カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「全然出ませんわー!」
「でマセンワー! ピガガピー!」
その日、カードショップ”デュエリスト”の店内にて、一人の少女がカードパックを剥いていた。
テーブルにすごい数のカードが並んでいた。
パックをえらい勢いでムキムキした結果がこれだ。
「そろそろ休憩したほうがいいんじゃないか、アロマさん」
「師匠店長様! そうしたいのはやまやまなのですが……」
「デスが……ピガガピー」
パックを剥いているのは、アロマさんだ。
その横で、メカシィがピガガピーしている。
俺が声をかけると、アロマさんは体を伸ばしてから難しい顔をした。
「まだカードパックは6カートンございますわ! テンポよく剥いていかないと終わりませんわー!」
「どうしてそんなに買ってしまったんだ……」
アロマさんの隣にめちゃくちゃでかい箱があると思ったら、中には無数のカードパックが……!
さっきから6カートンくらい剥いてるはずなんだけど、それでもまだ半分という衝撃である。
「それもこれも、新規イラストの<薔薇楼の茨天使>が1カートンに1枚も入っていない可能性があるのがいけませんわ!」
「極悪封入率デス! ピガガピー!」
アロマさんは、新規イラストの<薔薇楼の茨天使>を求めてカードを爆買いしていた。
最初から絶対に手に入れるという心持ちでもって、俺の店でこの12カートンを予約しているのだ。
メカシィはそんなアロマさんの心意気に感服し、開封後のパックを食べる係に就任していた。
それがメカシィのエネルギー源でもあるからな。
「しかしメカシィ、すでに6カートン分のパックを食べているわけだが、そろそろ限界じゃないのか?」
「だいぶ入ってますが、まだ行けマス……そんな感じのお腹の空き具合デス。ピガガピー」
「それは結構限界が近い空き具合な気がするが……」
まぁ、本人がいけるというなら、任せてみよう。
最悪ここで食べなくても、後で食べればいいしな。
「というわけで師匠店長様! このアロマ! 時代の徒花として見事散ってみせますわー!」
「散っちゃダメだろ。生きてくれ」
「はいですわー! 参ります!」
「ピガガピー!」
アロマさんが、勢いよくカードボックスを開封していく。
メカシィ印のハサミを使って、チョキチョキとパックを切って中身を取り出すのだ。
なんというか、こういう光景を見ているとカードゲーマーって感じするよな。
カード至上主義なこの世界でも、パックを剥く時の楽しさは変わらない。
やっぱりパックは剥いてこそだよ。
とか思っていると。
「このボックスもでませんでしたわー!」
「次に参りまショウ。ピガガピー」
アロマさんが、残念そうにうなだれる。
ここに至るまで、アロマさんが購入したパックに存在するはずの最高レアを一枚も引いていない。
数カートンに一枚という極悪すぎる封入率に加えて、運が悪すぎてその一枚すら引き当てられていないのである。
そして恐ろしいことにこの最高レアのカード、二種類あった。
すでに6カートンが空振りに終わっている状態で、残りのカートンの中に最高レアが入っていたとして。
そこで二択を外したら、まさに地獄。
うーむ、雲行きは怪しいなぁ。
「このカートンもだめですわー!」
「残り5カートンデス。ピガガピー」
「ひりついてきましたわね……!」
嫌なひりつきだなぁと思うものの。
現状、俺にできることはない。
「こうなったら宗教に頼りますわー!」
「まぁ、ガチャ回すなら宗教には頼るよなぁ」
誰だって頼る、アロマさんすら頼る。
オタクの悲しきSa・Gaというやつだ。
それはそれとして、アロマさんの取った宗教は――
「師匠店長様ぁ、師匠店長様ぁ、どうか加護をくださいませぇ」
「俺かぁ」
俺を拝むことだった。
それって効果あるのか? と思うものの。
転生者だし、天使のカードとか使ってるしあるのかもしれない。
……いやまてよ?
「……アロマさん、俺を拝むのはまずいかもしれない」
「さー次いきますわー!」
しまった、もうすでに開封を始めている。
すぱっとハサミで開けられたパックからは、あるカードが飛び出してきた。
このパック、最高レアは<茨天使>の他にもう一枚存在する。
その一枚は――
「み、ミっちゃん様ですわー!」
<極大古式聖天使 クリスタル・ミチル>である。
そう、ミっちゃんことうちの娘のミチルだ。
その絵違いカードが最高レアだった。
アロマさんにとっては、親友であるキリアさんの親友、つまりマブ。
そこに加えて俺を拝むことで運命力は<ミチル>に傾いてしまった。
とはいえ、もし俺を拝まなかったら結局最高レアそのものが出ていなかっただろうから、方向性としては間違っていないのではなかろうか。
「……師匠店長様、絵違い<茨天使>もってません?」
「最高レア同士の交換を目論んだか。残念ながら持ってないぞ。そして、俺はこの<ミチル>をすでに十枚持っている」
「ですわぁ」
そしてなぜかエレアは一枚も当たらなかった。
現在、店の二階ではエレアがアロマさんと同じ状態に陥っているはずだ。
どうしてミチルはエレアに対してこんなにツン期なんだろうな……?
