カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

353 / 373
331 その結婚式、ちょっと待ったぁ!

 エレアはそわそわしていた。

 

「まだですかねー、まだですかねー、まだまだまだまだまままままままま」

 

 だんだん振動して、ぷるぷるしたゼリーみたいになり始めた。

 

「よせエレア! 結婚式は真面目な場なんだから人間をやめちゃだめだ!」

「で、でもでもでも、ミツルさん! ヤトちゃんがまだ来てないんですよおおおおお!」

 

 ああまずい、エレアが崩れ始めた!

 俺は慌ててエレアを再形成しつつ、時計を確認する。

 結婚式までもうあまり時間がない。

 

「事件はもう解決した、到着はギリギリだが間に合う算段だ、落ち着けエレア!」

「ぷるぷるぷるぷるぷる!」

「人の言語すら話せなくなっている!」

 

 何とか形は保てているが、ぷるぷるしているしすぐ崩れてしまいそうだ。

 とにかく、ヤトちゃんに関しては一応間に合う予定になっている。

 先の怪盗マンハッタンとの対決、すったもんだの末、怪盗マンハッタンに悲しき過去があったことが判明。

 怪盗マンハッタンを操っていた黒幕が登場。

 ヤトちゃんは怪盗マンハッタンと共にその黒幕と対決したらしい。

 大変だったのは、それに呼応してファイト怪獣イグジラが出現したこと。

 アメリカチャンプのマキシさんを始め、ハクさんやゴールドさん、シルバーさんも撃退に参加。

 それはもう、すったもんだのすったもんだだったそうだ。

 

「けど、無事に最後はイグジラと和解して、黒幕にイグジラの熱線を叩き込んで勝ったんだぞ」

「黒幕さん、そこまでされるほど酷いことしたんですかね……」

「わからん……」

 

 ともあれ、その後怪盗マンハッタンが運転するジェット機でこっちに向かっているそうだ。

 着替えはジェット機の中でしてくるらしい。

 どうでもいいけど、そうすると俺はここで初めてゴールドさんとシルバーさんの素顔を知るのか?

 あの人達、通話の最中も常に変身してたからな。

 

「とにかく、そろそろ時間だ。俺達は衣装を着付けてもらわないとまずいぞ」

「うーうー! わ、わかりましたぁ。ヤトちゃんならきっと大丈夫ですよね……ぷるぷる」

 

 なんとかゼリー状ではあるが、本来の形を取り戻したエレア。

 なんか胸が大きくなってる気がするが、衣装は普段のサイズで仕立ててあるからゼリーで盛ってると着れないぞ。

 

「た、大変だよミツルにぃ!」

「どうした、キア」

 

 と、そこで飛び込んでくるキア。

 何やら大変そうな様子。

 

 

「ヤトちゃん達の乗ってるジェット機が、空中で突如として消息を絶ったって!」

 

 

 ぱしゅっ。

 あ、エレアが弾けた。

 

「マジか、大丈夫なのか?」

「わかんない、とりあえず今ミチルちゃんとダイアさんが現地に向かうよう準備してるけど」

「流石に今回は俺も行こう、キアも準備しておいてくれ。他の人も行けるか?」

「……言っておいてなんだけど、一体誰と戦争するつもり?」

「しょうが無いだろ……せっかく集まってるんだから」

 

 他にもレンさん、アリスさん、シズカさん、ネッカ少年にクロー少年。

 アロマさん達に……弾けたエレアを除いても、これだけ多くのファイターがいる。

 まぁ、なにかあってもなんとかなるから、何とかするしかない。

 と、思っていたら。

 

 

「その必要はないわ!」

 

 

 不意に空から、声がする。

 聞き覚えのある声、というか、今まさに話題にしていた人物の声だ。

 上空から、一つの気配が飛来する!

 

「心配させちゃってごめんなさい、待たせちゃったわね」

 

 怪盗ヤトが、スーパーヒーロー着地で到着した。

 

「ヤ……ヤトちゃん!」

 

 エレアが、なんか逆再生みたいにもとに戻っていく。

 最終的にゼリー状態も解除され、お肌がゼリーみたいにツルツルになるだけで終わった。

 もはや何でもありだな。

 

「どうしてここに!?」

「自力で脱出を!?」

「いやまぁ、自力で脱出したんだけど、店長は毎回それを言わないと気がすまないの?」

 

 気がすまないです、すまない。

 

「私達もいるわよぉ!」

「この声は!」

 

 続けて、シルバーさん、ゴールドさん、そしてハクさんが同じくスーパーヒーロー着地。

 四人揃うと、なかなか壮観だ。

 

「ごめんなさい、突如として空飛ぶ怪獣系モンスターにファイトを挑まれてしまったの。その時に怪盗ヤト衣装で戦ったから、着替えが間に合わなかったわ」

「代わりに、次元の歪みを利用して、ここまでショートカットできたのは良かったんですけどね」

 

