カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「――店長、私。もっともっと脱ぐべきだと思うんです」
「そうかそうか、何を言っているんだ痴女さん……じゃなかったハクさん」
店にやってきて開口一番、痴女は俺にそう告げた。
なんてことだ、人のいる場所で口に出していいたわ言じゃないぞ。
まぁ、今この場にいるのはアロマさんをはじめとした比較的年齢層高めの人たちで、ネッカ少年達の姿はないからまだいいんだけど。
いや中学生のいる場所で痴女発言はダメだろ……
「あ、ああいえ、実際に脱ぐわけではなくてですね。一肌脱ぐといいますか……こう、もっと頑張るべきといいますか……」
「意図してそういう言い回しをしたことは事実だよな?」
「はい……」
というわけで、ハクさんがなにやら相談にやってきた。
俺としては、お客の相談に乗る事に否やはない。
店長の役目だからな。
とはいえそれが、無茶な露出に関わるものだったらどうしようもないんだが。
「なんといいますか……時間が足りないんですよ」
「時間が足りない?」
「はい。学校に通って、部活をして、バイトをして、闇札機関の活動もあって、更には月兎仮面……どれだけ時間があっても足りません!」
「それは確かに足りないだろうけどさ」
ちなみに比率は学校1、部活1、バイト1、闇札機関1、月兎仮面6だそうだ。
痴女の比率が高すぎる!
「要するに、時間を圧縮したいんだろ? それだったら俺よりレンさんの方が頼りになると思うんだけど」
「それなんですけど……私のやってることってどれも時間を圧縮できない内容なんですよね」
「それは確かに」
基本個人の自由でやっている月兎仮面を除けば、学校は朝から夕方まで通わなくてはいけないし、部活も拘束時間がある、バイトだってそう。
時間にある程度融通が利くのって闇札機関の活動くらいじゃないか?
レンさんの場合は、学校以外はどれも本人の作業速度が早ければ時間を圧縮できる分野だ。
経営とか、組織運営とか、直接自分の目で確かめなくてもいい部分は本人次第でいくらでも圧縮できる。
そしてその圧縮技術こそがレンさんの天才性。
となると、あまり参考にはならないよなぁ。
「それに私、周りからは真面目だって言われるんですけど、個人的にはそこまで真面目なつもりはないんです」
「というと?」
「何気ない時にスマホに気を取られたりしちゃいますし、ここで脱いだらどうなるんだろうって妄想に時間を使っちゃったりもしますし」
「前者はともかく後者は重症だな……」
どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。
トンデモ痴女診療所とか俺には無理だぞ。
「とはいえ、それに関してはしょうがないんじゃないか? 人間、やりたいこととかやらなくちゃいけないことだけをやってても、疲れるだけだろ」
「それはまぁ、そうなんですけど」
「ちょっとくらい無駄なことにうつつを抜かして、そのせいで時間に追われるくらいがちょうどいいんじゃないか?」
仮にどれだけカードが好きな人間でも、カードのことだけを考えていられるわけではない。
俺だって、デッキを組んでいたら集中力が切れてスマホに意識を向けたりする。
そういう時間があっても、別に問題はないと思うけどな。
やるべきことをやって、今の自分に不満がないならそれが一番だ。
「でももっと……私は脱ぎたいんです!」
「本性を現したな痴女め。すでに日常の六割を月兎仮面に費やしているのにまだ脱ぎ足りないのか」
「はい!」
なんて人だ。
というか、そういう意味ならスマホに逃避するのはともかく、脱いだらどうなるかと妄想するのは月兎仮面の範疇じゃないか?
さて、何にしても相談は相談だ。
俺はこの相談に、何かしらの返答をしなくちゃいけない。
カードショップ店長として。
え、こんな相談に?
