カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
翌日、シェネラさんと顔を合わせると「継ぎ火をしてくれる気になった?」と聞かれてしまった。
エレアが既にシェネラさんへ話を通していたからなんだろうけど、昨日のことを思い出すと俺もエレアもなんか少し気恥ずかしくなってしまう。
ともあれ、継ぎ火をしたいという意志は変わらない。
その事を伝えると――
「二人に、渡したい衣装があるの」
といって、旧帝都の行政区、かつて皇帝が居城としていた城へと案内される。
その一角に、渡したい衣装というのはあった。
「おおー」
「これは……」
「継ぎ火に使う衣装ね。帝都の皆で、色々意見を出し合って作ったのよ」
流石に、一夜にして完成させたわけではなく。
元々作られていたものの中から、俺とエレアが着れそうなサイズを選んだらしい。
これから、細かく調整するとのこと。
「これ……すっごく可愛いです!」
エレアが言うように、継ぎ火の衣装のうち女性が着る方は非常に可愛らしいデザインになっていた。
赤と白を使った、俺たちの世界でもおめでたいと思うようなドレスだ。
「胸元のフリルは、炎をイメージしたものなんだけど。結果としてエレアの好みに合いそうなデザインになったわね」
「はい! ……店長、これ」
「ああ、向こうの世界でも結婚式の衣装として使えるかもしれないな」
何しろ、男女どちらも俺達世界基準でもめでたい感じの衣装だ。
このまま結婚式で着ても、問題なさそうである。
「エレアから、向こうの世界では男女が家族になることを祝う儀式があるって聞いた時、ちょうどいいと思ったの」
「ありがとうございます、シェネラさん」
シェネラさんもそのつもりだったみたいで、衣装は譲ってくれるそうだ。
本当に、ありがたい限りである。
「この後、試着してみてサイズをもう一回調整するわ。ふたりとも、それで構わない?」
「はい!」
「ええ」
顔を見合わせてから、二人でシェネラさんに頷いた。
□□□□□
元々衣装を見た時から思っていたことだが。
「――似合うな、エレア」
「え、……っと。少し恥ずかしいですね」
この衣装、本当にエレアに似合う。
エレアのためのものではないにも関わらず、エレアに似合うのだ。
やっぱ素材がいいのかね。
「て、店長こそ似合ってますよ!」
「俺が似合ってもなぁ」
馬子にも衣装と言うだろう、俺の見た目は髪のインナー以外そこまで特徴ないんだから。
とはいえまぁ、逆に言えばそれだけ衣装を着れば見た目も引き締まるということか。
今はこっちの世界の人に、髪とかもセットしてもらってるし。
「まぁ、素直にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」
「えへへ……」
というわけで、エレアのお世辞は受け取っておく。
そうするとエレアも笑顔になって、二倍嬉しいしな。
「……あんまり、二人の世界に入らないでね」
「ご、ごめんなさい」
「すまない、シェネラさん。それで――」
「ええ、ここから二人で、火山の火口まで歩いてもらうわ」
現在、俺達は帝都から移動して、継ぎ火を行う火山の入口までやってきている。
火口の近くまで車で移動できる道路が作ってあって、そこからは徒歩で歩く感じだ。
このためにわざわざ作ったんだろうな。道路と火口までの道。
なんだかそう考えると、現代の町興しみたいだが、この世界の歴史は実質存在しないといってもいい。
おとぎ話を伝統にするために、これから俺達が歴史を作るのだ。
後、火山の火口まで歩いてもらうって、この世界の住人と俺じゃなかったら拷問だよな。
「しかし、人がいっぱい来てますねぇ」
「皆、ずっとこの日を楽しみにしてたから」
本来なら、既に継ぎ火を行うカップルが出てきていてもいいくらい、帝国が倒れてから時間は経っている。
