カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
挙式が終われば、披露宴だ。
そしてその合間に、カードトスは行われる。
新郎新婦と、出席者の代表が行うファイト。
それは新郎新婦の今後の門出を祝うと同時に、新郎新婦にとって「決着を付けなくてはいけないファイト」の舞台を用意するためのものでもある。
それ故に、カードトスを受け取るのは自然と新郎新婦にとって因縁の多い相手。
決着を付ける相手が選ばれる。
俺達の場合は、言うまでもなく――
「私だよ! パパ、ママ!」
エレアの投げたカードを手にしたミチルが、宣言する。
このとき、新郎新婦、どちらと戦うかを決定するのはカードを受け取った人間だ。
「私が選ぶのは……パパだよ。ごめんねママ、私、どうしてもパパと戦いたい理由があるの」
「構いませんよ。私も、私が思う最強ファイター二人の戦いが、見てみたいです」
――俺と戦いたい理由、か。
ミチルは、俺とエレアの結婚式を見届けるためにここへ来た。
だけど、そこにミチルの狙いはあるのだろうか。
確かに俺達が結婚式を行えなかったのは、一つの心残りではあるだろう。
でも、その時のミチルはまだ赤ん坊で、当時のことを記憶しているわけではない。
だから、それ以外にも。
もう一つ理由があるのではないか、というのは当たり前の話。
俺と戦いたかったから、か。
「……ダメかな? パパ」
「いいや、わかったよ、やろう。……ミチルがそうまでして、今の俺と戦いたい理由。ファイトの中で聞かせてくれ」
「…………うん!」
かくして、俺とミチル。
最後のファイトのマッチングが、決まった。
その後は、披露宴だ。
ケーキ入刀や、お色直し。
様々なイベントを経て、やがて終わっていく。
俺達のファイトは披露宴が終わった後に行われる。
ファイトを行う場所は、夫婦によって変わるそうだが、俺達の場合は最初から決まっていた。
カードショップの店長が行う結婚式のファイトで、店舗を使わない理由はないだろう。
かくして、披露宴が終わった後はそのまま”デュエリスト”へ移動となる。
移動は男女別れてバスを利用する。
結果として、俺とエレアは一旦お別れ。
そして、バスの中で――当然と言えば当然か。
「結婚おめでとう、ミツル」
ダイアと隣同士になった。
「ありがとう、トウマ」
別に、店長とダイア、という呼び方でもいいのだろうが。
ダイアが俺をミツルと呼ぶなら、トウマと返すのが自然だろう。
「なんだか、不思議な気分だな。俺達が出会った頃は、まだお互い中学に上がったばかりだったというのに」
「そうだな。私も、自分のことを”私”と呼んで、体面を気にするようになるとは思わなかった」
「プロで、チャンピオンだからな。窮屈かもしれないが、そんなもんだろう」
無論、それも楽しいのだが、とダイアは続ける。
「チャンピオンとして、多くの人々の期待に応えるのは栄誉なことで、私にとっては最高の瞬間だ」
「そりゃそうだろうな」
「だが、だからこそ思う。人は変わっていくものなのだ……と」
そう、告げて。
それからダイアは、俺を見た。
「お互いに、これからも多くの変化を受け入れて、進んでいくのだろうな」
「それでいいんじゃないか? 俺もトウマも、お互いが成長しなくなるのは嫌だろう」
「もちろんだ。私にとってミツルは最強のライバルであり、目標だ」
俺もそうだ。
ダイアこそが、俺にとって最も越えなくてはいけない壁。
だけれども、今回の相手はダイアではなかった。
「――ミチルくんは、強いぞ」
「解ってる」
棚札ミチル。
俺とエレアの一人目の子どもで、俺という存在の因子とデッキを色濃く受け継ぐ存在。
全力のぶつかりあいで、ダイアに勝利してしまうほどの強者。
「相手にとって、不足はないさ」
だからこそ、倒したいと思う相手。
なによりも、だ。
