カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「ぐえー!」
キリアさんは敗北した。
いや、めちゃくちゃいいところまでは行ったのだけど、本人申告でぐえーした。
具体的にはライフを50まで削りきった。
削られたライフが100までだと、名勝負かどうかはまだわからないけど。
ライフが50だと基本名勝負しかないよな、みたいな。
覇王とジムの決闘が嫌いな決闘者はいない。
何にせよ、激闘を繰り広げたキリアさんとダイアには惜しみない拍手が送られた。
「うわぁ、キリちゃんも成長したねぇ。全盛期のダイアにあと一歩だなんて」
「全盛期? ダイアが衰えるとも思えんが」
「強さは衰えてないよ? むしろ強くなってる。でもファイターとしての勢いっていうか……熱気? はいまが最盛期なんだよねぇ」
どうも、ダイアはしばらくするとファイターとして落ち着いた感じになるらしい。
俺に近くなるのだとか。
要するに指導者としての側面が、強くなっていくんだな。
「元々ダイアって、一発勝負で勝つよりは安定して強いってタイプじゃん?」
「一発勝負は、まぁ俺のほうが強いな」
「言い切るねぇ。それで、未来のダイアはもっとこう、安定して強いの。勝てるのはそれこそパパくらい。そのかわりに、すっごく大事なファイトでの勝率が低くなっちゃったんだ」
なるほど、それは確かに俺に近い。
販促に極端に弱いのが俺の弱点なわけだけど。
ダイアの場合は、成長しきった主人公とのファイトに極端に弱くなるわけだ。
なんとなく、わかる気がする。
「だからこそ、今回みたいなファイトでダイアが勝ってるのは、ある意味全盛期って感じがするね」
「そこに肉薄したキリアさんも、凄いってことだな」
「もっちろん! うー、私も全盛期ダイアと戦ってみたい!」
ファイターのサガというかなんというか。
強者を前にしたら、勝負を挑みたくなるのが常。
ミチルもそんな感じなのだろう。
気持ちはとても良くわかる。
「――ありがとう、キリア。君とこうしてファイトできたこと、私は光栄に思うよ。未来の私にもよろしく伝えてくれ」
「は、はい! お父さん!」
舞台では、ダイアとキリアさんががっしりと固い握手を交わしている。
これまでダイアはキリアさんと凄くいい感じにニアミスしていた。
ダイアが娘の事を把握しているのか、正直疑問だったのだけど。
もしかしたら、案外早い段階で知っていたのかもしれない。
「多分、真っ先に気付いたんじゃない? パパは巻き込まれない体質だから、二人が話をする現場にいなかっただけで」
「かもしれないな」
よくよく考えれば、キリアさんの物語を俺は全く把握していない。
マジカルファイターセカンドシーズン、もといネオデビラスとの戦いも、小耳に挟む程度だ。
まぁ隣町の事件だしな、そうそう知るよしもないのは当然か。
「――では、ダイア様! まっっっっっことありがとうございましたわ!」
「ああ、皆もパーティを楽しんでくれ! それではな!」
かくして、ダイアが舞台から退場する。
それからも、色々とイベントは発生した。
デビラスとネオデビラスがタッグを組んで襲撃してきたり。
アウローラさんがアロマさんに告白(誤解)をしたり。
まぁ、色々と。
やがてパーティは終わりに近づき、アロマさんがお客さんに向かって語りだす。
「思えば、わたくし達は全員が全く違う場所、時間、世界で育ちましたわ。キリアちゃんは言うまでもなく、アウちゃんも異世界の住人ですの」
言われてみれば、それはそうだ。
未来人のキリアさんは言うまでもなく、アウローラさんも異世界の出身だったな。
マジカルファイターに覚醒したアロマさんの前に現れた、もうひとりのマジカルファイター。
それが最初のアロマさんとアウローラさんの関係だった。
使命を全うするために、覚悟もなくデビラスとの戦いに身を投じるアロマさんをアウローラさんが遠ざけようとしたり。
そんなアウローラさんと友達になりたいと、アロマさんが努力したり。
色々なことがあった。
俺はそれを、少し遠いところから見守っていたのだ。
「それに性格だって、全員違います。それぞれに良いところがあって、それぞれに改善すべきところもありますわ」
