カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている   作:暁刀魚

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72 公序良俗に配慮している――――!

「ちょちょちょいちょいちょちょちょい!」

「うわぁ! 店長どうしたんですかそんな慌てて!! ところで慌ててる店長ってレアですよね!」

「なんで配信しようとしてるんだよ!?」

 

 慌てて俺はエレアの元へ走り寄って呼びかける。

 いやいや、どう考えてもまずいだろ。

 ハクさんだろ!?

 バニースーツ……でファイトしてる動画はそこそこ見かけるけど、ハクさんがそれで済むはずないだろ!?

 

「任せてください、店長!」

「お、おう?」

「お二人には許可を取っていますし、公序良俗には配慮しています!」

 

 公序良俗に配慮している――――!

 なんて力強い宣言なんだ。

 いやでもやっぱり不安だぞ。

 

「そもそも、この配信でハクさんがえっちぃなことになって、一番困るのは私ですよ!」

「そ、そうか……?」

「なにせ、うちの店のチャンネルで配信するんですから!」

 

 それはそれで大丈夫なのか……?

 いやまぁ、俺は別にいいんだけど。

 正直、俺個人は店の動画チャンネルを持て余しているし。

 管理はエレアに丸投げだからな。

 とりあえず、それならエレアの大丈夫という言葉を信じるしかあるまい。

 

 それに、二人の許可を取っているというのも本当だろう。

 許可なしならハクさんはともかく、ヤトちゃんが突っ込む。

 ハクさんはともかく。

 

「で、どうしてチャンネルBANのリスクを背負ってこんなことを?」

「まず、このファイトをプロモーションとして使いたいって、研究所の方から」

「あーあれか、先日のアロマさんとのファイトが鬼のようにバズってたから」

「はい。やっぱり熱いファイトに衣装チェンジは映えますね」

 

 プロモ用の対戦動画を取ろうって話は、もともとあったらしい。

 その対戦カードがハクさんとヤトちゃんになったのは、単なる話の流れだけれど。

 それ、場合によっては俺もファイトする流れになってたのか?

 いや問題はないけどさ。

 

「アレはアロマさんにとってもよかったですね。もともとユースティアの人ですから、業界人には名前の通りがいいですけど。店長と全力ファイトで拮抗したのが、だいぶ多くの人の目にも留まったみたいです」

「アリスさんは高校入学と同時にプロ入りするのが当然、みたいに言ってたけど。案外本当にそうなるかもな」

 

 あのファイトで、アロマさんは自身の成長を大いに見せつけた。

 それはファイト動画をアップロードしたことで世界中に広まり、いまでは結構な話題になっている。

 何より、今のアロマさんならそれだけ周囲から注目を受けても、問題なくやっていける実力がある。

 頑張ってほしいところだな。

 

「で、後は単純に。私がお二人のファイトをインターネッツにお出ししたいからですよ」

「インターネッツって……あれか? 前々からヤトちゃんには配信に出て欲しがってたよな」

「はい。あの時は布教配信企画という方向性になったんですが、中々上手くすすまず」

 

 まぁ、布教って大変だからな。

 オタクって早口になるとアレだし。

 

「……逆です、むしろ布教が成功しすぎて配信に乗せる内容がなくなりました!」

「猛者ばっかりかよ、この店の女性陣」

 

 道理で、最近アツミちゃんとかがアニメの話をエレアとしてると思ったよ。

 まぁ、楽しそうなら何よりだ。

 

「それでまぁ、最終的にこうしてファイト動画をアップするところから始めてみることになりまして。ちょうどいいところに研究所からお話が」

「それで、開店前からファイトをしてたんだな」

「はい。本当なら近くのファイト用スペースでファイトする予定だったんですけど。店長が帰ってきたので許可が取れるなら、と」

 

 理由自体は、大分まともな理由だった。

 俺の許可がないなら配信しないというのも本当だろう。

 実際、準備を終えたハクさんとヤトちゃんがこっちを観て待ってるからな。

 ……ハクさん、待たされて興奮してない?

 

「とにかく。そういうことなら……まぁ、いいんじゃないか? 最悪、この店のアカウントが死ぬだけだろうし」

「それはぶっちゃけ大問題なのですが……」

「なら、ちゃんと対策すればいい」

 

 というわけで、俺の許可が出たことで二人がファイトを開始した。

 

「イグニッション!」

 

 ……ハクさんがすごい痴女みたいな顔してる。

 大丈夫だよな……大丈夫だよなこれ!

