カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
それは、ある日の昼。
スマホを見ながらのんびりしていたミチルが、顔を上げて俺に言ったのだ。
「――――そういえば、ママって帰ってきてなくない?」
「あっ」
そうして思い出した。
ここ最近、エレアは休暇を取っている。
修行と称してファイター仙人のところに行って、以来帰ってきていない。
あれからもう結構経つのに。
「……パパ、忘れてたの?」
「ミチルだって、人のこと言えないだろ」
普段アレだけ騒がしいエレアがいなければ、最初のウチは色々と違和感もあるものだが。
気がつけば、エレアが帰ってきてないことに、今更気付くくらいになってしまっていた。
それもこれも、ミチルが同じくらい騒がしいからだな。
というとんでもない責任転嫁をしつつ。
「夜にスマホでやり取りしてたりはしたんだよ。それにエレアがなんか危険な目に遭ったら、俺の直感がすぐに働くからな。だから別に心配はしてないし」
「逆に、スマホで毎日甘々なやり取りはしてたから、気付くのが遅れたと」
「甘々は余計だって」
まぁ、否定はしないけど。
ともかく。
「別に、エレアがそうしたいなら、俺はそれでもいいと思うんだけどな」
「まぁうん、ママがそうしたいっていうなら、私も止めないんだけどね?」
とにかく、エレアが好きに旅をしたいというなら、それもいいだろう。
俺は気が済むまで旅を堪能したエレアの帰りを待つだけだ、と思っていたのだが。
どうやらミチルには懸念事項があるようだ。
「――気づいちゃったんじゃない?」
「うん、気付いた?」
何をだ? と思っていると――
「――私の名付けに関するあれこれ」
――――あっ。
ふと、脳裏によぎる過去のミチルの発言。
『全世界に娘をサモンして見せびらかしたと気付いたママは、余りの恥ずかしさに結婚式みたいな人前に私をお披露目するみたいなことができなくなっちゃったの』
もし、それにエレアが気づいてしまったとしたら。
エレアは旅をしているのではなく――
「……悪いミチル、俺は今日出勤だから店を離れられない。明日捜索に行くから」
「ガッテン! ママを見つけて来てあげる!」
――逃げている、可能性があった。
□□□□□
結局、ミチルは成果を上げることができなかった。
翌日、元々休みだったのもあって、俺はエレアの捜索に乗り出した。
まずはファイター仙人のところに連絡を取ってみる。
『なんじゃ、もうとっくの昔に山を降りたぞい』
という返事がきた。
そしてその後の足取りは掴めないという。
つまり、エレアが意図して店に帰ってきていないことは確定だ。
旅行に行っているのか、はたまた逃走しているのかは不明。
とりあえず知り合いにエレアを見かけなかったか聞いて回りつつ。
俺は、エレアを自分の直感で探すことにした。
元々、俺にもミチルにも、精度の高い直感が備わっている。
強いファイターならば誰でも持っているそれは、親しい人物に対しては特に有効だ。
ミチルも、この感覚に従ってあちこちを飛び回ったのだろうが、ミチルのよく知るエレアは未来のエレアだ。
三等身になって、ギャグキャラになってしまった後のおもしろエレアだ。
今のスラリとしてちょっと小柄で美人で世界一可愛いエレアとは、ちょっと違うエレアだろう。
だからこそ、そんなエレアのことを世界の誰よりも知る俺は、エレアを感覚で探すことができるのだ。
加えて、ミチルは主に国内をメインで探したという。
エレアが逃走している場合、国内に戻ってこないだろうが。
敢えて国内を探すことで、帰ってきている可能性を潰したのだ。
少なくとも、今エレアは国内にはいないはず。
ならば国外を探すしかないわけだが、俺はミチルと手分けして国外を探すことにした。
「移動には、この蒸気世界の入口になってる時空の歪を使おう」
「これに干渉すれば、一方通行だけど好きな場所に飛んでいけるからね」
「何を言っとるんだ貴様ら」
ジトーっとした目つきのレンさんに睨まれつつ。
俺達は扉をくぐって、国外へ飛んだ。
さて、俺がたどり着いた場所は――
『――パパは、どこにママがいると思ったの?』
先に転移したミチルからメッセージが飛んでくる。
ミチルにも行き先は話していないし、ミチルからも行き先は聞いていない。
お互いに、相手の行き先は気になるもの。
だからここで答え合わせをしようということだ。
「まず、ネット環境は必須だ」
『それは同意、ネットの無い世界で生きていけるほど、ママは強い生き物じゃないよ』
ミチルは自分の母親を何だと思ってるんだよ。
いや言い方は違うだけで俺も同じこと思ってるけどさ。
『それでいて、知り合いが来ても潜伏しやすい場所。どうかな?』
「合ってると思う。それでミチルはどこを選んだんだ?」
『ニュウヨーーーーーークッ!』
なるほど、つまり外国の大都市というわけだ。
『ママなら、ついでにいい感じの大都会でハイソな生活送りたいって考えて、こういうところを選ぶと思いました。ニュウヨーーーーーックなのは、パッと最初に思いついたから!』
「ロンドンとパリは避けるだろうしな」
少し前まで、似たような場所ですったもんだしてたから。
俺も、ミチルの考え自体は賛成だ。
そういう理由で、エレアは大都会に潜伏している可能性は十分あるだろう。
だが――俺の考えはそうじゃない。
『それで、パパはどこにいるの?』
「イグニッション天空ジャングル」
『……秘境じゃん!』
俺は、ここにエレアがいると考えた。
イグニッション天空ジャングルとは、秘境の一種だ。
天空に浮かぶ島の上のジャングルで、普段は精霊タイプのモンスターが生息している。
こんな場所にエレアが? と思うかもしれないが。
実際、俺はここにエレアがいると確信している。
『いやまってまって、そもそもそんな神秘の秘境、
「だが、今こうして実際ネットは繋がってるよな?」
『ま、まさか――』
「ミチルの時代だと、家事とかに疲れて楽をするようになってるかもしれないが――この時代のエレアって、意外と形から入るタイプなんだよ」
面倒くさがりに見えて、やると決めたら全力で取り組むタイプだ。
つまり、ジャングルに潜伏すると決めた場合――
「ネット環境を、自分で用意してから潜伏するんだ」
『そ、そんなのあり――!?』
俺の視線の先には、ジャングルの木よりもでっかくそびえ立つ、なんか宗教的な像が見える。
だが、あの像はこれまでの天空ジャングルにはなかったもの。
最近建てられたものであり――あそこが電波を送受信しているのだ。
間違いなく、エレアが秘境のジャングルっぽいもの、というコンセプトで立てた電波塔である。
「そしてもう一つ、仮にエレアが逃げたんじゃないとして」
『うん』
「どうして帰ってこないのか、と考えるべきだったな」
ミチルは、最初から逃げた可能性を一番に考えていただろう。
だから俺は、逃げていない可能性を一番に考えた。
つまり、逃げたのではなく帰ってこない。
もしくは、帰れない理由がある。
それでいてその理由は、エレアがピンチだからじゃない。
『……パパの眼の前には、どんな光景が広がってるの?』
「ああ、簡単だよ」
俺は、眼の前の像に視線を向ける。
その先には――
「うっほほーい!」
何やら原始的な衣装に身を包み、踊り狂うエレアの姿があった。
辺りには、なんか蛮族の少女っぽい植物タイプのモンスターたちの姿がある。
多分、エレア好みの蛮族系モンスターを侍らせているのだろう。
そう、エレアは逃げたのではない。
野生化してしまったことで、帰ることができなくなっていたのだ。