カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
父さんは言った、俺がカードを好きだからだ、と。
ダイアは言った、俺達の手元にカードがあるからだ、と。
俺の知る中で、最もカードと縁遠い人の答えも。
俺の知る中で、最もカードと近しい奴の答えも。
本質的には同じものだ。
そこにカードがあるから、という。
それが自然だから、という。
カードが隣にあることが当たり前の人の答え。
勿論、俺だってそう思う。
だが、同時に
それはきっと、同じようでいて――少しだけ違うものだ。
「――<終焉の聖天使 メタトロン-デウス・エクス・マキナ->で、<帝国革命の開闢者>を攻撃!」
「<帝国革命の開闢者>は、戦闘で破壊されず相手のエフェクトの対象にならない!」
「それでも、素の攻撃力は<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->のほうが上だよ!」
<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->には相手モンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加算するエフェクトがある。
しかしこのエフェクトは、対象を取るエフェクト。
常時発動で対象に取れない<開闢者>には効果を発揮しない。
「もう、お互いのライフもほとんどない! このまま攻撃力を加算して押し切る! 私は<終焉猛追>を発動! これで攻撃力をアップ! さぁ、これが通れば私の勝ち!」
攻撃力が一気に上昇する。
ミチルの言う通り、お互いライフはほとんどない。
この攻撃が通れば、俺の負けだ。
「カウンターエフェクト! <帝国最前線>を発動! フィールドの『帝国』モンスターの攻撃力を上げて、一枚ドロー!」
「<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->がいる限り、フィールドで発動したカードのエフェクトは無効化されるよ!」
「当然知っているさ! だから俺は<古式聖天使 スパークス>を手札から捨てる!」
このカードは、自身とフィールドのカード一枚をセメタリーに送ることで発動するカード。
これによりセメタリーに送られた<帝国最前線>は<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->の影響を逃れる。
「やっぱり、パパもそうやって<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->をすり抜けてくるよね!」
「<スパークス>のエフェクトで、更に攻撃力をアップ!」
「ライフを削り切れなくしてきたね……! でも、行け! <メタトロン>!」
<開闢者>の戦闘破壊耐性は、常時発動エフェクト。
この激闘を、耐えて見せた。
だがそれでも、激しい攻防の中に疲弊が見える。
何より――
「これでも終わらないなら、しょうが無いね。私は<終焉死神>を発動!」
「……モリアーティより『終焉』を上手く扱ってないか?」
「そりゃあそうだよ、『
姉とはなんと傍若無人なものなのか。
まぁ、怒らせると勝てなくなる辺り、パワーバランスって感じはするが。
「このカードのエフェクトで『終焉』モンスターの戦闘終了時、相手のモンスター一体か手札一枚を選んでセメタリーに送るよ」
「……さては、選ぶのに対象に取らないエフェクトだな?」
「どうやって見えない手札を対象に取るの? まぁ、今回は<開闢者>をセメタリーに送るけどね!」
世の中には、カードを『選ぶ』はずなのに、対象に取らないカードが存在する。
理不尽極まりないが、それもまたカードの効果だ。
<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->が死神の手を伸ばし、<開闢者>をセメタリーへと送ろうとする!
「セメタリーに<開闢者>が送られた時、セメタリーの『帝国』モンスターをサモンする! 離脱しろ、エレア!」
死神の手から、炎の天使が白い少女を庇う。
両者は頷きあって、白い少女がその場を離れた。
離れた白い少女は実体を持って、<大古式聖天使 デュエリスト・エレア>へと変化する。
「倒しそこねちゃった……ターンエンド!」
「……俺のターン!」
カードをドローし、思案する。
先程のターン、何とかミチルの猛攻を凌ぐことはできた。
だけど、切り札であった<開闢者>は敗れた。
逆転の手はある。
それは、とても、とてもか細い可能性。
だけど、やるしかない方法だ。
そして――
「……なぁ、ミチル」
「何かな? パパ」
――俺は、この長い長い旅の果てに。
終焉の問いへ、俺の答えを記さなければならない。
「ミチルは、カードゲームは好きか?」
そんな問いを、ミチルにする。
「……好きだよ、好きに決まってるじゃん! ファイター同士が向かい合って、競い合って。高めあって、笑い合う。こんな楽しいゲームが他にある?」
「そうだな、俺もカードゲームは大好きだ。ずっと、ずっと昔から」
それは、俺がこの世界に転生する前から、ずっと。
