カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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330 いってきますは焦らない

 いよいよ、結婚式当日だ。

 俺達のこれからのスケジュールは、まず店の戸締まりを確認してそれから会場入りである。

 本来なら店を開ける時間。

 今日に限っては臨時休業ということで、店を閉めるための時間だ。

 なんだか、少し特別な朝。

 だけど、いやだからこそか。

 

 毎日の当たり前の象徴は、今日も店にやってきた。

 

「よっしゃ一番乗りー……って、店長とエレアの姉ちゃん、どうしたんだ?」

「あー、ネッカ?」

 

 ネッカ少年だ。

 彼以上に、この店の常連といえる人間はいないだろう。

 とはいえしかし、今日に限って店はやってない。

 それはネッカ少年だって解っているはずだ。

 彼は俺達の結婚式に、家族も含めて招待されているし。

 なんなら、今の彼の服装は明らかに結婚式へ出席するよう、ネッカのお母さんが用意したものだ。

 だから、この場合の問題は――

 

「……結婚式は現地集合だぞ?」

「ですよ?」

「え!?」

 

 彼が早とちりをして、集合場所を間違えたということか。

 

 

 □□□□□

 

 

 ネッカ少年は、もともとかなり早とちりが多いタイプだ。

 何事も速戦即決を是とする彼は、考える前に即行動。

 結果として勘違いや思い違いが発生する、そんな子どもだったのだが。

 ここ最近は、そういう面も鳴りを潜めていた。

 というか、ここ最近のネッカ少年は周囲のあれやこれやのせいで大人にならざるを得ず。

 そういうところが、半ば強制的に引っ込んでしまっていたのだ。

 

「いやぁ、昔を思い出すな。たしか、店の開店初日も開店時間を一時間間違えてたよな」

「うー、それは今でも恥ずかしいぜ。久々にやっちまったなぁ」

 

 結局、あの後ネッカ少年のご両親と連絡を取って。

 ネッカ少年は俺達と一緒に現地へ向かうこととなった。

 ご両親からは、それはもう申し訳ないと言われたけど、まぁ彼とは長い付き合いだ。

 どうでもいいけど、今日はネッカ兄も闇落ちしていないらしい。

 頑張ったな、ネッカ兄。

 

「むしろ、最近のネッカが色々と大人すぎたんだよ。俺としては、これくらいおっちょこちょいでもネッカはネッカだと思うぞ」

「そうはいってもよー、俺だって大人になれるなら、早く大人になりたいぜ!」

 

 子供らしい背伸びした発言だ。

 レンさんという、子どもでありながら大人顔負けのことを色々やれる人間が近くにいるのもあってか。

 周囲の子どもたちは、レンさんに負けたくないという思いもあって大人になりたがる事が多い。

 

「でも、大人っていうのは、なろうと思ってなれるものじゃないだろ? レンさんだって、いろいろな理由があってあんなにいろんなことができるようになったんだ」

「それは解ってるけどさ」

「何よりネッカ自身が、大人は経験によって大人になるって、解ってるだろ?」

 

 レンさんは天才だ。

 だが、そんなレンさんが大人顔負けの才覚を発揮するようになったのは、母親がいなくなったから。

 よくも悪くも、そういったキッカケがなければレンさんはここまで大人にはなっていないだろう。

 

 ネッカ少年にしてもそうだ。

 周囲のトンチキや、襲いかかる悪役との戦いの中で、成長しなければそいつらに負けてしまうから。

 成長しなくてはいけないから、成長してきたのだ。

 

「けど、正直店長って、昔からそんな変わらねぇだろ。ダイアの話聞いてると、そんな気はするぜ?」

「俺はまぁ……色々あるから」

 

 前世の記憶とか。

 それにしたって、正直あまり自分が大人だって思ったことはない。

 

「それになぁ、俺だってまだまだ子どもっぽい部分はあると思うんだよ。最強って聞くと自分だって主張したくなるぞ?」

「きっとそれは、俺が大人になっても同じだと思うんだよな。多分、一生そう言ってるぜ?」

「だろうなぁ。ようするに、だ」

 

 んで、ここからが話のまとめ。

 俺が大人であるとは限らない。

 

「子どもが大人になる年齢になればなるほど、感じるんだよ。俺はまだまだ子どもだ、って」

「そうなのか?」

「大体の人は、そんなもんさ。どれだけ成長しても、常に立派な大人を続けられるわけじゃない」

 

