カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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311 ――私、不安だったんです。本当に幸せになってもいいのかって

「うほほほほ、うっほほーい!」

 

 エレアが野生に帰っていた。

 なんてこったい。

 とはいえ、よくよく考えると野生に帰っていないほうが大変だ。

 野生に帰っていないということは、エレアが本気で潜伏しているということである。

 ここ最近は修行を重ねて、概ね全盛期と言っていい実力を取り戻したエレアを見つけ出すのはただでさえ大変だ。

 潜伏して、隠れるつもりならなおさら。

 まぁいいや、さっさとエレアに声をかけよう。

 

「――エレア」

「うっほほー! ――――うほっ!?!?!?!!?!!?!?!??!?」

 

 うわめっちゃ驚いている。

 そりゃまぁ、まさか俺が迎えに来ると思っていなかったのだろう。

 というか。

 

「うほ!? うほほほほほ!? うほ!?」

「……人間の言葉が喋れなくなってる?」

「うほーっ!」

 

 喋れなくなってるっぽいな。

 しょうがない、俺はさささっとエレアの背後に回ると――てしっと首元を手刀で叩いた。

 

「はっ!」

「正気に戻ったか」

「て、ててて、てんちょー! なぜここに!?」

「なぜって、エレアが戻ってこないから、心配して迎えに来たんだろ」

 

 はうあー、みたいなポーズのエレアに呼びかける。

 そのまま呆れた目線で周囲を見てから――

 

「それにしても――」

「そ、それにしても?」

「これから結婚、云々の話が出てるのに、俺を差し置いて美少女を侍らせるのは酷いんじゃないか?」

「そこですか!?」

 

 そこだよ。

 なんだよ、人が心配してると思ったら美少女系のモンスターと楽しそうに生活しおってからに。

 周りの子たちが心配そうにエレアを見ているぞ。

 そして、俺の話を理解したのか、何やら笑みを浮かべて――

 

「番!?」

「番だ!」

「番ー!」

 

 と叫び始めた。

 違いま……いや違いません。

 

「とにかく、だな。どうしたって、わざわざ秘境に引きこもったんだ? 何か理由があったんだろ」

「それは――」

 

 さて、問題はここだ。

 エレアがどういう理由で引きこもったのか。

 それ次第では、ここから更にややこしくなる。

 といっても、エレアの態度からして、気付いてはいないだろう。

 もし「ミチル公開{ガッチャンコ}ファイト」のことに気付いていたら、こんな落ち着いてはいないだろうからな。

 

「……しゅ、修行をしてるとですね、体重がどんどん増えてくんですよ」

「そりゃまぁ、太ってないからな。落ちる脂肪がなくて筋肉が増えればそうなる」

「うううう! お腹がカチカチになっちゃいました!」

 

 ちょうどへそが出ている蛮族スタイルなので、お腹を擦ってみる。

 うーん、柔らかいお腹の奥に、確かな筋肉が見える。

 あ、エレアが真っ赤になった。

 周りの子たちは「番ー!」とダンスを始めている。

 

「ってなにするんですかー!」

「いや悪い、ノリで」

 

 何にしても、どうやらエレアは真実に気付いていないようだ。

 せ、セーフ!

 

「まぁ、そんな理由でよかったよ」

「そんな理由って……他に何か思い当たる理由でもあったんですか?」

 

 あ、やっべ。

 

「あー、いやそれはだな」

「むむむ、店長から何か隠し事の気配です。未来のお嫁さんに隠し事はできませんよ!」

 

 ま、まずい!

 ええい、何かしらごまかさないと。

 んー、あ、そうだ!

 

「そ、それはだな、アレだよ。エレアが深刻な理由で悩んでないか心配だったんだ」

「深刻な理由、ですかぁ?」

 

 大きく首を傾げるエレア。

 身体まで少し傾いでいる。

 

「ほら、俺と付き合う前。エレアは”幸せになってもいいのか”って悩んでただろ?」

「え? ああ、ありましたねぇ、そんなこと」

「お前それ忘れてたのか……?」

 

 まじか……あんだけ散々悩んでたのに。

 二年悩んでたのに!