「……始まりは、憧れだったんだ。カードの中のモンスターと、それを操る者たちへの」
テレビの向こうで、漫画の中で、彼らは巧みにカードを操った。
俺も、そうなりたいと思った。
だからカードを手に取った。
「初めて手にしたカードは、本当になんてことのない普通のカードで、特別なものなんて何もなかった。でも――俺にとってはどうしようもなく、そのカードが輝いて見えたんだよ」
そんなカードを、思うがままに操ってみたいと思ったから。
俺だけの最強のデッキを、作ってみたいと思ったから。
俺はカードゲームをプレイした。
それは、カードゲームが好きな人間なら誰もがもってる当たり前の感情で。
その時の俺に、特別なものなんて何もなかったんだ。
――ダイアは俺を特別だという。
他の誰とも違う、俺だけが見ている物を、俺は見ていると。
でもそれは――ちょっと違うんじゃないかと俺は思う。
「だから、俺にとって特別なのは、俺じゃなくてカードなんだ。俺がカードを、特別なものだと思ってるんだ」
――やがて、気がついたら俺はこの世界にいた。
カードゲームで世界が滅ぶ世界。
前世の感覚で考えればあまりにもとんでもない世界だ。
だけど、俺はそんな世界に俺の居場所があることが、嬉しくて、嬉しくて仕方がない。
だってそうだろ? 特別だと思っていた世界に、足を踏み入れることができたんだから。
そんな特別な世界で、俺の前には幾つかの選択肢があった。
最強を目指し、プロとして活躍する道。
悪を倒し、世界に平和をもたらすエージェントとしての道。
そして――人々を導き、カードの楽しさを伝える店長としての道。
その三つの選択肢なら、俺が迷う理由はないよな。
だって俺は、カードが特別なものであるということを知っている。
それを、多くの人に知ってもらいたいと思ってる。
「……この世界に、どうしてカードは存在するのか」
その問いに、今俺は答えを出すよ。
エレア、ミチル、ダイア、みんな、そして、終焉。
俺の答えは――
「それは、カードがあれば、世界が輝いて見えるから」
――俺の世界に、カードが輝きをくれたから。
それが俺の考えるカードが世界に存在する理由であり――
「それが俺の……”店長”を目指した理由だからだ……!」
さぁ、決着をつけよう。
この長い長い旅に、ミチルとの戦いに。
俺の願いに!
「<大古式聖天使 デュエリスト・エレア>のエフェクト! デッキの一番上のカードをセメタリーに送り、カードを一枚破壊する!」
「……<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->がフィールドにいる限り、発動されたエフェクトは無効化される!」
「だが、
この状況をひっくり返す、唯一のカード。
この長い長い戦いの中で、俺が使用してこなかったカード。
祈りを、共に戦い続けてきたデッキに託して。
俺はカードを一枚、引き抜いた。
「コストとしてセメタリーに送られた、<
「……このタイミングで、<古式契約>ですか!」
隣に立つエレアが驚いたように叫ぶ。
そうだ、このカードは以前、ダイアとの戦いで使用したカード。
「俺が呼び出すのは……<極大古式聖天使 アークロード・ミカエル>!」
「ここで、<ミカエル>!? でも、<ミカエル>じゃ私の<メタトロン>は倒せない!」
「――それは、どうかな!」
「……っ!」
さぁ、最後の攻防だ。
ここで、全部を終わらせる!
「俺は<アークロード・ミカエル>で<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->を攻撃!」
「迎え撃って<メタトロン>! そしてそのエフェクトで、<アークロード・ミカエル>の攻撃力を自身に加える!」
「この瞬間! <古式契約>を発動!」
――<古式契約>。
そのエフェクトは、相手フィールドのカードすべてのエフェクトを無効にし、自分フィールドにいる二体のモンスターの名前を同じにすること。
当然、それは<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->の無効エフェクトで妨害されるが――
「ここで、<帝国革命の開闢者>最後のエフェクト! フィールドのカード一枚をセメタリーに送り、自身をデッキに戻すことで――フィールドのモンスターが二体いる時、一体にもう一体の攻撃力を加算する!」
「なっ――!」
これにより、<アークロード・ミカエル>の攻撃力に<デュエリスト・エレア>の攻撃力が加算された。
<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->が攻撃力上昇エフェクトを使えなければ、<アークロード・ミカエル>が<メタトロン>を上回る。
「そして――もはやお互いのライフは風前の灯。この攻撃が通れば、俺の勝ちだ!」
<アークロード・ミカエル>に<デュエリスト・エレア>が力を託す。
<古式契約>によって、自身のエフェクトを縛られた<メタトロン-デウス・エクス・マキナ->に対し、トドメの一撃を叩き込むのだ。
「……っ! <メタトロン>ッ!」
「行け――――ッ! <ミカエル>ッ!」
ミチルの叫びが、俺の咆哮が響く。
勝敗の行方は――――