カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
それは、店が開店する前のことだった。
俺が開店準備をしていると、エレアが何やらマントのようなものを羽織って二階から降りてくる。
今日のエレアは休みだから別に問題ないんだが、なんだそのプールに入る前の学生みたいな格好は。
「ふっふっふ、見ててください店長。新しい私の姿を!」
「お、おう」
何やらテンション高めにマントを脱ぎ去ったエレア。
そんなエレアの着ていた新たな衣装とは――
「……水着?」
「はい! おニューの水着です! 新作です!」
水着だった。
水着といえば、結構前に行ったドキッ! 水着だらけの水上ファイト大会!(健全版)を思い出す。
あの時に着ていた水着は、フリル多めのいつものエレアって感じの水着だったが。
今回はビキニタイプのシックな水着だ。
かっこいい紐を付けたら、ヤトちゃんが着そうなタイプの水着である。
「珍しいな、エレアがフリルのついてない水着を選ぶなんて」
「今の私はスーパーエレアなのですよ。おとなのれでぃとしてふさわしい格好をしなくてはなりません」
「そこでなぜおとなのれでぃをひらがなにする」
全然大人のレディになってないじゃないか。
まさに、将来的に三頭身になってしまう女の発言であった。
いやまぁ、そういうところが俺は好きなんですけどね?
「隙あらばのろける! 心の中だけで惚気けないでくださーい!」
「口に出さなくても伝わってるじゃないか!」
やんややんや。
何やらぶーぶーと文句を言うエレア(若干頭身が小さくなっている)の相手をしつつ、開店準備をする。
これがちょっと大人っぽい水着を見せつけてきた、二十代の人妻の姿か……?
ともあれ。
「にしても、なんだって急に水着を新調したんだ」
「なんでって……ノリに決まってるじゃないですか」
「ノリで水着を新しくするのか……そもそも、前に買った水着だって水上ファイト大会の時くらいしか着てないだろ」
「ドキッ! 水着だらけの水上ファイト大会!(健全版)です。二度と間違えないでください」
「お、おう」
何故かフルネームで大会名を呼ばせたがるドキッ! 水着だらけの水上ファイト大会!(健全版)のことはいいんだよ。
どうやら、何の影響か知らないがエレアは水着を新調したいというパッションだけで水着を新調したらしい。
なんのパッションだ、と思うものの。
まぁ、エレアが楽しそうならいいんじゃないだろうか。
「いやでも、やっぱり一回しか着てないのに水着を新調するのはどうなんだ?」
「いいですか、店長? ファッションっていうのはね……使い切りなんですよ」
「そ、そうか……」
ファッションって……難しいな……
男の俺には一生わからない世界だ。
「それでですね、てんちょー、どうですかぁ? おとなな私の水着はどうですか? れでぃですか?」
「何だその評価の求め方は。……似合ってはいると思うよ、というか俺は似合ってるとしか答えられないから参考にならんだろ」
「それもそうですね」
こいつ……
なんとなく色っぽいポーズを取って、「うっふーん」って棒読みで言ってきそうな雰囲気になったと想ったら、俺の言葉で即座にいつもの感じに戻りやがって。
「とりあえず、水着が似合ってる事はわかったから、一旦部屋に戻ってくれ。そろそろ開店なんだから」
「おーーーっと、ちょっとまってくださいよぉ。私がせっかく水着に着替えたっていうのに、そのまま部屋に帰すのはどうなんですか?」
「仕事前だぞ?」
「仕事前の今だからこそ、もっとかまってほしいニャン!」
ニャンってなんだ。
いやまぁ構えないことはないけどさ。
ほとんど開店準備は終わってるし、ファイト一回とか、それくらいなら問題はないんだけど。
「そうだ店長、イグニッションフィールドの普段使ってない機能を使ってファイトしましょうよ」
「普段使ってない機能?」
なんかそんな機能あったっけ?
