら、山程あるはずなのだ。

 そして、それこそが――

 

 

「レン、次のお休みに、私とキヨシと三人で……どこかへ遊びに行かない?」

 

 

 多分、レンさんにとっても、してほしいことなのだ。

 

「……やれやれ、やはりバレていたか」

「入った時から、何となくね。店長はちゃんと誤魔化してるけど、そっちでことの成り行きを見守ってた子たちが全然誤魔化せてないわ」

 

 そう言って、ルインさんはテーブルの方で俺達の会話を聞いていたネッカとクローを指差す。

 やばいと慌てて視線をそらすクロー少年に、やれやれと苦笑して頭の後ろで腕組みをするネッカ少年。

 クール少年は果たしてどっちなのか、と思ってしまう光景だ。

 

「全く、子どもに聞かせる会話ではないと思わないか?」

「私の娘がレンじゃなければ、そうかもね」

「それで、遊びに行くのだったな。予定を調整するから少し待っているのだ!」

「私がむしろ暇なのに、子どもが予定調整必要って、やっぱりおかしいわよねぇ」

 

 なんて、ちょっと変わった親子の会話を繰り広げるレンさんとルインさん。

 

「それでレン、一つだけ聞いてもいい?」

「――む、なんだ?」

 

 二つのタブレットを同時にシュバババと操作しているレンさんに、ルインさんは問いかける。

 

 

「レンは、どういう大人になりたい?」

 

 

 その言葉に、レンさんは少しだけ手が止まった。

 そして止まった手を、再び動かし始めつつ、ぽつりと。

 

「……遊びに行く日までに、考えておく」

 

 と、返すのだった。

 

 ――え? 何だミチル。

 俺達も家族で遊びに行きたい?

 いやいいけど、修行に行ってるエレアが帰ってこれるかなぁ。

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