 

「こほん、まぁいいじゃないですか! それで、どうしたんですか?」

「こうして、結婚するだのしないだのの話になって、そのことをまた思い出したんじゃないかと思ってな」

「ははぁ、そんなことですか」

 

 なぁんだ、と返すエレア。

 だが、しかしだ。

 

「ってぇ、そんなことでごまかせるわけないじゃないですか! 正直店長だって、今さっきまで忘れてましたよね!」

「いやぁそれは……」

 

 流石にこれじゃあごまかされてくれないだろう。

 なにせ、エレアだって忘れていたのだ。

 俺だって忘れた……わけではないけれど、正直そこまで心配はしていなかったのも事実。

 だからこそエレアが修行に行きたいといっても、いってらっしゃいで済ませたのだから。

 エレアだって、そのくらいは簡単に察してしまう。

 しかし、俺の狙いはここからだ。

 

「……けど、考えてみろよエレア」

「なんですかぁ?」

「筋肉がつきすぎて帰りたくなかった、とシリアスな理由で帰りたくなかった――どっちが帰りたくなかった言い訳として通りやすいと思う?」

「――――!!」

 

 エレアが目を見開く。

 そう、俺の狙いはその後だ。

 別にこの言い訳でエレアをごまかす必要はない。

 この言い訳の方がいいんじゃないか、とエレアに提案しているだけなのだ。

 

「……ちょっとまっててください」

 

 そう言って、エレアは何やら準備を始める。

 まずは周りの子に、ちょっとこの場を離れていてほしいと頼み込む。

 その後、とあるカードを取り出した。

 

「エレアチェーンジ!」

 

 取り出したるカードは――<帝国の尖兵 エクレルール-完全武装->だ。

 すなわち、エレアの服装が完全武装モードに変化する。

 ぴっちりスーツ的な。

 

「こほん。……どうして、ここが解ったんですか店長」

「…………」

 

 お前マジか……

 ここからシリアスな雰囲気を出そうとするのか。

 このジャングル秘境でか?

 そのわけのわからん像の前でか?

 まぁ、やりたいなら付き合うけどさ。

 

「……エレアの居場所なら、俺はすぐに解っちゃうんだよ」

「ふふ……店長には勝てませんね」

 

 そして最初の一言からちょっと困った。

 いやだってお前、ここジャングルじゃん。

 エレアと何のつながりもないじゃん。

 ええい、このまま続けるしかないか。

 

「どうして、俺の前から消えたんだ?」

「どうして……ですか。そう、ですね」

 

 少しだけ、考え込むようにしてから――

 

「――私、不安だったんです。本当に幸せになってもいいのかって」

 

 お前……前回の引きからこのタイトルに繋がるって、一体どういう経緯なんだって思わせてこれかよ……

 いや俺は何を言ってるんだ?

 ともかく。

 そろそろいいかな、と思って俺が変な流れを打ち切ろうとすると――

 

 ――俺とエレアの側に、次元の歪みが広がった。

 

「……エレア! 危ない!」

 

 慌てて、エレアを抱える。

 しかし、歪はどんどん大きくなっていく。

 遠くで、エレアが侍らせていた子たちが逃げていくのが見える。

 どうやら、彼女たちは逃げられそうだが――

 

「……わ、私達は、逃げられそうにないですね」

「っく!」

 

 この期に及んでちょっと真面目に振る舞おうとしているエレアを抱えて、俺達は次元の歪みへと消えていった。

 

 

 □□□□□

 

 

 ――かくして、店長とエレアがなんか異世界に飛んでしまった。

 ぶっちゃけ、それだけなら別になんら心配はいらないだろう。

 店長ならなんとかすると、誰もが思うからだ。

 しかし、今回は少しだけ状況が悪かった。

 

 

「あ、あわわ……パパとママが異世界に飛ばされちゃった。こんな過去、私しらないよ……!?」

 

 

 ミチルが、一部始終を見ていたのである。

 どうしてここに!? 自力で転移を!?

 と店長なら言っていただろうが、理由は単純。

 現在ミチルがいる場所――先程まで店長達がいたこの「イグニッション天空ジャングル」は秘境である。

 つまり、外と空間が隔絶されている。

 その隔絶されている境目は一種の次元の歪みであり、それに干渉可能なミチルならば自由に好きな秘境へ転移が可能なのだ。

 なので、ミチルは店長がエレアを見つけた時点でそれを追いかけて、この秘境にやってきたわけなのだが――

 

『……どうして、ここが解ったんですか店長』

 

 よりにもよって、たどり着いたのが丁度エレアが真面目になったタイミングだったのだ。

 かくして、盛大な勘違いが始まる。

 明らかに場所がおかしいという点はさておいて。

 エレアが真面目な雰囲気で店長に理由を告げて、異世界に飛ばされたことは事実なのだ。

 

「ふ、二人を迎えに行かなきゃ――!」

 

 かくして、ミチル主導で異世界に行った店長達を捜索する世界的なプロジェクトが発足することになるのだが、それはまた後ほど。

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