 ハクさんの言葉に、ここまでの経緯を納得する。

 空中でロストした怪盗マンハッタンのジェット機は、たまたま空に浮かんでいる秘境に迷い込んでしまったようだ。

 そこでモンスターを撃退し、次元の歪みを利用して転移する形でここまできた、と。

 ちょっと何言ってるかわかんないですね。

 さて。

 

「うううう、心配したんですよ、ヤトちゃあん!」

「私が、二人の結婚式に遅れるわけないじゃない。まぁ、そりゃあ少し無茶をしたけど、この通りちゃんと間に合ったわ」

 

 ヒシっ、と二人が抱き合っている。

 エレアが微妙に潰れそうだが、大丈夫か?

 そのことに気付いたのか、ヤトちゃんも苦笑しながらエレアから離れる。

 

「……今回、こうして二人の仕事について行って思ったの。ヒーローの仕事は、それは意義のある仕事だって」

「ヤトちゃんは、これからヒーローを目指すんですか?」

「どうかしら。同時に、こうも思ったの」

 

 ヤトちゃんは、周囲を見渡して頷く。

 辺りには、ヤトちゃんたちを心配して、結婚式の出席者が顔を見せていた。

 

「この世界には、色んな人がいるわ。私は、多くの人達と関わってきた。闇札機関、蒸気世界、そして店長のお店」

「その二つと一緒に挙げてもらえるのは、光栄だな」

「思ったのよ、私はそんな人達の助けになりたい。でも、人々の感謝が欲しいわけじゃないの」

 

 そして、その視線が俺に向く。

 

「陰ながらに人々を助けて、彼らが安寧を得られるならそれが一番の報酬。それが、闇に生きる人間らしいって思わない?」

「怪盗としては、どうなんだろうなって気もするけどな」

「あはは、そうね。……でも、私がこう思うようになったのは、貴方のせいよ、店長」

 

 俺のせい、と言われたら。

 まぁ、流石に疑問に思わない程度に、俺はヤトちゃんの人生を変えている。

 

「あの日、店の前で貴方と出会った時。私は貴方みたいな生き方をしたいと思うようになった。店長と怪盗は、少し生き方が違うけど……人々の安寧を陰ながら祈るのは同じじゃない?」

 

 そういうヤトちゃんの顔に、疑問はなかった。

 疑う余地もなく、自分というものを築いている。

 それを表明する場として、俺達の門出はあまりにもふさわしすぎる。

 俺とエレアは、顔を見合わせてから笑みを浮かべてヤトちゃんの言葉を待った。

 俺がヤトちゃんの背中を押したように、エレアはヤトちゃんにとっておそらく初めての親友だろうから。

 

 

「私、怪盗になるわ。ロマンにあふれていて、最高でパンクで、誰かを救う。そんな怪盗に」

 

 

 ヤトちゃんの物語は、一度幕を閉じ。

 そしてこれから、再び幕を開ける。

 きっと、これからも彼女はパンクに生きていくだろう。

 彼女が盗むのは、数多の悲劇。

 誰かを悲しませる、刃と涙だ。

 

「うふふ……もしかしたら、何れ娘とヒーローとして対峙する時が来るかもしれないわね」

「その時はきっと、お互いの正義がぶつかり合う時だろう。譲れないものがあるなら、ファイトでそれをぶつけ合うまでさ」

 

 ご両親も、そんな風に言葉をかわす。

 かくして、ヤトちゃん達は間に合った。

 これで結婚式に煩いなし、というわけだ。

 

「ところで、なぁ天の民」

「ん? どうしたんだレンさん」

 

 と、そこで。

 何やらレンさんが声をかけてくる。

 ちょいちょいと、服を引っ張られた。

 

「急いで来たから、夜刀神やその両親が着替えられないのはいいだろう」

「うん? まぁ、そうだね」

 

 そして、ビシッとある人物を――よくよく考えれば、今回ほとんど喋っていない彼女を指さした。

 

 

「アレはダメだろ、月兎仮面は」

 

 

 こそこそと、会場入りしようとしていたハクさんを。

 ビクッとハクさんが震えてこっちを視る。

 

「だ……だめですか」

「……まずい、結構真面目な場で月兎仮面だったこと多かったから、違和感なくて気付かなかった」

「馬鹿ものぉ! 白月もダメに決まっているだろう! というか貴様のそれは衣装チェンジが可能な代物だろ! せめて元に戻れ!」

「く、くううううう!」

 

 かくして、ハクさんが月兎仮面で結婚式に出席することだけは免れた。

 ……なんというか、ハクさんは多分、今後もずっとブレずにハクさんなんだろうなぁ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。