カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
静かな店内に、店の扉が開く音が響く。
今は人が少ない時間帯、エレアは買い出しに行っていてまだ帰って来る時間ではないし、メカシィは非番。
店員は俺だけで、お客もストレージの方でカードを漁っている不審者だけだ。
そんな店に、新たなお客がやってきたのである。
「お邪魔するです」
聞き覚えのある声だった。
俺も不審者も、その声にハッと視線を向ける。
立っていたのは、小柄な少女だった。
「アリスさんか、久しぶりだな」
「お久しぶりです、ミツル。……今は、店長と呼んだほうがいいです?」
アリス・ユースティア。
その名を知らないファイターはいないだろう。
プロファイターの欧州チャンピオン。
そこにいる不審者ことダイア……逢田トウマと並び、この世界でもっとも強いとされるファイターの一人だ。
プラチナブロンドの、小柄な少女。
普段はお姫様のようなドレスを身にまとっていて、何でもユースティア家の姫が身にまとう正装なのだとか。
今はそのドレスの上に、フード付きのローブを身にまとっている。
ローブの装飾も相まって、ファンタジーものの魔術師みたいだな。
というか、フード付きのローブ……?
やっぱり、そういうことなのか?
「直接お会いするのは……ファイトキングカップ以来です?」
「そうなるな。元気そうで何よりだ」
そんなアリスさんと、俺は顔見知りだ。
仮にも俺もトップクラスのファイターの端くれ。
お互いに顔を合わせる機会はあるのだ。
具体的には第三回ファイトキングカップ。
どちらもあの大会に参加していたのである。
その準々決勝で、アリスさんと俺は激突したのだ。
「……あの時、逢田トウマに挑むつもりだった私の足をすくって以来、です」
「それに関しては、俺だってあいつとの勝負を前に負けてたまるかって感じだったからな。お互い様だ」
当時のアリスさんは日本のトッププロであるダイアを意識していて。
俺も次の仕合がダイアとのファイトだったこともあってお互い、ここで負けるわけにはいかなかった。
結果的に勝負は俺が勝ち、世間的にはすでに欧州のトッププロだったアリスさんを無名の俺が下した番狂わせで結構盛り上がったな。
……なんか、店の隅で不審者が照れているな、アレは放っておこう。
「それで、アリスさん。今日はどんなご用事で? まさかうちの店に来てくれるとは思わなかったよ」
「前々から、店長の店には来たいと思っていたです。他にもいくつか用事はあるです。なのでまず一つ、質問をするです」
アレ以来、時折連絡を取り合う関係ではあったのだが。
まさか、わざわざ店にやってくるなんて、どんな質問なのだろう。
まぁ、一つだけ心当たりはあるけれど。
「――アロマにエースモンスターを渡したのは、店長です?」
ああ、やっぱりか。
アリスさんのフードとローブ、ドレスも相まって魔術師のような格好。
なんとなく、店に来たアリスさんをひと目見た時にピンと来たのだ。
アロマさんが関わっているマジカルファイターには、謎のフードの女性が関わっている。
その女性の正体こそ、アリスさんだった。
「ああ、そうだが。……アリスさんとアロマさんって、親戚とかそんな感じの関係でいいんだよな?」
「そうです、従姉妹にあたるです」
なるほど、それなら納得だ。
謎のフードの女性として事件に関わるのも、アロマさんが身内だから……か。
いや、それ以外にもあるかもしれないな。
「問題だったか? タイミング的にはちょうどよかったはずだが」
「いえ、アロマの背中を押すのが、貴方だったのが意外だっただけです」
「しかし、俺だってよくわかったな」
「店長のカードのことは、よくわかってるつもりです。ひと目見てすぐにわかったです」
そりゃまた、随分と買われたものだ。
お互い、実際にリアルでファイトをしたのは一回だけなんだがな。
まぁオンラインでなら時折ファイトするけど、フィールドを使って。
俺は言うまでもなく、アリスさんも金持ちだから自前でフィールドを持ってるんだよな。
あと、何か不審者が隅の方でうんうんと頷いている。
俺ともアリスさんとも親交があるからって、後方理解者面しやがって……!
