カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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314 きっと未来は明るいだろうな

「俺はカウンターエフェクト、<永遠なる大草原>を発動! このエフェクトにより、フィールドは悠久なる草原へと姿を変える!」

 

 その宣言の直後。

 マグマと荒野だった空間が、一気に草原へと変わっていく。

 我ながら圧巻の光景だ。

 満足して一息ついて振り返ると、エレアとシェネラさんがドン引きしていた。

 

「ま、まさか本当にやってしまうとは……」

「店長が人間で私達がモンスターって、なんかおかしいですよ絶対」

 

 君たちは俺のことを何だと思ってるの?

 まぁ、やっていることが結構やばいことなのは実際その通り。

 設置型のカウンターエフェクトを現実に設置することで、空間を作り変えてるんだから。

 

「これくらいなら、ファイトエナジーを使えば誰でもできるよ。といっても、それなりに運命力も必要だからここぞって時にしかできないけどな」

「つまり店長はおかしいってことですよ!」

「恋人の故郷に転移するなんて、それこそここぞって時だろう。それに、もう一度同じことをやれと言っても無理だよ」

 

 俺だって、無条件で無法を働けるわけではない。

 条件をある程度整えて、後を気合でなんとかすれば可能になるというだけだ。

 他の人が駆け上がる階段を、一足飛びでクリアしているだけである。

 

「それがとんでもないことだと思うんだけど……君なら皇帝も問題なく倒せそうね」

「ソッスネ」

「まぁ、負けるつもりはないよ」

 

 ところでエレアの反応がなんか変なんだけど。

 シェネラさんと二人で顔を見合わせて、首を傾げた。

 

「まぁいいわ。改めて棚札さん、本当にありがとう。まさかあの荒野をこんなにもきれいな草原にできるなんて」

「俺はちょっと手間を省いただけだよ。これは、あなた達なら時間をかければ必ず達成できることだ」

「……貴方のその評価を、裏切らないようにしたいわね」

 

 俺は、現在荒野の一角を綺麗にしていた。

 テラ・フォーミング……みたいな?

 なんかエレアとシェネラさんの会話の中で、俺ならそういうことできるんじゃないかって感じになって。

 俺ができる、って答えたのが今に繋がっている。

 綺麗にした、といっても本当に一部だけ。

 まだまだ帝国には荒野とマグマが広がっている。

 全体で見ればほんの1%程度の成果だ。

 

「店長は見ている視点がでかすぎるんですよぉ。世界全体のことを考えて行動できる人間がどれだけいるんですか」

「世界の危機が多すぎてなぁ」

 

 日刊世界の危機くらいのレベルで起きるじゃん。

 俺が関わらなくたって、あちこちで世界が滅びかけてるんだぞ。

 というか特性上、関われない危機の方が圧倒的に多いし。

 

「と、とにかく。本当に助かったわ。お礼といっては何だけど、あなたの世界に帰るまで、こっちで好きなだけゆっくりしていってね」

「ありがとう、助かるよシェネラさん」

 

 現在、俺達は帝国世界でお世話になっている身だ。

 というかこれから、元の世界に戻るまでお世話になる身。

 何か少しくらいは一宿一飯の恩を返さないといけない、というわけでこうしてテラ・フォーミングを敢行したわけである。

 後はまぁ、細かいことを色々手伝えば駄賃としては十分だろう。

 

「あ、それじゃあシェネラ隊長! 私が昔使ってた部屋って、残ってますか?」

「残ってるけど……あの狭い部屋を? 二人で寝泊まりするにはだいぶ狭いわよ?」

「ベッドさえ入れば、くつろぐためのスペースは室内になくてもいいのではないかと」

 

 ハイ! とエレアが元気よく手をあげて提案する。

 エレアが昔使っていた部屋、となると偵察兵だったエレアの個室か。

 いや、複数人で雑魚寝だった可能性もあるけど、それであれば狭いなんて話にはならないはず。

 偵察兵とはいえ、尖兵に選ばれるほどだったエレアの立場はそれなりだっただろう。

 昔は雑魚寝だったけど、ちょっと偉くなって狭いながらも個室を与えられた、みたいな感じに思えるな。

 まぁ、どうでもいい話か。

 

「そういうことなら、解ったわ。ベッドの運び込みは頼んでもいいかしら」

「まっかせてください。店長は力持ちなので」

「俺が運ぶのか。いや運ぶけども」

 