「なにせミチルの相棒は――この世界のどんなカードよりも、強いんだから」
相手は、ミチルだけではない。
<極大古式聖天使 エクス・メタトロン>。
俺の相棒にして、最強のエースが立ちはだかる。
これほど、興奮する相手が他にいるだろうか。
「カード、か」
そんな俺の言葉に、ダイアが反応する。
その言い方は、恐らく。
「終焉の問いかけ、か?」
「……そうだな。”カードは何故存在するのか”。実に、難しい問いかけだ」
「トウマは、どう思う」
父さんへ投げかけた問いと、同じ問いをダイアにも投げかける。
少しの沈黙。
言葉を選ぶようにして、一歩一歩慎重に、答えを口にする。
「私は……私達の手元に、カードが存在するからだと思う」
手元に、カードがあるから。
「単純な話だ。カードがあるから、私達はそれを手に取る。それが自然だから、そうする」
世界が最初からそうであったから。
それが当たり前のことだから。
ダイアはカードを手に取るのだと語る。
「
それは、きっと父さんの答えと本質は変わらない。
カードが共に在って欲しいという願い。
祈り、そして希望でもある。
「――どうやら私の答えは、ミツルの答えとは少し違ったようだな」
やがて、ダイアは俺の顔を見てそういった。
俺が言葉にするまでもなく、俺の答えを理解したからだろう。
「ミツル。君はきっと、”特別”なのだろう。私達とは違うものを見ていて、それ故に多くのことを成し遂げられる」
「どうかな。俺は事件に関われない体質なんだぞ?」
「だとしても、ミツルは誰よりもすごいと、私は知っているよ」
特別。
たしかに俺は、人とは少しだけ違うところがある。
前世の記憶、なんて。
そんな物がある。
だから、俺とダイアの答えは少しだけ違う。
けど――
「俺とダイアの答えは、同じようでいて少し違う。でも、その少しは決して大きな違いではない。何より――」
やがて、バスは停止する。
既にエレアとミチルを載せた女性陣バスは、到着していた。
バスが停止した場所から、少し歩けば俺の店がある。
「――俺もトウマも、カードゲームが好きって気持ちに、変わりはないさ」
「そうだな」
バスを降りる時、ダイアは言った。
「負けるなよ、店長」
「ああ――ダイア」
ミツルから、店長へ。
ダイアが俺のことをミツルと呼ぶ時は、過去を思い返す時だ。
そして、思い返した過去を懐かしみ――俺の背中を押すためでもある。
さぁ、すべての準備は整った。
「――待ってたよ、パパ」
ミチルは、店の入口で俺を待っていた。
かつて、俺は店の入口でエレアと出会い、そしてエレアに告白をした。
店に入るためのこの場所は、俺にとって運命を始めるための場所でもある。
そして今回。
そんな俺にとっての運命の場所が――運命を終わらせるための場所になった。
これから、俺とエレアは一つの運命を終わらせる。
物語にピリオドを打つように、最後のファイトに挑むのだ。
「待たせたな、ミチル」
向かい合う俺達を、多くの人が見守っている。
そして、エレアも。
「中に入ろっか。パパ」
「そうだな。……そこで、決着をつけよう」
カードショップ”デュエリスト”。
そのイグニッションフィールドが、俺達の決着の舞台だ。
「――私ね? 今日、この日のために最高のデッキを作り上げたと思ってる」
「俺もだ。……俺は、この日のためだけのデッキを組んだ。多くの人の力を借りて」
だから、断言しよう。
「今の俺は、多分、世界で一番。過去と未来と現在、あらゆる時間軸の中で、一番強い」
お互いに、デッキを構える。
「<メタトロン>が隣にいなくても?」
「<メタトロン>が目の前にいるから、だ」
かくして、すべての準備は整った。
もはやこれ以上の言葉はいらない。
ただ、魂に火を灯すだけでいい――!
「イグニッション!」
「イグニッションだよ!」
さぁ、最後の戦いを始めよう!