カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
『えーと、聞こえてるかしら?』
「……きこえ……て……ますよ……」
『なんか不安になる喋り方ね……』
「普通に聞こえてるから大丈夫だぞ」
――時刻は夜、俺達はリビングでタブレットを使ってヤトちゃんと通話を行っていた。
映像では、山岳装備に身を包んだヤトちゃんが、空の背景をバックにこちらへ話しかけている。
結構しっかりとした装備で、ファイターなら正直ここまで重装備である必要はないんじゃ、と思わなくもないような装備だ。
俺やダイアは、多分ふんどし一丁でもファイター仙人の山を踏破できるだろう。
ヤトちゃんだってずいぶんと強くなった。
ここまでの装備をしなくとも、この世界の山々を踏破できるくらいの実力は身につけているはず。
「それにしても山岳装備似合ってますねー、ヤトちゃん」
『折角流浪の旅に出てるんだから、雰囲気を出したくて揃えたのよ』
なのでまぁ、わざわざこういう装備を身につけているというのは、純粋にそうしたかったからに他ならない。
そんなヤトちゃんが現在やってきているのは――
『というわけで、ファイトオブマウンテンの上の方まで今日はやってきたの。見て、雲がキレイでしょ』
「わー、雲が真下に見えます! すごい!」
ファイトオブマウンテン。
この世界には、そんな名前の最高峰の山がある。
頂上には独自の秘境が広がっていて、現在ヤトちゃんはその秘境の入口――ファイトオブマウンテンの頂上付近までやってきていたのだ。
『ダイアさんがここを一人で登ったって言ってたけど……結構きつかったわね、登り切るのに三日もかかっちゃった』
「三日で登頂できるあたり、ヤトちゃんもずいぶん成長したと思うけどなぁ」
ダイアのやつは特に言うこともなく黙々と登りきってたけど、普通に考えたらかなり難易度の高い山なんだよ。
強いファイターしか登れないように、一部の区間は敢えて鎖とか付けてない場所もあるし。
どうやって登るのかって? ジャンプして一息で登るんだよ。
「とにかく気をつけてくださいね? ファイトオブマウンテンはとにかく行方不明者が多いんですから」
『解ってる。帰るまでが登山だし、このあとは秘境にも足を運んでみるつもりだしね』
なお、行方不明者は多いが死者はでていない。
普通に考えたら死んでいそうな遭難が発生しても、なんやかや生きていることが多いのだ。
だって……生存フラグだし……
かわりに、記憶を失っていたり異世界に迷い込んだり、仮面を被って再登場したりすることになるけど。
『それにしても……本当に澄んだ空気のいい場所ね……心が安らぐわ』
「えっと……その、先日の件は……」
『いいのよ、姉さんが痴女なのは今に始まったことじゃないし、私も色々と諦めがついたわ』
「あきらめちゃったかぁ……」
そして忘れてはいけないが、現在のヤトちゃんは傷心旅行の真っ最中である。
ハクさんがあんまりにあんまりなパワーアップをしてみせたことで、ちょっと人生を見つめ直そうと考えたのだ。
結果、各地を周りながら、こうして定期的に俺達と連絡を取っている次第。
『それに、こないだの巨大化は別に姉さんが自分からやったことじゃないんでしょ? ならまぁ、よくあることだし、そこに関しては気にしてないの』
「それはよかったです……いえ、ハクさんが突然巨大化する可能性が生まれたことは良かったのかよくなかったのか……」
「巨大化に関しては遅かれ早かれだろ……」
ちなみに、ハクさんもラバースーツ以降反省はしているので、痴女行為は控えている。
なので先日の巨女事件も、本人の本位ではなかったのだ。
まぁそれはそれとして、巨大化してしまった以上は楽しんでしまうのもハクさんだが。
流石にそこは本人の呪われた性なので、今更気にしてはいけない。
――と、その時である。
「むっ、ヤトちゃん危ない!」
「へっ?」
『……来たわね!』
俺は映像越しに、ヤトちゃんの背後から襲いかかる気配に気づいた。
ヤトちゃんも一瞬遅れて気づいたようで、一人気付かなかったエレアを置き去りにして振り返ると、襲いかかる気配に迎撃する。
