カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
前世において、カードはあくまで単なる玩具商品に過ぎなかった。
カードを作るのは、開発を行う会社でありその制作過程だって特別なことは何も無い。
イラストと、テキストを用意する。
そしてそれを印刷する……それだけのことだ。
まぁ、そこに至る過程には色々と努力とか研鑽もあるのだろうけれど。
一プレイヤーとしてそれを感じることって、あまりないんだよな。
でも、この世界では違う。
この世界では無からカードが生まれ落ち、時にはプレイヤーがカードを創造することもある。
そんな世界で、カードパックはどうやって作られているのか?
その答えが、「カード生成」というワードに含まれている。
「ここは……これまで“確認”されてきたカードパックの展示コーナーか」
「すごい数あるわね……」
「人類の歴史みたいなものだからな」
無数の……軽く千は超える数あるんじゃないだろうかと思われるパックの外装をヤトちゃんと二人で眺めながら、俺達は感嘆の息をこぼす。
これは中々、壮観な光景だ。
そして言うまでもなく、以前来たときよりも種類が増えている。
「あ、例の<ミチル>パックもあるわよ」
「そりゃあ、出たばかりのパックだからな……」
ここには、この世界に存在する様々なカードパックが展示されている。
そして、その数は千を超えるほどだが……ここにあるものですべてを網羅しているわけではない。
あくまで一部でしかないのだ。
なにせ人類が印刷技術を手に入れる以前から、カードパックはつくられているのだから。
「えーと、前に授業で習ったけど、カードパックの生成には主に二つの種類があるんだっけ?」
「正確には三つだな。まぁ、学者の中には二つだって意見の学者もいるだろうけど」
カード生成の三つの種類。
そのうち一つが――
「“オカルト”。この世界で最も古い生成方法だな」
「魔法陣からカードを呼び出したり、祈祷とかするんだったわよね」
そうだ、と頷く。
オカルトと呼ばれるそれは、この世界におけるもっとも原始的なカード生成方法だ。
かつてこの世界の人間は、イグニッションファイトのカードを天が授けたものだと信じていた。
例えば魔法陣の前で詠唱を行うと、魔法陣が光を帯びてそこにパックが出現したりするのだ。
ある意味でシュールな光景だが、この世界ではごくごく当たり前のように……そして今も行われている方法の一つである。
「で、もう一つが“アナログ”。デザイナーと呼ばれる人たちが描いたカードを、カード生成器に投入することでカードを生み出す」
「今、この世界で行われる最も一般的なカード生成の方法、だったわね」
ある意味で、これが最も前世に近いカードを作る方法かもしれない。
この世界にはカード生成器というアイテムがあって、そこにデザイナーがデザインしたイラストを放り込むと……カードになって排出されるのだ。
これをパックに入れる、というのがアナログによるカード生成方法だ。
方法こそ若干オカルトが入っているものの、カードイラストとテキストを用意する方法は前世の作り方にイメージとしては似ている。
……これ、他の方法が前世と違いすぎるだけだな。
カード生成器にはいわゆる錬金術的な側面があり、この方法が確立されたのは今から数百年ほど前のこと。
それまではオカルトによってカードパックを作ってたのが、一気にデザイナーによるカード生成が主流となった。
「信仰が、技術に遷移していったんだな」
「歴史を感じるわね……」
前世において、錬金術が科学の発展の土台となったように。
カード生成器が、この世界の技術の発展の基礎となったのだ。
「そして最後にして最新の方法……“デジタル”」
「演算によるカード生成……だったわよね」
デジタルとは、スーパーコンピュータによる演算によってカードを作り出す方法だ。
簡単に言うと、演算によってオカルトによる生成方法を再現しているのである。
魔法陣は数式に、詠唱は計算によって再現される。
いわゆる、悪魔召喚プログラムみたいな感じ。
「それにしても……パソコンでオカルトを再現するなんて……それ、安全なのかしら」
「さてな、別にカード生成に伴う危険なんて、オカルトやアナログだってそう変わらないよ」
恐ろしい話だが、この世界でパックを作ろうとすると失敗が発生することがある。
それはデジタルだろうが、アナログだろうが、オカルトだろうが変わらない。
もっとも解りやすい失敗は、生成されたカードが悪魔のカードだったりする場合だな。
そうなったら、大抵の場合はカード生成を行った人間がダークファイターに堕ちる。
そして、それ自体はこの世界だと当たり前のことなのだが。
最新の技術であるデジタルによる失敗は、割と不安に感じる人が多い。
そこら辺、なんというか最新技術が広まる過程みたいなものを感じる。
何れデジタルも、オカルトやアナログのように受け入れられていくんだろう。
そしてその頃になると、また別の方法が発明されて……みたいな。
「しかしなんとも、別にこの世界だとおかしなことなんて何も無いのに、話していると違和感あるな……」
「そうなの? よくわからないわ」
ヤトちゃんにとってはそうなんだろうけど、俺にとっては違和感のあることなんだよ。
前世ではあり得なかったことが、当たり前のように語られる。
流石に二十年くらいこの世界で生活していると慣れるが、転生直後は困惑したものだ。
でも、それが逆に新鮮にも感じられたんだよな。
世界が広がるっていうか、世界観が広がるっていうか。
「そういえば話が変わるのだけど、店長」
「どうしたんだ?」
「前に、この世界最古のパックが発見された、ってニュースになってたわよね」
ヤトちゃんの言葉に、そういう事もあったなと思い出す。
といっても、ニュースは新聞の片隅でちょっと取り上げられる程度で。
正直、ヤトちゃんに言われるまでパック展示コーナーに足を運んだのに忘れていたくらいだ。
でも、発見された以上、コーナーに展示はされてるよな。
流石にレプリカだろうけど。
「ほらアレ、あの巾着みたいな袋に入ってるの」
言いながら二人で、その最古のパックとやらが展示されている場所に向かう。
オカルトによって生み出されたパックは、当時まだビニールが存在していなかったのもあって、布の袋に入れられている事が多い。
このパックも、例に漏れず巾着袋みたいなものに入れられていた。
いや、巾着袋に入れられたカードって、若干シュールだな。
「えーとなになに……」
二人で、パックの名前を読み上げる。
俗に言う商品名。
パックを区別するためにも、この世界でもそれは存在していた。
<ミチル>パックは、「聖少女たちの邂逅」だったかな。
「……“開闢の聖天使”?」
――これ、パックの表紙に描かれてるモンスター、「古式聖天使」じゃない?
布地の上に、壁画に描かれてそうな絵だからわかりにくいけど。
いやでも見たことない「古式聖天使」だ。
少なくとも<メタトロン>じゃない。
え、俺の知らない「古式聖天使」が他にも存在するの!?
他人の空似シリーズでなく!?
「なんというか……納得しかないわね」
「いや、そうかな……最古のパックが<古式聖天使>でいいのかな……」
なんかこう、恐れ多くない?
いくら俺が転生者だからって、所有カードが最古のパックのカードでした……って、チートとして何か変化球じゃない?
若干気恥ずかしいぞ。
「絶対恐れ多いって……」
「……多分、店長の知り合いに聞いたら、全員納得すると思うわよ」
「そうかなぁ……」
試しにメッセージを送ってみた。
全会一致で納得された。
なぜぇ……。
デジタル、オカルト、アナログっていう区分けはなんとなく麻雀マンガっぽいですね。