カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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313 帝国のあれから

 暫定臨時皇帝。

 なんだか、(仮)の多い字面だ。

 ようするに、皇帝ではあるんだが皇帝ではないんだろう。

 それはそれとして。

 

「……変わったわね、エレア」

「ひえ? あ、これは……えへへ」

 

 エレアが変なポーズで驚いたことに、シェネラさんも驚いている。

 いやまぁ、当時のエレアは本当に真面目で物静かな感じだったので、驚かないわけないよな。

 俺も正直、未だになんだこいつって驚いてるぞ。

 そこが可愛いんだけどな。

 

「こほん、まぁいいわ。エレアは知ってると思うけど、この世界の皇帝って、この世界で一番強いファイターがなるのよ」

「え?」

「……エレア?」

「あ、そ、そういえばそうでしたね! ようするに、現行の皇帝を倒した人が次の皇帝ってやつですよね」

 

 強さこそ正義。

 どこのイスカンダルか世紀末かって話だが。

 まぁ、そういう世界だものな。

 とすると、なんとなく話も見えてくるというもの。

 

「最後に皇帝にとどめを刺したのが、シェネラさんだったってことか」

「皇帝には複数人で挑んだんだけど、たまたま私がとどめを刺しちゃったのよね」

 

 結果として、帝国のシステムに則り皇帝の座を継承してしまった、と。

 

「この世界のあらゆる行政は、皇帝に決定権があるのよ。退位しようとしてもできないし、帝国の解体が終わるまで私が暫定的に皇帝にならざるを得ないわけ」

「ははぁ、大変そうですねぇ」

「そうでもないわ、基本的には仲間たちと一緒に決めて、最後に了承するだけだし」

 

 やりがいもあるのよ、とシェネラさんは笑みを浮かべる。

 なんというか、めちゃくちゃ大変な仕事だろうけど、やりがいはあるって感じだな。

 

「まぁ、国の未来をよりよくする仕事なのだから、当然よね」

「はええ、シェネラ隊長、すっごいですねぇ」

「それに、もし仮に舵取りに失敗しても帝国時代より悪くなることはないもの、気楽なものよ」

「それはそれでいいのだろうか……」

 

 結構なことをぶっちゃけてらっしゃる。

 まぁ、シェネラさんはなんというか、正しい選択をできる真っ直ぐな人だ。

 そうそう間違えることはないだろう。

 ……間違えたら、俺がなんとかすることになりそうなのでできるだけ間違えないでほしい。

 何でそう思うのかは知らないが。

 

「それにしても、そんな偉い暫定臨時皇帝が、こんなところまで来ちゃっていいんですか?」

「むしろ、暫定臨時皇帝だから、よ。異世界からの来訪者は皇帝が迎え撃つのがこの世界のルールなの」

 

 そういえば、昔も終焉カードが襲来した時に、それを当時の皇帝が撃退したなんて話があったな。

 アレ、結構終焉カードに対して有効な一手だ。

 終焉カードは、現地に破壊工作を行う末端を生み出してそれを活動させる。

 生まれたばかりの末端を、真っ先に叩くのが終焉カードを安全に排除する方法である。

 まぁ、当時の帝国ははっきり言ってダメな世界だから、いっそ終焉を迎えたほうがいい感じになってそうなんだが。

 ともかく。

 

「それで、二人はどうしてこの世界に?」

「ええと……色々とややこしい話なんだが」

「簡単にまとめると、私達もうすぐ結婚式を上げるんですが、その前にやり残したことがある気がしていて。そのやり残したことの一つが、帝国世界への挨拶かもしれないんです」

 

 凄くざっくり、エレアがまとめた。

 

「そう……おめでとう……」

 

 シェネラさんは、遠い目をした。

 

「……いえ、そうじゃないのよ。エレアが幸せになるのは、私としてもすっごく喜ばしいわ。でも、流石にこんな所でお祝いするのもアレね」

「何も無い荒野でお祝いパーティを!?」

「しないわよ! ……復興中の帝都に案内するわ、そのまま帝国軍車でついてきてもらえる?」

「そうしようか」

 

 というわけで、俺とエレアはシェネラさん先導のもと、帝都へ向かうこととなった。

 

 

 □□□□□

 

 

 帝国世界の大地は、荒野とマグマでできている。

 なんとも世紀末な光景だ。

 それが帝都へ近付くにつれて、減っていく。

 どころか――

 

