カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ヤトちゃんは、ゴールドさんとシルバーさんという二人の夫婦によって異世界で誕生した存在だ。
その存在は少し特殊だ。
まず何より、カードのモンスターである。
人は時に想いからカードを生み出すことがあるが、それによってカードから人が誕生する例というのは結構特殊だ。
なにせ、カードのモンスターがそのまま生きている世界――エレアの帝国世界や、それこそヤトちゃんが生まれた絢爛世界と蒸気世界――でも、カードからモンスターを生み出すことは少ない。
普通に人の営みの中で生まれ育った人間が、カードになることもできるのがそういった世界だ。
だが、ヤトちゃんの誕生経緯は間違いなく人間のそれと変わらない。
ヤトちゃんを産んだのは間違いなくゴールドさんとシルバーさんの夫婦であるし、ヤトちゃんにも二人の“魂”が受け継がれている。
そう考えると、間違いなくヤトちゃんは二人の子どもだ。
厄介なのはむしろ、血がつながっていないことではなく、誕生の経緯をヤトちゃんが覚えていないことだろう。
結局蒸気世界での戦いを終えても、ヤトちゃんの記憶が戻ることはなかった。
今のヤトちゃんは記憶を失い、こちらの世界にやってきたことで新たに生まれたような存在だ。
だからこそ、ゴールドさんとシルバーさんに対する、親子だという実感がない。
それでも、いやだからこそ、か。
ヤトちゃんは二人を両親だと考えている。
でなければ――
「ううう……なんか緊張するわね」
「気にすることはないさ。何もこれは、今生の別れじゃない。むしろ再会なんだから」
「だからこそ、な気もするけど……」
二人との“再会”にこんな緊張したりはしない。
蒸気世界での事件が終わって、ゴールドさんとシルバーさんは帰ってきた。
しかし、行方不明になった二人が見つかったことで、めでたしめでたし。
万事すべてが解決……というわけにはいかないのが難しいところ。
なにせ、絢爛世界は未だ混乱の中にある。
いつの間にか事件が起きて、いつの間にか解決していた蒸気世界はともかく。
絢爛世界は一度滅んでいるのだ。
その状況から、事態が落ち着くまでには相応の時間がかかる。
そしてゴールドさんとシルバーさんは、ヒーロー。
ちょっとスーツがぴっちりしている以外は、本物の正義の味方なのだ。
そんな状況を放ってはおけず、二人は絢爛世界での後始末に追われていた。
その後始末が、おおよそ片付いたのが、丁度このタイミングというわけである。
「……まぁ、こっちとしても蒸気世界のことで色々ドタバタしてたし、タイミング的には丁度よかったわね」
「ヤトちゃんもお疲れ様」
「店長だって、未来からやってきたミチルのことで色々あるんでしょ?」
「俺はまぁ……そこまで深刻な感じでもないしな」
というか、むしろだいぶゆるい感じだ。
ダイアが異世界に迷い込むまでに結婚式を済ませる、なんてミッションもあるけれど。
終焉の問いに対して答えを出す、なんて宿題もあるけど。
慌ただしくするようなものではない。
「むしろ今は、なんというか……店の常連が一息つくタイミングって感じだな」
「私が、両親とこっちで初めて顔を合わせるみたいに?」
「まあな」
ネッカとクローは、汎用カードを手に入れて。
レンさんは母親と再会し。
アロマさんはキリアさんとのお別れを済ませた。
そんな中で、ヤトちゃんも両親と顔を合わせるタイミングが来たのだ。
無論、ハクさんも。
「姉さんは、随分落ち着いてるけどね」
「向こうでも顔は合わせたし、知らない仲でもないしな。レンさんが母親と再会した時も似たようなもんだったし」
対してヤトちゃんは、どうしても緊張してしまう。
再会ではないのだ、ヤトちゃんの場合。
緊張するのも無理はない。
と、その時である。
蒸気世界とこちらの世界を繋ぐ扉が――開いた。
「来た!」
「ああ」
俺達が言葉を交わし、次の瞬間。
一筋の閃光が、扉から飛び出してくる。
閃光は、そのままファイトが行われていなかったイグニッションフィールドに着地!
二人のヒーローが、姿を現す!
