カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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315 店長がやっちゃいましてね

 その日は、ささやかながらエレアと店長の歓迎会が開かれた。

 本当にささやかなもので、単純に人が多く集まって同じ場で食事をする、程度のものだったが。

 それでも非常に賑やかなものとなった。

 なにせ――

 

「俺は、<アークロード・ミカエル>で攻撃!」

「っく、強い……!」

 

 店長が大立ち回りをしているからだ。

 昨今、帝国ではイグニッションファイトが大流行している。

 それまで、負けたらすべてが相手のものになってしまうというルール故に娯楽のイグニッションファイトは行われてこなかった。

 だが、帝国は倒れ、今は誰もが自由の身。

 もともと娯楽の少ないこの世界で、イグニッションファイトが流行らない理由はない。

 

「さぁ、次の挑戦者は誰かな!」

「お、俺とやってくれ!」

「私もやりたいわ!」

 

 そんな時に、異世界からの来訪者。

 しかもとびきり強い、最強クラスのファイターがやってきたのだ。

 誰もが、彼と戦いたいと思うのは当然だろう。

 

「……それはそれとして、ちょっと皆さん店長とファイトしたがりすぎじゃないですか」

「ははは、そうむくれないの」

「むくーーー」

「……むくれすぎじゃない?」

 

 対して、面白くないのがエレアだ。

 自分の恋人が人気なのはいいが、せっかく歓迎されているのに一緒にそれを楽しめないのは不満である。

 単純に、嫉妬しているというのもあった。

 なお、それはそれとしてエレアは何か風船みたいになっている。

 というか膨れたことで、ちょっぴり身体が浮いていた。

 

「……貴方も本当に変わったわよね」

「そうでふねえ」

 

 膨れたせいでちょっと声が太くなっているエレアを、シェネラがつんつんと叩く。

 ぷすっ(エレアが破ける音)。

 

「あっ」

「ぬあーーーー」

 

 しゅー、とエレアはどこかへ飛んでいった。

 

「ええ……」

 

 本当に変わったなぁ、と思いながらシェネラは飲み物を口に含んだ。

 すると、エレアがミサイルみたいな挙動で元いた席に戻って来る。

 

「なにするんですかぁ!」

「むしろ、エレアは一体何なのよ……変わりすぎでしょ……」

「常に進化する私です」

「人の形は保っていてね」

「……それはギリギリ、なんとか」

 

 将来的に、三頭身になる予定のエレアだ。

 人の形と言われると、ギリギリとしか言いようがない。

 できればなりたくないけれど、自分のパッションを優先しているとこういうことばかりしてしまう。

 なので、まぁ最終的にはなるんだろうなぁという諦めが、エレアにはあった。

 

「まぁでも、それもこれも店長のおかげでもあり、店長のせいでもあるんですよ」

「そんなに、彼との生活は刺激的だった?」

「……ええ、本当に」

 

 少しだけ、しっとりした様子でグラスを傾けるエレア。

 さっきまでの反動で、シェネラはそれを大人びているというよりは可愛い小動物みたいに見ているが。

 

「あっちの世界って、広いんですよ。帝国ってなんだかんだ、世界が帝国しかないじゃないですか」

「ええそうね。だからこそ、一人の強大な皇帝がそれを支配できたんでしょうけど」

「……あっちの世界には、その皇帝を倒せる人間が何人もいます」

「そんなに?」

 

 少なくとも、店長は勝てる……というか勝った。

 店長が勝てるならダイアも勝てるし、アリスをはじめとした各地のチャンピオンも勝てるだろう。

 先日までお世話になっていたファイター仙人は……実力的には勝てるはずなんだけどカマセにされそう、とか失礼なことをエレアは考える。

 

「ただ、その分世界の危機もすっごく多いです。店長があんなふうに超然としてるのも、そういった危機が身近だった部分も大いにありますね」

「なるほどねぇ。私には、彼が神かその御使いにしか見えないんだけど」

「それはまぁ……否定はしません」

「しないのね……」

 

 普段の店長の傍若無人っぷりを見れば、それは誰にも否定できないだろう。

 ダイアくらいだろうか、そんな店長を普通の人として扱うのは。

 ジェララ……エレアの中に嫉妬心が宿る。

 

「むあー! 店長は色んな人を導いたり、助けたりしすぎです! 今だって、戦ってる人たちに、一人ひとりアドバイスを送ってますよ!」

「よくエレアとくっついたわね」

「なんと、店長の一目惚れなんですよ、えへへー」

 