 

 

 □□□□□

 

 

「行くわよ! <蒸気騎士団(パンクナイツ) 獅子心王リチャード>! <ヴォーパル・バニー>を攻撃!」

「迎え撃ってください、<伝説の仮面道化(マスカレイド) ヴォーパル・バニー>!」

 

 ヤトちゃんとハクさんの激しいファイトが続く。

 ファイトは若干ヤトちゃんが押し気味だ。

 使用デッキこそ「仮面道化」だが、衣装がバニースーツだからハクさんは全力を出し切れていないのだろう。

 とはいえ、それでも一歩間違えればヤトちゃんが負けるくらい今のハクさんは強いが。

 あと、蒸気騎士団ってその時代の英国の人でもいいんだ。

 何でもありだな。

 いつ勝利の聖剣ビームがブッパされるか、見ものである。

 

「とりあえず……ここまでは普通だな」

「はい、ハクさんが新しいエースを呼び出すたびに、衣装を変化させている程度ですね」

 

 何にしても、今のところ問題はおきていない。

 ハクさんは大型「仮面道化」モンスターを召喚するたびに衣装を変化させていた。

 今は場に出ているのが「仮面道化」のメインエースである<ヴォーパル・バニー>だからバニースーツに戻っているが。

 それでも、最初のバニースーツよりは衣装のディティールが凝っている。

 ソシャゲで凸を進めると衣装が豪華になるアレだな。

 

「コメントも、素直にエクスチェンジスーツの性能を評価するコメントが多いですね」

「ファイトの展開予想も多いな。このまま行くとハクさんが勝ちそうだが――」

 

 だが今は、ヤトちゃんも大型エースの<獅子心王リチャード>をサモンしている。

 <ヴォーパル・バニー>が破壊されれば流れも変わるかもしれないな。

 そんな風に思っていた、その時だった。

 

「これで……!」

「くっ! <ヴォーパル・バニー>! きゃあああ!」

 

 <ヴォーパル・バニー>が破壊されてハクさんが吹き飛ぶ。

 大きなダメージを受けたようだ。

 そして。

 

 

 当然のように衣装もダメージを受けた。

 

 

「きたー! これ! これですよ! おほー!」

「興奮するな!」

 

 なぜか店に常備されているハリセンで、エレアを叩いた。

 普段はアツミちゃんがネッカに使用することが多い。

 次点で俺がダイアに使用する。

 

「くっ……案の定やったわね、姉さん!」

「ふふふ……これこそエクスチェンジスーツの真価よ、ヤト。本物の衣装だと、ダメージが入ると直さなきゃいけないものね……!」

 

 エレアがうんうんと頷いている。

 コスプレファイトには一家言ありそうだもんな。

 じゃない。

 

「見てください店長、コメント欄も盛り上がってまいりましたよ」

「想定はしていたが……普段のコメント欄とは民度が段違いだ……」

「私の配信だと、流石にここまでじゃないですけど、結構こういうコメント多いですよ」

「もう少しコメントの民度を上げなさいね」

「はーい」

 

 店長心配ですよ、もう。

 とか考えている間にも、同接がドンドン増えていく。

 一体どこから集まってきているのか不思議でならないが、中々見ない接続数だ。

 エレアの配信でも、ここまで人は集まらないぞ。

 

「卑怯よ、姉さん! これじゃあ私が攻めにくいじゃない!」

「あら、そんなことないわよヤト。なぜなら、この配信は公序良俗に配慮しているんだもの――!」

 

 公序良俗に配慮している――!

 

「もうすでに配慮してないだろ!」

「それはそうなんですが……そうなんですが……!」

 

 いやでも、今のところ配信はBANされていない。

 ハクさんの露出だって、月兎仮面に比べればまだまだだ。

 それでも、なんかこう。

 突っ込まずにはいられない。

 

「くっ……続けるわよ!」

 

 とにかく、<ヴォーパル・バニー>が破壊されたことで一気にヤトちゃんへ流れは傾いた。

 いや、傾くとそれはそれでダメージによる衣装の破れが加速するんだが。

 もはやそんなことを気にしていられる余裕はヤトちゃんにない。

 何せ、ヤトちゃんはこれまで勝つことのできなかった「仮面道化」を使う姉に勝てるかもしれないのだ。

 たとえその結果が、公序良俗に反していたとしても。

 

「私は……負けるわけにはいかないのよ!」

 

 強い覚悟を伴って放った一撃が、ハクさんを穿つ。

 ついに――ヤトちゃんは勝利した。

 

「ふ、強くなったわね、ヤト……」

「姉さん……」

 

 同時に、コメント欄もボルテージはMAXに到達する。

 ハクさんの衣装ダメージも、MAXに到達するからだ。

 ああ、なんてひどいコメント欄。

 そんな彼らを待っていたのは――

 

 

「……モ、モザイクがかかってる」

 

 

 破れた衣装の上からかけられた、モザイクだった。

 思わず声に出してしまった。

 ハクさんの体が、モザイクに包まれていたのだ。

 

「ふふふ……これぞ、安心安全の公序良俗対策! エクスチェンジスーツには、いやーんなものが見えそうになった時、モザイクがかかる機能があるんです!」

「無駄に高性能……いやまぁ、一般に流通させるならそういう対策はするか……」

 

 いやでも……メカシィをゲーミング化するファイト工学研究所のやることだもんな。

 やりそうだよな……彼ら。

 

 なお、コメント欄は「ズコー」で埋まっている。

 

「これ、オチがついた時にコメント欄がズコーで埋まるのは、エレアが常々ズコーってしてるからだよな?」

「何のことかわかりませんね」

 

 エレアは目をそらした。




なお後に動画化されたこのファイトはダイアとの例のファイトの次にバズりました。

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