「はーっはっはっはっはっは!」
「おーっほっほっほっほっほ!」
その声は――!
「我が名はマスク・オブ・ゴールド! 正義のヒーローにして、ハクとヤトの父親だ!」
「アタクシの名はマスク・オブ・シルバー! 正義のヒーローにして、久方ぶりにこの世界に帰還した存在よ!」
おお、すごい……!
なんというか、店内の空気を一瞬でヒーロー一色に染め上げてしまった。
雰囲気が凄いのだ。
ネッカ少年が目を輝かせている。
「マスク・オブ・ヒーロー! 久しぶりに見た!」
マスク・オブ・ヒーロー。
ゴールドさんとシルバーさんを、合わせてそう呼ぶらしい。
二人は昔から、天火市で活動するヒーローだ。
天火市出身のネッカ少年には、馴染み深い存在だろう。
それを言ったら俺も天火市出身なんだが……考えてみると、中学から寮暮らしで街の外にいたのでゴールドさんたちとはつながりが薄い。
というか、俺が中学に進学してから二人は活動を始めてるんだよな。
絶妙にすれ違っている。
「ええと……」
「ヤト! あいたかったよ!」
「ヤト! あいたかったわ!」
「……父さん、母さん?」
恐る恐る、といった様子で。
ヤトちゃんは近づきながら、二人に呼びかける。
それに対して、二人は――
「……ああ、父さんだよ」
「呼んでくれてありがとうね、ヤト」
至極、落ち着いた声音で答えた。
少し意外そうに、ヤトちゃんが目を見開く。
俺もちょっと驚いた、あのテンションのまま話を進めるものかと。
「ははは……絢爛世界であった時も、ヤトは落ち着いた子だっていうのは解っていたしね」
「昔のハクを思い出すわ。ハクも、私達がいなくなる前は真面目で落ち着いた子だったのだけど」
「ちょっと、お父さん、お母さん」
ヤトちゃんの様子を見守っていたハクさんが、困った様子で声をかけた。
さっきから、落ち着かない様子でテーブルに座って、ヤトちゃんと扉を見ていたんだよな。
「なんというか……不思議な感じね。眼の前の二人は、ほとんど初対面のハズなのに。両親だって言われて、凄くしっくり来るの」
「……魂が繋がっているからな。血の繋がりよりもそれは、ある意味強固かもしれない」
俺の言葉にそうね、と頷いて改めてヤトちゃんはゴールドさんとシルバーさんに向かい合う。
感動の再会、というにはお互いの間には思い出が足りない。
でも、だからといってギクシャクするほどヤトちゃん達のつながりは薄くない。
「ヤトとハクは、こっちでの生活はどんな感じなんだい?」
「充実……はしていると思うわ」
「私は、毎日が楽しいですよ、お父さん、お母さん。闇札機関も、月兎仮面も。それに、この前大きな大会で第三位になったんです」
「すごいじゃない! ハクも大きくなったわねぇ」
和やかな会話に、店内の空気がほっこりしてくる。
ネッカ少年が、なんか大人っぽい笑みを浮かべて頷いていた。
彼のその貫禄はたまに、お疲れ様ですっていいたくなるね。
色々なことを、短い間に経験してしまった少年の背中だ。
「私も……充実していると思うわ。闇札機関の次のランク戦で、一位を取れそうなの。蒸気世界での経験のおかげね。それに、この店にも親友がいるし。……今は店を離れてるけど」
「エレアくん、だったね。今はどこにいるんだい?」
「ファイター仙人のところにいるって聞いたわ。少し寂しいけど、別に今生の別れってわけじゃないし気にしてないけどね」
なんて、話題が現在武者修行に出ているエレアのことに移る。
それを聞いたゴールドさんがふと、考え込んでから――
「そういうことなら、ヤト。君も私達と一緒に――海外へ行ってみないか?」
そんな事を、言い出した。
とんでもない発言だ。
こういう時、エレアがいると良いリアクションをしてくれるんだがなぁ。
『や、ヤヤヤ、ヤトちゃんが海外に行っちゃうんですかぁ!?』
む! 怪電波!
わざわざリアクションをするために、ファイター仙人のところから電波だけ飛ばしてくるんじゃありません!