カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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309 ヒーロー夫妻と怪盗姉妹

 ヤトちゃんが、海外に?

 突然の提案に店内が騒然とする。

 エレアから、やかましい電波が飛んでくる。

 スマホでメッセージまで飛んできた。

 いや、エレアはどこでこの状況を察知してるんだよ! レンさんの時といい!

 

「えっと……海外に、って。……引っ越すの?」

「ん、ああいや! すまない、言い方が悪かったな」

「引っ越すんじゃなくて、海外に仕事へ行くときに一緒についてこないかってことですね、ヤト」

「んん?」

 

 どうやら、ハクさんは解っているようだ。

 俺も、なんとなく理解できた。

 要するに移住するのではなく、ちょっとした出張についてきてみないかって話だ。

 

「ごめんなさいね、アタクシ達ってヒーローだから世界中の事件を解決するために飛び回ることがあるのよ」

「そういう時、ハクを連れて行くことが昔はあったんだ。何事も経験になるからね」

「私にも、同じことをしないかって誘ってる……と。なるほどね」

 

 ヒーローについて、世界を飛び回る。

 それはなんとも得難い経験になることだろう。

 ネッカ少年がいいなぁ、という感じで見ているしクロー少年なんか、本気で羨ましそうだ。

 今度、クロー少年に声をかけてそういう事をしてみるのもいいかもしれない。

 俺だと事件に巻き込まれないから、そういうの無理なんだよな。

 

 加えて、ヒーローがそばにいるというのがいい。

 この世界で事件に巻き込まれるとカードにされてしまう可能性があるが、それをヒーローが守ってくれるのだ。

 安全面にも考慮されているな。

 とはいえ――

 

「まぁ、今のヤトがついて行っても、危険なんてことはないだろうけどな。むしろ、私達の方が助けられてしまうかもしれないぞ!」

「うかうかしていられないわね!」

 

 ぶっちゃけ、今のヤトちゃんとゴールドさん達なら、ヤトちゃんの方が強いのではないだろうか。

 自分の人生にまつわる大事件を終えたファイターというのは、それくらい強いのだ。

 ヤトちゃんも、前作主人公の一人になったわけだな。

 

「……そうねぇ」

「ん、どうしたの姉さん?」

「ヤト、ちょっといい?」

 

 ふとハクさんが、ヤトちゃんに何やら耳打ちをしている。

 なんか……痴女みたいなことでも吹き込んでらっしゃる?

 一瞬警戒してしまったが、ヤトちゃんは真剣に話を聞いていた。

 なら大丈夫か……

 

「そうね……やってみましょうか」

「ええ」

「……? ふたりともどうしたんだい?」

 

 不思議そうなゴールドさん。

 俺も不思議そうに二人を見ていたんだが……ハクさんの視線をこちらに向けられた。

 その瞬間、すべてを理解する俺。

 なるほど、そういうことか。

 ハクさんの要望通り、俺はバックヤードに入っていく。

 そして――

 

 

 店内の照明を、一度落とした。

 

 

 時刻は夕方、一気に店内が暗くなる。

 何だ何だとネッカ少年とクロー少年、他のお客がざわつく中――イグニッションフィールドを照らす照明だけが灯される。

 そこには――

 

 

「我が名は――月兎仮面!」

「わ、我が名は……怪盗ヤト!」

 

 

 変身を遂げたハクさんとヤトちゃんの姿があった。

 そう、ゴールドさん達はすでに変身している。

 対してヤトちゃん達も、それに合わせた装いに身を包んだのだ。

 というかヤトちゃん、今更怪盗ヤトになるのも慣れたものだと思って了承したけど、名乗りを上げるのは少し恥ずかしかったな?