 モンスターで鍛えてるエレアと比べても、身体スペックは俺のほうが高いしな。

 何にせよ、話はまとまったので一旦旧帝都へと戻ることになるのだった。

 

 

 □□□□□

 

 

 この世界の人は、思った以上に穏やかな人が多い。

 かつては圧政の限りを尽くしていた帝国。

 それなのに、随分と人々の心は豊かで、落ち着いている。

 

「昔の事を思うとねぇ。今は毎日が幸せすぎて、ちょっとのことじゃ全然気にならないんだよ」

「なるほどぉ」

 

 建材になる石を、住人の方と運びながら話を聞く。

 現在、俺とエレアは帝国の人たちの手伝いをしていた。

 この世界のことを、もっと知りたいと思ったからだ。

 

 結婚式までのタイムリミットを考えると、こっちの世界にいられるのは一週間から二週間。

 あまり悠長なことをしていられる期限ではないが、これは必要なことだ。

 エレアだけでなく、俺までこっちの世界に転移したということは、そこで俺も何かをする必要があるということ。

 そのためには、まずこの世界について知らないと。

 

「中にはねぇ、帝国の中で偉くなって私達よりちょっといい暮らしをしてた人もいるよ」

「そうなんですか?」

「まぁ、ちょっとだけだけどねぇ。恨む気にはならないさ」

 

 エレアが偉くなって、狭いながらも個室を貰ったという話もそうだけど。

 帝国内でも多少は格差があるようだ。

 でも、皇帝でない人間には本質的に権利と言える権利はなかったそうで。

 帝国の中で偉かった人が、今では下の階級だった人たちと肩を並べているけれど。

 それで偉かった人を責めることはないんだとか。

 

「だってねぇ、今だとシェネラさん達が何十人くらいの人数でやってる書類仕事を、全部一人でこなしてたんだよ?」

「うわぁ……」

「それでいて、皇帝はただふんぞり返ってるだけだったらしいし」

 

 この世界の人達が頑丈でなければ耐えられなかっただろうな……それ。

 いや本当に、皇帝以外は誰もが過酷な環境だったんだなぁ。

 

「それにしても、エレアちゃんはだいぶ元気になったよね」

「元気になりすぎてるくらいですけどね」

 

 ギャグキャラに片足突っ込んでるどころか、ほぼ全身ギャグキャラだし。

 今のエレアは、まだ三頭身になってないだけ、みたいなところがある。

 とはいえ、それを彼らに伝えても伝わらないだろうから、元気になりすぎてるとしか言いようがないけど。

 

「あの氷みたいだった娘がねぇ、今じゃ太陽みたいだ」

「この世界にも、太陽ってあるんですね」

「ほとんどおとぎ話みたいなもんだけどね。空がずっと雲に覆われてるんだから」

 

 この世界は、環境もかつての生活も本当に過酷だ。

 荒野しかない世界で、太陽も月も雲に覆われて見えない。

 それでもこの世界の人達は生きている。

 生きていけるくらい、強い。

 

「この世界は、きっと良くなりますよ」

「そうかい? アンタがそういってくれると、なんだかそんな気がしてくるね」

「恐縮です」

 

 幾らなんでも褒めすぎじゃないか、と思うけど。

 世界がこれから良くなっていくことは、間違いないと断言できる。

 理由はまぁ、”直感”としか言いようがないんだけど。

 とにかく、この世界の人達と交流して解ったことがある。

 

「てんちょー! こっち終わりましたよー! そっちどうですかー!?」

「あー、もうちょっとまってくれー」

「いや、いいよいいよ。もう十分手伝ってくれたしね」

「そうですか? じゃあこの建材だけ運びますね」

 

 ぴょんぴょんと跳ねる、帝国時代の服装を着たエレア。

 わざわざ引っ張り出してきたらしい。

 基本は無地のワンピースだが、ワンポイントのリボンがこの世界の慎ましいおしゃれを感じさせる。

 俺はひょいっと、結構な数の建材を持ち上げて指定された場所に運ぶ。

 そうして、話をしてくれたおばちゃん――なんか驚いた顔をしている――に別れを告げて。

 エレアと合流した。

 

「なんというか、アレだな」

「どうしたんですか?」

「この世界の未来は――」

 

 エレアを見る。

 街の中で、楽しそうに作業をする人たちを見る。

 緑が芽生えつつある大地を見る。

 

「――きっと、明るいだろうな」

「……ですね!」

 

 うん、改めて思う。

 俺はやはり、この世界に来るべきだった。

 こられてよかった、と。




草生える
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