わたくし、もう少し落ち着きを持ちなさいと周りによく言われるのです。
そんなアロマさんの言葉で、会場に笑いの花が咲く。
なんとも和やかな雰囲気だ。
「それでもわたくしたちはこうやって、マジカルファイターとしてこの場に集まり、ともに戦い、かけがえのない親友になりましたわ」
三人の視線が、それぞれに向けられる。
「――それって、凄く素敵な事だと思うんですの」
だからこそ、とアロマさんは続ける。
「だからこそ、この友情はきっと、時間が、世界が、何もかもが隔たれていたとしても、これからもずっと続いていきますわ! わたくしはそのことが……嬉しくてたまりませんの!」
きっと、これからもアロマさんは多くの事件に直面し、多くの課題を乗り越えていくだろう。
アウローラさんや、キリアさんだって。
「だから、だからわたくしは――!」
そうして、アロマさんは何かを言おうとして。
それを、引っ込めた。
一瞬だけ間をおいてから、改めて宣言する。
「わたくしは、お二人に会えて、本当によかったとおもいますわ――!」
――ああ。
それは、きっと心の底からの本音だろう。
誰もがそれを疑うことはしない。
でも、感じている人もいるはずだ。
その本音とは別の、もう一つ。
心の底に抱えたままの本音が、存在していることを。
ならば――
それを引き出すのが、俺の最後の役目かもしれないな。
□□□□□
パーティは終わり、俺は一人夜闇の中“彼女”を待っていた。
ミチルは先に帰ってもらっている。
俺が「やるべきことがあるから」といったら、察してくれたみたいだ。
やがて、待ち人来たれり。
一人の少女が、俺の前を通りかかる。
「――お疲れ様、アロマさん」
一瞬、驚いた様子でアロマさんがこっちを見た。
それから、胸をなでおろして一つ息を吐く。
「し、師匠店長様。どうしましたの?」
「驚かせてごめん。改めて、アロマさんに一言言っておくべきかなと思って」
「それは……ありがとうございますわ。でも、一体……?」
なんだろう、とアロマさんが首を傾げる。
俺は努めて笑顔を浮かべて――
「まずは、ここまでよく頑張ったね。アロマさんは、初めて会った時と比べて見違えるくらい成長した」
「……光栄ですわ、師匠店長様にそう言っていただけるなんて」
「今日のマイクパフォーマンスは見事だったよ、今すぐにでもエンタメファイターとしてやっていけると思う」
アロマさんの将来目標は、プロのエンタメファイターだ。
その目標のために、今は努力の毎日。
きっと、その夢をアロマさんは叶えるだろう。
同時に――
「そしてアウローラさんも、きっと凄いエージェントになるだろうね」
「……そう、ですわね」
――アウローラさんも、自分の夢のために頑張っている。
そして二人の夢は、同じではない。
「キリアさんも、未来でどんなファイターになるか、今から楽しみだ」
「…………ええ」
何よりキリアさんとアロマさんは、同じ道を歩いていない。
三人の道は、交わらない。
友情という繋がりによって、寄り添うことはできても。
きっと、未来永劫。
三人が同じ目標に向かって歩み続ける時間は、もう存在しない。
だったら――
「だったら、その寂しいって気持ちを押し隠すのは、悪くはないけど、良くもないと俺は思う」
きっとそれは、アロマさんに限らず。
アウローラさんだって、キリアさんだって同じだろう。
こうしてパーティとして、めでたい形でキリアさんを送り出そうとしたのは、その寂しさを押し隠すためだ。
誰もが、心の底に喜びとは別の本音を抱えて。
それを口に出せずにいる。
なんというか、それは――
「……もったいないと、俺は思うんだ」
「…………もったいない、ですの?」
「ああ、せっかくの友情なんだ。ちょっとくらいわがままを言っても、それが崩れるわけじゃないだろ?」
その言葉に、アロマさんは――
「……もう、師匠店長様って本当に人を導くのが、得意なんですのね」
――涙を流し、笑みを浮かべた。
「――――行って来い、アロマ・ユースティア。後悔なんて、何一つ残らないくらい、全部を友情にぶつけてくるんだ」
「…………」
そして、
「はいっ!」
力強くうなずいたアロマさんは、踵を返し。
最後の舞台へと、戻っていく。
店長が出張るのはここまでなので、このお話はここでおしまいです。