「緑が増えてきたな」

「私達が、頑張って増やしてるのよ」

「それは……凄い」

 

 あちこちに、緑が少しずつだけど増えてきた。

 植林をしているということか。

 

「かつての帝都は、マグマと岩肌のそれはもう酷い環境だったんですよ。まぁ、私達って頑丈なのでそこまで気にならないんですが」

「流石に、冷静になったら気になるけどね。当時はそれどころじゃなかった、ってだけだわ」

 

 よっぽど劣悪な環境だったのだろう。

 エレアもシェネラさんも気楽に話してこそいるが、笑い飛ばそうという感じはしない。

 まぁ、まだまだ当時を知る現役の世代だもんな。

 帝国世界が、安寧を得るにはまだまだ時間がかかる。

 

「――それでも、私達は少しずつ前に進んでるわ、間違いなく」

 

 やがて、目的地が見えてきた。

 そこは――

 

「今の帝都が、その成果よ」

 

 一言で言えば、砂漠のオアシスだ。

 荒野の中に、一箇所だけ草の生えた土地。

 水場が遠くに見える。

 多分、全部今の政府が自力で築き上げたのだろう、この土地を。

 

「わ、ぁ……」

 

 エレアが、帝国軍車を運転しながら、感嘆の声をあげている。

 それほどまでに、この光景は感慨深いものがあるのだろう。

 やがて、俺達は帝都内部へと入っていく。

 面白いのは、警備の人がいないことだ。

 

「皇帝がいなくなれば、外敵がいないのがこの世界ですからね」

「最悪、イグニッションファイトで自衛すればいいのよ。その間に私達が駆けつけるから」

 

 なんて、話をしていると――

 

「シェネラさんだ! おかえりなさい、何があったんですか?」

「おかえりなさいシェネラ。そっちの方は?」

 

 周囲の人々が、シェネラさんに近づいてくる。

 シェネラさんはそれに、一人ずつ挨拶を返していた。

 慕われているんだろう。

 

「彼は棚札ミツルというらしい、異世界人よ。こっちは――」

「……彼女は、もしかしてエクレルールじゃないか!?」

 

 エレアはかつて帝都にいた。

 だから、顔見知りがいたんだろう。

 その人物がエレアの名を呼ぶと、周りがにわかに騒がしくなる。

 

「人気者だな」

「ちょ、ちょっと照れくさいですね」

 

 なんて話をコソコソする。

 赤面するエレアは、どこか嬉しそうだ。

 

「はいはい、落ち着いて。エクレルールが異世界に尖兵として送られたことは、知っている人もいると思うけど……今回、こうして送られた異世界の人と一緒に帰ってきたの」

「おお……」

 

 パンパン、と手を叩いて周囲の視線を集めるシェネラさん。

 そうして、シェネラさんが俺達を紹介すると、今度はその視線が一斉に俺達に向いた。

 ここはエレアが挨拶をすることだろう。

 帝国軍車から立ち上がって、照れくさそうにしながらエレアが言葉を紡ぐ。

 

「お恥ずかしながら、帰ってきました、エクレルールです。えっと……今はエレアと呼ばれていますので、どうぞエレアと呼んでください」

「雰囲気、かわったわねえ」

 

 やいのやいの。

 和やかな雰囲気で、歓迎ムードだ。

 かつては悲惨な環境だったという帝国も、今はこうして穏やかな場所になっている。

 いいことだな。

 

「それで、えーと……棚札ミツルだ。俺の世界に転移してきたエレアを保護して、んで……」

「い、今は恋人、でっす!」

「恋人!?」

 

 ちょっとためらっていたら、エレアが補足してくれた。

 なんかすまん。

 周囲がざわつく中、流石にここからは俺が言ったほうがいいだろう、と覚悟を決めて続ける。

 

「この度、エレアと結婚することになって、こっちの世界に挨拶に来たんだ」

 

 その瞬間、ざわめきがピタっと止んだ。

 人々は、目を丸くしてお互いに顔を見合わせている。

 やがて彼らは、少しずつ嬉しそうな笑みを浮かべると――

 

「おめでとう!」

 

 そう、俺達を祝福してくれた。

 その様子に、エレアと顔を見合わせる。

 

「……こっちの世界に、挨拶にこれて良かったですね」

「だな」

 

 俺達も、思わず顔をほころばせるのだった。

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