前に本人に聞いたら、自分でもわからないと言っていた。
謎である。
「気を取り直していきますわー!」
結局、この場で頼れる宗教は他になかったらしく。
アロマさんは無心でカードを剥き始めた。
すでに<ミチル>が出てしまっている八カートン目はもちろん、九カートン、十カートンとどんどん<茨天使>が出ないまま進んでいってしまう。
段々とアロマさんの眼が濁り始めてきていた。
アレだけ快活なアロマさんが、こんなに濁ってしまうなんて……
「今のわたくしは、病弱だった頃のわたくしと同じメンタリティですわ……」
「そ、そんなにか……」
なんというかこう、触れないでおこうという気持ちになる。
そしてそれとは別に、もう一人この場で修羅場を迎えているモノがいた。
いや、人ではないのだが。
つまり、メカシィである。
「ぴ、ピガガ、ピー」
「メ、メカシィ……そろそろパックを食べるのはやめたほうがいいんじゃないか? だいぶさっきから手の進みが遅いぞ」
「ピガ、ピガ……」
メカシィが、いよいよ満腹で限界を迎えていた。
さっきからほとんど喋ることができなくなってしまっている。
いや、よくよく考えると何なんだこの機能。
そんな満腹感まで再現しなくていいんじゃないか、ファイト工学研究所の皆さん!
そうこうしているうちに――
「……これが、最後の1カートンですわ」
「ピガガ」
アロマさんが、シリアスすぎる顔つきで宣言し。
隣でメカシィがうめいた。
いや、そうではない。
メカシィが――
「ピー!」
光った!?
突如として光ったメカシィが変形を開始する。
理由もわからず周囲がそれを見守るなか、ガションガションと変化したメカシィは――
「メカシィ、ビルドアップモード! ビガガビー!」
ムキムキボディのメカに変形した。
質量がおかしい!
比較的小さいはずのメカシィが、俺よりでかいサイズになっている!
研究所の人は、とりあえずムキムキにして大きくすれば面白いと思ってないか!?
「パックの食べ過ぎにより新モードの開発に成功しました。ビガガビー!」
「自分で開発したのか……?」
「ビガガビー」
「なんか言ってくれ!」
メカシィが考えたのか!?
……割と考えそうだな。
じゃない!
「これより、新モードの新機能を開始します」
「新機能……?」
「応援モード、起動! フレ! フレ! アロマさま! ビガガビー!」
応援モードかぁ。
と、俺は思ったが、アロマさんにとってはこれは嬉しい応援だったようだ。
「メカシィ様……このパック開封に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。わたくし……まだ、やれる気がしましたわ!」
アロマさんの瞳に輝きが戻っている!
これは、行けるんじゃないか!?
そうして、アロマさんはハサミを振るい、パックを高速で開封していく。
ジョキン! パッ! 次! みたいな感じのテンポだ。
最終的に――
「……この輝き! 最高レア!」
枠が少しだけ光っているのを見て、アロマさんが目を見開く。
緊張の一瞬。
そして――
「…………知らないカードですわー!」
でてきたのは、見たことない『薔薇楼』のカードだった。
名を<薔薇楼の
おそらく、メカシィのパワーアップで新たなカードが創造されてしまったのだろう。
かくしてアロマさんは、感情の矛先を失い崩れ落ちるのだった。
――なお、エレアが<茨天使>を引き当てていたので、交換してもらっていた。
うっかり朝七時に更新できませんでしたが、夜七時に更新できたのでセーフな番外編二本目です。
メカシィのデザインは、個人的にはオービタル7のイメージでした。
メカ沢イメージの人が多いですが、遊戯王のマスコット系ロボだとオービタル7が一番印象に残ると私はおもいますよ!
まぁ、更にシャープになりましたが。
【挿絵表示】
というわけでこちら、二巻の口絵になります。
メカシィがショップにやってきた時ですね、エレアは可愛いですね。
販売は5/30日、予約受付中です!
【Amazon】様
Amazonにて表紙等公開されています!
つまりすでに最後の口絵も見れるわけですが、こちら書き下ろしの口絵となっています。
詳しくは次回、お楽しみに!