カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
儀式は、二人で火山の火口まで登った後、幾つかの祝詞を捧げてからカードを火口へと投げ入れる。
継ぎ火とはこの世界で生まれた種火を、次の世代へと繋げる行為。
それを火山――もしくは、この世界の人々が信じている”希望”と言う名の神様に捧げる行為。
この世界は、帝国という楔から外れて、生まれたばかりの雛鳥だ。
信奉する神もいなければ、それを祀るための伝統もない。
これから、すべてを作っていくわけで。
その最初の一歩を、俺とエレアが紡いでいく。
大変な大役だ。
でもそれ以上に、光栄だとも思う。
この世界に来た時、俺達は結婚に実感がわかないと思っていた。
帝国世界への転移も同じ、一体何が目的で転移してしまったのか。
疑問だった。
でも、今ここに立って、エレアと二人で継ぎ火をすると決めた。
そうした時、いろんなものがはっきりとしたんだ。
「私は――エクレルールは、過去、自分の幸福を恐れました」
エレアが、言葉を紡ぐ。
それは、エレアが俺たちの世界へやってきて、俺と二人でカードショップを開いた時。身に余るほどの幸福をエレアは恐れた。
「ですがそれを受け入れ、前に進むことにしました。そうして今、私達はここにいます」
エレアが、こちらを見た。
穏やかなその笑顔は、俺達が初めて出会った頃のそれとも、普段の快活なそれとも違う。
そのどちらもを内包した、温かなものだ。
「それもこれも、ミツルさんが隣にいてくれたからです。私とミツルさんが、こうして出会えたからです」
「運命ってのは不思議なもんで、俺とエレアっていう、まったく違う世界の二人を結びつけたりもする」
俺が、その言葉を引き継いで続ける。
「一体どんな奇跡が起きれば、俺とエレアは出会えるんだろうな? 途方もない奇跡の連続、その果に今の俺達がいたって、何も不思議じゃない」
この世界に転生して、カードショップの店長になって。
多くのことを俺は経験した。
それら一つ一つの、不可思議で驚くような出来事は、どれもが刺激的で。
その中で、とびきりの幸福は、間違いなくエレアと出会ったことだ。
「俺は――棚札ミツルは、現在、多くの奇跡に感謝して生きている」
ふと、俺達は気がつく。
俺達の手にしているカードが、淡い光を帯びている。
俺達は視線を合わせて頷きあって、そうしてカードを火口へと掲げる。
「だから私は思います。私の過去を幸福にしてくれたこの人と」
「だから、俺は思う。俺の現在をこんなにも奇跡的なものにしてくれた人と」
そして、カードを、
「私達は――」
「――俺達は、二人で未来を生きたいと思う」
そっと、火口へ投げ入れた。
すると、不思議なことが起こる。
マグマで赤熱する火口から、白い光が漏れる。
淡いその光は、火山の熱の中にあって俺達を優しく包む。
きっと、この世界のどこからだって、この光を臨むことができるだろう。
それが祝福であることは、すぐにわかった。
だって、光は天へと高く昇っていって――
空を覆う、灰色の雲を、貫いたのだから。
「この世界で、太陽はおとぎ話の存在でした」
「ずっと、この雲に覆われていたから?」
「……かつては、この雲が空を覆っていなかったから、だと思います」
帝国世界は、生まれた時から皇帝によって支配されていたわけではないだろう。
この雲が、皇帝の支配の象徴だったとしたら。
暗黒の中を世界が進んでいることの暗喩だとしたら。
きっと、それ以前の人々は、太陽の存在を知っていて。
それを取り戻すことを、この火山に祈ったのだ。
「私達……とんでもないことをしちゃいましたね」
「それは……今更かもな」
そうして、俺達は自分の手元にあるカードを眺める。
火口に投げ入れた何も書かれていないカードが、変化したものだ。
お互いにそれをひとしきり眺めた後――俺は、何気ない風にエレアへ言った。
「エレア」
「はい」
エレアは、何気ない様子で返す。
「――結婚しよう」
「――はい!」
そんな、俺達の顔は、きっと誰に見せても恥ずかしいくらいに真っ赤になっていて。
