カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
カードゲームに幽霊はつきものだ。
……ってほどつきものかどうかはしらないけど、まぁカードのモチーフとして幽霊はありふれている。
通年のTCGホビアニなら一回はホラー回があっても、そこまで不思議は無いのではないだろうか。
そして俺が生まれた世界は、割と何でもありの混沌とした世界観をしている。
「実は最近、このあたりに幽霊が出るみたいなのよ」
なんて話をヤトちゃんから聞いて、二人で捜索にでかける……なんてことが起こるくらいには。
「にしても、レンさんはともかくエレアまで来ないなんてな」
「割と意外よね、こういう捜索は好きな方だと思ってたんだけど」
時刻は真夜中、丑三つ時。
こんな時間に女子中学生と二人で出歩くとか、場合によっては事案もいいところなのだけど、なんか俺は何も言われない。
エレアからも「じゃあ行ってきてくださ―い」と適当に言われてしまった。
まぁ、信頼の証と思っておこう。
「曰く、自分が行くとギャグ回になって頭身が更に縮みそうだから、だそうだ」
「……もう何やってもギャグ回になるんだから、手遅れじゃないかしら」
レンさんが来ていないのは、レンさんが幽霊を大の苦手としているからだ。
しかしエレアがこないのは、ここ最近のエレア自身に問題がある。
最近、エレアはすっかりギャグキャラになってしまっていた。
気合を入れていないと徐々に頭身が縮むことを悩みとしており、イベントに絡むとそれだけで頭身が縮むので、最近は専ら家でゆっくりしていることが多い。
多分そのうち吹っ切れるんだろうが、まぁ今はそっとしておくのが良いだろう。
「そういえば店長って、普段どれくらい幽霊を見るの?」
「そんな俺が毎日幽霊を見るのが当然みたいに言わないでくれ」
「いや、だって店長だし……」
「……まぁ、週に一回は見かけるかな」
「やっぱり見てるじゃない!」
いや、普通だよ普通! この世界だと普通に見かけるんだって!
具体的には、幽霊系のモンスター!
この世界だと、普通の幽霊も存在するけど幽霊系のモンスターの精霊も幽霊扱いされるのだ。
「いやね、俺の店ってモンスターが定期的に寄ってくるだろ? だからどうしても幽霊を見かけがちなんだよ」
「……レンさんって、よくあの店の常連やってるわね」
「幽霊系モンスターだけが見れなくなるコンタクトを使ってるらしい」
「初めて聞いたわよ、そんな超技術」
「レンさんが私財を注ぎ込んで開発した特注品だからな……」
というか、ぶっちゃけ話見かける幽霊の半分はクロー少年のモンスターだ。
モンスターの大半がアンデッドに寄ってるからな、その中には当然、幽霊系のモンスターも存在する。
あとレンさんって、ファイト中は幽霊気にしないんだよな。
相手が幽霊モンスター使ってるから、って理由でプレイングが鈍ったりしないし。
常在戦場の構えなら、幽霊も怖くないのか、立体投影だからと完全に割り切っているのか。
「んで、このあたりに幽霊が出るんだったか」
「ええ、このくらいの時間帯になると、ぼんやり浮かんでるらしいんだけど」
さて、俺達がやってきたのは閑静な住宅街。
時間も時間なので人通りはまったくない。
街頭の灯りと月明かりだけが周囲を照らす、なんとも不気味な雰囲気の道を二人で歩く。
「ヤトちゃんって、本物の幽霊は見たことあるか?」
「んー、実は無いのよね。そもそも私って数年分の記憶しかないから」
「ああ、言われてみるとそうだな。それなら出会ったことがないのも不思議じゃないか」
この世界だと幽霊は珍しいものじゃないが、エージェントをしていてもガチ幽霊に出くわす機会は稀だ。
レンさんが管理している幽霊屋敷とかもあるにはあるが、そういう場所へ足を向けないとなかなか幽霊は現れない。
「基本的に、幽霊って幽霊が出る場所にしか出ないからな。今回みたいに普通の町中に出てくるのってかなり稀なんだよ」
「いわゆるホラースポットとか? 配信者が肝試しに行って、幽霊にファイトを挑まれるってよく聞く話だけど」
「そう、んで負けると肉体はカードにされて魂は幽霊の仲間入り、大本になった幽霊をファイトで倒さないと解放されない……まぁ、言ってしまえば一種のダークファイターだな、これ」
ホラースポットに突撃した配信者が犠牲になるホラーの定番は、この世界にも存在する。
しかし定番の中にファイトが混じってくるので、俺としてはあまり怖くない。
倒せばいいじゃん、とか考えちゃう。
「そういえば、ヤトちゃんってこのあたりには来たことあるか?」
「店長はあるの?」
「ああ、たまにな。何せここは――」
と、話が別の方向にそれた時だった。
――不意に、それは現れた。
ぼんやりと浮かぶ、人の霊。
足がなく、半透明で、生気を感じられない。
虚ろな瞳でこちらを見るのは――間違いない、ガチの幽霊だ!