 何に付け、人というのは感情の生き物だ。

 気分を害せばそれが顔に出るし、嬉しいことがあればそれは露骨に調子へ影響する。

 別にそれが間違っているわけじゃない。

 むしろ正しいことだろう、とも俺は思う。

 なにせ、それが人間というものなのだから。

 

「人には、どれだけ大人になっても、子どもらしく振る舞って許される時はある。むしろ、その若さこそ人が前に進む活力じゃないかって、俺は思う時があるよ」

「若さ、かぁ。全然わっかんねぇなぁ」

「そりゃそうだ、ネッカは若いんだから。若さなんて感じるまでもなく、ずっと身体にみなぎってるんだよ」

 

 人が老いていく中で、活力を持って前に進むことが若さなら。

 その若さは、ずっと若さのままでいい。

 

「ネッカはこれから、どんどん強くなっていく。どんどん大人にもなっていく。その中で、強さを求める心は絶対に忘れないでほしい」

「それが、若さだから?」

「それもある。俺がネッカの成長を楽しみにしてるから、っていう理由もな」

 

 俺は、ネッカ少年のこれからに想いを馳せる。

 すでに、この年でプロ顔負けの実力を持つファイター、ネッカ少年。

 いずれはプロになり、最強を目指していくことだろう。

 なんとなくだが、ネッカ少年はエージェントというよりもプロファイター向きだ。

 カードショップの店長も似合うだろうけど、別にどちらかだけを目指す必要もない。

 プロで活躍してから、ショップを開く。

 なんて道も、きっと未来にはあるはずで。

 そしてそれも、可能性の一つに過ぎないだろう。

 

「ネッカには、無限の未来が待っている。中には大変な困難が立ちはだかる時もあるだろうけど、それだってネッカなら間違いなく乗り越えられるしな」

「う、うおお、なんか店長の期待が重いぜ」

「俺はずっとネッカにこう思ってるけど、口に出すと凄い期待しまくってることになるからな」

 

 しょうが無いのだ。

 それだけネッカという少年が、このカードゲームの世界において王道の主人公なんだから。

 昔、ダイアと初めて出会ったときを思い出す。

 こいつはきっと、世界を背負って立つすごいファイターになると、俺は確信したものだ。

 同じ確信を、ネッカ少年にも抱いている。

 

「んで、まぁ。これは一応、経験談として。大人になった今だからネッカにできるアドバイスなんだけど」

「お、おう」

 

 ちょっと緊張した様子のネッカ少年。

 俺達は今、エレアの運転で会場に向かっている。

 本当なら俺が運転するはずだったんだが、なんかエレアが気を利かせてくれたのだ。

 そんな俺達の乗った車が、そろそろ会場に到着する。

 というか、もう駐車場に着いたところだ。

 既に何台か、知り合いの車が見える。

 その中に――

 

 

「友達は、何よりも大事にすること、かな」

 

 

 クロー少年やアツミちゃん、それから他にもうちによく来てくれるネッカの友達の姿が見える。

 彼らも、ネッカと同じくうちの常連だ。

 その家族まで招待したから、普段あまり話をしない人も、今回の会場にはいる。

 賑やかになりそうだな。

 

「友情って、ある意味で大人になるための一番の近道だからな。とくに、クローとのライバル関係はネッカにとっても大きかっただろ?」

「あー、うん。そうだなぁ」

 

 少し恥ずかしそうに、ネッカは頬を掻く。

 なんというか、アレだ。

 友情という言葉が恥ずかしいのもあるが、早とちりでミスをして、それをフォローされている状況でもあるからだろう。

 とはいえ。

 

「……よし、そういうことなら、決めた! 俺、店長みたいなファイターになる!」

「そりゃまた、大きく出たな」

「最強で、誰かの背中を押せるファイター! へへ、目標がはっきりすれば、後はそこを目指すだけだぜ!」

「それを口に出せる時点で、ネッカも十分立派だとおもうけどな」

 

 かくして、俺の車から降りるとネッカはクローたちの元へと向かっていく。

 これからもきっと、彼らは多くのことを経験するはずだ。

 そして、その度に成長して大人になっていく。

 けど、焦ってはいけない。

 いってきますは、朝の最初の一歩を踏み出すための言葉。

 一歩一歩着実に、前に向かって進んでいくのだ。

 

 俺も、この結婚式で、一歩前に踏み出さないとな。

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