けれども、俺達の人生の中で、一番明るい笑顔を浮かべていたと、俺は思う。
□□□□□
「――じゃあ、二人はこのままそっちの世界に帰るのね」
「ええ、今の俺達なら、問題なく帰れるはず」
すべてを終えて、俺とエレアはシェネラさんの元へ戻ってきた。
シェネラさんはひとしきり俺達に労いの言葉をかけてくれて、旧帝都では盛大なお祭りが開かれた。
それは単純に、俺達の婚約だけではない。
太陽が再び顔をのぞかせたり、ここ最近の旧帝都の開発を労うためだったり。
まぁ、各々がそれぞれの理由で宴を楽しんでいた。
それにひとしきり付き合って、夜も更けた頃。
俺とエレアは、この世界に別れを告げることを決めた。
どうやって元の世界に帰るかは、非常に単純。
あの火山の上で手に入れたカードを使うのだ。
アレには、それだけの力がある。
「なんだか、本当にあっという間だったわね」
「まぁ、数日しかこっちにいなかったですしね。でもでも、こうして一度世界がつながったわけですから。店長ならなんやかやすれば、またこっちにこれますよ」
「エレアは俺を何だと思ってるんだ」
まぁ、できるだろうけど。
以前、俺は次元の歪みを利用して帝国世界へ転移しようとしたことがある。
その時は、残念ながら失敗してしまったが。
それは単純に、フラグのようなものがたりなかったからだ。
今ならば、十分可能だろう。
「そんなこと言いながら、脳内でできそうだなーってシミュレートする人です」
「ぐ……」
「あはは、お嫁さんにはお見通しってわけね」
「んひゃ……」
俺はエレアにいたいところを突かれ沈黙し、エレアはシェネラさんに恥ずかしいところを突かれて沈黙した。
なんだこいつら。
まぁいいや。
「まあでも、二人ならこれからも幸せにやっていくんでしょうし、そういうことなら安心ね」
「ええ」
「子どもができたら、顔を見せに来てちょうだいね」
「あはは……」
何故か既にいます、とは言えないな。
シェネラさんは、まだ俺のことを何でもやらかす問題児みたいに思ってないので、体面を保っておきたい。
まぁ、その娘は俺達が結婚式やったら、未来に帰るんだけどさ。
俺も大概だけど、娘も大概だよなぁ。
「……あなた達のおかげで、この世界はようやく前に進むことができたわ」
「そんな、大したことはしてないですよ」
「したのよ。だからこそ、言わせてちょうだい。仮にも、臨時暫定皇帝なんだから」
そうして、シェネラさんは穏やかな笑みを浮かべ――
「……本当にありがとう。どうかこれからも、末永く幸せにね」
かくして、俺達は。
「はい!」
「ええ、いつかまた」
――元の世界へと帰還する。
□□□□□
さて、言うまでもなく俺はミチルと一緒にエレアを探していたことを忘れていた。
なんなら、エレアがうほうほしてから正気に戻って、諸々のことを取り繕ったことなんてすっかり忘れていたのだ。
そもそも帝国世界へ転移した時、エレアが完全武装だったのはそれが原因だというのに。
んで、まぁそんな状態で数日経過したものだから。
色々と、世間が大騒ぎになっていることくらい、想像してしかるべきだったな。
とはいえ――
『さぁ! 皆のもの準備はよいか! これより、次元転移実験被験者決定ファイトを開始する!』
そこは、レンさんのマイクパフォーマンスが響き渡る、大きな会場の中だった。
というか、ショップ対抗戦や第三回ファイトキングカップの決勝会場だった。
なんとも懐かしい場所で――
『先日姿を消した天の民と瞳の民を異世界から救出するための、この危険な実験! 被験者は当然、優秀なファイターでなければならぬ。結果として、選抜をくぐり抜け選ばれたのは――』
レンさんは、なんとも胡乱なことを言っていて。
『棚札ミチルと、逢田トウマ! このどちらかだ!』
何故か、ミチルとダイアが俺達を救出する権利をかけてファイトすることになっていて。
『さぁ、両者前へ出るがよ――――ってぇ』
俺達が、その会場のど真ん中、ファイトを行うミチルとダイアの間に立っているわけだが。
『天の民と瞳の民ぃいいいいいい!?』
これは、一体何がどうなっているんだ……!?