カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
一日という時間は、何をしようと平等に過ぎていく。
少なくとも俺とエレアにとって、ミチルがやってきてからのこの一ヶ月は、それはもう怒涛のような一ヶ月だった。
気がつけばミチルが店にいるのが当たり前になっていて。
だけれども、もうすぐミチルとの別れの時が来る。
結婚式。
ミチルがこの世界にやってきた理由。
もう、結婚式は明日に迫っていた。
どころか、時計を見れば既に今日だ。
ちょうど日付をまたいだ直後。
零時ぴったりに、俺とエレアは部屋に戻ってきた。
さっきまで、両親やミチルと美味しいものを食べていたのだ。
「やっと眠ってくれましたね。ミチルはともかく、お義父さんとお義母さんは、明日大丈夫なんでしょうか」
「まぁ、普段からのんびりしてる人たちだ、一日くらい慌ただしいほうがいいのかもしれないな」
なんか知らんが、とにかく何事にも動じない人たちだ。
多分、世界が滅ぶその日だって、動じることなく生きていくだろう。
強い。
「それにしても、お義父さんにお義母さん、か。全然慣れないな」
「私は結構すぐ慣れましたよ? なんだかんだ二年間一緒にやってきた仲ですから、呼び方が変わっただけです」
話をしながら俺が椅子に、エレアがベッドに腰掛けた。
俺の部屋にはベッドが一つと毛布が一つ、今日はこのままここで寝ることになる。
「この部屋も、もう使われることはないんですかねぇ」
「本来なら、二年前にはあいてるはずの部屋だったけどな。それに、明日からはショップの方で暮らすとはいえ、俺もエレアも荷物は多いだろう」
「これからは物置ですか」
「多分な」
本来なら、俺はショップ二階の生活スペースで一人暮らしをするはずだった。
エレアがやってきて、流石にいきなり男女で同棲はまずかろうと、こっちの部屋を使うことにして。
今の使用率は、半々ってところだな。
ショップで寝泊まりすることも、多くなってきた。
明日からは夫婦なんだからってことで、本格的に同棲だ。
正直、今更な気もするけれど。
「まぁでもこれで、いろんなことが一区切りするんですねぇ」
「ミチルとキリアさんも、結婚式が終わったら未来に帰る……か」
「まぁ、すぐに遊びに来ると思いますけど」
それは同感。
月に何回かは来そうな勢いだ。
特にキリアさんにとって、アロマさんとアウローラさんは大事な親友だろうから。
「過去の関係も、未来の関係も、どっちも同じくらい大事にする」と、キリアさんは言っていた。
「ヤトちゃん、間に合いますかねぇ」
「まぁ、最悪なんとかして間に合わせるさ。ミチルを投入して、俺も向こうに行く。そうすればまぁ、なんとかなるだろ」
「……もしそうなったら、敵の方に同情しちゃうので、ヤトちゃんがんばってくださーい」
実は、ヤトちゃん一家の事件が未だに解決していなかったりする。
多分、昨日の対決が最終決戦になると言っていたけれど、今頃向こうではもう対決も終わってるだろうか。
それから移動ということもあって、ヤトちゃん達は大変そうだ。
最悪、移動に関しては次元の歪みを利用する可能性もあるな。
他の事件に巻き込まれたレンさんとナギサ、シズカさんにアリスさんは無事それを解決できたそうだ。
レンさんに関しては、解決まで一日とかからなかったし。
ナギサも行き先が解ってしまえば、見つけるのは簡単だ。
シズカさんとアリスさんに関しては……
「シズ姐とアリスちゃん、早く人間に戻れるといいですね」
「まさかゴッデスイグニッション星人になっちゃうとはなぁ。いやぁ、大変そうだ」
なんやかんやあって、ぴーぱらぽーの末に二人はゴッデスイグニッション星人になってしまったのだ。
今、なんとかして人間に戻ろうと頑張っているところらしい。
まぁ、式への出席は人間に戻らなくてもできるから……
「そういえばミツルさん、お義父さんと二人で話してましたけど、何の話をしてたんですか?」
「ん? 俺と父さんか? まぁ、普通の話だよ」
最近どうだ、みたいな世間話から始まって。
二人で酒を飲み交わしながら話をした。
なんというか、お互い大人になって、腹を割って話す機会も減ってしまったけれど。
今回は、ちょうどいいキッカケだったのではないだろうか。
「そういえば、一応この世界にはどうしてカードがあるのかってのも、聞いてみたな」
「お義父さん、あんまりファイトする人じゃないですけど。どうでした?」
「
流石にそれは極端なんじゃないかって思わなくもないが。
あまりカードに触れない人からしてみれば、そうなのかもしれない。
「カードは確かにこの世界ならどこにでも存在するけど、触れようと思わなければ触れなくてもいいものではあるんだよな」
「帝国世界とかだと、そうも行かないですけどね」
「それでも、カードに触れない立場の人間だっていないことはないだろ、多分」
それこそ、行政で地獄を見てた人とか、ファイトなんてしてる余裕あるのか?
