カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
「ええと……それでその、もう一つ相談があるです」
「もう一つ?」
「なんだなんだ、どうしたどうした」
「げっ、逢田トウマ……ついに話しかけてきたです」
横で話を聞いていた不審者……もといダイアがついに話しかけてきた。
露骨にアリスさんは苦手なやつが来た、という顔をするが。
アリスさんとダイアは普通に顔見知りで、何なら俺よりアリスさんは会って話をする機会は多いと思うのだが。
なんとなくアリスさんはダイアが苦手らしい。
なんでも、こいつを見ていると自分の完璧さがハリボテに見えるから……とのこと。
失敗知らずだったせいで失敗にトラウマを抱えるアリスさんからすると、成功も失敗も繰り返して完璧超人と言えるくらい成長したダイアは眩しく見えるのだろう。
それとなーくこっちに近づいてきた、俺は防波堤じゃないんだぞ。
「まぁ、いいです。逢田トウマがこういう時役に立つのは重々承知してるです。店長ほどじゃないですが」
「ははは、それはまったくもってその通りだが、行きがかり上な」
「君たち、俺が気恥ずかしくなるよいしょはやめて、本題に入らないか?」
ダイアはもう少しこう、対抗心を燃やしてくれよ。
普段のお前らしくないぞ。
「それが実は……です。アロマが……悪い人に感化されてるです!」
「悪い人? デビラスキングじゃないのか?」
「それは悪い人じゃなくて超悪い奴です。そうじゃなくてええと……」
なんでも、先日フードを被った状態のアリスさんと、アロマさんが二人で行動していた際のこと。
辻ファイターに辻ファイトを仕掛けられたらしい。
その辻ファイターに、アロマさんが何やら影響を受けているのだとか。
「その辻ファイターの名前は?」
「――月兎仮面と名乗っていたです」
「ぐっ……!」
ハクさんじゃん!
月兎仮面、仮面を被ったちょっとエッチな格好の辻ファイター。
ヤトちゃんのお姉さんであるハクさんが、色々あって自分の欲求を開花させた姿だ。
その“色々”に、俺も一枚噛んでいるとなると、アリスさんから色々言われそうだ。
「月兎仮面か、俺も二度戦ったことがあるな」
「二度もあるのかよ」
「ああ、不思議なことに一度目と比べて二度目の方が強かった」
お前、そんなんだからタイヤキングとか言って有名になるんじゃないか?
月兎仮面も絵面はインパクトすごいが、ニット帽にサングラスでやたら強いお前も大概だぞ。
というか、一回目と二回目で強さが違った?
「……一体、正体は何者なのだろうな」
「……気付いてないのか」
一応、ハクさんとは面識あったよな?
大会で同席した程度だったと思うけど、直接会ってれば気づくだろ!?
……いや、気づかないからこそ、一回目のファイトをハクさんも挑んだのか。
多分、二度目は周囲に正体がバレて開き直ったあとだ。
俺とヤトちゃんに秘密がバレて以降、ハクさんはやたら強くなった。
俺とフルスペックのレンさんを除いたら、この街で一番強いのは月兎仮面である。
最近、もしかして俺があの時販促ファイトのハズなのに勝利できたのは、あのファイトこそが月兎仮面を目覚めさせる最後の一助だったからではないかと思い始めているくらいだ。
「それでその、私がファイトを挑まれたです」
「うん」
恥ずかしそうに、アリスさんは言う。
「――負けちゃいまして、です」
前言撤回、俺やレンさん並に強いかも知れない。
何だあの人。
「い、一応。正体を隠すために普段と違うデッキを使ってて、本気ではなかったです。でも、負けるとはちっとも思ってなかったです」
「そんなにか……」
「人生三度目の後悔を感じたです……」
「そんなにか…………」
デビラスキング討伐失敗や俺に負けたことと並んじゃったよハクさん。
何なんだあの人。
「しかしそうなると、アリス。君はその……正体がバレてしまったのではないか?」
「ああ、そういえばそうなるのか」
ふと、そこでダイアが気付いて指摘する。
そういえば、そうだ。
これはこの世界の常識の一つなのだが。
仮面キャラ同士がファイトすると、敗北した方が姿をさらすのが基本だ。
いや、どういう常識だよ。
と、思わなくもないが、そういう世界なので納得するしかない。
で、アリスさんはフードで顔を隠していた。
この状態は仮面キャラ状態に該当するので、敗北したら正体を晒すこととなる。
なるほど、正体バレイベントが運命力に悪さをしてアリスさんにデバフをかけていたのか。
いや、なんで月兎仮面とのファイトで正体が露呈する展開になるんだよ。
