カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
カードパックの展示コーナーで、この世界の歴史にヤトちゃんと思いを馳せた後。
ヤトちゃんはこの研究所が開発したらしいデッキテーマ「サイバープラネッツ」モンスターの展示コーナーに興味を示して、そっちに向かった。
サイバーパンク系のテーマらしいのだが、ヤトちゃんはパンクなら何でもいいのだろうか。
一人になった俺は、一旦エレアと合流することにした。
単純に、スマホで連絡を取らなくてもエレアがどこにいるかわかっているからだ。
かくして、「メイドロボ」展示コーナーへ向かうと――
「うっふーん」
何やらセクシーポーズをしたメイド姿のエレアがいた。
姿見の前で、いい感じのポーズを取っている。
危ない、うっふーんというバカな台詞が伴っていなかったら、見惚れてしまうところだった。
しかし、エレアの芸人魂――撮れ高魂、と言ってもいいかも知れない――がうずいてしまったのが運の尽き。
俺は早速、ツッコミ待ちとしか思えないエレアに声をかけることにした。
「……何してるんだ?」
「んぎゃぴ!?」
んぎゃぴて。
変な声を上げながら、エレアはこちらを振り向いた。
「ててて店長!? なんでここに!?」
「自力で来たんだよ、ヤトちゃんがパンクっぽいカードのコーナーにすっ飛んでってな」
アレはすごいすっ飛び方だった。
本人は無関心を装いつつ、エレアよろしく足を渦巻きにして飛んでいった。
真面目なヤトちゃんにもああいうところはあるんだなあ、と微笑ましく思ったくらいだ。
それはそれとして。
「普段から偵察兵モードは武装がメカメカしぃと思っていたが、ついにエレア自身がメイドロボになったか」
「私のフル武装モードにそんなこと思ってたんですか!? いやまぁ私も思いましたけど」
<帝国の尖兵 エクレルール>は軍服姿だし、エレアのデフォルトもそれなのだが。
エレアにはフル武装モードなるものが存在する。
ちょっときわどいインナースーツと、ゴテゴテした機械パーツ。
その名も<帝国の尖兵 エクレルール完全武装>。
そのままかよ。
なお召喚条件がややこしく、エレアはあのカードをこの世界にやってきて二回しか使ったことがない。
それもエレアのデッキに<帝国革命>カードが入ってくる前だからな。
今はより使いやすい<帝国革命>モンスターがいる以上、そうそうお披露目されることはないだろう。
ともかく。
「しかしすごいところだな、メイドロボコーナー、メイドロボに仮装できるのか」
「あ、いえこれはメカシィさんが着てもいいって持ってきてくれたものです」
「持ってきたのか……」
俺はこの研究所が何を研究してるのか、わからなくなりそうだよ。
ファイト工学ってなんだよ。
絶対語感だけで決めてるだろ、知ってるんだぞ。
「んで、そのメカシィは?」
「博士に呼ばれて、研究施設の方に。そろそろ実験の準備が始まるんですかね」
「かもな」
なんて話をしつつ、俺は展示コーナーを見て回る。
メイドロボは、見た目こそ等身大美少女フィギュアのようだが、基本的に動きは緩慢だ。
メカシィのようなオーバーテクノロジー感あるとんでもロボって感じではない。
「何でも、メカシィを作るための試作機らしいですよ、メイドロボ」
「なんで試作機をメイドロボにしたんだよ……」
そして試作機をメイドロボにするくらいなら、どうしてメカシィは普通のロボなんだよ……
いや、そのうち美少女化とかありそうな気がしてくるけどさ、メイドロボ見てると。
「メインはファイトロボとしての機能ですよ。このメイドロボ、見学にやってきたお客さんとファイトできるんです」
そう言って、エレアは部屋の隅にあるファイト用テーブルとそのテーブルに座るメイドロボを指差す。
どうやら、あそこでメイドロボと戦えるようだ。
「試しに、一回戦ってみるか?」
「えへへ、もう戦っちゃいました。もちろん勝ちましたよ? ぶいっ、です」
「おー、すごい」
Vサインをしてみせるエレアを、素直に褒める。
メイドロボの強さがどの程度のものかは解らないが、こういう一期一会のファイトできっちり勝利するのは強者の鉄則だ。
「デュエリストの店員として、そうそう後れを取るわけには行きませんからねぇ」
「なら、次の目標はダイアだな」
「無茶言わんといてくださいよ―!?」
頑張れ、と無責任に応援しつつ。
適当に展示スペースを見て回っていると、
「……店長」
「どうした?」
「変な気配がします」
エレアの雰囲気が変わった。
偵察兵として、周囲を警戒している。
「敵……というか、ダークファイターやカード狙いの盗人って感じじゃないですけど」
「穏やかじゃない、って感じだな」
頷くエレアを見て、俺は視線を彷徨わせる。
気配がするとエレアが言うなら、そのとおりなのだろうけれど。
生憎と俺は何も感じ取れない。
そんな時だった。
「ごごごごごご奉仕ィイイイイイイイイイイイイッ!」
すごい勢いで、足をキャタピラにしたメイドロボが展示スペースに突っ込んできた。
「な、なんだ!?」
「あ、アレです! 暴走……してるんですかね!?」
目が赤いし、なんか明らかに変な雰囲気だし。
暴走としか言いようがないんだろうが、何だあれ。
シュールすぎる。
「ご奉仕ご奉仕! ファイトでご奉仕! ご奉仕ィイイイイ!」
「うわぁ、イグニッションボード構えてますよ!」
「ありゃあ……ファイトで制圧するしかなさそうだな」
これはあれだ、日常の単発回だ。
休日に友人であるメカシィの家にやってきたら、暴走するメイドロボが襲撃してきてこれを止めることになるんだ。
頭おかしいんじゃないのか?
