カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
さて、先日蒸気世界支店の話を少しした。
現在の蒸気世界支店は、ナギサを支店長にジャックちゃんとモリアーティを店員として回している。
最初のウチはモリアーティに店を任せるのは、結構反対意見が出たんだけど。
この店で働けないと、ヌスミギキンみたいになるという危機感を感じたモリアーティが懇願。
最終的に、色々と周囲から監視を受けつつ許可が出た。
ちなみにログ少年とは分裂している。
いやしかし、ヌスミギキンは別にそこまで悪いことにはなってないんだけど。
現在は、デビラスキングの紹介で銀行に就職したらしい。
金勘定、好きそうだもんなぁ。
で、先日そんな蒸気世界支店に問題が発生した。
ナギサが行方不明になってしまったのだ。
もとより、放浪者であり風来坊を自称するナギサのことだ、一つの場所に留まるやつじゃない。
それでも、しばらくは蒸気世界支店の支店長をしてくれると言ってくれたし。
何より蒸気世界は和国世界や絢爛世界につながっている。
いろんな世界を回ってみたいという、ナギサの欲求を叶えてくれるのだ。
だから、今回の異世界転移は本意ではないはず。
何れ戻って来ることを考えて、別の誰かがしばらく支店の方を切り盛りしないといけないわけだが……
「ボクは反対だ。モリアーティに店を任せることはできない! 世界を終焉に導くような男だぞ!?」
「あはは、名探偵は相変わらず僕がお嫌いみたいだ。いやいやしかし、結構この店での店員姿も板についてきたと僕は思うんだけどねぇ」
最有力となる候補が、モリアーティなのが問題なのだ。
正直、スキルとしては何ら問題がない。
元犯罪皇帝にして、終焉の刺客達を取りまとめていた存在だ。
組織運営に関しては、申し分ない能力を持っている。
だが、モリアーティだ。
特にショルメさんは、かつてのあれやこれやもあって大反対である。
「いっそそういうことなら、ボクが支店長になるというのはどうかな? これでも、この明晰な頭脳を活かせばモリアーティに劣らない経営ができると思うが?」
「ははっ、無茶を言っちゃいけないよ。そもそも名探偵は今も蒸気世界の復興で忙しいじゃないか。ここで店長業にかまけている暇はないだろう」
「誰のせいだ、誰の!」
しかしまぁ、なんというか。
端から見てる分には、かなり相性が良さそうだ。
「それにしても、本当にどうしたものかな。やっぱ俺が兼任しつつ、モリアーティを中心にショルメさんに協力してもらうのが丸いかな……」
「ははははは! 私に任せるという選択肢もあるぞ!」
「ショルメさんより忙しいだろ、あんた!」
ショルメさんとモリアーティのあれやこれやを眺めつつ悩んでいると。
隣でライオ王子が高らかな笑みを浮かべていた。
いや確かに、ライオ王子も能力的には問題ない。
モリアーティが万が一をしでかした時の、牽制としても十分だ。
だがしかし、この男は王子だ。
見た目通り。
「それはそれとして、店長。エレアくんと結婚するそうだな、おめでとう!」
「突然だな!? いやまぁ、そうだけど。……ありがとう、こっちの世界の人も結婚式には参加してもらえると嬉しい」
「任せてくれ。忙しいとはいえ、長期的な予定の拘束はないからな。調整すれば一日くらいならなんとかなる」
今みたいに、店に顔を出すことも可能だ、と。
ライオ王子は笑う。
いや、店に顔を出すのも結構頑張ってるんかい。
と思うが、まぁ本人的には息抜きも兼ねてるんだろう。
流石に責任ある立場の大人だ、そこら辺の管理はできてると思いたい。
「おっと、こんな所で言い争っている場合じゃない。店長、よくきてくれたね。まずは結婚おめでとう」
「ああ、ありがとうショルメさん」
額をぶつけ合わせてのいがみ合いを止めて、ショルメさんがこっちに向き直る。
結果的に、体重を預けていたモリアーティがすっ転ぶわけだが。
まぁ、そこまで狙ってやったんだろうな。
「ぐえっ。ああまったく、何をするんだ」
「モリアーティも、ありがとな」
「おい待て、僕はまだ何も言っていないぞ? というか、君の結婚をお祝いするつもりもない!」
「いや、普段の店の切り盛りの話だが」
こいつ……! とモリアーティが睨んできた。
なんだ、祝う気があるのか、みたいな。
定番のやり取りをしつつ。
「しかし結婚……結婚か。エレアくんと……あのへんてこな女の子と?」
「いやまぁ、蒸気世界でのエレアは変なことしかしてなかったが」
なんだか、ショルメさんのエレアに対する印象が微妙にズレている。
一番印象に残ってることは? と聞いたらセメタリーから顔を出しているところ、と言われた。
まぁうん、それは仕方ない。
「一応、エレアも今は真面目なんだよ。将来的には三頭身になるらしいけど」
「……一体どういう生き物なんだ、彼女は」
わからん……エレアの生態に関してはマジでわからん。
帝国世界の人たちも、普通にちょっと頑丈なだけだったし。
俺の影響にしたって、俺もあそこまでギャグキャラじゃないぞ?
