カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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316 また、明日が来る

 夜、俺とエレアはエレアの部屋から、旧帝都の様子を眺めていた。

 外にはまだ明かりが灯っていて、酒盛りをしている人たちの姿も見える。

 帝国世界の人たちは身体的に頑丈だから、この時間でも元気に飲んでいる人も多いだろう。

 ファイトを楽しむ人達の姿も見えた。

 ただ、働いている人の姿は見えない。

 

「風が気持ちいいですねぇ、なんだか新鮮です」

「前は、マグマで暑かった感じか?」

「そうですね。私達はそこまで気にしませんけど、やっぱりこっちのほうがいいです」

 

 ベッドを二つ運び込んだ部屋は確かに狭かったが、窓辺から外を眺めつつ話をするくらいならできる。

 俺もエレアも、この世界のお茶を飲みながら談笑を楽しんでいた。

 

「激動の一日でしたねぇ」

「そうだなぁ、エレアが野生化していてびっくりしたよ」

「そ、それはもう忘れてください」

 

 若気の至りだったんです、とエレアは言う。

 でも、今後エレアのギャグキャラ化が進行することを思うと、若気っていうより……いや、やめておこう。

 

「にしても……ここはいい場所だな」

「そ、そうですね」

 

 こいつ……俺が話題をそらしたことに、露骨にホッとしやがって。

 

「でも、私も少し驚いてます。少なくとも、私がいた頃の帝国はいい場所じゃありませんでしたから」

「まぁ、そうだろうな」

「この場所をいい場所にしたのは、シェネラ隊長たちですよね」

 

 私が肯定するのも、なんだか違う気がするとエレアは苦笑した。

 

「それはどうかな?」

「……どうして、そこで逆転のキーワードを?」

「いや、なんとなく」

 

 こほん。

 

「エレアは、間違いなくキッカケだったと思うんだよ。手紙にもあっただろ? エレアがいなくなったことで、シェネラさんはそれを原動力にしたって」

「……そう言われると、なんだか照れますね」

「照れるどころか、胸を張っていけ。人は頑張れる理由があるから、結果を出せるんだ。シェネラさんはエレアがいたから、皇帝を斃せたんだよ」

 

 単純な話。

 喜ばしいことは、もっとその喜びを共有するべきだ。

 変に遠慮することはない。

 昔と比べてエレアは明るくなったし、変にもなった。

 それでも、ちょっと遠慮しがちなところは、変わっていないのかもしれないな。

 そういうところを、支えたいと想ったから俺はエレアと一緒になりたいんだろう。

 

「……ミツルさんは、結婚ってどう思いますか?」

「どう……って」

 

 頬を掻く。

 なんというか、結論は前に言ったことと変わらない。

 

「……実感は、湧かないよな」

「ですよね。……でも、結婚したいかしたくないかで言えば?」

「まぁ、したい……な。エレアと本当の意味で家族になれるんだから」

「……です、よね」

 

 エレアは、窓辺から離れて自分のベッドに座る。

 あまり軋まない、質素なベッドの上。

 月明かりのない夜の、暗がりにエレアはいる。

 

「私も……ミツルさんと本当の家族になりたいです」

「なら……」

「でも、なんていうか……ちょっと怖いんです」

 

 それは、以前と同じように、幸せになることが怖いのだろうか。

 俺のそんな視線へ、エレアは首を横に振る。

 

「私が怖いのは……変化です。結婚という一つの区切りで、今の私達の関係って一回終わっちゃうんですよ?」

「そうしたら、次の関係が始まるだけだろ」

「でも、恋人としての私とミツルさんは、そこまでです」

 

 髪の毛を弄りながら、ぽつりと零した。

 

 

「今の私達は、そこでおしまいなんです。この瞬間が、この時間が、終わっちゃうのが……少し怖いです」

 

 

 それは、もしかしたら。

 怖いと言うよりも――

 

「……エレアは、寂しいのか?」

「そう、かもしれません」

 

 寂しい。

 そんな、当たり前でありふれた、誰もが持ちうる感情をエレアは吐露した。

 きっとエレアは、その寂しさを理由に俺から遠ざかっていたんだ。

 俺と顔を合わせれば、変化を否応なく感じてしまうから。

 ミチルの存在も、また同様に。

 