まあでもカードゲームアニメだしなぁ……
ともあれ、そういうことなら、ここはファイト以外の選択肢はない。
であれば誰がファイトをするのか。
……まぁ、考えるまでもないな。
「そういうことであれば、この私にお任せください! 貴方のメイドエレアが、敵対メイドをご奉仕ファイトで理解らせちゃいますよ」
「メイドは敵対しないし、ご奉仕ファイトで理解らせは発生しないと思うんだが……頼んだ」
メイド服を着ているエレア以外ありえないだろう。
日常回は、誰がファイトするのかも楽しみの一つだな。
さて、エレアの実力を疑うわけじゃないが……
「エレア、くれぐれも油断するなよ? 一回メイドロボに勝ったからって、あのメイドロボにも勝てると決まったわけじゃないんだから」
「大丈夫ですって、いくら暴走したとはいえ相手は旧式のファイトロボ。メカシィさんと互角に渡り合える私が負ける相手じゃありません」
だから心配なんだがな。
実際のファイトを前に、一度ファイトに勝利してるっていうのは油断が発生するには十分なフラグである。
エレアはギャグキャラに片足を突っ込んでいるから、なおさらだ。
とはいえ、流石にレンさんじゃあるまいし、ファイトする前から敗北フラグが立ってるってほどじゃあないんだが……
「行きますよ、イグニッション!」
「ご奉仕イグニッション! ご奉仕ぃ!」
今は、趨勢を見守るほかないな。
□□□□□
結局、ファイトはエレアが勝利した。
いくらフラグが立ちかけてるといっても、日常回のゲストキャラに負けてなんかいられない。
思ってもみなかった要素で一旦は窮地に陥るも、見事逆転してみせた。
流石はエレア、ってところだな。
「勝ちましたよー!」
「おめでとう、いいファイトだったよ」
Vサインが二つに増えた――もとい、両手でVサインするエレアに手を振って返しつつ。
バチバチと火花を上げるメイドロボに歩み寄る。
「ご奉仕……もっとご奉仕……したかった……です」
ファイトの中で、メイドロボはご奉仕がしたいのに展示コーナーに飾られご奉仕できない不満を明かした。
やってきた見学客を出迎えるのも、立派なメイドの仕事だと思うのだが。
それでは我慢できなかった結果、こうなったらしい。
「なんというか……感情が芽生えかけてたのかもな」
そんなホイホイシンギュラっていいものなのだろうか、メカって。
「……店長」
「どうした?」
ふと、エレアが真面目トーンで俺に呼びかける。
「私、なんとなくこの子の気持ちが解るんです」
「そうなのか?」
「はい、昔の私はそうでしたから」
なるほど、偵察兵時代のエレアは言ってしまえば道具だった。
戦争のための道具。
誰かの手足となることが彼女の役割。
だからこそ、初めてこの世界にやってきて。
俺に敗北して国の道具から、俺の“道具”になった時。
あんなふうに振る舞ったんだろうな。
「……なんなら、今でも店長のことは
いや、それはちょっと……世間体が……
いくらカードゲームみたいな世界だからって、美少女が男をマスターと呼んで許されるのは
とか思っていたら。
「――店長って、昔はエレアにマスターって呼ばせてたの?」
後ろから、ヤトちゃんの声が聞こえてきた。
振り返ると、隣にはメカシィもいる。
俺とエレアは一瞬だけ視線を合わせてから。
「「んぎゃぴ!」」
二人揃って、驚きの声を上げた。
前言撤回、ラノベの世界でもマスターはダメです!
マスター店長とエクレルールだったエレアの話はそのうち……
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