カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
満足気にお子様……コンパクト・エクスプローション・デライトを平らげたレンさん。
俺も頼んだ軽食を腹に入れて、お互いに食事を終える。
「それでレンさん、話というのは」
「ああ、実のところ用事があるのは我ではない……竜刃だ」
竜刃……ああ、さっきからずっと横で控えていたリュウナさんのことか。
多分、組織におけるコード名だな、竜刃は。
俺達が食べている間、ずっと立ちっぱなしになっているのは申し訳ない気もしたが、愛おしそうにレンさんが食事をするところを見守っていたので、多分これで問題ないのだろうと結論付けたリュウナさんだ。
「……お久しぶりでございます、店長様」
そう言って、一歩前にでたリュウナさんは恭しく一礼した。
実にきちっとした、プロの一礼だ。
俺の周囲はゆるい人間が多いので、とても美しく見える。
他にもキレイな礼をする奴はいるのだが、そいつは普段そんな姿を見せるタイプではないのでなおさらだ。
具体的に言うと軍人モードのエレア。
リュウナさん。
身長2メートル超えの美女。
レンさんに仕える従者であり、レンさんのデッキに入っているモンスターでもある。
なんとも独特な経歴だ。
何より、その体格と存在感から、実力のあるファイターなら一発でモンスターだと判断できるのが特徴だ。
エレアが完全に人と同じように見える分、その異質さが際立つ。
まぁ、モンスターとしてはエレアの方が特殊なんだけどな、普通はこうやって分かる人には分かる空気ってやつを身にまとってるもんだし、モンスターって。
ともかく、そんなリュウナさんと直接話をするのはこれで二回目だ。
普段はレンさんがリュウナさんを店につれてこないし、つれてきてもリュウナさんが従者に徹するので話をする機会はない。
エレアなんかは、モンスター仲間としてリュウナさんと仲良くしているそうだが。
店の外の付き合いだからな、あまり俺と関わることはない。
「久しぶり、リュウナさん。それで、俺に用事って?」
「はい、実はその……私……」
そう言って、リュウナさんは少し恥ずかしそうにする。
仕事をしている時はまさにプロって感じだが、私生活だと大人しいタイプの人だ。
今は、一応レンさんと一緒にいるけれど仕事ではないという扱いなのだろう。
そりゃあ、普段はあくまで従者に徹しているリュウナさんが、前にでるというから私的なことが理由なのだろうけど。
……あ、もしかして。
「……私、この店でメイドとして働きたいのです」
あたりだった。
リュウナさんは、その身長も相まってかっこいい系の美人だ。
普段はこの従者ファイト喫茶でも執事としてファイトしており、そちら方面で人気が高いのだとか。
だが、時には可愛い系の衣装を着てみたくなるのは女性の道理。
パンク風メイド服を着るためにこの店でお手伝いをしているヤトちゃんと同じだ。
「……と言っても、俺にそんな服の良し悪しなんてわからないぞ?」
「安心しろ、それに関してはエレアに既に依頼済みだ。というより、そちらは完全に準備ができている。試着もしたからな、見るか?」
「後で見るよ。メイド衣装の感想が聞きたいんじゃないなら……ファイト関係だろ? 話を全部聞いてから考える」
俺の答えに、レンさんは賢明だと頷いた。
そしてリュウナさんが話を続ける。
「私がお願いしたいのは……デッキのプロデュースでございます」
「デッキのプロデュース……」
「考えてもみろ、リュウナは我のデッキのモンスターだ、普段はファイトせぬ」
なるほど、ここはファイト喫茶。
執事やメイドがメインではなく、執事やメイドとファイトすることがメインの喫茶店だ。
普段ファイトしないリュウナさんにはデッキがないのだろう。
「もし必要に迫られてファイトする場合は、自分以外の<ガイアストラ>モンスターがいない地属性ドラゴンデッキを使います」
なるほど、レンさんのデッキに近いけれど、「ガイアストラ」モンスターは基本使用しない地属性のドラゴンを中心にしたデッキか。
