カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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329 はじめましての前の夜

 一日という時間は、何をしようと平等に過ぎていく。

 少なくとも俺とエレアにとって、ミチルがやってきてからのこの一ヶ月は、それはもう怒涛のような一ヶ月だった。

 気がつけばミチルが店にいるのが当たり前になっていて。

 だけれども、もうすぐミチルとの別れの時が来る。

 結婚式。

 ミチルがこの世界にやってきた理由。

 

 もう、結婚式は明日に迫っていた。

 

 どころか、時計を見れば既に今日だ。

 ちょうど日付をまたいだ直後。

 零時ぴったりに、俺とエレアは部屋に戻ってきた。

 さっきまで、両親やミチルと美味しいものを食べていたのだ。

 

「やっと眠ってくれましたね。ミチルはともかく、お義父さんとお義母さんは、明日大丈夫なんでしょうか」

「まぁ、普段からのんびりしてる人たちだ、一日くらい慌ただしいほうがいいのかもしれないな」

 

 なんか知らんが、とにかく何事にも動じない人たちだ。

 多分、世界が滅ぶその日だって、動じることなく生きていくだろう。

 強い。

 

「それにしても、お義父さんにお義母さん、か。全然慣れないな」

「私は結構すぐ慣れましたよ? なんだかんだ二年間一緒にやってきた仲ですから、呼び方が変わっただけです」

 

 話をしながら俺が椅子に、エレアがベッドに腰掛けた。

 俺の部屋にはベッドが一つと毛布が一つ、今日はこのままここで寝ることになる。

 

「この部屋も、もう使われることはないんですかねぇ」

「本来なら、二年前にはあいてるはずの部屋だったけどな。それに、明日からはショップの方で暮らすとはいえ、俺もエレアも荷物は多いだろう」

「これからは物置ですか」

「多分な」

 

 本来なら、俺はショップ二階の生活スペースで一人暮らしをするはずだった。

 エレアがやってきて、流石にいきなり男女で同棲はまずかろうと、こっちの部屋を使うことにして。

 今の使用率は、半々ってところだな。

 ショップで寝泊まりすることも、多くなってきた。

 明日からは夫婦なんだからってことで、本格的に同棲だ。

 正直、今更な気もするけれど。

 

「まぁでもこれで、いろんなことが一区切りするんですねぇ」

「ミチルとキリアさんも、結婚式が終わったら未来に帰る……か」

「まぁ、すぐに遊びに来ると思いますけど」

 

 それは同感。

 月に何回かは来そうな勢いだ。

 特にキリアさんにとって、アロマさんとアウローラさんは大事な親友だろうから。

 「過去の関係も、未来の関係も、どっちも同じくらい大事にする」と、キリアさんは言っていた。

 

「ヤトちゃん、間に合いますかねぇ」

「まぁ、最悪なんとかして間に合わせるさ。ミチルを投入して、俺も向こうに行く。そうすればまぁ、なんとかなるだろ」

「……もしそうなったら、敵の方に同情しちゃうので、ヤトちゃんがんばってくださーい」

 

 実は、ヤトちゃん一家の事件が未だに解決していなかったりする。

 多分、昨日の対決が最終決戦になると言っていたけれど、今頃向こうではもう対決も終わってるだろうか。

 それから移動ということもあって、ヤトちゃん達は大変そうだ。

 最悪、移動に関しては次元の歪みを利用する可能性もあるな。

 

 他の事件に巻き込まれたレンさんとナギサ、シズカさんにアリスさんは無事それを解決できたそうだ。

 レンさんに関しては、解決まで一日とかからなかったし。

 ナギサも行き先が解ってしまえば、見つけるのは簡単だ。

 シズカさんとアリスさんに関しては……

 

「シズ姐とアリスちゃん、早く人間に戻れるといいですね」

「まさかゴッデスイグニッション星人になっちゃうとはなぁ。いやぁ、大変そうだ」

 

 なんやかんやあって、ぴーぱらぽーの末に二人はゴッデスイグニッション星人になってしまったのだ。

 今、なんとかして人間に戻ろうと頑張っているところらしい。

 まぁ、式への出席は人間に戻らなくてもできるから……

 

