カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
ミチルは基本的に傍若無人だ。
自由オブ自由、俺とエレアの娘そのもの。
よくインドア派な俺達から、こんな陽の化身みたいな娘が生まれたな、と思う時はあるものの。
その細部には、そこはかとなく俺とエレアを思わせるなにかがある。
だからまぁ、基本的にミチルは向かうところ敵なしだ。
ちょっとやそっとのことじゃ、このワガママお姫様を止めることはできないだろう。
が、それはそれとして。
ミチルにも苦手とするものはあった。
具体的に言うと――
「さー! ミチルちゃん! 今日という今日こそはこのアロマ、ミチルちゃんに親しげな呼び方をされたく思いますわ!」
アロマさんだ。
アロマ・ユースティア。
こちらもまた、天下無敵のイケイケお嬢様である。
常に陽の気配を振り回す様は、なかなか見ていて似た者同士だなという感じ。
しかし、どういうわけかミチルはそんなアロマさんを苦手としていた。
「む、むりむりむりぃ、
なんと様付けである。
現在、店の入口をバァーン、と開いたアロマさんに対し。
ミチルは店のカウンター裏で縮こまっている。
カリスマガードの態勢だ。
一体全体どういうことか。
「だってだって、未来のアロマ様は、私の推しなんだよ!?」
そう、推し。
これは、ある意味で必然だったのかもしれない。
アロマさんは、将来エンタメプロファイターになる存在だ。
いや、今は目指している、というのが正しいが。
実力的には、今すぐエンタメプロファイターになってもアロマさんはやっていけるだろう。
そうでなくとも、ダイアみたいな高校生プロファイターは、視野に入るくらい。
そして、多分俺の周囲の一番近い人間で、最もエンタメ方面で大成するファイターでもある。
だからミチルは、そんな最も身近なエンタメファイターに憧れた。
「ですが、わたくしにとってミチルちゃんは、キリアちゃんの親友ですわ! キリアちゃんは言うまでもなくわたくしの親友! 親友の親友に様付けはくすぐったいですわー!」
そして、アロマさんにも理由がある。
キリアさんの存在だ。
タイムトラベルによって、アロマさんはキリアさんと出会った。
そうしてなんやかんやの末に親友となり、今に至っている。
そんな親友のキリアさんを通して、ミチルのことも何かしら知っていたんだろう。
アロマさんのミチルに対する態度は、非常に友好的だ。
が、しかし。
ミチルは推しであるアロマさんに対し、素直になれないでいた。
「とりあえず、アロマさんがファイトで勝ったら、好きな呼び方で呼んでもらうようにすればいいんじゃないか?」
「それですわ!」
「パパのバカー!」
あ、今までお二人はファイトしてなかったのね。
しかし、なんやかんや言ってミチルは強い。
ダイアとの正面対決に勝利できるくらい。
果たしてアロマさんは勝てるだろうか。
カウンターの裏からミチルを引っ張り出しつつ、どうなることやらと俺は思った。
□□□□□
「さぁ、これでとどめですわ! <茨天使>で攻撃!」
「ぐぐぐ! まずいよー!」
――そして、ミチルはそれはもうめちゃくちゃ追い詰められていた。
アロマさんのライフがまだ完全な状態で残っているのに対し、ミチルは残り100。
もうなんというか、ほとんど勝負になってないレベルで追い詰められている。
ぐえーなんてもんじゃない。
まぁ、このまま負けたらぐえーするんだろうけどさ。
「……やっぱり、こうなりましたか」
キラリン、眼鏡を光らせながらキリアさんが隣で言った。
こ、これは……アロマさんとミチルの親友としての分析力!
