カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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312 ひずみを抜けた先は、世紀末でした。

 時空の歪みを抜けて、俺達は別の世界に転移した。

 ぐらぐらと揺れる感触の中、エレアの出した声が低くなったり高くなったりしている。

 

「ぼあー、きょあー、ぼあー」

 

 みたいな感じ。

 ええい、この状況で遊ぶんじゃありません!

 と思っていたら、揺れが収まった。

 転移が終わったのだろう。

 なのでゆっくりと視線を周囲へ向けると――

 

「……荒れ果てた荒野、って感じか?」

「こ、ここは……」

 

 一面に広がる荒野。

 なんというか、ポスト・アポカリプスな世界に飛ばされてしまったのか?

 まさかこの世界を再生して帰れって言うんじゃないだろうな?

 いや、できないわけじゃないけどさ!

 時間ないんだぞ!?

 結婚式の準備とか考えたら、猶予は一週間ってところか、行けるか……?

 とか考えていたら――不意に、エレアが俺の腕の中から抜け出すと、ぽつりと呟いた。

 その表情は、さっきの作ったような真面目な雰囲気ではなく。

 至極、落ち着いた雰囲気で。

 

 

「――ここ、私の故郷です」

 

 

 そう、口にした。

 

 

 □□□□□

 

 

 世界の転移は、そのほとんどが何かしらの意図によって発生する。

 俺の店が蒸気世界へ転移した時のように、“召喚”という形で呼び出されたり。

 今回みたいに、故郷への帰還だったり。

 

「つまり、エレアがここに帰ってきたのは何かしらの理由があるってことだ」

「と、言われましても。……やっぱり私、本当に幸せになっていいのかって考えてたんでしょうか」

 

 俺達は今、エレアがカードからサモンしたジープっぽいこの世界の乗り物に乗っている。

 何も無い荒野を、その走破力で走り抜けながら言葉を交わしていた。

 

「そんなつもり、全然なかったんですけどねぇ」

「でも、こうして転移したってことは、転移した理由を見つけないと帰れないぞ」

 

 どこかエレアの様子はアンニュイだ。

 自分では悩んでいるつもりもないのに、悩んでいると世界に言われているように感じるのだろう。

 困惑が勝っているような感じに見える。

 

「そういう店長は、何かしら心当たりはあるんですか?」

「心当たり、なぁ。……まぁ、一つ言えることはあるよ」

「あ、やっぱりあるんですね。まぁ、私もあるんだけど」

 

 どうやら、俺もエレアも考えていることは同じらしい。

 正直、転移した理由はさっぱりだ。

 でも、それとは別に思っていることがある。

 それは――

 

 

「――全然、実感がわかない」

 

 

 二人して、揃って同じことを口にした。

 

「結婚と言っても、正直そこまでお互いの関係が今更変わるわけじゃないだろ」

「ですねぇ、そりゃまぁいつかは結婚したいとは思いますけど」

 

 俺とエレアの関係は、あの夜に俺がエレアに告白して、それをエレアが受け入れてくれた時点で完成している。

 というよりも、もっと前からエレアが「幸せになってもいい」と思ってくれればそれで話はおしまいだったのだ。

 今更、結婚と言われても。

 多分それは関係を前に進めるためでも、区切りを付けるわけでもない。

 結婚したということを披露するイベントとして、誰かに結婚式を“見てもらう”ためのものだ。

 それが解っているからこそ、ミチルも「ダイアが異世界に行ってしまう前に」結婚式をやってほしいんだろう。

 

「誰かに見せるために、結婚式をしたいって気持ちはありますよね」

「俺達が、結婚した姿を見せたい相手……か。うちの両親に、ダイアに、店の常連に……」

「知り合いを集めて、盛大なお祝いごと。楽しみですねぇ」

 

 そう考えると、お互いに結婚への意欲が湧いてくる。

 タイミングが合わなければ、そのままにしてしまうイベントではあるが。

 タイミングが合うのであれば、ぜひともやりたいイベントではある。

 

「そう考えると、一つ考えが浮かぶ」

「何でしょう」

「この世界に――結婚した自分の姿を見てもらいたい人がいる」

「あー」

 

 誰が? 無論、エレアだ。

 とはいえ――

 

「……エレアの両親とか?」

「生まれてすぐに帝国に取られちゃいましたから、会ったこともないですよ。多分、向こうも会っても判らないと思います」

「じゃあ、他に誰がいるかな」

 