本当にわからん、エレアとは一体……世界一可愛いマスコット?
いや、世界一可愛いことは事実なんだが……
「……何故だろうな、僕は今とても安心しているんだ」
「というと?」
「もしその女が事件に絡んでたら、もっとひどいことになってたんじゃないか……と思えて仕方ない!」
モリアーティが、頭を抱えた。
しかしそれはまぁ、若干否定できないな?
いやなんか、最近レンさんのエレアに対する視線が俺と同じだし。
俺が二人に増えた、と考えるだけでも結構やばそうだ。
「後、蒸気世界の事件は比較的まともに終わっただろ!」
「アレでまともなのか!? アレで!?」
「いや、わからん。俺もあそこまで事件に関われたこと無いしな……」
何にせよ、蒸気世界の人たちも結婚式には来てくれるそうだ。
それもこれも、ヤトちゃんが作ってくれた転移扉のおかげだ。
「まぁ、まず今の問題はナギサの件だ。結婚式までには戻って来るにしろ、しばらくは何とかしないとまずいぞ」
「それなんだけどね、店長。ボクに一つ考えがあるんだ」
「ほほう」
手を上げて、ショルメさんは言う。
そのまま鹿撃ち帽に手をかけると、推理を披露してくれた。
「まず、ナギサくんがどこへ行ったか、について考えるべきだとボクは思うんだ」
「というと? どこか異世界だろう、という話は聞いているが」
「あるじゃないか、この蒸気世界には、他世界とのつながりが」
ふむ、確かに和国世界や絢爛世界とつながっているな。
「モリアーティもそうだが、我々の世界を滅ぼす終焉の刺客は『七星』と呼ばれている。前々から示唆されていたが、あるんじゃないか? 現在つながっている世界、
「おお、ナギサはそのどれかに転移してしまった……と」
「何の縁もない世界に転移するよりは、よっぽどあり得る話さ」
確かにその通りだ。
そうと分かれば、終焉の刺客であるモリアーティに居場所を吐いてもらおう。
こいつのことだ、案外知っているけど話していない情報があるんじゃないか?
「いや話さないぞ?」
「モリアーティが話さないなら、終焉の意志のところまでもう一度行って、聞いてくるだけだ」
「お前またあんな大騒ぎをするつもりか!? ええい、解ったよ。話していないことを話す!」
というわけで、案の定いろいろと黙っていたモリアーティから情報を引き出し。
結局、ナギサに関してはこっちから迎えに行くこととした。
どうやらナギサが転移したのは、「合衆世界」と呼ばれる世界らしい。
多分、西部劇みたいな世界観なんだろうなぁ。
「ありがとう、助かったよ名探偵」
「いやいやそれほどでも。……アレ?」
と、そこで何やら首を傾げるショルメさん。
「……もしかして、ボクが店長の前で推理を披露するの、これが初めてなんじゃないか?」
少し考える。
言われてみると、そうかも知れない。
…………まぁ、ショルメさんが名探偵なのは疑ってないし、いいんじゃないかな!