「そういえばミツルさん、お義父さんと二人で話してましたけど、何の話をしてたんですか?」

「ん? 俺と父さんか? まぁ、普通の話だよ」

 

 最近どうだ、みたいな世間話から始まって。

 二人で酒を飲み交わしながら話をした。

 なんというか、お互い大人になって、腹を割って話す機会も減ってしまったけれど。

 今回は、ちょうどいいキッカケだったのではないだろうか。

 

「そういえば、一応この世界にはどうしてカードがあるのかってのも、聞いてみたな」

「お義父さん、あんまりファイトする人じゃないですけど。どうでした?」

()()()()()()()()()()()じゃないかって、言ってたな」

 

 流石にそれは極端なんじゃないかって思わなくもないが。

 あまりカードに触れない人からしてみれば、そうなのかもしれない。

 

「カードは確かにこの世界ならどこにでも存在するけど、触れようと思わなければ触れなくてもいいものではあるんだよな」

「帝国世界とかだと、そうも行かないですけどね」

「それでも、カードに触れない立場の人間だっていないことはないだろ、多分」

 

 それこそ、行政で地獄を見てた人とか、ファイトなんてしてる余裕あるのか?

 ようするに、カードが好きでないと、人はカードに触れないのだ。

 前世では特に、娯楽の一つでしかなかったわけだしな。

 だから、カードゲームは、カードゲームを好きなプレイヤーがいないと存在できない。

 ある意味では、それも一つの答えだ。

 

「答え、一つ潰されちゃいましたね」

「被ってなくてよかった、って感じだな」

「むう、余裕の態度です」

 

 正直、答えなんてもうほとんど、俺の中では決まっているようなものだ。

 この世界に生まれて、今まで生きてきて。

 その答えを、これから出すだけなんだから。

 

「そういうエレアは、母さんといろいろ話してたみたいだけど」

「一人ぼっちにされたミチルがスネてましたねぇ。あ、内容はこっちも他愛ないことですよ」

 

 まぁお互いに、これまでずっとやってきた仲だ。

 エレアと俺の両親は、まだ二年の付き合いだけど。

 その二年で十分に関係は築けている。

 今から、何かが変わるわけでもないだろう。

 

「あ、孫の顔は早くみたいって言ってましたよ?」

「まぁ、見れるだろ……というか実際見てるじゃないか」

「見てるからこそ、じゃないですか?」

 

 なんなら、これからも定期的に見ることになるぞ。

 自分自身の誕生を未来から祝いに来そうだぞ。

 まぁ、母さんは特にミチルのことを気に入ってたみたいだからな。

 この世界のミチルに会いたいって気持ちは強いだろう。

 

「そういえばですけど、お義母さんがこんなことを言ってました」

「どんなことだ?」

「これから私とミツルさんは、もう一度はじめましてをするんだ、って」

 

 もう一度はじめまして、か。

 なんとなく言わんとしている事はわかるが、少し抽象的な言い回しだ。

 

「新しい関係になるってことは、それは改めてはじめましてをするようなものだ……って」

「また、一から関係を始めることになるって話だろ。母さんにしては、持って回った言い回しだな」

「何かの本で読んだらしいですよ、昨日」

「影響されやすいのは、母さんらしいな……」

 

 昨日かよ。

 もっと昔からある含蓄じゃないのかよ。

 ほんと、いつものことながら適当だなぁ。

 なんなら、その本のタイトル覚えてないんじゃないか?

 

「でも、実際もう一度はじめましてをするのは、事実ですよね」

「そうだな」

「多分、これからも、いろんなはじめましてをしながら、私達は生きていくんですよね」

「きっとな」

 

 それはきっと、いろんな楽しさと大変さのある人生だろう。

 楽しいだけが人生ではなく、さりとて大変なだけでもない。

 その二つが折り重なって、俺達を作っていくなら――

 

 

「明日は、きっとそんな人生の、最高の門出になるな」

 

 

 俺の言葉に、エレアは世界で一番幸せそうな笑みを浮かべて。

 俺達もまた、眠りにつくことにするのだった。

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