あと、不審者状態のダイアが負けても仮面キャラ判定じゃないのは色々とダメだと思う。
モロバレってことじゃん。
「辻ファイトを挑まれた以上、それを受けないのはユースティアの家名に泥を塗ることになるです。それは致し方ないことです」
「正体隠してるならユースティア家の人間じゃないのだから、ファイトを受けなくてもよかったのでは?」
「!?!?!?!?」
あ、ダイアが本質を突いた。
アリスさんは今まで気づかなかったのだろう、ガチで驚いてからダイアを睨んでいる。
こういうところが、アリスさんは苦手なんだろうなぁ。
「と、とにかくです! アロマも正体に関しては驚いてたけど、バレても問題ない状況だったからセーフです! 従姉の威厳以外は、です!」
「お、おう」
「大変だな……」
「問題は、アロマが月兎仮面に感化されてるっぽいところです! お姉ちゃん、あんなエッチな格好認めないです!」
気圧される俺と、本気で心配しているダイア。
ダイアはこういうところ、天然だよなと思いつつ。
「しかしな、アリスさん」
「なんです?」
「マジカルファイターの衣装も大概では?」
「アロマにも同じことを言われたですー!」
頭を抱えて、アリスさんは崩れ落ちた。
なんか、マジカルファイターは対象年齢が子供向けじゃないらしく、結構露出が多い。
へそとかでてるし、いやへそは子供向けでも出るな。
「そのツッコミができるなら、アロマさんは大丈夫だろ。それに、アリスさんならアロマさんがどうして月兎仮面に興味を示したか……わかってるだろ?」
「うぅ……はいです」
アロマさんのことにそこまで詳しくないダイアが首を傾げている。
そこで、俺は軽くアロマさんの”夢”について説明した。
「なるほど、そのアロマという子はプロファイターになりたいが、デッキがロックバーンデッキなのか」
「ああ。普通にやったらプロファイターには向いてないデッキタイプだ」
「無理ではないと思うが……」
まぁ、大変な道のりだろうな、とダイアも納得する。
そしてその上で、どうしてアロマさんが月兎仮面に興味を示すのかも理解したようだ。
「アロマは……ヒールファイターになりたいのかもしれない、です」
プロファイターの形態の一種で、悪役然とした立ち振舞で観客を恐怖に陥れる存在だ。
そういうファイターなら、ロックバーンデッキも一つのギミックとして作用する。
アロマさんがプロファイターになるうえで、最も簡単な方法は月兎仮面のような仮装でヒールファイターになることである。
「けどそれは、なるところまでは簡単な道のりでも、その先が険しいぞ」
「こればっかりは逢田トウマに同意するです。ヒールファイターは、たとえデッキに適性があっても続けられる人間は少ないです」
二人の
ヒールファイターは、言ってしまえば負けることが役割だ。
どれだけ他人に恐怖を与えても、最後は倒されることでその恐怖を拭う。
最終的に負けることを目的としたファイターは、続けるのはなかなか精神的に辛いものだ。
「ただ、アリスさんならなおさらわかっていると思うが……アロマさんは、ヒールファイターだけを自分のスタイルにするつもりはないはずだ」
「はい……です。わかってはいる、です。でも……私はまだ、その答えを見ていない、です」
そもそも、他のヒールファイターもヒールだけをファイトスタイルにしていることは珍しい。
プロファイターの世界は、団体、個人、それから興行に特化したプロレス系のファイト。
様々な舞台がある。
ヒールファイターはその中でも興行ファイトに特化してるわけで。
別の舞台では戦い方を変えるファイターも珍しくない。
「だったら……今はデビラスキングとの戦いに集中するといい。アロマさんがプロファイターになるのは、もっと先のことなんだから」
「そうです。あと二年あるです。今は、眼の前のことに集中するです」
いや、中学卒業でプロ入りするのは極少数だからな?
ダイアも頷いているが、君たちが例外なだけだからな?
とか考えていると、
「ただいま帰りましたー」
エレアが帰って来た。
あ、まずい。
「………………アリス、ちゃん?」
「ん、なんです?」
ぱさり、エレアが買い出しの商品を地面に落とす。
……器用に卵とかにダメージ出ないように落としてるな、すごい。
「アリスちゃんが、店に……?」
「店長、彼女は誰です?」
「彼女はエレア、アリスさんの大ファンだ」
「あああの、店長の話にあった店長のおくさ」
アリスさんが何やら言おうとしていると、
「…………ぱしゅっ」
あ、溶けた(ギャグ的表現)。
悲しきオタクの性である。
センサーが反応する前に本人が溶けるので、エレアセンサーは問題ありません。
溶けるってなんだよ。