「一応、解決策はある」
「あるんですか!?」
うむ、あるのだ。
しかしこの解決策、抜本的な解決にはならないというか。
また別の問題が発生するだけになる可能性が高いので、それをハクさんに知ってもらうため話すのである。
「単純だ。カードを作っちゃえばいいんだよ」
「それ絶対単純じゃないですよね」
「まぁ聞いてくれって。カードってのは人の思いで生まれることもある。ハクさんの脱衣に対する思いが溢れれば、自然とそれがカードになることはあるだろ」
「……あるかもしれません」
かもしれない、ではなくある。
まず間違いなく、ハクさんは何れ自身の痴女を抑えきれなくなってカード化してしまう。
結果、もう一人のハクさんとでも言うべきカードの精霊が誕生するのだ。
「すると、最初のうちはそのカードの精霊も、ハクさんの考えに同調してハクさんが時間を作るために協力してくれるはずだ」
「最初のうちは……?」
「でも何れ、それだけじゃ我慢が利かなくなる。思いが溢れて生まれたカードは暴走するものなんだよ」
今のハクさんは、その思いが暴走して形になりつつある段階だろう。
だからこそこうして俺に相談を持ちかけているわけだし。
とすれば、その後の展開も想像がつく。
「で、最終的にそのカードの精霊とファイトすることになる」
「よくある展開ですね」
「よくある展開だな」
週に一回くらいはありそうだよな、こういう展開。
いや週に一回も痴女が出現しても困るんだが。
「ただまぁ、そうなると最終的な結論はほぼ一つしかないだろ?」
「……そのカードの精霊の個性を認めて、一つの生命として扱うこと、ですか」
「正解。カードの精霊だって生命なんだから、使われてるだけってのはダメだろ」
それ自体は、別に何らおかしくない話だ。
話の流れとしては当然の帰結である。
が、それはそれとして――
「結局、私の時間問題は解決しませんよね」
「そう、その通り。俺がいいたいのは要するに、焦って解決しようとしても意味はないってことだ」
あくまで、俺は解決策の話をしたにすぎない。
その解決策を実行して、その後どうなるかという部分を説明しただけだ。
残念ながら、安易に事態を好転させる方法はないだろう。
「でもそれだと……結局最終的に私はこの思いをカードとして形にすることになると思いますけど」
「それはまぁ、そうだろうな」
「ヤトに妹ができたってすごくからかわれると思うんですけど」
「それは諦めてくれ」
現状、ハクさんの抱えている悩みが解決できるものではない以上。
その思いはどこかで爆発してしまう。
俺が事前に説明したところで、こればっかりはどうしようもないはずだ。
「ただまぁ、俺が話したことで心構えはできるだろ? もし仮にカードの精霊が生まれたとして、欲望のままにハクさんが精霊を”使って”しまったら」
「……絶対に、後悔してますよね」
「そういうこと。ハクさんって真面目だからな」
そして、脱ぎたいという絶対的な欲求に逆らえない人でもある。
そうなった時に、生まれたカードの精霊がたとえば――道具みたいな見た目をしていたら。
使わないとハクさんが断言できるか。
俺はできないと思う。
失礼ながら。
「わかりました、店長さん。相談に乗っていただきありがとうございます。気を引き締めて、ふんどしを履き直すつもりで頑張ります」
「どういう慣用句なんだそれは」
なんかこう、言わんとしている事はわかるけど、痴女の意識に侵食されて変な方向に行ってそうな感じだ。
ともあれ、俺としてはもう一つハクさんに忠告できることがある。
「それと、だ。ハクさん」
「なんでしょう」
俺は、視線をハクさんから店舗の方へと向ける。
お客さんたちがファイトをしているフリースペースの方だ。
そこでは――
「今の話、脱ぐとか脱衣とか痴女とか色々話してるのに、誰も気に留めてないぞ」
何事もなく、日常を送るお客さんたちの姿があった。
ようするに――
「!?」
「脱衣とは、効果的な場所で、満を持して行うことに……意味があるんじゃないか?」
「――――!!」
慎みをもつことが痴女の近道ということだ。
……俺は何で痴女に痴女の道理を話してるんだ?