カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている 作:暁刀魚
なお、ヤトちゃんは別に引いたりしてなかった。
というか、普通に受け入れていた。
なーんだ、やっぱりラノベ世界なら、マスターって呼び方も普通なんじゃないか。
「いや、てっきりそういうプレイかと……」
「ヤトちゃんは俺達を何だと思ってるんだ!?」
恋人……?
まぁその、否定はあんまりしたくないっすね。
あ、エレアと目を合わせるの何かはずい……
何にしても、カード生成の準備ができたらしい。
メカシィ案内のもと、早速現場に向かうこととした。
「つきマシタ。ここで生成実験を行いマス。ピガガピー」
「おおー、それっぽい機械が中央にあります」
目を輝かせるエレア、俺とヤトちゃんも少し感嘆の吐息をこぼす。
なんというか、近未来なスーパーコンピュータって感じの機械が中央に鎮座しているのだ。
これを見ただけでもここに来たかいがあったとなるような、それっぽい機械である。
俺達はそれをガラス越しに覗ける場所にいて。
ガラスの向こうでは、白衣姿の人々がせわしなく動いている。
いよいよ実験が始まるからだろう、否応なく緊張が伝わってきた。
「博士たちは実験の準備で忙しいので、メカシィが説明を担当いたしマス」
「お願いしマスッ」
なぜか敬礼するエレア。
流石元偵察兵だけあって、堂に入っているが。
……なんで?
「今回行うのは、デジタルによるパック生成実験デス」
「デジタルかぁ……どんなパックができるの?」
「不明デス。ピガガピー」
不明? とヤトちゃんが首を傾げる。
まぁ無理もないだろう、他のパック生成手段はパックを生成する際にある程度方向性を選択できるのだから。
アナログによる方法は言うに及ばず。
オカルトだって、詠唱や魔法陣の内容で指向性をもたせることが可能なのだから。
「デジタルは、考案されてからまだ日の浅い方法だからだよ」
「ハイ。デジタルはその原理はオカルトを模倣していますが、オカルトのように魔法陣や詠唱にあたる部分で指向性をもたせようとしても失敗してしまうのデス。ピガガピー」
「まだまだ安定しない技術、ってことですね」
どうして指向性をもたせられないのか。
それについても不明、そもそもどうしてパソコンで魔法陣や詠唱を再現するとカードが生成されるのかもわかっていないのだ。
まぁそうやって聞くと、デジタルによるカード生成を不安視する声も理解らなくはないよな。
「しかしこの様子だと、博士さんたちとお話はできそうにないですねぇ」
「流石に忙しそうだからな……あと、やばいマッドサイエンティストの集まりだからあんまりお近づきになりたくない」
「それ、今更言う?」
マッドサイエンティストなんて目じゃないくらい、変な人と知り合いなんじゃないの? と首を傾げるヤトちゃん。
そうだね、君のお姉さんとか。
君のお姉さんとか、君のお姉さんとか。
まぁ口には出さないけど。
「私の姉さんとか」
「自分で言いましたよ!?」
「皆思ってることだろうし……」
そうですね!
ともあれ、実験開始はもうすぐなわけだけど。
だからこそ、俺達は手持ち無沙汰だ。
「なんていうか、ガチャが切り替わるのを待つ数分の時間みたいな感じですね」
「なんて例えをするんだ」
いや、理解らなくはないけれど。
なんならカードの生成はガチャみたいなもんだし、結構正確な表現だけども。
「お、そろそろ始まりますよ」
「こっからだな。――さて、どんなファイトが始まるやら」
俺達の注目が集まる中、二人の博士が機械の前に立つ。
イグニスボードを構えて、互いに闘志に満ちた笑みを浮かべていた。
――俺達が、カード生成実験の見学を喜んで受けた理由。
その半分くらいはこのファイトになる。
なぜならこのファイト、非常に見応えのあるものとなるからだ。
カード生成に必要なものの中には、とあるエネルギーが含まれている。
それがファイトエナジーだ。
デビラスたちも集めている、アレである。
「当たり前といえば当たり前だけど、カードの生成にはファイトエナジーが欠かせないのよね」
「これがなかったら、カードを生成することは不可能ですしね」
カードとは、ファイトによって発生するエネルギーから生成されるという仮説がある。
仮説というか、実際その理論を元にこうしてカードが生成されるくらい。
ファイトエナジーによるカード生成はこの世界の根幹にある理論だ。
そして、カードを生成するのに必要なファイトエナジーを生み出すには、非常に白熱したファイトが求められる。
こういった、研究施設の見る人が限られる場所で行うには、もったいないくらい。
「今回戦うのは、この研究所の所長と副所長デス。ピガガピー」
「ファイターとしてもツートップ……ってことだな」
「はいデス。……ふたりとも、ワタシの生みの親のような存在デス」
なるほど。
俺達が見学しているというのもあって、気合が入っているんだろう。
所長の男性と、副所長の女性。
それぞれがイグニスボードを構えて、ファイトを開始する。
「ん、あー……もしかしてあのお二人って、仲睦まじい関係だったりしますか?」
「夫婦デス。ピガガピー」
「おお……」
何やら、所長と副所長の信頼関係を感じ取ったらしいエレアが神妙に頷く。
なるほど、確かに息のあったファイトだ。
「……ってことは、メカシィは本当に二人の息子……? 娘……? のようなものなのね」
「そこは、子供って表現していいんじゃないかなぁ」
なぜか性別を定義しようとしたヤトちゃんに突っ込みつつ。
俺達はファイトを見守る。
そんな中、ぽつりとメカシィがこぼした。
「……この研究所のテーマは、最強とはなにか……デス」
「最強……ね」
「はいデス。所長たちの昔からの研究テーマでもありマス。ピガガピー」
最強。