俺は首を傾げながら、とてとてとフィールドの方へ向かうエレアを追いかけた。
空中に浮かぶパネルを呼び出し、なにやら操作を行っている。
「普段使っていない機能、その名も――ARビジョン機能!」
ぽちー! と叫びながら何か変なものを起動する雰囲気のエレア。
直後、イグニッションフィールドが光り、俺達の周囲の空間が変化する。
そこは一言で言えば、海の中。
様々な魚や植物が群生する、美しい海の景色が広がっていた。
「とまぁこのように、周囲の風景を変化させることができるわけです。どうでしょう、すごいでしょう」
「すごいのはすごいが……よく気づいたな?」
「少し前に、アップデートが話題になってたんです。だけどほら、ショップだとこういう機能ってあんまり必要ないじゃないですか」
確かに、カードショップにおいてイグニッションフィールドの存在意義は店の象徴であることだ。
店内に大迫力のファイトをお届けするのである。
このARビジョン機能が適用されると、外から中の様子が見れなくなってしまうようなのだ。
それでは、ファイトしたりパックを開封したりしながら、フィールドのファイトを楽しんだりできなくなってしまう。
これはあくまで、イグニッションフィールドを使ったイベント用って感じだな。
「というわけで、機能のテストってことでファイト一発! 行ってみましょう!」
「そんな元気の出るドリンクみたいな。……いやまぁ、こうやって水着を着て、海の中。雰囲気出されると俺もやる気になってくるけどさ」
「でしょうでしょう。今日こそ店長に一泡吹かせてやりますよ!」
海で泡を吹いたら死んでしまう気がするが、ファイトのお膳立てをされて盛り上がらないのはファイター失格だ。
俺の方は普段着なのがちょっと締まらないが、早速ファイトを楽しませてもらうとしよう!
「イグニッション!」
「イグニッションです!」
□□□□□
実は結婚してから、エレアの使うデッキが変化した。
ファイターとしても一皮むけた感じで、今のエレアはかなり油断できない相手である。
とはいえ、今回はなんとか俺が勝利したが。
「行け! <極大古式聖天使 レボリューション・メタトロン>!」
「どひーっ!」
エレアはなんか一昔前みたいな感じで吹き飛んでいった。
こういうところから、段々頭身が低くなっていくんだと思うのだが、本人はパッションに逆らえないらしい。
「ううー、あと一歩だったのに! 店長もしれっと新エース使うのずるいですよ!」
「ははは、エレアにも負けてられないし、他の奴らにも負けてられないからな」
というわけで、海中での水着ファイトは終りを迎えた……のだが。
ARビジョンの外に出ると、入口で何かすごい形相をしている人間がいた。
――痴女だ。
なにか、入口に顔を押し付けて大興奮といった様子でこちらを見ている痴女がいる。
隣ではヤトちゃんが、それをやめさせようとして腕を引っ張り、俺が現れたことで絶望顔を披露していた。
お疲れ様です。
「行かせてヤト! あの壁みたいなものの奥で、何か素敵なことが起きている気がするの!」
「だめよ姉さん! もう店長が外に出てきてるから! 素敵なこと終わってるから!」
聞こえてくる声をスルーしつつ、俺はちらりと時計を視る。
どうやらちょうど開店時刻のようだ。
気まずさを感じながらも、店の入口へと歩いて行って――
「……おはよう、ふたりとも」
「おはようございます店長さん! あの中では何が行われているんですか!?」
「お、おはよう店長」
大興奮のハクさんである。
ううん、教えるべきではない、ないと思うんだが……
「アレ、ヤトちゃんとハクさん、何やってるんですか?」
「――――!!」
「何やってるって聞きたいのはこっちよ、何で水着姿なの?」
エレアがARビジョンの中からにゅっと姿を現してしまう。
途端にハクさんが何やら大興奮、ヤトちゃんは呆れた様子でそれを見ていた。
そして、ARビジョンと水着ファイトの話を聞くと――
「――ヤト、私達もやりましょう」
「いや、水着ないけど」
「ここにあります!」
「あるの!? いや、そもそも前の水上ファイト大会の水着でしょ? 私、もうサイズ合わないわよ」
「ドキッ! 水着だらけの水上ファイト大会!(健全版)!!!!!!!!!!!!」
「エレアは何なのよ!」
何故か2人分の水着を取り出すハクさん、発作を起こすエレア、突っ込むヤトちゃん。
……どうやら、今日もカードショップ”デュエリスト”は、賑やかな日常を送ることになりそうだ。
なお、ARビジョンに関しては、今度夏になったら納涼水着ファイト大会を開催しようということになった。
まぁ、それ自体は妥当だな。
というわけで、ついに「カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている」の第二巻が発売になります!
【Amazon】様
いよいよ噂の水着回が皆様のお手元に!
というわけで、今回は水着のお話でした。
順番的には前回でもよかったんですが、メインがエレアだったので発売日の更新に。
さて、最後にお見せするのはカードリストです。
今回もカードリストあります!
収録されたのは<メカメカシィルダー 金メッキの騎士>、<薔薇楼の茨天使>、
そして<伝説の仮面道化 ヴォーパルバニー>と<極大古式聖天使 クリスタル・ミチル>です!
ミっちゃんが思わぬ所でイラストに! どんな感じかは書籍を手にとって確認してみてください。
今回お見せするのは<ヴォーパルバニー>、個人的に色々テキスト考えましたが、一番気に入っています。
【挿絵表示】
伝説って?
ああ!
というわけで書籍をよろしくお願いします!