カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「おーいミツル、いいもの持ってきたぞ」
「いいものぉ?」
ある日、俺の店に一人の不審者がやってきた。
ダイアである。
いつも通り不審者ルックだが、なんか今日はでかい荷物を抱えていた。
なんだこれ。
こう、ふた昔前の風呂敷だ。
どすんと地面に置かれる音は重量感を感じさせる。
やがて風呂敷が取り払われると、そこから出てきたのは、箱だ。
「どうだ、いいものだろう」
「いやわからん……ただの箱にしか見えないぞ」
「これはな……超ウルトラスーパーハイパーマスターアルティメットコンピューターだ!」
「超!?」
「ウルトラ!?」
「スーパー!?」
「やらないぞ」
ダイアがなんかやたらと前置きの長いコンピューターの名前を口にした途端、エレア、ネッカ少年、クロー少年が騒ぎ始めた。
三人で俺に期待の眼差しを向けてくるが、俺はやらないぞ。
というかクロー少年は乗せられるんじゃない。
「ええと要するに……なんだ? やたらハイスペックなパソコンってことはわかったが」
「まあ言ってしまえば演算装置だな! 正直俺もよくはわからんが……なんと、この中に
「あー……なるほど?」
なんとなく。
本当になんとなくだが、ダイアの言いたいことがわかってきた。
つまりこれは……
「ダイアのデュエルに関するあらゆるデータが入力されたスーパーAIってことか」
「うむ!」
昨今、メカはシンギュラリティ的なあれで、感情すら獲得している。
メカシィのようなファイトロボも、そこまで珍しい存在ではなくなった。
だが、それでも技術的に難しいことがある。
それがトップファイターのAIを作ることだ。
正確には、それを搭載したファイトロボの開発だ。
普通のファイターのAIなら問題ない。
だが、トップファイターを再現することが非常に難しいのである。
「要するに、トップファイターの強さって計算だけじゃ測れないんだよ。トップファイターは、平気で確率上ほぼあり得ないようなドローをしてくるぞ」
「へー」
「へー」
理由は、クロー少年がネッカやエレアに語っている内容が全てだ。
この世界のカードはオカルトが絡む。
このオカルトを再現することが難しいのである。
「で、ここ最近、私のAIを作ろうという動きがあってだな」
「へー、なんでだ?」
「わからん! が、これから必要になるそうでな!」
「あー、把握」
「私はわからんぞ! どういうことだ店長!」
「秘密だよ」
ダイアの異世界転移が、もうすぐそこまで迫ってるからな。
普通の人間が転移するだけならそこまで問題はないんだけど、ダイアみたいな有名人が行方不明になると大変だ。
いろんなものの予定がめちゃくちゃになってしまう。
厄介なのは、このダイアが異世界へ転移するという情報が未来から齎されたせいでダイア本人に教えられないことだ。
関係各所はすでにダイアの転移を知っていて調整に入ってるのに、それをダイアに知らせられないからややこしいのである。
「まあなんにしても、私の再現データというのはなかなか興味深いだろう! 特に店長は興味を持つんじゃないかとおもってな」
「それはまぁな」
なんたってあのダイアのデータだぜ?
日本チャンプにして、世界屈指のトップファイターにして、ムキムキビルドアップのダイアだ。
そこからいったいどんなデータが出来上がるのかと思うと俺は……俺は……俺は……!