 

『うひょー! 怪盗姉妹とヒーロー夫妻が並び立っています!』

『ええい、邪念よ去れ! 見たいなら普通に帰ってきなさい!』

『ぎゃー!』

 

 邪念を飛ばしてくるエレアを追い払いつつ。

 ふと、俺の方にコインが飛んでくる。

 イグニッションフィールドの使用料をヤトちゃんが投げてきたのだろう。

 律儀だなぁ。

 まぁ、そういう決まりだし当然だけどね。

 で、受け取ったので照明をつけ直す。

 

「マスク・オブ・ヒーローとヤトの姉ちゃんとハクの姉ちゃんのタッグファイト!?」

「これは……面白い組み合わせだな」

 

 会場の空気は、一気にヤトちゃん達一家のファイトに意識が向けられている。

 一瞬驚いた様子だったゴールドさんとシルバーさんも、すぐにやる気になったようだ。

 

「……正直なところ、最初は色々と話したいことがありました」

「ハク……いや、月兎仮面か」

「さっきもいいましたが、闇札機関や世界大会、月兎仮面のこと、色々です」

 

 ハクさんが、ぽつりと語りだす。

 

「ヤトとのことだって、そうです。お父さんとお母さんがいない間に、私はいろんなことを経験して、成長してきました。ヤトと本当の姉妹みたいになることだってできました」

「姉さん……」

「それをどうやって言葉にしようかって考えた時、思ったんです。言葉に必要なものは――最初からここに揃ってるんじゃないかって」

 

 ここ。

 すなわち、俺の店。

 カードショップ“デュエリスト”。

 

「私がこの店で<ドリーマーナイツ・アリアン>を手にして、ヤトが店長と出会って。そして<アリアン>で私を助けてくれました。そこから、すべてが始まったんです」

「……そうね。そして、多くのことを私はこの店で経験してきた」

 

 エレアとの出会い。

 ショップ対抗戦。

 そして……蒸気世界での事件。

 それらが積み重なった結果が今であり、たどり着いた答えがこの場所にあるのなら。

 

「うん、ここでファイトをするのが、一番分かりやすい」

 

 そう言って、ちらりと視線を向けたヤトちゃんが笑みを浮かべてくれた。

 その言葉は店長として、ヤトちゃんに関わってきた存在として、この上ない賛辞だと思う。

 何よりそのファイトを、俺達に見せてくれるというのが最高だ。

 ワクワクしてしまう、楽しみで仕方がない。

 

「……そうか。ハクもヤトも、大人なんだなぁ」

「ええ、そうね……」

 

 その言葉に、ゴールドさんたちは何処か感じ入るように呟く。

 きっと、色々な思いがあることだろう。

 言葉にできない感情があることだろう。

 でも、それを言葉にする必要なんてない。

 必要はないのだ。

 だって、手段は別にもあるのだから。

 

「まずは……済まなかった。ハク、ヤト。私達は世界を救うという使命のために、君たちを置き去りにしてしまった」

「周りの人たちが助けてくれるから、なんて欺瞞よね。……世界を救う以上に、私達はあなた達も守らなきゃいけないのに」

「――親として、ヒーローとして」

 

 だからこそ、言葉にするべきことだけを言葉にする。

 ヒーローを名乗る人間が、子どもを蔑ろにしていいはずがないのだ。

 勿論、二人が自分からハクさん達を見捨てたわけではない。

 あくまで、絢爛世界への転移は偶発的な事故。

 その後、帰還の方法だって存在しなかったのだから、二人が責められることはない。

 よって――

 

「そんなのいいんですよ、だって私達家族じゃないですか」

「そうね……これからよろしく、父さん、母さん」

 

 全部が無事に解決し、ハクさんとヤトちゃんが許せばそれで終わりだ。

 ゴールドさん達も、どこか安心したように笑みを浮かべて――そして、イグニスボードを構える。

 ヤトちゃん達も、同じように構えた。

 

 おー、とネッカとクローが丁度終わった自分たちのファイトの後を片付けてフィールドの方に集中する。

 セメタリーを通して店内ににゅっと現れたエレアが、後方親友ヅラで頷いていた。

 二階から降りてきたミチルが、この世界だとこうなるんだ、なんて事を意味深に呟いている。

 そして、レンさんがすごい勢いで店内に飛び込んで「間に合ったか」と叫んでいた。

 

 何なんだこいつ、とエレアの頭を撫で回しつつ、俺もファイトの行く末を見守る。

 にゅあー、とエレアの声が響く店内で。

 

 

「――イグニッション!」

 

 

 ヤトちゃんたちは、ファイトの開始を宣言した。

 そのファイトは――彼女たちの人生にとって、とても大事なファイトとなるのだった。

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