それなのに、今回の俺達が初めて継ぎ火を行うカップルなのは、なんとなく彼らの遠慮というか……畏れを感じるな。
未だに、皇帝の存在は恐ろしいものなのだろう。
数年前まで実際に支配されていたわけだから、当然だが。
「そういうわけだから、ふたりとも……お願いね?」
「まっかせてください!」
「行ってくる」
さぁ、二人で火口へ向かうとしようか。
というわけで、道を進む。
「それにしても――」
「どうしたんですか?」
二人きりになって、俺はシェネラさんから託されたものを視る。
一枚のカードだ。
白紙のカードである。
「火に継ぐものは、やっぱりカードなんだな」
「まぁ、これが一番妥当なんじゃないですか?」
このカードを火口へ投げ入れることで、継ぎ火は完了となる。
カードゲーム至上主義の世界なんだから、こうなるのは当然といえば当然なんだが。
それにしたって、何もかもがカードで繋がっている感じだ。
「……こういうカードを使った儀式を見てると、終焉の問いかけを思い出すんだよな」
「どうしてカードは存在するのか、ですか」
「ああ」
かつて終焉から出された、一つの宿題。
「――結婚式で、その答えを出そうと思ってるんですよね?」
「鋭いな。結婚式にはカードトスがあるだろ、多分相手はダイアかミチルになるから――」
「……まぁ、相手を考えてもそこしかないですよね」
カードトス。
これまたこの世界特有のイベントで、ブーケトスの代わりに行う行為だ。
ブーケトスとの違いは、カードを受け取った人間と新郎と新婦のどちらかがファイトするという点だ。
新郎新婦のどちらがファイトするかは、カードを受け取った人間が選ぶ。
ただまぁ、十中八九カードを受け取るのはダイアかミチルになるだろうし、ファイトするのは俺になるだろう。
「私、あんまりそういう大事なファイトってする柄じゃないですしね」
「どっちかというと、見てるほうが楽しい……か?」
「はい。店長の側にいると、そうなっちゃうのかもしれません」
ミチルがカードを受け取れば、エレアが選ばれる可能性もある。
ただ、ミチルも俺が終焉との宿題に答えを出すと気付いてるだろうから、俺を指名するはずだ。
「ちなみに、答えはもう考えてあるんですか?」
「あるにはある……んだけど」
俺は少しだけ言葉を選んでから――
「
「多すぎる?」
「ぶっちゃけ、答えなら幾らでも出せる。そのどれもが正しいし、どの答えでも終焉は納得してくれると思う」
ただ、その中からどれを選ぶかは……正直なところ今も迷っている。
本当にその答えでいいのかって、未だに悩んでいるのだ。
「間違いなく、ミチルのいた世界の俺と同じ答えは出さないだろうな」
「歴史が既に変わってますしねぇ」
多分、平行世界に無数の俺がいるのだとして、その俺はここにいる俺と別の答えを出すだろう。
それでいいのだ、それが正しいのだ。
解っていても――
「……納得のいかない答えを出すのだけは、いやだ。きっと、後悔する」
「店長なら、絶対に問題ないですよ。そして、私はそのために必要なことを知っています」
「随分と豪語するな」
エレアは、胸を張って自信に満ちた笑みを浮かべた。
多分この世界で、俺のことを一番良く知っている人物。
両親やダイアだって俺のことを知っているが、それとはまた別の意味で。
「いま、目の前にあることを一つ一つやっていきましょう。そうすることで、感じたことがあなたの答えになるんです」
「……まぁ、それもそうか」
なんとも、真っ当な答えだった。
いや、そりゃそうか。
俺がそういう答えをほしいと思っていて、エレアはそれを察することができるんだから。
「それに――着きましたよ、ミツルさん」
「……だな」
エレアが、店長呼びから名前呼びに呼び方を変える。
同時に俺達は足を止めた。
火山の熱気が、間近に感じられる。
火口が、眼の前に広がっていた。
さぁ、継ぎ火を始めよう。