そういえば、あの不審者がいても気にせずアリスさんは話をしているが……まぁ、ダイアに聞かれても別に問題はないか。
「それに聞けば、アロマがいつも言っていたあこがれの人が店長だったです。あの大会には私も参加していて、店長ともファイトしているのに、です」
「まぁ、従姉であるアリスさんに勝ったから……というのもあるんじゃないか?」
「お姉ちゃん、ちょっと妬けちゃうです」
あはは……と苦笑する。
とりあえず、アリスさんの様子からして今回の目的はカードの出どころを把握するのがメインのようだ。
ユースティア家はもともと、レンさんの“一族”と並んでこの世界を守護する高貴な家系だからな。
特殊なカードがどこから出てきたのかは、気になるところなんだろう。
まぁ、マジカルファイターの件はユースティア家とは関係ないと思うけど。
「他には、店長がマジカルファイターの件に関わっているなら、店長にも説明をしたいと思ったです」
マジカルファイターの一件は、全体で見ると折り返しくらいの進行度のようだ。
ライバル枠のクール女子……アウちゃんだったか。
彼女に勝利し、敵の親玉であるデビラスキングの存在を知り、その復活を阻止するために動いているところ……までは話を聞いている。
「アレは、中々壮絶なファイトだったです。自分の世界が生み出してしまったデビラスキングを自分の手で封印したいアウちゃんも、それを手伝いたいアロマも、お互い譲れないものをぶつけ合ってたです」
「自分の世界が生み出した?」
「そうです。デビラスキングは異界から生まれたダークファイターです。アウちゃんはその世界の出身……ようするにモンスターです」
ふむ、と考える。
デビラスキングは異界からやってきていたのか。
……そうすると、ちょっと気になる点があるのだが。
まぁ、俺が気にすることでもないか。
「それで、デビラスキングの完全復活は阻止できそうなのか?」
「難しいです。そもそもデビラスキングの元に会いに行く方法がないです」
「まぁ、だからこそ向こうもじっくりファイトエナジーを集められるわけだしな」
「完全復活させずに倒す方法もあったのですが、それは対策されてしまっていたです」
まるで、その方法を以前からも知っていて、試したことがあるような物言いだ。
正直、どうしてアリスさんがそのことに詳しいのか、俺はある程度予想がついている。
そもそもアリスさんは、今代のマジカルファイターではないはずなのに、この件に関わっている。
どうしてアリスさんがマジカルファイターのことを知っているのか、デビラスキングを完全復活させずに倒す方法を知っているのか。
答えは一つしかない。
だから俺は、一歩踏み込んで問いかけることにした。
アロマさんのことに……ではない。
アリスさん本人のことに、だ。
「……なぁ、アリスさん」
「……はいです」
「アリスさんは……デビラスキングのことに、随分詳しいな」
「詳しい……です」
アリスさんも、俺の言いたいことをわかっているかのように頷く。
不審者も、神妙な顔で話を聞いていた。
「なぜなら私は……先代のマジカルファイターだから、です」
その事実を、俺もダイアも察してはいた。
俺はアリスさんから、かつてその話を聞いたことがある。
詳しくはぼかされていたけれど、こうして詳細を知ればすぐにこのことだとピンとくる。
ダイアは仮にも、多くの事件に関わってきたファイターだ。
知り合いにそういった過去があることを勘付けるだけの経験はある。
「七年前、私はアロマのようにマジカルファイターになったです。そして――」
「……」
「デビラスキングを、倒しそこねました。今、こうして私がアロマの手助けをしているのは、その後悔を拭うために手助けしているという面もあります」
もちろん、従妹が心配だからというのもあるですが、と付け加えつつ。
少しだけ気恥ずかしそうに、普段はあまり表情を動かさないアリスさんが頬をかいた。
それは、今から七年前のこと。
俺がその話を知ったのは、第三回ファイトキングカップでアリスさんと対戦した時のことだった。
不審者は神妙な顔で二人の話を聞いています。
PS.店長とアリスが戦ったのが準決勝だったのを準々決勝に訂正しました。
ご指摘ありがとうございます。