カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
時空の歪みを抜けて、俺達は別の世界に転移した。
ぐらぐらと揺れる感触の中、エレアの出した声が低くなったり高くなったりしている。
「ぼあー、きょあー、ぼあー」
みたいな感じ。
ええい、この状況で遊ぶんじゃありません!
と思っていたら、揺れが収まった。
転移が終わったのだろう。
なのでゆっくりと視線を周囲へ向けると――
「……荒れ果てた荒野、って感じか?」
「こ、ここは……」
一面に広がる荒野。
なんというか、ポスト・アポカリプスな世界に飛ばされてしまったのか?
まさかこの世界を再生して帰れって言うんじゃないだろうな?
いや、できないわけじゃないけどさ!
時間ないんだぞ!?
結婚式の準備とか考えたら、猶予は一週間ってところか、行けるか……?
とか考えていたら――不意に、エレアが俺の腕の中から抜け出すと、ぽつりと呟いた。
その表情は、さっきの作ったような真面目な雰囲気ではなく。
至極、落ち着いた雰囲気で。
「――ここ、私の故郷です」
そう、口にした。
□□□□□
世界の転移は、そのほとんどが何かしらの意図によって発生する。
俺の店が蒸気世界へ転移した時のように、“召喚”という形で呼び出されたり。
今回みたいに、故郷への帰還だったり。
「つまり、エレアがここに帰ってきたのは何かしらの理由があるってことだ」
「と、言われましても。……やっぱり私、本当に幸せになっていいのかって考えてたんでしょうか」
俺達は今、エレアがカードからサモンしたジープっぽいこの世界の乗り物に乗っている。
何も無い荒野を、その走破力で走り抜けながら言葉を交わしていた。
「そんなつもり、全然なかったんですけどねぇ」
「でも、こうして転移したってことは、転移した理由を見つけないと帰れないぞ」
どこかエレアの様子はアンニュイだ。
自分では悩んでいるつもりもないのに、悩んでいると世界に言われているように感じるのだろう。
困惑が勝っているような感じに見える。
「そういう店長は、何かしら心当たりはあるんですか?」
「心当たり、なぁ。……まぁ、一つ言えることはあるよ」
「あ、やっぱりあるんですね。まぁ、私もあるんだけど」
どうやら、俺もエレアも考えていることは同じらしい。
正直、転移した理由はさっぱりだ。
でも、それとは別に思っていることがある。
それは――
「――全然、実感がわかない」
二人して、揃って同じことを口にした。
「結婚と言っても、正直そこまでお互いの関係が今更変わるわけじゃないだろ」
「ですねぇ、そりゃまぁいつかは結婚したいとは思いますけど」
俺とエレアの関係は、あの夜に俺がエレアに告白して、それをエレアが受け入れてくれた時点で完成している。
というよりも、もっと前からエレアが「幸せになってもいい」と思ってくれればそれで話はおしまいだったのだ。
今更、結婚と言われても。
多分それは関係を前に進めるためでも、区切りを付けるわけでもない。
結婚したということを披露するイベントとして、誰かに結婚式を“見てもらう”ためのものだ。
それが解っているからこそ、ミチルも「ダイアが異世界に行ってしまう前に」結婚式をやってほしいんだろう。
「誰かに見せるために、結婚式をしたいって気持ちはありますよね」
「俺達が、結婚した姿を見せたい相手……か。うちの両親に、ダイアに、店の常連に……」
「知り合いを集めて、盛大なお祝いごと。楽しみですねぇ」
そう考えると、お互いに結婚への意欲が湧いてくる。
タイミングが合わなければ、そのままにしてしまうイベントではあるが。
タイミングが合うのであれば、ぜひともやりたいイベントではある。
「そう考えると、一つ考えが浮かぶ」
「何でしょう」
「この世界に――結婚した自分の姿を見てもらいたい人がいる」
「あー」
誰が? 無論、エレアだ。
とはいえ――
「……エレアの両親とか?」
