カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ヤトちゃんが、海外に?
突然の提案に店内が騒然とする。
エレアから、やかましい電波が飛んでくる。
スマホでメッセージまで飛んできた。
いや、エレアはどこでこの状況を察知してるんだよ! レンさんの時といい!
「えっと……海外に、って。……引っ越すの?」
「ん、ああいや! すまない、言い方が悪かったな」
「引っ越すんじゃなくて、海外に仕事へ行くときに一緒についてこないかってことですね、ヤト」
「んん?」
どうやら、ハクさんは解っているようだ。
俺も、なんとなく理解できた。
要するに移住するのではなく、ちょっとした出張についてきてみないかって話だ。
「ごめんなさいね、アタクシ達ってヒーローだから世界中の事件を解決するために飛び回ることがあるのよ」
「そういう時、ハクを連れて行くことが昔はあったんだ。何事も経験になるからね」
「私にも、同じことをしないかって誘ってる……と。なるほどね」
ヒーローについて、世界を飛び回る。
それはなんとも得難い経験になることだろう。
ネッカ少年がいいなぁ、という感じで見ているしクロー少年なんか、本気で羨ましそうだ。
今度、クロー少年に声をかけてそういう事をしてみるのもいいかもしれない。
俺だと事件に巻き込まれないから、そういうの無理なんだよな。
加えて、ヒーローがそばにいるというのがいい。
この世界で事件に巻き込まれるとカードにされてしまう可能性があるが、それをヒーローが守ってくれるのだ。
安全面にも考慮されているな。
とはいえ――
「まぁ、今のヤトがついて行っても、危険なんてことはないだろうけどな。むしろ、私達の方が助けられてしまうかもしれないぞ!」
「うかうかしていられないわね!」
ぶっちゃけ、今のヤトちゃんとゴールドさん達なら、ヤトちゃんの方が強いのではないだろうか。
自分の人生にまつわる大事件を終えたファイターというのは、それくらい強いのだ。
ヤトちゃんも、前作主人公の一人になったわけだな。
「……そうねぇ」
「ん、どうしたの姉さん?」
「ヤト、ちょっといい?」
ふとハクさんが、ヤトちゃんに何やら耳打ちをしている。
なんか……痴女みたいなことでも吹き込んでらっしゃる?
一瞬警戒してしまったが、ヤトちゃんは真剣に話を聞いていた。
なら大丈夫か……
「そうね……やってみましょうか」
「ええ」
「……? ふたりともどうしたんだい?」
不思議そうなゴールドさん。
俺も不思議そうに二人を見ていたんだが……ハクさんの視線をこちらに向けられた。
その瞬間、すべてを理解する俺。
なるほど、そういうことか。
ハクさんの要望通り、俺はバックヤードに入っていく。
そして――
店内の照明を、一度落とした。
時刻は夕方、一気に店内が暗くなる。
何だ何だとネッカ少年とクロー少年、他のお客がざわつく中――イグニッションフィールドを照らす照明だけが灯される。
そこには――
「我が名は――月兎仮面!」
「わ、我が名は……怪盗ヤト!」
変身を遂げたハクさんとヤトちゃんの姿があった。
そう、ゴールドさん達はすでに変身している。
対してヤトちゃん達も、それに合わせた装いに身を包んだのだ。
というかヤトちゃん、今更怪盗ヤトになるのも慣れたものだと思って了承したけど、名乗りを上げるのは少し恥ずかしかったな?