「でも、その寂しさは決して悪いものじゃないだろう? 幸せだから、寂しいんだ。今の幸せが別の幸せになってしまうと解ってるから、エレアは寂しいんじゃないのか?」

「……わかっては、います。寂しくもあり、嬉しくもあり。だからこそ、その変化を受け入れたくもあるのだと」

 

 相反する心が、エレアを揺らしているのだ。

 そのゆらぎをきっと、エレアは怖いと表現するのだろう。

 

「終わりは、悪いことじゃない。いいことだ……ってのは、今更言わなくてもわかるかもしれないけどさ」

「……ですね」

「それは、区切りがあるからだと俺は思うんだよ」

 

 エレアと向かい合うように、自分のベッドに座ってから続ける。

 

「何か大きな事件が終わると、その事件の区切りとしてファイトするだろ?」

「アロマさんの時とか、キアさんの時とかですよね」

「ああ。そういうファイトはファイトの結果に関わらず、区切りにすることに意味があると俺は思うんだ」

 

 区切りがあるからこそ、終わりがある。

 だからこそ、終わりには意味があるとも、俺は思う。

 

「終わりがあれば始まりがあって、始まりがあれば終わりがある。それを明確にすることが、一つの区切り。だからこそ、次があるんだって人は思う」

「……そうですね」

 

 だからこそ、俺は問う。

 

「エレアは……俺と次の関係を始めたいって、思ってくれるか?」

 

 それに、エレアは――

 

「……私、この世界にやってきて、思ったんです」

 

 笑みを浮かべて、幸せそうに言葉を紡ぐ。

 

「その区切りって、きっと私達以外にも必要なんじゃないかって」

「……この世界にも?」

「はい。……ミツルさん。この世界には、一つのおとぎ話があるんです」

 

 おとぎ話。

 それはすなわち、事実ではないということだ。

 

「二人の愛し合う男女が、この世界で最も大きな火山の火口に火を投げ入れるんです。ほら、帝都の奥から見える……あそこの山」

「……アレか、今もマグマが輝いて見えるな」

「はい、夜になると私達帝国の民はあの山を見て、あそこの火を希望だって思うようにしてたんです」

 

 再び、二人で窓の外を眺める。

 遠くのマグマが吹き出る火山を見て、語り合う。

 アレほど大きな山だ。

 帝国世界は狭いから、結構色々なところから山を見ることができるだろう。

 

「今は救いも何もないけれど、いつかはその希望が私達を幸福にしてくれる……って」

 

 エレアの語るそれは、本来ならば”伝統”と呼ばれるものなのだろう。

 俺たちの世界で、愛し合う男女が結婚式で盛大にお祝いをするように。

 この世界でも、そういった伝統があれば、と誰もが願った。

 だがそれは、これまでは皇帝の存在によって叶わなかった。

 

 だから、おとぎ話。

 現実に成ることのなかった、多くの人たちの願いの結晶。

 

「そうして火を投げ入れることで、男女はお互いの想いを確かめ合い、これから二人一緒になることを誓うんです」

「……結婚の儀式じゃなくて、婚約の儀式ってことか?」

「はい。だからその……それがいい機会になるんじゃないかと思って」

 

 そうか。

 だから俺とエレアは、この世界にやってきたのか。

 

「俺達が……そのおとぎ話を、伝統にしようっていうんだな?」

「……はい。少し、恥ずかしいですけど。やるならきっと、私達がいいんじゃないかって」

 

 それはなんというか……

 

「なんか、エレアも大概凄いこと考えるな」

「うう……そう言われると、少し恥ずかしいですけど。でも、私がやりたいんです。ええと、この儀式の名前を”継ぎ火”っていうんですけど」

 

 そうして、エレアは視線を山から俺に移す。

 俺もまた、そんなエレアと向かい合う。

 

 

「――だから、ミツルさん。私と一緒に、あの山に継ぎ火をしてくれませんか?」

 

 

 その言葉に、俺は――

 

「よろこんで」

 

 窓辺に乗せられたエレアの手に、自分の手を重ねることで答えるのだった。

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