「生まれてすぐに帝国に取られちゃいましたから、会ったこともないですよ。多分、向こうも会っても判らないと思います」
「じゃあ、他に誰がいるかな」
――候補がいない。
エレアにとって、帝国の生活は辛い過去以外の者はない。
メカの操縦とかは、楽しくないわけではなかっただろうけど。
娯楽というには、あまりに寂しい。
だとしたら、一体誰が。
うーん、誰かいた気がするんだが。
「んー、やっぱり
「心当たりがあるのか?」
「ほら、前に――」
と、その時だ。
『そこの帝国軍車、止まりなさい!』
不意に、上空から声をした。
エレアがハッとなって上を見上げた後、車を止める。
すると、上から一人の女性が降りてくる。
「まったく、こんな所で軍車を乗り回すなんて。旧帝国の残党? だったら私が――」
その格好は、エレアの完全武装モードの上から服を着たような感じ。
服は軍服、エレアのそれより階級が高そうだ。
背丈はエレアより少し大きいくらいで、顔立ちは童顔。
だが、この世界の人の特性を考えると年齢は多分俺と同じくらい。
エレアと同じ銀髪の髪。
そんな彼女に対し、エレアは立ち上がって――
「シェネラ隊長! お久しぶりです!」
「――――って、え……エクレ……ルール?」
笑顔で、手を振って相手の名前を呼ぶ。
対する相手は、信じられないものを見る様子でエレアを見て名前を呼んだ。
エレアの本名を。
間違いない、二人は顔見知りだ。
そこで、思い出す。
「そうです、エクレルールです! えへへ、お久しぶりです!」
「おひさ、し……ぶり? え……ええ? 貴方があのエクレルール……? いやでも、その武装は間違いなくエクレルールのものだし……」
たしか、いたな。
エレアが帝国時代にお世話になったっていう、上司の女性。
昔、エレアに革命後の帝国の様子を手紙で教えてくれたのも、彼女だった。
そんな女性――シェネラさんは困惑していた。
当たり前だ、シェネラさんの知っているエレアはクール系無感情少女だったのだから。
それが今や、ギャグキャラ系おもしろ少女である。
どうしてこうなってしまったのか。
ただ、どう考えても笑みを浮かべるエレアの表情は幸せそうだ。
故に、なんだか安心した様子で胸をなでおろし、一応納得した様子だ。
で、
「……それで、そちらの男性は?」
そんな事を聞く。
ああでもそれは、多分このシェネラさんにとっては――
「――――旦那です!」
「――――――――――――は?」
多分、衝撃的すぎる発言なんじゃないかなぁ。
□□□□□
「エクレルールに、恋人……もうすぐ結婚……今はエレアって呼ばれていて……もうすぐ結婚……」
「あ、あわわ……大丈夫ですかシェネラ隊長」
「いいのよ、いいの……ふふ、そう……幸せになったのね……」
ぶつぶつと頭を抱えながら、シェネラさんは何やら呟いている。
世話をしていた妹分が、なんというかこう、自分より進んでいることに羨望と祝福が戦っているのだろう。
先日、同じプロで仲良くしていた友人の女性が結婚すると発表した時の、シズカさんと同じ顔をしている。
「しかし、まぁなんというか……最初に反応を見た時は、本当に驚いたのよ」
「反応?」
「ええ。旧帝国の侵入者探知装置に反応があったの。異世界から人がやってきた、ってね」
旧帝国、すなわち皇帝カイザスが統治していた頃の設備が、何やら反応したらしい。
んで、急いでやってきてみたら、俺達がいた……と。
「まぁ、何にしてもやってきたのがあなた達でよかったわ」
「ご迷惑おかけします」
「いえ、いいのよ。結果としてこうして、エクレルール……エレアと最初に再会できたわけだし」
俺が謝ると、シェネラさんはむしろ嬉しそうに言った。
シェネラさんにとっても、異世界に行ったままのエレアは心配だったのだろう。
「というわけで、改めて名乗らせてもらうわね、私はシェネラ」
「私の偵察兵時代の上司で――」
エレアが笑顔で補足して――
「現帝国復興大臣――兼、
そんな事を告げた。
結果、
「びょえ!?」
エレアが、凄い表情とポーズで驚いてみせた。