『うひょー! 怪盗姉妹とヒーロー夫妻が並び立っています!』
『ええい、邪念よ去れ! 見たいなら普通に帰ってきなさい!』
『ぎゃー!』
邪念を飛ばしてくるエレアを追い払いつつ。
ふと、俺の方にコインが飛んでくる。
イグニッションフィールドの使用料をヤトちゃんが投げてきたのだろう。
律儀だなぁ。
まぁ、そういう決まりだし当然だけどね。
で、受け取ったので照明をつけ直す。
「マスク・オブ・ヒーローとヤトの姉ちゃんとハクの姉ちゃんのタッグファイト!?」
「これは……面白い組み合わせだな」
会場の空気は、一気にヤトちゃん達一家のファイトに意識が向けられている。
一瞬驚いた様子だったゴールドさんとシルバーさんも、すぐにやる気になったようだ。
「……正直なところ、最初は色々と話したいことがありました」
「ハク……いや、月兎仮面か」
「さっきもいいましたが、闇札機関や世界大会、月兎仮面のこと、色々です」
ハクさんが、ぽつりと語りだす。
「ヤトとのことだって、そうです。お父さんとお母さんがいない間に、私はいろんなことを経験して、成長してきました。ヤトと本当の姉妹みたいになることだってできました」
「姉さん……」
「それをどうやって言葉にしようかって考えた時、思ったんです。言葉に必要なものは――最初からここに揃ってるんじゃないかって」
ここ。
すなわち、俺の店。
カードショップ“デュエリスト”。
「私がこの店で<ドリーマーナイツ・アリアン>を手にして、ヤトが店長と出会って。そして<アリアン>で私を助けてくれました。そこから、すべてが始まったんです」
「……そうね。そして、多くのことを私はこの店で経験してきた」
エレアとの出会い。
ショップ対抗戦。
そして……蒸気世界での事件。
それらが積み重なった結果が今であり、たどり着いた答えがこの場所にあるのなら。
「うん、ここでファイトをするのが、一番分かりやすい」
そう言って、ちらりと視線を向けたヤトちゃんが笑みを浮かべてくれた。
その言葉は店長として、ヤトちゃんに関わってきた存在として、この上ない賛辞だと思う。
何よりそのファイトを、俺達に見せてくれるというのが最高だ。
ワクワクしてしまう、楽しみで仕方がない。
「……そうか。ハクもヤトも、大人なんだなぁ」
「ええ、そうね……」
その言葉に、ゴールドさんたちは何処か感じ入るように呟く。
きっと、色々な思いがあることだろう。
言葉にできない感情があることだろう。
でも、それを言葉にする必要なんてない。
必要はないのだ。
だって、手段は別にもあるのだから。
「まずは……済まなかった。ハク、ヤト。私達は世界を救うという使命のために、君たちを置き去りにしてしまった」
「周りの人たちが助けてくれるから、なんて欺瞞よね。……世界を救う以上に、私達はあなた達も守らなきゃいけないのに」
「――親として、ヒーローとして」
だからこそ、言葉にするべきことだけを言葉にする。
ヒーローを名乗る人間が、子どもを蔑ろにしていいはずがないのだ。
勿論、二人が自分からハクさん達を見捨てたわけではない。
あくまで、絢爛世界への転移は偶発的な事故。
その後、帰還の方法だって存在しなかったのだから、二人が責められることはない。
よって――
「そんなのいいんですよ、だって私達家族じゃないですか」
「そうね……これからよろしく、父さん、母さん」
全部が無事に解決し、ハクさんとヤトちゃんが許せばそれで終わりだ。
ゴールドさん達も、どこか安心したように笑みを浮かべて――そして、イグニスボードを構える。
ヤトちゃん達も、同じように構えた。
おー、とネッカとクローが丁度終わった自分たちのファイトの後を片付けてフィールドの方に集中する。
セメタリーを通して店内ににゅっと現れたエレアが、後方親友ヅラで頷いていた。
二階から降りてきたミチルが、この世界だとこうなるんだ、なんて事を意味深に呟いている。
そして、レンさんがすごい勢いで店内に飛び込んで「間に合ったか」と叫んでいた。
何なんだこいつ、とエレアの頭を撫で回しつつ、俺もファイトの行く末を見守る。
にゅあー、とエレアの声が響く店内で。
「――イグニッション!」
ヤトちゃんたちは、ファイトの開始を宣言した。
そのファイトは――彼女たちの人生にとって、とても大事なファイトとなるのだった。