 ――候補がいない。

 エレアにとって、帝国の生活は辛い過去以外の者はない。

 メカの操縦とかは、楽しくないわけではなかっただろうけど。

 娯楽というには、あまりに寂しい。

 だとしたら、一体誰が。

 うーん、誰かいた気がするんだが。

 

「んー、やっぱり()()()ですかねぇ」

「心当たりがあるのか?」

「ほら、前に――」

 

 と、その時だ。

 

 

『そこの帝国軍車、止まりなさい!』

 

 

 不意に、上空から声をした。

 エレアがハッとなって上を見上げた後、車を止める。

 すると、上から一人の女性が降りてくる。

 

「まったく、こんな所で軍車を乗り回すなんて。旧帝国の残党? だったら私が――」

 

 その格好は、エレアの完全武装モードの上から服を着たような感じ。

 服は軍服、エレアのそれより階級が高そうだ。

 背丈はエレアより少し大きいくらいで、顔立ちは童顔。

 だが、この世界の人の特性を考えると年齢は多分俺と同じくらい。

 エレアと同じ銀髪の髪。

 そんな彼女に対し、エレアは立ち上がって――

 

「シェネラ隊長! お久しぶりです!」

「――――って、え……エクレ……ルール?」

 

 笑顔で、手を振って相手の名前を呼ぶ。 

 対する相手は、信じられないものを見る様子でエレアを見て名前を呼んだ。

 エレアの本名を。

 間違いない、二人は顔見知りだ。

 そこで、思い出す。

 

「そうです、エクレルールです! えへへ、お久しぶりです!」

「おひさ、し……ぶり? え……ええ? 貴方があのエクレルール……? いやでも、その武装は間違いなくエクレルールのものだし……」

 

 たしか、いたな。

 エレアが帝国時代にお世話になったっていう、上司の女性。

 昔、エレアに革命後の帝国の様子を手紙で教えてくれたのも、彼女だった。

 そんな女性――シェネラさんは困惑していた。

 当たり前だ、シェネラさんの知っているエレアはクール系無感情少女だったのだから。

 それが今や、ギャグキャラ系おもしろ少女である。

 どうしてこうなってしまったのか。

 ただ、どう考えても笑みを浮かべるエレアの表情は幸せそうだ。

 故に、なんだか安心した様子で胸をなでおろし、一応納得した様子だ。

 で、

 

「……それで、そちらの男性は?」

 

 そんな事を聞く。

 ああでもそれは、多分このシェネラさんにとっては――

 

 

「――――旦那です!」

「――――――――――――は?」

 

 

 多分、衝撃的すぎる発言なんじゃないかなぁ。

 

 

 □□□□□

 

 

「エクレルールに、恋人……もうすぐ結婚……今はエレアって呼ばれていて……もうすぐ結婚……」

「あ、あわわ……大丈夫ですかシェネラ隊長」

「いいのよ、いいの……ふふ、そう……幸せになったのね……」

 

 ぶつぶつと頭を抱えながら、シェネラさんは何やら呟いている。

 世話をしていた妹分が、なんというかこう、自分より進んでいることに羨望と祝福が戦っているのだろう。

 先日、同じプロで仲良くしていた友人の女性が結婚すると発表した時の、シズカさんと同じ顔をしている。

 

「しかし、まぁなんというか……最初に反応を見た時は、本当に驚いたのよ」

「反応?」

「ええ。旧帝国の侵入者探知装置に反応があったの。異世界から人がやってきた、ってね」

 

 旧帝国、すなわち皇帝カイザスが統治していた頃の設備が、何やら反応したらしい。

 んで、急いでやってきてみたら、俺達がいた……と。

 

「まぁ、何にしてもやってきたのがあなた達でよかったわ」

「ご迷惑おかけします」

「いえ、いいのよ。結果としてこうして、エクレルール……エレアと最初に再会できたわけだし」

 

 俺が謝ると、シェネラさんはむしろ嬉しそうに言った。

 シェネラさんにとっても、異世界に行ったままのエレアは心配だったのだろう。

 

「というわけで、改めて名乗らせてもらうわね、私はシェネラ」

「私の偵察兵時代の上司で――」

 

 エレアが笑顔で補足して――

 

 

「現帝国復興大臣――兼、()()()()()()よ」

 

 

 そんな事を告げた。

 結果、

 

「びょえ!?」

 

 エレアが、凄い表情とポーズで驚いてみせた。

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