「実はミっちゃんには、どうしても勝てない相手がいるんです」
「えーと、俺が
「多分、そんな感じだと思います」
俺における販促みたいな弱点が、ミチルにもあるということか。
まぁ、どういう弱点かは、眼の前のファイトを見ていればなんとなく推測ができるけど。
「ミっちゃんは……恐れ多いと思っている相手に弱いんです!」
「推しとファイトすると、遠慮がでちゃって弱体化するってことか」
「はい……」
世の中には、案外そういうファイターが多い。
憧れという感情は、どうしても相手を遠くに置こうとする。
そんな状態でファイトして、本領を発揮できる人間は少ない。
ミチルも人の子、というわけだな。
「とはいえ、少し意外ではあるな。エレアは別に推しを前にしてもファイトの手は鈍らないのに」
「エレアさんは……元軍人だからじゃないでしょうか」
「あー、常在戦場ってやつだな」
手を抜いたら死にかねない環境にいたから、ってことだ。
対するミチルは、なんだかんだ平和な環境で育っている。
とはいえ……
「ううう、相手はアロマ様、恐れ多すぎて戦えない。けど、けど……!」
「けど、どうしたんだ?」
「負けるわけには行かないよ! 過去に来て、今まで一度も負けてないのに!」
そういえばそうだ。
ミチルは現在、過去に来てから一度も負けていない。
ダイアにすら勝ってみせたのに、ここで黒星を付けたくないというファイターとしての意地もあるだろう。
「ふむ、そういうことならそうだな……」
「パパ、何かいい案があるの?」
うむ。
本末転倒も甚だしいが、一つだけある。
「アロマさんに対する遠慮を、ここで拭い去れば、勝てるんじゃないか?」
「……それじゃあ何の意味もないのでは?」
小首を傾げるキリアさん。
しかし、そんなキリアさんだからこそ解っているのだろう。
この後の展開が。
故に、その顔には苦笑が見える。
「それだぁ!」
ミチルはちょっと単純だった。
そもそも、このファイトはアロマさんがミチルに親しげな呼び方で呼んで欲しいと願ったことで始まっている。
勝利すれば、親しげな呼び方を。
そんなファイトだったのだが。
「……あ、あろ、あろあろあろあろ……アロちゃん!」
「……! はい! ミチルちゃん!」
「よし、行ける! ここからが私の本気。私の全力! 負けないよ、アロちゃん!」
「はいですわ!」
何故か、アロマさんの目的はファイトが終わる前に達成された。
まぁ、正直これを狙っていたところはある。
勝ったら親しい呼び方で呼んでもらうって、それはそれで健全じゃないと思うからな。
自然な方法で呼ぶには、ファイトの途中でミチルに吹っ切れてもらうのが一番だ。
「……店長さんって、やっぱりこの時代でも店長さんなんですね」
「そんなに変わらないのかぁ、俺」
そして、キリアさんからそんな事を言われる俺。
あんまりキリアさんとは直接の絡みはなかったけれど。
こうして苦笑するキリアさんを見ていると、ダイアの娘なんだなというのが得心が行った。
「そういえば、もう一人絶対にミっちゃんが勝てない相手がいるんです」
「と、いうと?」
「
ふむ、ミチルの様子からして、ミチルは弟に対してかなり暴君のようだ。
弟を象徴するカードだろう<終焉覚醒>をミチルが使っているのも、なんとなくそれを感じさせる。
わけだが、ミチルと弟の力関係は、そんなに単純なものではないらしい。
「普段はミっちゃんが弟くんにたいして、かなり横暴なんですけど」
「まぁ、世の中の姉って、そういうところあるよな」
「弟くんが怒った時、真面目なときってミっちゃんの方が押されがちなんです」
「俺の息子だからなぁ、相応に運命を切り開きそうな立場だし」
なんでも、真面目なファイトだと弟がミチルに対して全勝なのだそうだ。
ミチルだけでなく、弟の方も強いんだろうなぁ。
うずうず。
「ってそこの二人、何の話してるの!?」
「なんでもないよー」
叫ぶミチルに、朗らかに返すキリアさん。
うーん、ふたりとも長い付き合いって感じだなぁ。
なお、ファイトはその後、ミチルが何とか切り返し。
激闘の末にミチルが勝利した。
やっぱり鉄壁って硬い。