……ん、だ、けども。
「……ねぇ」
「……なんだ?」
「――ネッカくんよね? この幽霊」
――俺達が見かけた幽霊は、ネッカ少年の生き霊だった。
「……なんで?」
「……さぁ」
何故? どうしてネッカ少年の生き霊がこんなところに?
いや、
それ自体はおかしくないんだが……どうして生霊になってしまったんだ?
とか、思っていると、ぽつりとネッカ少年の生霊が呟いた。
『――――ツッコミ、ツカレタ』
ああーーーーーーー。
俺とヤトちゃんは遠い目になった。
わかるーーーーーー。
「……店長はこっち側じゃないわよね」
「いや、俺だってこっち側のはずだ!」
俺だって、どっちかというとツッコミをいれる方だ!
自分でも無法を働くだけで!
ツッコミは内心でしかしないけど!
無法は目に見える形で働くけど!
……じゃあこっち側じゃないかぁ。
「ごめんなさい」
「わかればいいのよ」
という茶番はさておいて。
「つまり……普段の理不尽に遠い目になってたネッカ少年が、ついに疲れて生霊を生み出してしまうまでになった……と」
「労しい……でもなんでこんな所にいるのかしら」
「ああ、それはこの近くにネッカ少年の通う小学校があるからだな」
ようするに、ここはネッカ少年の通学路なのだ。
そう考えると、ネッカ少年がこんな普通なら幽霊が現れない場所に出現しても、おかしくはないのだが……まずそもそも字面がおかしいな?
「ええい、しょうがない。とりあえずファイトでネッカ少年の生霊を落ち着かせよう!」
「解ったわ! ……どっちがやるの?」
「ヤトちゃん……でいいんじゃないかなぁ。いや、俺がやってもいいなら、やるけど」
言い出したのはヤトちゃんだし……多分今回はヤトちゃんの回でしょ、きっと。
俺としては、幽霊のネッカ少年がどれくらい強いのか気になるから、やってみたいけどさ。
『――ファイト、ファイト、デッキジャンケン、ドロー、ドロー』
「……なんか、こうして相対するとちょっと労しさがすごいわね。小学生がしていい顔じゃないわよ、この疲れ具合」
「刑事さんみたいな疲れた顔してるよな……あの人も俺より年下なんだけど」
イグニスボードを構え、幽霊のネッカ少年と向かい合うヤトちゃん。
疲れ切った様子のネッカ少年もまた、イグニスボードを構える。
……と、そこで俺は気付いた。
「って、まずいな……このネッカ少年、モンスターになってるぞ?」
「え? ええと……つまりこのあと、このネッカくんがモンスターとしてサモンされるってこと?」
「まぁそうなる。……しかしそうなると色々大変なんだよなあ」
「何が大変なのよ」
「モンスターってことは、このネッカ少年はネッカ少年の生霊じゃなくて、
モンスターの精霊は、それ自体が一つの命だ。
その生命は当然尊重されるべきだし、ネッカ少年と眼の前のネッカ少年の幽霊はイコールじゃない。
「…………それ、とんでもなくややこしい話になるわね?」
「なるなぁ……」
世の中には、無数の派生カードが全部精霊になってしまったせいで、大変なことになってるモンスターもいるんだ。
<
水着とかクリスマス衣装とか、ありとあらゆるカードが精霊になってるからな。
そろそろ百体くらいになるんじゃないか?
というか、だ。
この話、ヤトちゃんも他人事じゃ済まないぞ。
「そして、アレだ。――いずれハクさんも、月兎仮面が独立したモンスターになりかねないぞ」
「…………」
「こないだそういう相談を持ちかけられて、その時は何とか説得したけど。多分……時間の問題だな」
「…………」
俺の言葉にヤトちゃんはしばらく沈黙し――
「イグニッション!」
現実逃避のごとく、生霊ネッカ少年とのファイトを開始した。
お久しぶりです、急に番外編です。
というのも、拙作「転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる」の書籍版が発売しまして、その宣伝に来ました。
イラストを本作のイラストレーターであるtef先生が担当してくださってますので、よかったら手にとっていただけると幸いです。
あと、今回のオチはこれで投げっぱなしなのでファイトシーンはないです。
霊媒師の書籍のリンク
【Amazon】様