通話に使っていたタブレットは、空中で静止する機能があるのか視点はそのままだ。
振り返ったヤトちゃんの背中と、相対する何者かがそこに映り込んでいる。
それは――モンスターだった。
巨大な鳥のモンスターだ、コンドルとかそんな感じの系統の見た目をしている。
そしてその鉤爪がヤトちゃんに振り下ろされており、ヤトちゃんは足でそれを受け止めていた。
蹴りを放ったのだろう。
「な、な、な、なんですかー!?」
『こいつは……<デス・コンドル>、攻撃力2500を超える大型のモンスターよ。効果は持ってないけど、実体化してるとその攻撃力故に危険だわ』
「名前にとりあえずデスって付けておけばいいとおもってないか?」
とはいえ、聞いたことがある。
<デス・コンドル>といえば、ファイトオブマウンテンに住まう巨大な怪鳥だ。
時折ファイターを襲って攻撃を仕掛けてくるという。
どうやらヤトちゃんはここにくるまで、何度かこの<デス・コンドル>とやりあっているらしい。
『一回目は順当に追い払えたんだけどね、二回目はこっちの動きを覚えたのか、かなり厄介になってた。それでも追い払ってここまで来たんだけど……まさか追いかけてくるなんてね』
「<デス・コンドル>は執念深い、一度逃がした相手をどこまでも追いかけてくるぞ」
「呑気に解説してる場合ですかー! 大丈夫なんですか、ヤトちゃん!」
『まぁ多分問題はないと……思う!』
いいながら、ヤトちゃんは足でコンドルを弾いた。
それから、激しい戦闘が繰り広げられる。
両者はほとんど互角と言ってもいい感じで、エレアは心配そうにそわそわしていた。
「だ、大丈夫ですかねー、ヤトちゃん勝てますかねー?」
「まぁ万が一のことがあったらここから俺がドローでなんとかするから」
「そういう普通になんとかできちゃうマジな発言はおいといて……大丈夫ですかね……」
「そっか……」
一瞬デッキに手をかけたが、エレアにすん……とされてしまったので黙る。
『ふっ! はっ! この程度!』
「それにしても……強くなりましたねぇ、ヤトちゃん。今ならフル装備の私とも互角に戦えるんじゃないですか?」
『流石にそれは無茶でしょ!』
激しい戦闘を繰り広げるヤトちゃんに、適当にこぼすエレア。
しかしエレアは完全に腑抜けてしまっているので忘れがちだが、エレアの装備はかなりガチ目の兵器が揃ってる上に、飛行ができる。
ヤトちゃんも怪盗モードに入ればまた違ってくるだろうが、持っている装備の質は流石に段違いだ。
あんまりガジェットでどうにかするタイプじゃないしなぁ、ヤトちゃん。
『まぁでも……こいつくらいはなんとか出来ないと……ねっ!』
「いけー!」
ともあれ、ヤトちゃんはいよいよ決着をつけるべく、コンドルに飛びかかった。
そしてその背中に乗り込んで上を取ると――
『はぁーーーっ!』
勢いよく、拳を叩き込んでコンドルを地面に墜落させるのだった。
「やったー! ヤトちゃん勝ちましたよ! ぶいぶい!」
「おー、おめでとうヤトちゃん」
『ふん!』
それから、「押忍!」って感じのポーズで決めるヤトちゃん。
実に成長を感じられる一幕だった。
「いやーすごかったですねぇ、これならファイトオブマウンテンの登頂もらくしょーでしょう! あと少しですし!」
「あ、こら」
『ふふ、そうね……このまま何事もなければ、もうすぐ登頂できるはずよ』
「ヤトちゃんまで!」
とか言っていると、何やらフラグを立て始める二人。
それと同時に、俺はヤトちゃんの着地した崖が、何故かそこだけ色が違うことに気付いた。
まずい!
「ヤトちゃん! そこからすぐに離れるんだ! その崖は崩れ――」
『へ?』
しかし、俺が声をかけるよりも早く――ヤトちゃんの乗った崖は、ボコッと崩れてヤトちゃんとコンドルは宙に身を投げ出される。
「ヤトちゃーーーーん!」
エレアの叫び声が、室内に響いた。
次回へ続く!
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なお、次回に続きます。
そして次回は明日、コミカライズの更新日なのでこちらも更新します。
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