ようするに、カードが好きでないと、人はカードに触れないのだ。
前世では特に、娯楽の一つでしかなかったわけだしな。
だから、カードゲームは、カードゲームを好きなプレイヤーがいないと存在できない。
ある意味では、それも一つの答えだ。
「答え、一つ潰されちゃいましたね」
「被ってなくてよかった、って感じだな」
「むう、余裕の態度です」
正直、答えなんてもうほとんど、俺の中では決まっているようなものだ。
この世界に生まれて、今まで生きてきて。
その答えを、これから出すだけなんだから。
「そういうエレアは、母さんといろいろ話してたみたいだけど」
「一人ぼっちにされたミチルがスネてましたねぇ。あ、内容はこっちも他愛ないことですよ」
まぁお互いに、これまでずっとやってきた仲だ。
エレアと俺の両親は、まだ二年の付き合いだけど。
その二年で十分に関係は築けている。
今から、何かが変わるわけでもないだろう。
「あ、孫の顔は早くみたいって言ってましたよ?」
「まぁ、見れるだろ……というか実際見てるじゃないか」
「見てるからこそ、じゃないですか?」
なんなら、これからも定期的に見ることになるぞ。
自分自身の誕生を未来から祝いに来そうだぞ。
まぁ、母さんは特にミチルのことを気に入ってたみたいだからな。
この世界のミチルに会いたいって気持ちは強いだろう。
「そういえばですけど、お義母さんがこんなことを言ってました」
「どんなことだ?」
「これから私とミツルさんは、もう一度はじめましてをするんだ、って」
もう一度はじめまして、か。
なんとなく言わんとしている事はわかるが、少し抽象的な言い回しだ。
「新しい関係になるってことは、それは改めてはじめましてをするようなものだ……って」
「また、一から関係を始めることになるって話だろ。母さんにしては、持って回った言い回しだな」
「何かの本で読んだらしいですよ、昨日」
「影響されやすいのは、母さんらしいな……」
昨日かよ。
もっと昔からある含蓄じゃないのかよ。
ほんと、いつものことながら適当だなぁ。
なんなら、その本のタイトル覚えてないんじゃないか?
「でも、実際もう一度はじめましてをするのは、事実ですよね」
「そうだな」
「多分、これからも、いろんなはじめましてをしながら、私達は生きていくんですよね」
「きっとな」
それはきっと、いろんな楽しさと大変さのある人生だろう。
楽しいだけが人生ではなく、さりとて大変なだけでもない。
その二つが折り重なって、俺達を作っていくなら――
「明日は、きっとそんな人生の、最高の門出になるな」
俺の言葉に、エレアは世界で一番幸せそうな笑みを浮かべて。
俺達もまた、眠りにつくことにするのだった。