「……一勝負……しようぜ!」
「するかぁ!」
「てんちょー! 仕事中ですよ!!」
そして高まったテンションのまま、ダイアの誘いに乗ってからエレアに突っ込まれた。
はい……
□□□□□
今日は休日、この後にはショップ大会の予定もある。
さすがに今すぐダイアAIとのファイトに興じるわけにはいかない。
ひとまずショップ大会をいつも通り開催しつつ、俺はうずうずそわそわしまくっていた。
なお、ショップ大会は後からやってきた刑事さんが珍しく優勝していた。
なんでかっていえば、うちの常連トップ層――すなわちダイア、ネッカ少年、クロー少年の三人が心ここにあらずといった感じだったからだ。
だってダイアが例のスーパー略コンピューターを持ってきたのを知ってますからね、彼ら。
同じくうずうずしまくっている俺も含めて、四人まとめてエレアから冷たい視線を向けられていた。
「さて、ショップ大会も終わったことだし……次のイベントと行こうか!」
「うおー!」
「うおー!」
「うおー!」
「楽しそうですねぇ」
時刻は夕方、ショップ大会もつつがなく終わり、ちょっと客もはけ始めたころ。
俺とダイアとネッカとクローは、フィールドの前で盛り上がっていた。
フィールドの隣には、ダイアが持ってきたコンピューターが鎮座している。
これをフィールドにつなげてデータをインストールすると、フィールドでダイアAIとファイトができる仕組みだ。
「というわけで、一番手は俺だな!」
「くっ……公正なじゃんけんで負けてしまったからな……俺たちは見ていることしかできないぜ!」
「店長……ダイアさんたちがショップ大会にまけてショックを受けてるところに勝負を持ち込んで、ちゃっかり勝ってましたよね……」
「しっ、それは言っちゃだめだぞエレア!」
まぁ、ちょっとばかりフェアじゃなかったかもしれないが、勝負は勝負。
ファイターなら常に全力を出せるようにしておくべきだ。
というわけで、俺はさっそくフィールドの上に立つ。
すると向かい側に、ホログラフのダイアが出現した。
――目の下に線があるぅ。
「ワレハ、ダイアロボ、ピーガガガガガ、ワレコソ、サイキョウ」
「雑すぎんだろ……いろいろと」
「どうもここら辺を整える予算がなかったみたいだな」
まぁ……できるだけ早めに仕上げないといけないからな……細部を詰めるのはダイアがいなくなってからでいい。
「ところでこれ、実際どれくらいダイアを再現できてるんだ?」
「計算上は、実に98%も私を再現しているらしい」
「それはすごい」
素直にこれはすごいことである。
なにせダイアとほとんど同じくらい強いってことだからな。
まぁとはいえ……この2%がきついんだが。
「んじゃ、早速やってみよう――イグニッション!」
「イグニッションロボ――!」
その語尾にロボってつけるのやめなさいって!
――で、結果は。
「こいつで最後だ! <ロード・ミカエル>で攻撃!」
「ぐわーーーーーー」
「なんでここだけ棒読みなんですか……」
エレアの突っ込みが突き刺さり、ダイアロボはここに敗れた。
いやエレアの突っ込みに負けたわけじゃないんだが。
今日はヤトちゃんがいないからか、エレアの頭身は比較的高いし突っ込みもちゃんとやってるな。
なお、ヤトちゃんは変態ショックで心に傷を負ったため、旅行に出かけているぞ。
「さて、ダイアロボと戦った感想を聞かせてくれ、店長」
「ん-、そうだな」
俺はフィールドから降りて、ダイアと向き合う。
じゃんけんの結果、次に戦うことになっていたネッカがどたどたとフィールドに向かってかけていく中、再び出現したダイアロボを見て、一言。
「アレは…………ダイアじゃないだろ」
ざっくり。
「うむ、ダイアロボだからな」
「いやそれ以上に、全然ダイアっぽくはなかったな」
「使っているカードは私と同じだし、プレイングも決して見劣りはしないと思うんだが……やはり2%の壁は厚いか……」
2%の壁。
トップファイターのオカルトめいた勝負強さが、この2%の差に詰まっているのだ。
だからこそ、トップファイターの再現は非常に難しく、いまだに成功例はない。
こうして頑張って作ったダイアロボもまた、それを超えられてはいなかった。
だが、個人的に俺がダイアロボをダイアらしくないと語った理由。
それはぶっちゃけ、別のところにある。
具体的には――
「いやだって……ファイト中の発言がIQ高すぎるし」
ダイアロボのファイト中の発言がめちゃくちゃ知的だったからだ。
「そんなダイアさんをおバカみたいに!」
「くっ……否定できない!」
「否定できないんですか!?」
まぁ、うん。
今でこそ結構教養も身についたとはいえ……ダイアのスタイルって……どうしてもパッションだからな……
みたいな話をしながら、今日も今日とて俺たちの日常は過ぎていくのだった。
……ところでダイアはいつになったら異世界に転移するんだろうな?
ミチルが帰ってからすでに結構経ってるぞ……?