 むふん、と胸を張るちみっこいエレアと、それを半眼で眺めるシェネラ。

 

「……そういう趣味?」

「ち、違います! 店長は成人してる小柄女性じゃないとダメなんです! 未成年は対象外です!」

「そこ、何か変な風評を垂れ流すんじゃない!」

 

 遠くから、店長の叱咤が飛んでくる。

 位置的に聞こえていないだろうが、直感的に感じ取ったのだろう。

 

「まぁ、なんというか。お互いにお互いの事が大好きなのは解ったわ」

「それはもう! 以心伝心ってやつですね」

「強さに関しても、本物なんでしょうね。……彼が向こうの世界でカイザスを倒したのでしょう?」

「え? あ、そうですね」

 

 話題が移る。

 皇帝カイザス。

 この世界を最後に支配した皇帝であり、シェネラ達にとっての宿敵だ。

 そんなカイザスを打倒できたのは、店長たちの世界で一度カイザスが敗れたから。

 それがなければ、今も帝国は皇帝に支配されていただろう。

 悔しいことだが、シェネラ達では全盛期の皇帝に勝てないのだ。

 

「彼の強さは、ああやってファイトしているのを見てわかるわ。きっと、凄いファイトだったんでしょうね」

「…………ソッスネ」

「さっきから、その話になると様子がおかしいけど、どうしたの?」

「エエット、ソノ……」

 

 エレアは目を泳がせる。

 勝ったことは事実だ。

 店長が皇帝より強いのも間違いない。

 そのうえで、こう、アレだ。

 

「――俺は、<ゴッド・デクラレイション>を発動」

 

 と、その時。

 店長が、問題のカードを使用した。

 基本的に、こういう表舞台でのファイトで店長が<ゴッド・デクラレイション>を使うのは、強者への牽制がほとんど。

 ただそれでも、時たま普通に使うこともある。

 なにせ、いつでも使える汎用カードなのだからして。

 そんな<ゴッド・デクラレイション>を見ながらエレアは――

 

「……さっきのカードでですね」

「ええ、強力なカードよね?」

 

 言いにくそうに、こぼす。

 

 

「……二度打ちで、カイザスのエースをそもそも場に出させず封殺しました」

 

 

 そして、沈黙が広がる。

 

「……封殺?」

「はい、封殺。……こう、何もさせませんでした」

「ええ……」

 

 だが、店長の厄介なところはそれだけではない。

 

「それでそのぉ……エースを視る前に封殺しちゃったので」

「……えっと」

「…………店長、未だに自分がカイザスを倒したって、気付いてません」

「………………そう」

 

 なるほど、そういう生物か。

 シェネラは店長をなんかやべーやつの分類に置いた。

 カイザスとは正反対の方向に。

 

「ところでこれ、皇帝の継承権ってどうなるんですかね……?」

「……多分ルールはないけど、その場合は最後に皇帝を倒した人が次の皇帝になるはずだから……」

「なぁんだ、それならシェネラ隊長のままで大丈夫そうですね」

 

 ホッとする二人。

 なおエレアは未だに皇帝の陰が皇帝の陰だと気付いていない。

 世の中には気付かないほうがいいこともあるのだ。

 

「まぁ、と、とにかくですよ! 私と店長の愛は本物なんです!」

「それはまぁ……見てればわかるけど」

 

 というわけで、話を戻す。

 店長のやらかしについては、いずれ話すべきことだったのでちょうどよかった。

 そしてできれば、まぁそういうものとしてスルーするべきことなので、スルーできたのはちょうどよかった。

 シェネラの正気は保たれた。

 

「そこで、ですね。私、アレがやりたいんです」

「アレ?」

「ほら、好き合う男女が火種を……っていう、アレです」

「ああ……あのおとぎ話」

 

 なんとなくだが、エレアはこの世界に自分たちがやってきた理由が見えてきた気がしていた。

 それは主に、店長という新しい風をこの世界に吹き込むことだったり。

 自分たちが結婚するのだという事実を、受け入れるためのものだったり。

 色々あるのだろうけれど。

 

「……そのおとぎ話を、真実にしたいんです。私は」

 

 きっと、これから店長とエレアのすることは、この転移の象徴となるだろうことだった。

 そして何より――これから二人が同じ時間を歩むために。

 やるべきことでも、あったのだ。

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