おそらく、グッドスタッフ的な感じでカード間のシナジーではなくカードの性能で戦うんだろう。
必要に迫られて……ということは、普通にやるならレンさんのデッキにリュウナさんが加わったほうが強いはず。
ただ、問題はそこではなく……
「しかしそれは……メイド“らしい”デッキでは、ないと私は考えております」
「なるほどな……」
それで、デッキのプロデュースか。
しかし、普段から比較的親しくしているエレアならともかく。
あんまり関わりのない俺が、的確にアドバイスできるかどうか……
「とりあえず、一回ファイトしてみようか。レンさんもそれで構わないか?」
「うむ! やってみるのだ。竜刃よ」
「かしこまりました」
そうして、レンが自分の椅子を横にずらし、リュウナさん用の椅子を俺の正面に持ってくる。
先程まで立って待機していたリュウナさんが、ファイトのために席につき……
「イグニッション!」
俺達は、ファイトを開始した。
□□□□□
――ファイトが終わって、俺は少し考える。
「とりあえず、ファイト自体は俺が勝ったわけだが……」
「対戦感謝いたします」
俺は少し考える。
リュウナさんのファイトスタイルが、とある人物を思い出したからだ。
なんというか、リュウナさんの問題点と改善点は“彼女”に類似している部分がある。
だったら、こういうのはどうだろう。
「レンさん。少し人を呼んでもいいか? 場合によっては、日を改めることになるが」
「問題ないぞ。我は暇ではないが、竜刃メイド化計画は、別に今すぐやる必要のあることではない」
そういうことならば、と早速連絡を取る。
流石に今日今これから……というのは無理だと思ったのだが。
意外なことにむしろ今日の方が都合がいいとのこと。
レンさんと同じく、色々と予定の有りそうな身だ。
対するレンさんも、今日一日は時間を取れるそうなので早速午後、彼女と会うことにした。
んで、その彼女が誰かと言えば――
「おまたせいたしましたわ! アロマ・ユースティアただいま罷り越してございますの!」
アロマさんだ。
マジカルファイターにして、生粋のお嬢様。
お嬢様の中のお嬢様だ。
レンさんもお嬢様ではあるのだが、あまりにもそれ以外の部分が強すぎるのでお嬢様感はない。
でも罷り越してって何かお嬢様の言葉遣いじゃなくない?
というのは置いといて。
「ってぇ、香の民ではないか!」
「まぁ! レンさま!? お久しゅうございますわ。やはり師匠店長様の店にいたのはレンさまだったのですね!?」
顔を合わせたレンさんとアロマさんがお互いに驚いた様子だ。
「知り合いなのか?」
「香の民の実家であるユースティア家と我が一族は古くからの馴染だ。共に世界を守る高貴なる一族ゆえな」
なるほどなぁ。
ところで、アロマさんはレンさんのことに気付いてたけど、レンさんはアロマさんに言及してなかったな?
「言及する前に、香の民が倒れたのではないか」
「そういえばそうだった」
その後はアロマさん、閉店まで寝てたからな……
「それで、お話は聞かせていただいたのですけれど。……わたくしとリュウナ様がこうして集められた理由はなぜなのでしょう」
「お久しぶりでございます、アロマ様」
ああ、そうか知り合いなのかこの二人。
俺の中で、別口で知り合った二人って認識だからつながりを意識していなかったが。
レンさんとアロマさんに繋がりがあるなら、レンさんの従者であるリュウナさんとのつながりも同じことか。
「まぁ、簡単な話だ。二人にはとても失礼なことを言うのだけど……」
俺は、そう前置きをして切り出した。
「……ふたりとも、デッキがあまりに接待やエンタメに向いてないからな」
ぶっちゃけ、アレだ。
アロマさんがロックバーン使いであるのと同様に。
リュウナさんも、あまりにもデッキが……メイドに向いていないのだ。
リュウナさん「私のような無骨な大女がメイドなど……似合わないとは思うのですが」
エレア「は? すでにこの時点でめちゃくちゃ可愛いですが?」