それは、全てのファイターが目指す到達点。
誰よりも強いファイターでありたいという願いは、きっとこの世界では最も普遍的な願いだろう。
「人は最強という言葉を前にした時、二つの反応を見せる。“目指す”か、”目指さないか”だ」
「なるほど……私は、自分が最強になれるとは思えないですね。だって、あまりにも壁が高いんですもの」
「まぁ、エレアの気持ちはわかるわ。でも、私は諦めたくないわね。だって、壁は乗り越えられるって知ってるんだもの」
エレアは、目指していない。
そのことに対して負い目も後腐れもない。
ヤトちゃんは、目指している。
ただ、少しだけその情熱に揺らぎが見える。
どちらが正しいということはない。
単純に性格的な問題だからだ。
それに、目指していない人間が何かしらのきっかけで最強を目指すこともある。
逆もまた、しかり。
「ちなみに、店長はどうですか?」
「俺か? そもそも、最強ファイターってのは
なお、俺みたいな例外もいる。
自分を最強だと疑っていない人間。
周囲の人物だと、ダイアとネッカ少年、レンさんとアリスさんもこのタイプだな。
……結構多い。
ようするに、本当に最強を名乗れるくらい実力のあるファイターのことだ。
ネッカ少年はまだトップクラスではないけど、何れトップになるタイプ。
「それで……メカシィは?」
「ワタシ……デスか? ピガガピー」
最後に、それまで沈黙したままファイトを見守っていたメカシィに問いかける。
最強とはなにか。
そもそも、メカシィはその最強を目指して作られたファイトロボだ。
「ワタシは……もうしわけありまセン、解らなくなってしまったのデス。ピガガピー?」
「わからなくなった?」
「はいデス。……店長のお店で働かせて頂いて、デッキを強化できるようになりマシタ。店長にも一度は勝利し……ワタシは間違いなく強くなったとおもいマス」
ピガガピーにもはてなマークがついている……。
いや、そういうことではなく。
メカシィは真面目な話をしているんだ。
「デスが……強くなってもなお、店長や、ダイア様に安定して勝てるヴィジョンが見えないのデス」
「ダイアに安定して勝つのは俺も無理だが……」
「安定した、とまではいいません。十回やって一回は必ず勝てるなら、私は間違いなく自分の成長を実感できるでしょう。ピガガピー」
それならまぁ、理解らなくはない。
最強クラスのファイターは運命力が最大まで高まった状態でファイトすると、えげつないファイトをする。
そして、最強クラスのファイターは相手が強ければ強いほど運命力が高まり、強さを増す。
強くなればなるほど遠のいていく、それが最強クラスのファイターというものだ。
「もしかしたら、ワタシは最強ファイターの道を――諦めてしまったのかもしれマセン。ピガガピー」
「メカシィ……」
だから、メカシィは力なくそんな風にこぼす。
感情はロボボディ故に読み取れないが、どこか悔しげである。
ヤトちゃんが、そんなメカシィの感情に理解を示した。
ヤトちゃんも最強を目指しているが、その道程の険しさに苦しんでいる立場だ。
「そうだな……メカシィ、俺から言えることは一つだけだ」
「なんでしょう、店長。ピガガピー」
俺は、端的に言う。
「いいか? 諦めているだけなら、メカシィはまだ最強を目指しているんだ」
「どういうことでしょう。ピガガピー」
「もしもメカシィが最強を目指していないなら、そんな悔しそうに感情を吐露したりしないよ」
目指していないということは、折り合いがついているということだ。
それがないからこそ、メカシィは悔しそうにしている。
「何より――メカシィは今、メカシィの目指す最強がファイトしてる真っ最中だろ?」
俺はそう言って、眼の前で繰り広げられるファイトに視線を向ける。
もちろん、話をしながらもファイトの行く末に意識を傾けてはいたが――
「メカシィ、一度もあのファイトから視線を逸らしてないだろ」
その言葉に、メカシィはハッとした様子で俺の方を見る。
だが、すぐにそれをファイトの方へ戻し――
「……そう、デスね」
と、だけこぼした。
――やがて、決着が付く。
それと同時に、中央のパソコンが明滅を始めた。
「…………カードパックの生成が始まりました。ピガガピー」
しばらくそれを見守っていると――
部屋中に、カードパックがどこからともなく出現し始めたのである。
出現したパックは、不思議な力でゆっくりと地面に落ちていく。
そして――
それを見学していた俺の前にも、パックが出現した。
思わずパックを手に取る。
俺はそれをメカシィに手渡そうかと視線を向けると――
「店長」
「どうした?」
メカシィも、俺の方を向いた。
「それは、店長のためのパックだと考えマス。ピガガピー」
「俺のための?」
「ハイ、これまで幾度か外部の人間をカード生成実験に招いたことがあるのですが……そのたびに、こうして外部の人間のもとにパックが生成されたのデス」
なんとも、オカルトな話だ。
とはいえ、運命力なんてそんなものである。
導かれるように、カードが生み出されるなんてこの世界では日常茶飯事だ。
「……じゃあ、失礼して」
「どんなカードが出るんでしょう」
「楽しみね」
メカシィがボディの中から取り出したハサミを借りて、俺はパックを開封する。
ボディの中にハサミってどういうこと? と思うが。
メカシィのエネルギーリソースはパックの外装だからな。
緊急時に、パックを購入して外装をエネルギーにするっていう手段を取るためだろう。
謎のギャグ演出に高度な理由付けをするな。
「ん……」
とか、適当なことを考えつつ開封したパックのカードを確認すると――
「……最強とはなにか、ね」
俺はその言葉の意味を考えつつ。
手にしたカードを眺めるのだった。
というわけで、そろそろ二章も終わり近いです。最後までお付き合いいただければ幸いです。